消えた薙刀鉾(A探偵団2)

あらすじ

(シナリオ)変面から手紙が来て『長雨に祇園ばやしがコンチキチン、長刀鉾が消えてなくなる』と書いてあった。ほんとうなのか?A探偵団6人が動く!

また来た手紙

○シネマ村、大店街
   雨が降っている。
   待機中の撮影隊。
   木村と高田は町娘姿。
   亜紀と太一は遊んでいる。

高田「うっとうしい雨やね。雨予定やわ今日は」
木村「ずいぶん押してるから小降りなら決行よ」
高田「そうなん?」

   山本と原田が侍の姿で現れる。
   6人、セット脇に集まる。

○同、セット脇
   6人がいる。
山本「又手紙が来たって?」
原田「ああ、今度はまだはがさずに持ってきた」

   原田、手紙を出す。
   皆、目をこらして見つめる。
   原田、ゆっくりと手紙をはがしていく。

   『(文字)長雨に祇園ばやしがコンチキチン、
    長刀鉾が消えてなくなる』

原田「ながあめにぎおんばやしがこんちきちん、
 なぎなたぼこがきえてなくなる」

   木村、メモをしている。
   皆、つぶやきながら首をかしげる。
   文字が消えていく。

皆「あっ」
亜紀「消えちゃった」
木村「(メモを見て)長雨に祇園ばやしがコンチキチン、
 長刀ぼこが消えてなくなる。間違いないよね?」

   皆、うなづく。
山本「ということは?」
原田「祇園祭の長刀ぼこが消えてなくなる、
 ということやな?」

太一「あの長刀ぼこが?」
木村「ありえるわ。変面の技術が数段アップした
 と言うことかしら」

山本「そうだな。ま、とにかく兄貴には伝えておこう。
 7月に入ったらこまめに長刀鉾を見に行くか」

高田「そうやね、木村ちゃん。今のうちに浴衣買いにいこ。
 今年のはやりは白が基調やて」
木村「そう、今晩四条に行きましょう」

   はしゃぐ木村と高田。
   亜紀と太一が見つめている。
高田「あんたらも皆浴衣やで」
亜紀と太一「やったー!」

   あきれて見つめる山本と原田。

○京都府警本部、玄関
   『京都府警本部』とある。

○同、本部長室、内
   山本本部長、出羽と亀山がいる。
   本部長、手紙を手にして、

本部長「君たちを呼んだのは、変面から又
 手紙が来たからだ、

 『長雨に祇園ばやしがコンチキチン、
 長刀ぼこが消えてなくなる』」

出羽「へぇ、長刀ぼこが消えてなくなる?」
   出羽と亀山、顔を見合わせうなづく。

変面の里

本部長「ここの所毎日のように変面を装って
 いたずら手紙が本部へ来る。私には特別な
 情報源があるのでこれは間違いない」

出羽「そうですか。しかし公表できないとなると、
  やはり私と亀山とが張り込むしかありませんな」

本部長「そうだ。申し訳ないができるだけ
 応援はするから探ってみてくれ」

出羽「は、了解しました」
本部長「ところで広隆寺のほうは?」
   亀山、手帳をめくり、

亀山「広隆寺の国宝はこのままなら文化庁が再建する
 そうです。来年の今頃には新しい半跏像が
 安置されているかもしれません」

本部長「変面はどうやって仏像を金に変えるんやろな?」
   出羽と亀山、顔を見合わせてうなづく。

○原田のアパート、内
   6人が地図を広げている。
山本「去年の祇園祭の32台の山車(だし)の位置を
 示した地図と作業日程だ」

高田「ぎょうさんあるんやねえ?」
原田「各町内で1基。釘を1本も使わずに、
 約1ヶ月で組み立てる」
高田「京都に住んでてちっとも知らなんだわ」

木村「四条通の大丸前にあるのがひと際大きな長刀鉾」
山本「この緞子(どんす)、鉾、山車(だし)、雅楽。
 全てが国宝だ」

木村「祇園祭は実は7月1日から始まってて、
 山鉾巡行が15日」
高田「その前の日が宵山。その又前の日が宵宵山。
 夜店と人とコンチキチンで一杯。浴衣浴衣浴衣!」

