雑魚キャラ道

「雑魚キャラの生き方があるんですよね」
　野村はゲーム仲間の立川に話している。
「ほぼ全員そうじゃないの。殆どの人が雑魚キャラじゃないの」
「そう思いたくないのが人情だ」
「人情かァ、古いなあ」
「自分は特別な人間だと誰でも思うときがあるだろ」
「特別よく知っているっていう人間だよ」
「え、物知り博士解？」
「自分に関してだけね。だから、自分は特別だと思える。まあ、特別自分に関しては詳しいから」
「その特別に選ばれたような人間も雑魚キャラかい」
「客観視すれば、雑魚キャラばかりだろう。だから、君もそろそろ雑魚キャラとしての生き方を考えないと。チェンジしないと」
「ああ」
「まあ、しなくても、雑魚キャラだから、特に努力は必要じゃない。そのままでも雑魚キャラなんだから」
「しかし、大物もいるだろう」
「ほんの僅かね」
「ほらみろ、雑魚キャラばかりじゃないじゃないか」
「一握りだよ。だから、僕らとは関係のない世界だから、雑魚キャラの生き方に徹する方が過ごしやすいんだよ」
「花も実もない雑魚キャラか」
「だからァ、そういう人が殆どだから、普通なんだよ。雑魚キャラで」
「面白くない」
「それは君の感想だよ」
「不愉快だ」
「だからァ、君は何様なんだ。君の愉快、不愉快なんて、何の影響もない。自分の気分を述べてどうする」
「じゃ、不愉快だっていうのは、誰ならいいの」
「大物だよ」
「うーん」
「ご機嫌取りが失敗して、大物の機嫌を損ねる。それを不愉快だと言われる。従って自分の気分なんて問題外」
「うーん」
「君にご機嫌取りをするような人はいる？」
「たまにいるけど、言うことを聞かせるために、機嫌を取ってくる程度かなあ」
「不愉快だよ君っ、てのも、立場のある人だろ。雑魚キャラの機嫌なんて、何でもないんだ。取るに足りない。勝手に不愉快がってればいいんだ」
「辛そうだねえ。雑魚キャラは」
「愉快もそうだ。愉快がるのは何様のつもりだ」
「そうだねえ、でもいるよ。雑魚キャラのくせに態度のでかいやつ。それこそ何様だと言いたくなるような」
「きっと殿様のつもりなんだろう。偉い人間じゃないのに、偉そうにする。これは性格が悪いんだ。それに見合った地位じゃないと、全部空振り、空咳だ。態度のでかい雑魚キャラは虚しいよ」
「気位の高い雑魚キャラかい」
「それもあるけど、自分が雑魚キャラだと思いたくないんだ」
「じゃ、どうすればいいの」
「雑魚キャラ道を極めることだな。これは逆に言えば何も極めないことなんだ」
「はあ」
「極めるより難しいかもしれんのが、雑魚キャラ道だ」
「でも、雑魚キャラだろ。何をしても」
「僕らはゲームをしすぎた。英雄をやり過ぎた」
「英雄か」
「それをゲーム用語で村田英雄という」
「エイユウじゃなくヒデオか」
「そうそう、みんなエイユウじゃなく、ヒデオなのにね」
「じゃ、ヒデオに戻ればいいんだ」
「戻るも何も、一歩も出ていないと思うけど」
「うーん」
　
　　　了