美しいヒト 番外編
今から掲載する小説は、先に書いた小説『美しいヒト』の中に入れ込むかどうか迷いに迷って、結局掲載を見送った場面のものです。
「BLもののお約束」として、愛し合うシーンは少なくとも2回以上は入れないといけないんじゃないかと思いつつ、でも、話をきれいにまとめるためには、そのシーンはスルーでもいいのではないかと思うようになり……。結局、「番外編」という形で書いてみようと、言うことになりました。
ですので、その……本当にそのシーン『だけ』しかない小説ですので、苦手な方、意味分からない方、BLを理解できない方は、読まれないことを強くお勧めいたします。読める、と、言う方だけ楽しんでください。カップリングはハヤブサさん×シュバルツさん。シュバルツさん受けです。このカップリングに抵抗ある人もご遠慮ください。
それでは、どうぞ~。
ハヤブサは、ひたすらシュバルツの身体を抱きかかえ続けた。
微弱だが、『駆動音』が聞こえ始める。
DG細胞が、身体を治す音も聞こえ続けている。
きっと、後少し。
あと少しで、『愛おしいヒト』は還って来る。
そう。後少しで――――。
「う…………」
腕の中のシュバルツが小さく身じろいで、黒橡色の瞳がゆっくりと開けられる。その瞳が、自分の顔を捉えて――――唇が、動いた。
「ハヤ…ブサ……?」
シュバルツの視界に、ハヤブサの優しい笑顔が映る。
「お帰り……。シュバルツ……」
そう呟いたハヤブサの瞳から、涙がポロ……と、零れ落ちる。
「ハヤブサ……!」
シュバルツは驚いて、問おうとした。―――涙の訳を。
「ハヤブサ…? どう……あっ! ん……!」
だがシュバルツは、それをする事が出来なかった。何故なら、いきなりハヤブサの唇に、自身の唇を奪われてしまっていたから――――。
口腔を隅々まで弄っていく、ハヤブサの熱い舌。
「んっ……! ん……!」
意識が戻ったばかりで、身体がまだよく動かないシュバルツは、訳も分からないままに受け入れるしか術が無く。呑みきれない唾液が、口の端からツ……と、零れ落ちて行く。
「……………」
長い口付けから解放された時、シュバルツの息は乱れ、その頬が微かに上気していた。
「……はっ! はぁ…! ハ、ヤブサ……?」
潤んだ瞳で問いかけるように見るシュバルツに、ハヤブサは微笑みかけた。
「シュバルツ―――」
また、ハヤブサの瞳から、涙がポロ…と、零れ落ちる。
嬉しい。
愛しいヒトに、大事な事を伝えられる事が。
「お前は生きているんだ」
そう、言える事が――――。
「シュバルツ……お前には、『体温』があるんだ……」
「……えっ……?」
ハヤブサの思わぬ言葉に、シュバルツは息を飲む。
「あるんだ……『体温』が……」
「う、嘘だろう……? だって、私は――――」
ハヤブサの言葉が俄かに信じられないシュバルツが、戸惑ったような表情を見せる。
「嘘じゃない。確かにあるんだ……」
シュバルツの言葉にハヤブサは微笑みを返しながら、その唇を塞ぐ。
「んっ! んぅ……!」
深く口腔を弄ってから、もう一度。
「……ふ……ん……」
ハヤブサから落とされる口付けがあまりにも優しいから、シュバルツは思わず身体の力が抜けそうになってしまう。だから、唇が解放された瞬間、シュバルツはハヤブサの言葉を否定しようとした。
「ち……違う……! 温かいのは、お前の――――」
「いいや。お前の『口の中』だ」
「………!」
驚愕に目を見開くシュバルツに、ハヤブサは微笑みかけ、そしてその髪を優しく撫でた。
「完全に事切れていた時のお前の口の中は、もっと―――冷たかった」
「――――!」
「だけど……今のお前は、ほら……」
ハヤブサの指が、シュバルツの唇に優しく触れる。
「こんなに――――温かい……」
そしてまた、唇がふさがれる。
「…んっ……!」
「温かい……。生きているんだ……。お前は……」
ちゅっ、ちゅっ、と、音を立ててついばまれるように落される優しいキスの嵐に、シュバルツはただ翻弄される以外に術は無く。
「ん……あっ! ハ、ヤ……!」
何とかハヤブサの行為をやめさせようと望むが、回復途上にある身体は、まだきちんと動いてはくれなかった。
「シュバルツ……! シュバルツ……ッ!!」
潤んだ声でその名を呼び、夢中でその身体を抱きしめる。愛おしい―――何て、愛おしいのだろう。
だが、抱きしめられたシュバルツからは、悲鳴が上がった。
「う…あっ! 痛……ッ!」
胸から肩にかけて穿たれた傷が、まだ完全に治ってはいなかったのだ。悲鳴を聞いたハヤブサが、はっと気がついた様にシュバルツを見る。そんなハヤブサを見て、シュバルツの方もはっとなった。
―――しまった…! 痛がってはいけなかったのに……!
