アンサートーカー

これ、私が高校生の時の学校の宿題で書いたモノです。
当時は紙に書いたのですが……それを思い出して書きました。

思えばこれが、私の最初の作品なのかもしれませんね。

アンサートーカー

 俺は電車に乗っている。混んでいるが俺は座ることが出来た。ラッキーだ。
 特にやることもなく、ボケっと周囲の人を眺めていた俺は俺の正面に座っている人が俺を見ている事に気付く。
 その人は真っ白な服を着て、真っ白なひげをのばした仙人みたいなおじいさんだった。
 おじいさんと目が合う俺。なぜだろう、普通なら知らない人と目があったら目をそらすのにその時だけはそれができなかった。目や首が動かないわけではなく……目をそらしてはいけないと心のどこかで俺が思ったからだ。
 しばらくしておじいさんの口が動いた。それなりに距離はあるし、なにより電車の中だ。騒音に他の人の話し声。おじいさんはぼそぼそと独り言のようにしゃべっていて普通なら聞こえないはずなのに……なぜか俺に耳にははっきりとおじいさんの声が聞こえた。

「ほぼ全てを知ることが出来る。疑問を頭に浮かべるだけ。それは答えるだろう。唯一、己のことは知ることができない。」

 意味が分からなかった。どう反応したらいいのかも。
 その後、おじいさんはどこかの駅で降りて行った。


 俺はとある高校に通う高校生。いつものように登校し、いつものような会話をする。ただ、今はテストが近い。友人とのバカ話にもちょくちょく顔を出すテストという単語。
「よお、鴉間。テスト勉強してるか?」
 こいつがその友人。名前は田中。鴉間というのはもちろん俺のことだ。田中は俺の名字をかっこいいぜ!と言うが俺からすれば誰からも間違えられずに読んでもらえる田中の方がいい。意外と鴉という字を「からす」と読める奴は少ない。普通「からす」っつったら「烏」だしな。
 いつもなら「全然。やべーよ。」とか言うところだが……今の俺は一味違う。
「ふっふっふ。ばっちりさ。全教科八十点以上をお約束しよう。」
「んな!?この裏切り者め!猛勉強してやがるな!」
「かっかっか!こうべを垂れろー。」
「へへー。」
 バカな会話だ、我ながら。

 その日最初の授業。数学。俺は教科書を開く。意味不明な数式に記号。まったく、わけわからん。
「だ・が。」
 ぼそっと俺は呟く。適当に開いたページ。そこにある理解もできない問題を読む。
 俺は問題を頭の中で読み、尋ねる。
 この問題の答えは?
『3。』
 頭の中に響く声。誰だか知らないが……それはそう答えた。
 教科書の一番後ろにある問題の解答を見る。そこに書いてあるこの問題の答えは……3だった。

 あの謎のおじいさんが電車を降りた後、俺はいつものように帰路についた。そして声には出さず、なんとなく疑問を思い浮かべた。
 あー、今日の飯はなにかなー。
『スパゲッティ。』
 突然聞こえたその声に俺は辺りを見回した。まだ駅からそんなに離れていなかったから人はそれなりにいた。
「……偶然かな。」
 きっと誰かがそう言っただけ。別に俺の疑問に答えたわけじゃない。そう思ったのだが……
 確かにその日の晩飯はスパゲッティだった。
 こんな偶然もあるんだな。俺はそう思っただけだった。
 だがその後、次の日までの宿題を片付けようと椅子に座って教科書を開いてから、俺は事の真実に気付いた。
 疑問を思い浮かべるとどこからか声が聞こえる。そしてその声は疑問の答えを俺に告げるのだ。
「……やっべ……」
 その日は興奮しっぱなしだった。片っ端から教科書を開いて問題を読んだ。全ての答えが頭の中に響き、全て正解。英語は日本語訳が頭の中に響く。数学は、答えはもちろん、尋ね方を変えればきちんとした途中式までわかる。
 ハイテンションにいろいろと試した後、最後はやっぱりあのおじいさんに考えが行きついた。
 あのおじいさんがこれを?何か言っていたしな……
 あのおじいさんは何なのか。それに対する答えは―――
『おじいさん。』
 もしもあのおじいさんがこれをくれたのなら何か目的があるんだろう。だがおじいさんについての疑問はことごとく当たり前の答えとなった。つまり、真実はわからない。
 そしてもう一つ、わからないのは自分のこと。自分の将来なんかを尋ねても『わからない。』の一点張りだ。
 だが、あのおじいさんと自分の事以外は全てわかる。目的なんか知るか。これで俺は今後勉強に困ることは無いし、金も稼げる。完璧!