   4人浮かれている。
   山本と原田、神妙な顔で、
山本「どうやってこの長刀鉾を?」
原田「消すというんやろか?」

○イメージカット
   宵山の風景。
   長刀鉾が見える。

○イメージカット
   静かな山奥の景色。

○山奥の峠
   『変面の里』の矢印と標識が見える。
   横に地蔵がある。

○山間の盆地
   川が流れている。
   変面一味が作業をしている。
   大型クレーンが見える。

○同、建て屋、内
   3階建てくらいの建屋で変面一味が、
   変面オリジナルの山車を作っている。
   長刀部分は変面人形である

宵宵山

○同、建て屋、外
   忍者が1人、カセットを入れる。
   コンチキチンの音が聞こえる。

   クレーンが動き山車の四方が垂れ幕で覆われる。
   垂れ幕は長刀鉾の原寸大の絵である。

   大型トレーラーが現れ長刀鉾の絵に包まれた山車を
   クレーンがトレーラーに引き揚げる。

   変面が現れる。一味が整列する。
   一味は50人ほど。黒と赤の忍者姿である。

変面「準備は整った!」
一味全員「オーッ!」
変面「レッツゴー!ヘンメーン!」
一味全員「ヘンメーン!」

   変面、白馬にまたがる。
   クレーン車とトレーラーが続く。
   忍者達が前後を綱で引っ張っている。

位置も全員「(ゆっくり)エッサーホイサーエッサーホイサー」

○山道、夕
   ゆっくりと山道を下る変面一味の姿。

○四条通、夕
   宵宵山の人波。
   長刀鉾。コンチキチンの音。
   夜店。浴衣の人々。

○同、室町通、夕
   すごい人波。たくさんの夜店。
   蟷螂鉾。

○同、長刀鉾前、夜
   すごい人波。
   出羽と亀山の姿が見える。
   長刀鉾。コンチキチンの音。

   山車の上で演奏している。
   長い引き手棒が固定されている。
   出羽、大車輪の脇で上を見上げながら、

出羽「この調子じゃどうやってこの長刀鉾を
 消すのかさっぱり分からん?」

亀山「そうですね。トンネルは掘れへんやろし。
 夜通し人は多いやろし」
出羽「そうやなあ?」

   上から役員らしき人が下りてくる。
出羽「あ、ちょっとすみません。役員の方ですか?」
役員「そうですが」
出羽「私、こういう者です」

   出羽、警察手帳を見せる。
役員「はあ、警察の方が何か?」
   出羽、手紙のコピーを見せる。

出羽「実はこんな手紙がきとりまして」
   役員、ちらと文面を見て、

役員「ああこれ。八坂神社の総代会でいうとり
 ましたが、いたずらやと思うけど一応注意
 しといてくださいとのことでした」

出羽「ま、府警からも警備にはつきますが、不審者
 等ありましたらどんな小さなことでも警察に」
役員「はあ、おおきに。ありがとうさんです」

   役員、礼をして去っていく。
出羽「今でも火炎瓶とか投石とかの脅しが結構あるらしい」
亀山「変なやつは今も昔も必ずいますからね」

出羽「そや、みなめだちたがりや」
亀山「変面もそうですかね?」
出羽「その際たるものや!」

○室町、蟷螂鉾、夜
   人波。浴衣。夜店。
   浴衣姿の6人がいる。
   山本があっちを指差す。
   皆がそっちへ歩みだす。

長刀鉾

○長刀鉾、車輪下、夜
   6人が鉾を見上げている。
   役員が一人鉾に登ろうとする。

山本「あの、ちょっとすみません」
原田「一晩中コンチキチンやってるんですか?」

役員「そんな事ありません。12時になったら皆帰ります」
山本「どうも」
   役員、上に上がる。
   警察の警備がついている。

原田「どうやって消すんやろう?」
山本「さっぱり分からん?明日宵山やから、やるとしたら
 今晩か明日の晩。明日は朝まで見張っててみようか?」

原田「そやな。それしかないな」
   コンチキチンが響いている。
   宵宵山の夜が更けていく。

○原田のアパート、内
   6人がいる。

山本「連中がやるとしたら明け方の3時から5時までの間が
 一番可能性大だな」

原田「そや、町明かりが暗うなって車も人も極端に減って
 長刀鉾は無防備になる」

木村「もうその時しかないね」
高田「そや、今日宵山で明日は山鉾巡行やし、今夜しかない」
亜紀「でも、どうやって見張るの?」

山本「それなんだよな」
太一「あすこは?大きなゴミ箱あったよね」
