気づかれない告白

「私、自分よりも目線の低いひとが、好きなの」と月子は言いました。ふうん、それはまた変っているのね、と私が答えたら、月子は伏せ目がちに、小さな声で「そうなの」と呟きました。何かわるいことを言ってしまったかしら、と私は少し不安になります。私はいつも月子のそばにいるのに、時々どこか遠い存在に感じてしまうことがあるのです。水面の月に触れているみたい。月子は何を思っているのでしょうか。
「つまり、背の低いひとがいいの」と月子は再び話し始めました。私は少し月に触れたような、ほっとした気持ちになって、どうして、とやわらかく尋ねてみました。すると月子は「私は歩くのが遅いから、一歩が大きい人と歩くのは、大変だと思って」と応えて、照れくさそうにはにかみました。可愛い理由だね、と私が素直に言ったら、少し林檎色に染まる月子の頬。そんなところも可愛いと思うのです。
「そろそろ音楽室に行きましょう」月子はそう言って立ち上がりました。私は時計を見ます。お昼休みはあと半分くらい。次の授業は音楽です。私も教科書を持って立ち上がり、それから月子の顔を少し見上げて、うん、行こう、と言いました。私は月子より頭ひとつ分かそれ以上低いので、自然と月子を見上げてしまいます。でも、月子は大きいけれど、歩みはゆっくりなのです。それは一歩が小さい私にとって、とてもありがたいことでした。だから私はもっと大きくなりたい。月子と同じ目線で、同じ景色を見たいのです。私はいつもどおり月子のとなりに並んで、ゆっくりと歩き出したのでした。

気づかれない告白

気づかれない告白

百合が少し。中学生の女の子二人がお昼休みに話しているだけです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-17

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