パンティー泥棒の歌(モーモールルギャバンによる)
モーモールルギャバン 作
ジェフ 編
パンティー泥棒自転車で走る
3時間経ったら元に戻す
パンティー泥棒自転車で走る
パンティー泥棒自転車で走る
君は大嫌い でも君のパンティーは好き
君はブサイクだ でも君のパンティーは美しい
君のブラジャー嫌い でも君のパンティーは好き
俺はパンティーが好き 君もそうだろう
一
市内から電車で四駅行ったところに、山田の通う高校がある。そこは県内でも他と比べて割と簡単に入ることができ、すべり止めのすべり止めといえば言葉は悪いが、つまりはどこの県にも一つはある実業高校だ。しかし、山田の場合そこへはすべり止めのすべり止めで進んで入った訳では決してなく、自らすすんで第一志望で入学した。この話はこの話にあまり関係はないことだが、山田の学力、その学校がパソコンの授業を主としていたこと、何より彼の家庭教師から言われていた、「普通校だけはやめとけ」の言葉がずっと頭に残っていたことをふまえ、入学を決意したのである。
山田は入学当初、かなり内気になっていた。四月に入学し、高校の緊張感、中学生活をやや引きずっている初々しさとが、山田の外交を躊躇させていた。だから、授業が本格的に始まるまでは内向的に本を読んだり、放課後は映画部なるところへ行き知識を備蓄した。
しかしそれも長くはなく、クラスが打ち解けてくる六月頃には山田もクラスで頭角を現すようになっていた。
いまの学生というのは1クラスの学生を、5つに分類することができる。
クラスの中心的存在、それの取り巻き、部活に打ち込む人、オタクグループ、アウトロー、比率で表すと、【1:2:3:2:1】の割合になる。山田はオタクグループの一人ではあったが、とあることからアウトローの中川に気に入られ、仲良くなった。そして偶然にも、クラスの中心的存在であった鈴木に言い放った高校一年生の淫乱なギャグが大うけし、彼とその取り巻きにも気に入られた(しかし不幸にもこの小説にその彼奴らは登場しない)。
とにかくこうして、少し遅れはしたが山田の高校生活はスタートした。
二
六月下旬、季節は梅雨が明け始めた頃で、湿った蒸し暑い空気が外だけでなく教室の中まで入ってくるようになった。最近は男子も使うようになってきた直塗型の制汗剤のにおいが、クラス中に広がって臭い。中学校までは制限されていたものがいろいろ解禁されて、何も知らなかった山田にとってこのにおいは新鮮であった(後述だが、この時山田は汗で透けた女子のYシャツと、女子から漂ってくるこの匂いに、女子高生という性癖を知らずしらず感じていた)。
このクラスの体育・水泳の授業は毎週一回ずつある。男子は火曜日が水泳で、金曜日が体育である。女子はその反対で、男女どちらとも他の1クラスと合同で授業を受ける。
この日は木曜日で、どちらも授業もなかった。平和な、何もない日ほど人は何かをしたくなる。普段なら何もないこの日、山田はこの衝動に少しずつ駆られつつあった。カラっとしている天気、扇風機の風が肌に冷たい朝、前の席に座る優等生は渡辺さんのYシャツから透けて見えるブラジャー(これが大きな要因か)が、この衝動を普遍的なものから大きなものにした。
その日の昼休み、山田はいつも一緒に食事をしている秋山と森岡の2人に、「今日は食堂で食べよう」と誘った。たまには(二度目であったが)と誘いに乗ってきてくれた2人に、山田はさっそく話を持ちかけた。
「俺の席の前に座っている、渡辺さんってわかる?」
山田がそう言うと2人はチラっと顔を見合わせたて、小さく頷いた。
「あの真面目そうな人だよね。」と秋山が首を前に出して言う。
「昨日の放課後、トランペットを持って二階の廊下を歩いていたよ。」と森岡が続けざまに言った。
「吹奏楽部なのかな。ちょっと可愛いよね。」