 テスト期間が終わり、採点されて返ってきたテストを見てみれば全教科九十越え。
 さすがにいきなり全教科満点はまずいかと思い、悪知恵を働かせてわざと間違ったりしたが……それでもやっぱ目立った。
「鴉間……お前、遠い存在に……!」
「はっはっは。図が高いぞ、田中。」
「ちくしょー!」
「田中。」
「あん?」
「ちゃんと勉強しろよ?(余裕の表情)」
「だあああ!誰だお前は!共にクラスの底辺をさまよっていた鴉間はどこに!」
 愉快愉快。だがまあ、その内こいつにも教えてやるか。
「しっかし……バカでも勉強すれば天才になれんだなぁ。」
 いつものバカ調子ではないなにか真剣な顔。俺は変に思って尋ねる。
「天才?」
「うん?知らねーの?高校じゃ珍しい……編入生?っつーのが来たんだとよ。んで高校って試験で入るとこだからよ、編入試験ってのがあんだけど……その最近来た編入生は……全教科満点だったんだとよ。先生がこぼしてんの聞いたんだ。」
「満点!?ばけもんだな。」
「オレの中じゃお前もばけもんの一員に格下げだけどな。」

 帰り道。俺は考えていた。
 全教科満点。そんな天才がなんたってこんな学校に来たんだ?別に偏差値高くねーんだがな……
「おお、そうだ。こう言う時こそあの力だ。」
 俺は頭の中に浮かべる疑問を考える。
「えーっと……」
 ……相手の名前がわからないとなんて聞けばいいんだか混乱するな。えぇっと、最近うちの高校に編入してきた奴は何もの……でいいのか?
「私は日高よ。」
 突然声がした。一瞬いつもの頭の中の声と思ったんだが、口調が違う。あわてて周りを見ると、俺の後ろに見慣れない制服の女子が立っていた。
「あなたが鴉間くんね。」
「……あんたは……」
「言ったじゃない。日高よ。」
 お……俺の頭!質問だ。こいつはなんなんだ?
『日高麻里。編入生。』
「日高麻里。編入生。」
 頭の中に響いた声。そしてそれに重なる日高の声。
 はっ!?ちょちょちょ!待て待て!何で今!?
「それはねー。」
 日高がゆっくりと近づいてくる。
「私があなたと同じ力を持っているから。」

