涙の日

 涙の日
 

果てしない空
風はやみ
ふと静かになる時がある
四十日四十夜降り続いた雨を追う
二つの虹のように
空に金の糸乱れ降る土曜日の午後
例えばそんなときに、ふと
時が止まる

・・・僕は考える
あのビルの向こうに広がる海のこと
足下にひろがる生きた砂のこと
いつか捨ててしまった翼のこと
ああ、破れ棄てられた翼・・・
いまどこにいるのか、・・・と

川を見ている時
透明な水にすべてが溶けていくような
たとえばそんなときに
ふと肩を過ぎる風のように
あなたが訪れる
前触れもなく

水が流れている
音も無く川藻が揺れている
時も追いつかない位に静かに揺れている
まるで日の神の飛翔の光背のように・・・
その命の水のなかで
急速にすべての時が遠ざかっていく
今の時もかつての時も
やがて叶う約束の時も
光より速く
未知の水に浸される
闇よりも遠く

そんな静寂の彼方
そんな嘆きのさなか
胸の内胎の奥底から
宇宙の果て朝の叫びから
誰も見たことの無い花の葉から
透き通った水の果てから
生まれ続く
声が聴こえてくる

青い空に響き
青い海に響く

死んでしまった貝の殻から
聴こえてくる

螺旋状に落ちていく56億光年の未来
頬杖をつき
片足を膝に掛け
あなたはそれをみつめている
上昇と下降
その生と死
その光と闇を
無限というもののくっきりとした姿に包まれ
魚のように泳いでいるいくつもの魂

風も星も
夏草も
潮騒も
遠ざかる
光のように
あとづさる
旗を靡かせて

ひとつひとつ
消えていく記憶
失われるたびに生まれる水
消えていく足跡の後に
芽吹く葉

人はどこから来てどこへ行くのか
今は途上なのか
今はすべてが終わった後の揺らぎなのか
今はこれから誕生する事に立ち竦む永遠なのか

ひとつひとつ刻まれる素足の跡
波に洗われるごとに消える傷跡

涙の日

涙の日

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-12-28

CC BY-NC-ND
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