白い現 序章
「吹雪となれば」シリーズの続編、現代編です。
恐らく「吹雪となれば」を読まれなければ訳が分からないと思われますので、ネタバレを防ぐためにも、先にそちらをお読みになることをお薦めします。現代編でも相変わらず、神道の祓詞(はらえことば)などの呪文が多数出てきます。
序章
白い現(うつつ) 序章
蒼穹(そうきゅう)に輝く陽(ひ)を従えるように、少年は私立陶聖学園の屋上に立ち、風に吹かれていた。
両の手はポケットの中に納まっている。
着崩した制服にネクタイが辛うじてダラリと垂れ下がり、耳には赤いピアスが陽光を弾いてきらりと光る。
やや長めの黒々とした髪が風に靡(なび)き、少年の視界を束の間妨げた。
その髪は、一房だけピアスと同じように鮮やかに赤い。
口元には楽しげな笑みが浮かぶ。
(若雪と嵐の目覚めまで、もう間も無い)
禊の時を二人が経て、眠り続けて数日。
そろそろ、門倉真白(かどくらましろ)として、また、成瀬荒太(なるせこうた)として目覚めるだろう。
クックッと少年は喉で笑った。
(さても面白きことになりそうだ)
理の姫たちの成した壁の崩壊は、魑魅魍魎(ちみもうりょう)をも生んでしまった。
それは吹雪が禍つ力を振るえば起こる筈だった災いと同じ数。
少年の瞳が鋭い輝きを放つ。
愉快な話だ。――――――こうでなくてはならない。
「透主(とうしゅ)とは、洒落ている……」
魑魅魍魎たちを束ねる、妖(あやかし)の中の妖。
その真の姿を知る者は誰もいない。
ゆえに透明な主(ぬし)、透主と呼ばれる。
花守たちにおいても、さぞや計算違いだったことだろう。
「パワーバランスの為には、いても良い気がするがな…」
そう、一人ごちる。
(今しばらくは、見物させてもらおう)
理の姫たちに加え、真白たちのお手並み拝見、と言ったところだ。
屋上から見える空と街並みを睥睨(へいげい)しながら、少年の顔はあくまで愉悦(ゆえつ)に満ちていた。
彼の名は新庄竜軌(しんじょうりゅうき)。
前生においては織田信長と呼ばれた男である。
白い現 序章