「俺は別にタイプではないけど…」森岡があたりをチラっと見ながら「世間的には可愛いのかなあ。」
森岡はなぜか辺りを見る癖がある。そして、自分の意志に少し臆病だ。
「可愛いって!あのちょっとブラジャーが透けているところがマニアックでいいんだよ。」と言うのが秋山である。
言う機会をうかがっていた山田は、ここぞというばかりに手で2人を自分の方へ寄せて、静かにこう切り出した。
「明日、女子の水泳の時間、渡辺さんのパンツを奪取しようと思っているんだ」
三
2人に強い批判を受けた山田は、五時限目の授業のほとんどを「さて、どうするか」と渡辺さんの色香を感じながら考えていた。
次の授業は選択科目だった。高校の授業では、何時限かを自分の選択で決めることができる。理科といえども、「科学」「生物学」「地学」の3つはあるのだ。山田は実験がたくさんできそうという単純な理由で、科学をとっていた。ちなみに渡辺さんは地学だった。
授業が始まってしばらくたたないうちに、後ろに座っていたアウトローの中川が、山田の背中を2回ほど軽く小突き、小さい声でこう囁いた。
「お前、渡辺のこと好きなの?」
出会って間もない友人に「お前」呼ばわりされたことよりも、後ろで渡辺さんに意識を飛ばしていた自分を、さらに後ろから見ていた中川の言葉にギヨッとした。
この時、周りに座っていたクラスのマドンナ、柏木が一瞬こちらに目をやった。
山田は「ええ?なんでえ?」と引き攣った口をヒクヒクさせながら対応するので精一杯だった。
一日の授業が終わり、今日も残すところ掃除の時間だけとなった。山田は少しためらったが、今日の昼休みに秋山と森岡に持ちかけた話を、中川にもすることにした。
「実は…」
入学早々なにをしでかしているのだろうと、言ったあとに後悔しそうになった山田に対して中川は意外な一言を返してきた。
「お前きもいけどそれ最高だな!」
きもいという言葉にピクっときた山田であったが、その清々しい一言に圧倒され「だ、だろ~!」とふくみ笑いで返してしまう。どうも中川は苦手だが、勢いに押されてしまう。そう、こうなったら俺は変態をいくしかないのだ。俺は変態だ!文句のあるやつは…!とかなんとか自分に言い聞かせる。
アウトローというのは実にシンプルで足のつかない一匹狼である。彼らは人間関係に興味なんてない。そう、自分のやりたいことだけやる。
「そうなってくると誰かもう一人、俺たちが女子の更衣室に侵入している間の監視役がほしいな。お前といつも一緒にいる秋山なんかはどうだ?」
すでに定着してしまった「お前」というフレーズには、もう諦めがついた。
「秋山は真面目で、そんなことする勇気なんてとてもないよ。今日も秋山に特に反対されたし。」
「じゃあ森岡は?今日あいつ、鈴木たちと話しているかと思っていたら、よく聞くといじられていたよ。」
「上っ調子がいいからなあ。今日その2人にもこの話をして断られたけど、森岡なら話に乗せて調子ださせれば案外引き受けてくれるかも。」
「よし。じゃあ俺が頼んできてやるよ。」
そう言って中川は立ち去り、山田は廊下を雑巾でふき始めた。教室の方をチラっとみると、中川がなにやら森岡とアドレス交換をしていた。話が早い。
彼らの段取りはこうだった。明日、水泳の前の時間(社会科の菊池だ)、中川が何気なくトイレへ行くふりをして女子更衣室の窓の鍵を開けておく。その次の休み時間、3人は体育館の男子更衣室には行かず、廊下のトイレに身を隠す。そして授業が開始され落ち着いてきたタイミングを見計らい、山田と中川は女子更衣室へ行く。森岡は監視役として女子更衣室とプール場の間あたりの物陰に身を潜める。どちらも15秒くらいあれば行ける距離だ。この間、山田と森岡の携帯電話は常に「通話中」にしておく。
早い話が、渡辺のパンツを盗む。
これを書いている私も、何してんだろうと思う。