 頭の中で整理がつかないうちに、俺は日高に引っ張られて喫茶店に入っていた。
 気付いたら俺の目の前にチョコパフェがあり、日高がコーヒーを飲んでいた。
「……」
 よくよく見ると日高はなかなか……美人だ。いやいや、それ以前に女子と喫茶店!?うわ、緊張してきた……
「ありがとう。」
「は?」
「今、私のことを美人って言った……いいえ、思ったでしょ?」
「なんで……」
「だから言ったでしょ?あなたと同じ力って。」
 同じ力?同じ……まさか!?
「あんたも!……その、考えただけで……答えが?」
「その通り。ただし私の方が扱いになれてるわね。あなたはまだきちんと疑問を文章にしないと答えを得られないみたいだし。」
 これって慣れるもんだったのか……
「そうよ。」
「……考えを読むのやめてくれよ……」
「あら、ごめんなさい。事情を理解してる人との会話なんて初めてだから。ちょっとテンションが高いのよ、私。」
「あ……そう。」
 俺はなんとなくチョコパフェに手を伸ばした。チョコパフェは大好物……ん?
「……これ、あんたが頼んだのか?」
「そうよ。好きでしょ?」
「……正解……」
 くっそ……なんというか……話しづらい。だいたい初対面だしな……
「……なんで俺を?」
「疑問に思えばいいじゃない。」
「本人がいるんだからそっちに聞くよ。」
「それもそうね。私がこの力を手に入れたのは中学生の時。その時は……そうね、今のあなたみたいにはしゃいでいたわ。これで私は完璧だわ!って。」
 俺と同じ……
「いい高校に入った。なんの問題もない。でもね……これはこれで悩むのよ。今のあなたにはわからない悩み。」
「どんな?」
「知らないことがないってこと。この力はね、慣れてくるとちょっと疑問に思っただけで答えが聞こえるようになるの。知らない方がよかったものもあったし……何より知らないことが人の原動力の一つでしょう?知らないからこそ経験してみたくなる……そういうキッカケが潰されちゃうのよ。」
「ああ……あれか、お金がありすぎて何でもできちゃうから退屈……みてーな?」
「マンガのセリフね。そのマンガ、私も読んでるわ。」
 ホントに何でも知られるんだな。
「そうよ。この力はね、だんだんと日常を退屈にしていくの。それに―――」
 そこで日高は俺をじっとみつめた。
「これがあなたを探した理由ね。誰かと会話しているとさ、その人が思っていることがわかってしまうのよ?疑問に思わないようにって心がけてもいつか何かで疑問を感じてしまうの。そしてその人の……本質を知ったりする。聖人君子なんてめったにいないからね、やっぱその人のきたない部分、きっとその人が他人には決して見せないようにしている面っていうのを知っちゃうのよ。」
「それは確かに……いやだな。」
「だから気兼ねなく話せる友達が欲しかったの。それで探した……同じ力を持つ人。それがあなた。」
「……俺とあんたしかいないのか?この世界には。」
「なんか昔はいたらしいんだけど……今はあなたと私だけ。同じ国にいてよかったわ。」
 なるほどなぁ……そういうことになるってことは考えなかったな。でもこの力の先輩がいるっていうのはラッキーかもな。まだ俺の知らない機能があるかもだし。
 というか……この美人さんと友達か……これもラッキーだ……ってまて!
 俺はあわてて日高を見る。日高はなんかニヤニヤしていた。
「怖い人じゃなくてよかったわ。」
「……はい……」
 ……あ、そういえば。
「なぁ。」
「なに?」
「あんたはあのおじいさんのこと、何か知ってるか?」
「おじいさん?……なんか仙人みたいね。……あれ?答えが出ない?なにこれ。」
「この人に会ってから俺はこの力を……」
「へぇー。私も答えが出ないのは自分の事以外で初めてだわ。」
 そこまで言って日高は何かに気付いたらしい。
「そうだわ!同じ力の人がいるってことは……唯一わからない自分のことを教えてもらえるってことじゃない!」
「……あ。そうか。」
「ねぇ、互いの未来を見ましょうよ!」
「な……なんだよ突然。いきなり……」
「知り過ぎて困るって言ったけどね、やっぱり知りたいことは知りたいのよ!」
「でも俺は……例えば寿命とかはいやだぜ?」
「そんなことわかってるわ。そうね……この一年間とかは?」
「……今学期にしとこうぜ。」
「いいわよ。」
 俺と日高は一度黙る。今学期、互いに起こることを疑問に思い、その答えを聞く。
 えぇっと……どうやって尋ねりゃいい―――
「きゃぁ!」
 いきなり日高が悲鳴をあげ、立ち上がった。その顔は真っ青だった。
「どうしたんだ?」
「だって……そんな……」
「なんだ……ん、まさか俺の未来のことか?何が見えたんだよ。」
「……!」
 日高は口を抑えながら涙を浮かべ、何も言わずに店から出て行ってしまった。
「おい……」
 なんだよ……何が見えたんだよ……


