吹雪となれば 幕間
時間軸が前後します。第六章と第七章の、間の理の姫サイドの掌編です。
神の目
幕間 神の目
「…何を見てるのさ、水臣?」
「嵐が、兼久のもとへ辿り着いた。…刀を携えて」
その声に宿る微かな愉悦(ゆえつ)に、明臣は眉を顰める。
「面白いの?そんなの観るのが」
感心出来ない、という顔だった。
「いや?ただ、いつ我らの出番が来るや知れぬからな」
そう尤もらしく語る同胞(どうほう)の、目に踊る光を明臣は見逃さない。
よくも言う、と明臣は呆れた。
「現時点で僕らに出来ることなど、ほとんど無いよ。知ってるだろうに。そういう展開を楽しみながら覗くなんて、悪趣味も良いところだ」
水臣がニ、と笑う。普段あまり彼が見せない類の笑みだ。
「人は醜い。見るに堪えないと思わせられることが、あまりに多い。うんざりする程。たまには私を楽しませてくれる娯楽を供したところで、罰は当たるまいよ」
「――――――御満悦(ごまんえつ)のところ恐縮だけど、姫様がお出でだよ」
明臣のこの言葉にはハッとした様子で、水臣が振り向いた。
そこには確かに理の姫が立っていた。
水臣にとって何より尊い存在は、美しい顔に怒りを露わにして水臣を睨んでいた。
理の姫が右手を振り上げると、白い手がパン、という音を響かせた。
「…恥を知りなさい」
水臣の頬を打った手の震えを、もう片方の手で抑えるようにしながら、理の姫が叱責の言葉を口にした。その淡く色づいた唇も、微かにわなないている。
「………申し訳ございません」
水臣が殊勝(しゅしょう)げに謝罪する。
けれどそれもどこまでが本当だか、と明臣は思っていた。
彼は水臣に関しては、かなり突き放した見方をすることに決めていた。
「花守に、情を解しない者は要らない」
この理の姫の言葉に、水臣がちら、と目を上げた。
「―――――しかし神として、情に絡め取られぬことも必要かと」
「もとより承知。そんな言葉が出るのは、あなたが私を信頼していないからだ」
「あなたは私を信頼してくださっておいでですか」
二人の視線は対立するようにぶつかり合った。
「信頼したい。だから、先程のような言葉は、二度と聴きたくもない」
まだ怒りの残る、しかし真摯な声に水臣は頭を下げる。
「……承知仕りました。重ねての御無礼、お詫び申し上げます」
二人の遣り取りを聴きながら、明臣はちらりと人界の様子を見た。
嵐の右手は、今にも刀の柄に伸びようとしている。
吹雪となれば 幕間