この日の放課後、山田は教室に残って科学の授業で出された宿題を教科書と合わせながら解いていた。しかしクラスのマドンナ、柏木率いる女子グループの止まらない話し声のせいで集中できない。
この集団に一度くらいは交ぜてもらいたい気持ちはあるが、山田はいつものようにプリントと教科書をバッグにしまい、教室を出た。声の大きくなった柏木に、なぜか敗北感を覚えた。
静かな図書室へ行く途中、森岡に出くわした。明日のことについて「なんで?」とか「中川に頼まれた」とか言われたが、これ以上話していると断られそうだったから、適当にごまかした。
ただ、少しなぜなのかは考えた。考えたが、答えはすぐに出た。愉快犯の感情とはこういうものなのだろうと思った。自分の存在をこの狭い学校内社会で確たるものにしたい。
下校中、ノックをしている野球部の声や、公園で遊ぶ小学生の声が聞こえてきた。くれなずむ帰り道を自転車で帰っていると、その光景がとても印象的で穏やかに見えた。
四
日付は変わって金曜日。少しジメジメしていたが、この日はまさに梅雨の中休みともいうべき快晴であった。山田はいつも通りに支度をし、いつも通りの時間に家を出た。どちらかというと、朝はバタバタする山田であったが、今日この日に至っては実に落ち着いている。そう、かっこいい映画の主人公は、冷静沈着で動きに余裕がある。やるべきことをただやる。この男はデキる。そうさ、プロなのだ。という15歳の空想は、映画“タクシードライバー”のトラヴィスを沸騰させる。
電車で中川とばったり会った。中川は耳にイヤホンを差して、自分の世界の中にいる。いつも通り。こいつもプロなのだ。少しワクワクしてくる。
学校に着いて教室に入ると、先に来ていた秋山と森岡がいた。ただ、森岡はいつもより口数が少なく、そわそわしているように見えた。
ここまでの間に、山田たちに会話はない。アイコンタクト。それがいつも通りな気もする。快晴、ワクワク、アイコンタクト、舞台は整った。あとは、3時限目の体育を待つのみだ。
このような時に限って、周りの声や話す内容がよく聞き取れる。友達、先生、セミの鳴き声や風の音。
五(ラスト)
2時限目の中盤あたり、多少教室が落ち着いてきた頃に中川が甲高い声で、
「トイレ行ってきまーす」と慣れた口調で言った。
「おう、行ってこい。ただトイレは授業が始まる前に行っ…」と社会科の菊池がそう言い終わる前に、中川は早々に教室から出て行った。この間、森岡はキョロキョロしたり2人の声にビクっとしたりしていた。こいつはもうまったく…。
教室から戻ってきた中川にアイコンタクトをしたかったが、やめておいた。映画はもう始まっているのだ。そうそう、主題は「パンティー泥棒」だ。
2時限目の終わりのチャイムが鳴り、教室がざわつき始めた。山田と中川は椅子の上で無表情である。なぜか体育袋を持った森岡が、『どうするの?行くの?』といった表情でこちらを向いてきた。山田も思わず後ろに座っていた中川を見て、少し間をおいて2人は「プッ!」と吹き出した。
「よし!じゃあ行きますか!」
席を立った3人は教室を出ながら、
「森岡きょろきょろしてんじゃねーよ」
とか言いながらトイレへ向かった。完璧に、いつもの自然な立ち振る舞いだった。
教室を出てから少しだけ計画の再確認と「中川、窓ばっちり?」とかの話をしていたら、すぐにチャイムが鳴った。始まりのチャイム。
しばらくざわついていた音が、だんだん静寂に変わってくる。山田は森岡に着信を入れ、それを互いにシャツのポケットに入れた。森岡はずっと体をクネクネさせながら「やめておいた方がいいと思うけどなあ」とつぶやいていた。
3人はトイレから出て、そり足で素早く所定の位置に向かった。そして更衣室に誰もいないことを確認し、山田と中川は更衣室の窓側に回った。鍵は…開いている!