 ものすごく気になった。試しに頭に疑問を浮かべてみたが、やっぱりそれはイコール俺のことだからわからなかった。だいぶ困惑したが日高の分の会計を払うことになった俺はなんだかイライラして、結局こんな考えに行きついた。
「ちょっと話しただけだから微妙だが……あいつ、結構ノリの良さそうな感じだったしな。明日『驚いた?あはは!』とか言ってきそうだ……」
 日高の行動は大掛かりな冗談。そんな結論にたどり着くころには俺は家についていた。
「ただいまー。」
 ……あれ?静かだな。
「母さん?」
 リビングに入るとこれまた真っ青な顔の母さんが電話の前に立っていた。
「母さん?ただいま。」
「……た……」
「ん?」
「田中くんが……」
「田中がどうかした?」
「……じ、事故にあったって……」
 その瞬間、俺の思考は停止する。
「い、居眠り運転のトラックに……はねられて……」
「な……何言って……」
「田中くんが……」
「……やめて母さん……」
「な……」
「母さん!」
「亡くなったって……」
 俺は家を飛び出した。
 必死に走る。何回も遊びに行った……田中の家に!
 田中が……死……?んなバカな話あるか!
 その時、俺は必死だった。だが頭のどこか冷静な部分が問いかけた。

 田中はどうなった?
『死んだ。』
 そんなわけない!田中はどうなった?
『死んだ。』
 田中はどうなった!
『死んだ。』
 この力を手に入れてほんの少ししか経ってない。だけど実感している。この力の正答率を。
 俺は立ち止まった。
 涙で視界が歪む。頭の中はぐちゃぐちゃ……なのに響く答え。知りたがっている自分がどこかにいる。
 いつ?どこで?どうして?運転手はどんなやつ?終いには運転手への復讐方法まで。ありとあらゆる情報が駆け巡る。
「ふざけんなふざけんな!くっそ!どうして……田中……」
 俺はコンクリートの道路を叩く。涙と血を流しながら俺は泣いた。

 何分そうしていたか。俺は……きっと尋ねてはいけないことを尋ねていた。
 田中を生き返らせる方法は!
『ない。』
 こんな力があるんだ!何か方法があるはずだろ!
『ない。』
 じゃあ、時間を戻す方法は!
『ない。』
 何か……何か……方法は……
『ない。』
 響く答えは同じ。
「田中……俺は……」
 少し落ち着いてきた俺の頭はフル回転している。生き返らせるには……いや、田中に会うには……
「そうだ……」
 俺は尋ねなおす。
「俺は……田中にもう一度会えるか!」
『会える。』
「!どうすればいい!あいつは……田中は今どこにいるんだ!死んだらどこに行くんだ!」
『それは―――』

 俺は走っていた。田中の家にではなく、田中のもとへ。


 暗い部屋、電気もつけずに日高は泣いていた。
「どうして……」
 日高は部屋の時計を見る。時計が示す時刻を見て、日高は今日出会って今日別れた……一人の男子の顔を思い出す。
「……行ってしまったのね……」


 駅のホーム。電車を待つ人の中に、仙人のような老人が立っている。その手にはメモ帳のようなもの。何かをカリカリと記している。
「……今回はなかなか興味深い結果が得られたな……」

アンサートーカー

今書くと、きっともっと長くなるのでしょう。
手書きは大変ですし、枚数制限もありましたし……

今は色々と便利ですね。

アンサートーカー

学生の頃、誰もが夢見たステキな能力を得た男の子。 彼は今後の人生のバラ色を確信しました。 しかしそこに同じ能力を持った女の子が現れて……

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-30

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