原田「たしかに。だけど小さいよ」

山本「まてよ。太一と亜紀と交替で見張って我々は車で
 待機ってのはどうだ?」
木村「それ、それでいきましょう!」

   皆、うなづく。

○京都府警本部、玄関

○同、本部長室、内
   山本本部長と出羽、亀山がいる。
出羽「というわけで、鉾の役員は
 いたずらだと決め付けております」

本部長「ふむ。私は間違いなく明日未明か山鉾巡行
 の最中にでも何かが起こると思うが?」

亀山「巡行中はすごい人なので多分明日未明が
 一番可能性が高いと思われます」
本部長「ふむ、見張るか?」

亀山「長刀鉾のちょうど向かい側のあたりで未明まで?」
出羽「ホームレスの格好をして見張って見ますわ」

本部長「よし分かった、そうしてみてくれ。わたしもずっと
 ここにいるから何かあったらすぐに電話してくれ」

出羽と亀山「は、了解しました」
   二人、本部長に敬礼する。
   本部長、うなづきながら返礼する。

四条通

○白川通り、夕
   偽のパトカーに先導されて、ゆっくりと
   クレーン車と山鉾を乗せたトレーラーが続く。
   山鉾は四方を長刀鉾の絵で包まれている。

○イメージ、四条界隈、夜
   宵山。すごい人波。

○イメージ、室町界隈、夜
   宵山のすごい人波。

○時計
   時計が12時を指している。

○四条通、長刀鉾、夜
   長刀鉾、人通りは少ない。
   山鉾の演奏者が上から下りてくる。

   街灯が消えて薄暗くなる。
   警備員が長刀鉾の前後で椅子に座っている。

○向かい側の歩道、夜
   出羽と亀山がダンボールをもって現れる。
   ビルのシャッター前でダンボールを敷く出羽。
   見張る亀山。

○時計
   時計が午前2時を指している。

○向かい側の歩道、夜
   交替する出羽と亀山。

○仏光寺前の路上、夜
   ワゴンが止まる。
   6人が下りてきてうしろから
   緑色の大きなダンボール箱を下ろす。
   6人、緑箱を運ぶ。

○暗がりの小路、夜
   6人、緑箱を運んでいる。
山本「ここからが1番近い」
原田「皆ここで待ってて。太一!いくぞ!」
太一「あいよ!」
   原田と太一、緑箱を抱えて四条通に出る。

○四条通、向かいの歩道、夜
   向かいに長刀鉾が見える。
   警備員二人は眠っている。

   緑箱を抱えて歩む原田と太一。
   先のほうで出羽と亀山が寝ている。

原田「ホームレスが寝ているからこっちのほうにしよう」
   太一、うなづく。

   二人、緑の消火栓の脇に緑箱を置く。
原田「ここがいい」

○箱の中
   切り込み窓から向こうの長刀鉾がよく見える。

○箱の外
   切り込み窓から二人の目が見えている。
   向こうで出羽と亀山が寝ている。
   さらに向こうの角に山本たちが見える。

○ワゴン、内、夜
   亜紀、木村、高田が乗り込む。最後に山本、
山本「太一が起こしに来るまで休んどこう」
皆「賛成!」
   皆、寝る。

長刀鉾?

○時計
   時計が午前4時をさしている。
   眠りこける警備員と出羽、亀山。

○向こうの歩道、真夜中
   緑の箱の小窓から二人が覗いている。

○緑の箱、内
   小窓から長刀鉾が見える。

○時計
   時計が4時過ぎを指している。

○四条通、真夜中
   烏丸通から点滅パトカーが現れる。
   つづいて大型クレーン。さらに
   偽物の長刀鉾を載せたトレーラーが現れる。

○箱の中
   驚く二人。
原田「太一、皆に知らせて来い!」
太一「あいよ!」

○暗い小路、真夜中
   ワゴンが止まっている。
   皆眠っている。
   太一が現れドアを叩く。

太一「長刀鉾がもう一つ現れました。至急来てください!」
   皆起きようとするが、どこからとも無く
   いい匂いがしてきて再び眠る。
   太一もその場で眠り込む。

○四条通、真夜中
   車も人も皆眠っている。

○箱の中、真夜中
   原田が小窓から覗いている。
   本物の長刀鉾に偽物の長刀鉾が
   横付けしてトレーラーが止まる。

   原田、においを感じ小窓をほぼ閉じて、
   口にタオルを当てる。

○四条通、真夜中
   偽物の長刀鉾の幕の中から10数人の忍者が現れる。
   クレーンと忍者とで偽物の長刀鉾を下ろすと
   すばやく本物の長刀鉾をトレーラーに移動する。