「森岡、位置についたか?」
「う、うん。」山田に無線(携帯電話)で確認した。
「よし、行こう。」山田は片手で窓を開け、更衣室に侵入した。中川もそれに続いて入ってきた。
「いい匂いだな」と山田が言う。
すかさず中川が「早く探せ」と山田を前に押した。中川に緊張感はなく、いつもと変わらぬ様子だ。
2人は更衣室内で、渡辺さんのパンツを探した。その光景はなんともいえない。渡辺さんの水着袋はスイカの皮のデザインだ。
山田と中川はそれを丁度同時に入口の近くに見つけた。「お~」と山田。口から自然と出た。誰かが持ってきたのか、渡辺さんの制服は机の上にきれいに折りたたんで置かれていた。
山田はそれをバレないようにと、一つずつ丁寧に持ち上げ、別の場所に積み重ねる。手が少し震えていた。それを見て必死に笑いを堪える中川。
ただ、いっこうにパンツが姿を現さない。Tシャツ、ブラジャー、Yシャツ、リボンの順で見て、服の間も見た。ただどこからもパンツ、否、パンティーが出てこない。
「え?」と、常識との矛盾に気づいた山田は、キョトンとした目で中川を見た。中川は今まで見たことのないような嬉しそうな、しかし困惑した顔をしている。あの優等生(のはずの)渡辺さんが…。
お互いにすごい笑いが足の付け根から込み上がってきて、声を殺して笑う。
中川の「あいつ、ノーパンかよ」の一言で、ついにそれは歓喜の雄叫びへと変わり、更衣室内に轟く。その時だった。入口の外からの足音に山田は気が付いた。そして次の瞬間、
「え?誰かいるくね?」という聞きなれたクラスのマドンナ、柏木の声に、ハっ!と顔を見合わせる2人。
「きたきたきた」と山田。2人は一目散に侵入してきた窓に向かった。去り際、思わず隣に置かれていた柏木のパンツを手に取り(山田は誰のか知らなかったから罪ではない)更衣室から出た。
山田と中川は腰を低く落とし、草をかき分けるように全力で走ってその場から逃げた。この時ばかりは、中川もすごい形相をしていた。
去り際にふと後ろを見ると、体育館に入っていく森岡の後ろ姿がチラリと見えた。いや、見えてしまった。
山田はもう心臓が爆発しそうだった。「これはヤバい、これはヤバい」と繰り返す。
それを聞いた中川は山田の方を向き、手に持った柏木の真っ黒なパンツに気づく。
「お前、それ…」
「あっ!」と山田はここにきて初めて自分が何を持ってきたのかに気が付いた。
「はっはっはっはっ!やっぱお前はすげーきもいけど最高だわ!被っとけ!」
「いや、でも、クロならけっこうです!」
山田は柏木の真っ黒なパンツを、天高く放り投げた。
モーモールルギャバン
パンティー泥棒の唄
作詞:モーモールルギャバン
作曲:モーモールルギャバン
パンティー泥棒自転車で走る
3時間経ったら元に戻す
パンティー泥棒自転車で走る
パンティー泥棒自転車で走る
君は大嫌い でも君のパンティーは好き
君はブサイクだ でも君のパンティーは美しい
君のブラジャー嫌い でも君のパンティーは好き
俺はパンティーが好き 君もそうだろう
パンティー泥棒自転車で走る
自転車泥棒パンティーを被る
パンティー泥棒自転車で走る
自転車泥棒パンティーを被る
逃げるパンティーに追うおいら
おいらはパンティー界のルパン
次元も五右衛門も必要ない
俺は一匹狼
黒はいやだ 白が好きだ 水色も ピンクも好きだ
ベージュはいやだ 青が好きだ 赤も 黄色も好きだ
スカートの短さとかどうでもいい
脚がきれいだとか関係ない俺は一匹狼
俺は一匹狼
ただパンティーをカブールで被る
お姉さん貴女に興味はないけれど
僕に貴女のパンティーを下さい
でも黒なら結構です
パンティー泥棒自転車で走る
自転車泥棒パンティーを被る
パンティー泥棒自転車で走る
自転車泥棒パンティーを被る
3時間経ったら元に戻す
3時間以上被り続けたらダメだ
3時間以上被り続けると
お前のそのきたない頭のにおいがしみつく
パンティー泥棒の歌(モーモールルギャバンによる)