郵便受けのコン

「昼寝をしていて夢を見ました」
「はい」
「夢の話なので、そのおつもりで」
「ああ、分かっています。夢だったという話ですね」
「最後は夢で良かったいうことじゃありません。いつ最後だったのかは尻切れトンボ状態です」
「はい、どうぞ」
「昼寝をしていると郵便受けがコンと音がするのですよ」
「郵便が届いたのですね」
「私はまだ若い。いや、子供じゃないけど、まだ二十歳になっていないと思われます。春休みではないでしょうかなあ」
「はい、春休み、昼寝をしていたのですね」
「そうそう。そうです。おそらくそうでしょう。そのコンかコツンの音で郵便が届いたと思い、起きたのですから」
「夢の中で、起きたのですか」
「はい、夢の中で昼寝をしている夢を見ていたのでしょうねえ」
「じゃ、実際に起きられたのじゃないのですね」
「そうです。今も郵便受けはありますが、実家のものとは違います。音もそのようには鳴らない」
「はい」
「それに最近はチラシを入れていく人がいるでしょ。だから、郵便受けの音が鳴っても、気にならない。それ以前に待っている郵便物もない。ところが、若い頃は待っている郵便物がありましてねえ。春休みとかはよく炬燵で昼寝していました。ちょうどその頃、郵便配達の時間でしてね。来そうな時間帯なんです。午前中と午後がありましてね。一日二回来てましたなあ。だから、朝、来ていなくても昼過ぎに待っていた郵便物が来ているかもしれない。ただ、その時間、よく昼寝していましたのですよ。実際には寝待ちです。寝ながら郵便を待っていたのですよ」
「えーと、その郵便物の音の夢ですか」
「そうです。夢の中で夢を見ていた私は若者です。だから夢の中では若者なのです。まあ、そういうことじゃなく、昔の思い出なんでしょうなあ」
「そ、それだけですか」
「それで、夢の中の私は音で起きて、郵便を見に行こうとしたところで、私も起きました。夢はそこで終わりです」
「何でもない夢なんですねえ」
「その通りなのですが、あの春の日のことを思い出しました。文通していた人や、通信講座のパンフレットや、実際に通信講座を受けてましてねえ。英語ですが、その添削が届くのですよ」
「今は、すべてネットに起き変わりましたねえ」
「そうです。最近も宅配便を待つことがありますねえ。これは分かりやすい。そっと郵便受けには入れませんからねえ」
「そうですねえ。じゃ、昔の郵便時代が懐かしいと」
「いや、あの音なんですよ。玄関の方でコンと音がする。その前にあれは赤カブなんでしょうなあ、フォーサイクルのバイク。あの音がその前にします。郵便がなければ通過音です。あるときは止まりますが、エンジン音は鳴っている。同じ音色で同じ大きさで。ブツブツブツとね。これで確率が高くなる。私の家の前に止まっていても、隣の家の郵便物かもしれませんからね、止まれば必ず郵便が来ているとは限らない。しかし、可能性は高い」
「はい」
「夢の中の私は、郵便受けの音で目が覚めるのですが、その前の段階が省略されています」
「その前とは」
「先ほどお話しましたように、エンジン音ですよ。実際にはそのあたりから聞き耳を立てるのです。しかし、夢の中では、いきなり郵便受けの音だ。まあ、昼寝中なら、遠くからのバイク音は耳には入らないでしょうが」
「それで夢は、それを見に立ち上がったところで、終わっているわけですね」
「そうです。どういうことかと思いまして」
「思うも何も、そのままじゃないのですか」
「夢としては多少不満です。やはりどんな郵便物が入っていたのかを知りたい。しかし、夢はそこまで教えてくれませんでした」
「忘れたのじゃないですか」
「何を」
「だから、その夢の落ちを」
「いや、それなら、覚えているはずですよ」
「それで、その夢を見られた後、あなたはどうされました」
「目が覚めました」
「はい、その後です」
「郵便受けを見に行きました。まあ、あの音は夢の中の音だし、今の時代じゃない。だから、期待はしていませんでしたよ。しかし、これが夢のお告げではないかと思い、一応見に行きました」
「で、どうでした」
「何も入ってませんでした」
「はい」
「だから、不満なんです。何だったのでしょう、あの夢の中の、コンは」
「ああ、ですから、それは夢ですから、そんなものですよ」
「しかし、若い頃、学生時代までですがね、郵便物を楽しみにしていたのは」
「じゃ、その夢はきっと昔の思い出が出ただけなのでしょう」
「昼寝をしながら郵便受けのコンを待つ。何でそんな夢を見たのかは分かりませんが、そういうわくわくするようなことが、最近減ったのでしょうかねえ」
「そうかもしれません」
「ネットでも同じことが出来るのですがねえ、何か違うんだなあ」
「はい」
「あ、つまらん話、聞かせてしまいました」
「いえいえ」
 
   了

郵便受けのコン

郵便受けのコン

「昼寝をしていて夢を見ました」

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-12

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