お天道様

「寒いのに散歩ですか」
「日に当たらないとね」
「日向ぼっこを兼ねた運動ですねえ」
「寒いといって部屋に籠もってばかりいると、お天道様に申し訳ない」
「それはそれは」
「妙かね？」
「滅多に聞きません」
「そうか、昔の人は、よく言ってたよ」
「何でしょうねえ、それって」
「昔の農家の話かもしれんなあ。日がもう上っているのに、まだ寝ていると、いけないんだ」
「はい」
「それだけじゃなく、天が見ているんだ。行いはお天道様が見ておられる。だから、悪いことは出来ない。それをやると天罰が当たる」
「時代劇にでも出てきそうですねえ。お天道様って、太陽ですか」
「天だよ。空かな。まあ、太陽が一番影響力が強い。日がなければ暗い。夜だよ。しかし夜でも天は見ている」
「なるほど」
「私も、ぶらぶらしていると、お天道様に申し訳ない。といって特に成すべき事もない。日が出る前に野良仕事をやるわけじゃないしね」
「それで散歩ですか」
「それもあるが、日に当たる方が健康によろしい。夏場はそうもいってられんが、冬場は日が恋しい。暖かいしな」
「はい」
「それ以前に、外に出て空を見たい。曇っておっても雨でも雪でも天は天だ」
「では日向ぼっこだけが目的ではないと」
「気持ちの問題だろうねえ」
「いいですねえ。そんな呑気な生活」
「他にやることがないのでな。そんなことを思いながら過ごしておるんだよ」
「ところで会長」
「ん」
「会社が大変なことになってます」
「私は知らん」
「会長が蒔いたタネですよ。責任追及されますよ」
「身代わり観音はどうした」
「猪瀬専務だけではすみません」
「そこで止まるだろう」
「今回は無理です。今、社長が危ないです。次は会長です」
「天罰が当たったのかもしれんなあ」
「会長が辞任されることで、事は終わります」
「そうか」
「呑気に散歩など出ている場合じゃないのです」
「お天道様に背を向ける裏稼業だったからなあ」
「辞任されれば普通のお天道様を見られるようになると思いますが」
「うむ。考えておこう」
　
　　　了