   本物の長刀鉾、パトカーに先導されてゆっくりと動き出す。
   鉾の四方から大きな垂れ幕が下がる。
   垂れ幕には大きな変面の顔が描かれている。

○緑の箱の中
   唖然とする原田。

○四条通、真夜中
   河原町を長刀鉾が曲がって消えていく。

   x x x
   四条通が明るくなる。
   車や人が動き出す。

   出羽、目を覚まし起き上がろうとするが、
   長刀鉾の幕を見て安心し又寝る。

○時計
   時計が4時半を指している。

○四条通、長刀鉾
   警備員、出羽、亀山が起き上がる。
   役員がひとりやってきて幕を見上げ不審がる。
   役員、幕をめくり中を覗き込む。

役員「たいへんだー!」の叫び声が響く。
   出羽、亀山、警備員が飛んでくる。
   役員、上を指差す。

   皆、ゆっくりと見上げる。
皆「なんだこりゃー?」

○変面鉾
   本物の長刀鉾が変面鉾になっている。
   壁面は大きな変面の絵。
   長刀部分は変面のフィギア。

   驚くみんなの唖然とした顔。

変面鉾

○京都府警本部、玄関

○同、本部長室、内
   電話が鳴る。
   仮眠の本部長がソファーから飛び上がる。

本部長「なんだって?とにかくもうどうしようもない。
 マスコミには極秘だ。あと3時間で巡行が始まる」

   本部長、電話を切って宙をにらむ。
本部長「またしてもやられた」

○山鉾巡行、四条通
   歩道に黒山の観光客。
   警官と役員がハンドマイクで叫んでいる。

警官「車道には出ないでください。まもなく鉾が来ます!」
役員「今年は都合により長刀鉾は最後になります!」

観光客「長刀鉾は最後らしい?」

○山鉾巡行、室町通
   山鉾巡行が始まる。
   ハイビジョンによる最高映像がつづく。

○長刀鉾の大垂れ幕に包まれた鉾
   最後に4面を長刀鉾の絵に包まれた鉾が現れる。
   『本年は都合によりお見せできません』
   の垂れ幕がかかっている。

   観光客がブーブー言い始める。
   警官と役員がなだめようとするが、
   騒ぎは大きくなる。

   とうとう数人の若者が幕を引きちぎった。
大観衆「おーっ!」
   驚きの大歓声が上がる。

   そこには天にそびえる変面人形。
   変面の大きな顔が3面に描かれ、
   後ろの面に大きく、

   『確かに長刀鉾はいただいた。怪盗変面』
   と書いてある。

○京都府警本部、玄関
   正面脇に変面鉾がある。

○同、記者会見場、内
   長机、本部長、出羽、亀山が座っている。
   記者数十人。忍者が一人後ろに座っている。

記者1「何の予告も無かったのですか?」
本部長「前の事件以来いたずら情報が多く・・」
記者1「その中に今回の予告は?」

本部長「ありました。が、いたずらだと思われましたので
 公表せず、出羽と亀山を張り込ませました」

記者2「何故公表されなかったのですか?」
本部長「そりゃあなた。あの長刀鉾が盗まれるなんて信じられますか?」

記者2「むむ。それでは出羽警部にお聞きします。宵山の夜から
 翌朝までずっと見張っておられましたか?」

出羽「もちろんずっと見張っておりました。あっ!」
   

長刀鉾はどこへ?

○イメージ、四条通、夜明け
   出羽、目を覚まして長刀鉾の幕を確認して又寝る。

○元の記者会見室、
   記者が質問し、出羽が答えている。
記者2「どうされました、なにか?」

出羽「あの時もう長刀鉾は幕に覆われていたように思われます。
 鉾がなんとなくひらひらしておりましたから」

亀山「私は寝てました、すみません。夜明け前の4時から5時
 までの間に長刀鉾は交換されたものと思われます」

本部長「いずれにしても人的被害は皆無ですし、証拠品の
 変面鉾は確保してありますので逮捕は時間の問題と思われます」

記者2「彼らの基地はどこにあるのですか?」
本部長「それがさっぱり見当がつきません」
記者2「京都の北方ですか?」
本部長「わかりません」

   1番後ろの席で忍者が一人うなづいている。
   いぶかしげにそれを見つめる記者がいる。

○山奥の遠景、夏

○同、山道、木立の中
   長刀鉾が動いている。
   見晴らしのいい丘に出る。
   眼下に小さな盆地が見える。

   中央に川が流れている。
   丘の木蔭に地蔵がある。
   忍者の一人が地蔵の頭に手を載せる。

   空間が大きく開いて同じ道が見える。
   道端に変面の里の標識。
   長刀鉾、空間に入る。
   空間が閉じて元の景色に戻る。

○変面の里
   同じ景色の中を長刀鉾が坂道を下って進んでいく。
   盆地の中央に川が流れていて広場がある。
   向こうの高台に天文台と自由の女神が見える。

   広場の中央に鏡餅のような本部棟。
   変面の旗がなびいている。
   ゆっくりと長刀鉾が下っていく。

○シネマ村、内
   撮影風景。

○セット脇
   6人が集まっている。
   山本が新聞を広げる。

○新聞、見出し
   『大型窃盗団、長刀鉾を盗む!』

○新聞、写真
   変面鉾の写真の大写し。

○驚く6人の顔

             −完−

消えた薙刀鉾(A探偵団2)

消えた薙刀鉾(A探偵団2)

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-07

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. あらすじ
  2. また来た手紙
  3. 変面の里
  4. 宵宵山
  5. 長刀鉾
  6. 四条通
  7. 長刀鉾?
  8. 変面鉾
  9. 長刀鉾はどこへ?