どうせこの傷は、治る。『無かった事』に出来るのだから、ハヤブサの気に病ませる必要もないと思った。
「あ……! 済まない…! もう大丈夫、だから……!」
「シュバルツ――――」
慌てて、取り繕う様に言葉を紡ぐシュバルツを、じっと見つめていたハヤブサであったが、やがてその身体を、そっと地面に横たえさせた。
「ハヤブサ……?」
ハヤブサの意図を咄嗟に計りかねたシュバルツが、不思議そうにハヤブサを見上げる。
「…………」
ハヤブサの右手が、ゆっくりとシュバルツに触れる。髪から頬、そして首へ。そこから、服の端にハヤブサの右手がかけられると。
バリッ!!
大きな音を立てて、シュバルツが着ている服が引き裂かれて、いた。
「――――ッ!」
その衝撃が傷口に響くから、シュバルツは思わず小さく呻いてしまう。その間に、シュバルツが首に巻いていたスカーフも、シュル…と、音を立てて取り払われ、彼の上半身が外気に曝される結果となった。
「馬鹿! お前……自分の服を……!」
『ハヤブサ』に変装するために、シュバルツはハヤブサの服を着ていた。だから、引き裂かれたのはハヤブサの服な訳で。それに対してハヤブサは「予備がある。問題ない」と、短く返すと、シュバルツの上に、そっと覆いかぶさってきた。
「…………」
そしてそのまま、じっとシュバルツを見つめる。
「あ…………」
どこを見られているのか、何を見られているのかが分かりかねるシュバルツは、妙な居心地の悪さを感じる。とにかくハヤブサの視線から逃れるために身体を隠そうと思うのだが、回復途上の身体は、思うように動いてはくれなかった。
「シュバルツ……」
そうしているうちに、ハヤブサの右手が、シュバルツに向かって伸びてくる。その手は、シュバルツの『傷』に触れてきた。
「―――――ウッ!」
不意に襲われた鈍い痛みに、シュバルツは声を殺し損ねた。ハヤブサの右手は、そのままシュバルツの傷をなぞる様に触れてくる。
「……ッ! く……!」
目を閉じ、必死に痛みを受け流そうと努力するシュバルツ。そこから漂う凄絶な色香に、ハヤブサの劣情が一気に刺激されてしまう。
「この傷――――」
ハヤブサが、シュバルツの傷に触れながら、言葉を発する。
「この傷……『消える』のか?」
ハヤブサの問いかけに、シュバルツは痛みに耐えながら頷く。
「ああ……。もう少ししたら、綺麗に『消える』」
そう言うシュバルツの面に『笑み』が浮かんだ。
「だからハヤブサ……心配、す―――あ……っ!?」
傷に、いきなりハヤブサの唇が触れてきたから、シュバルツは、それ以上言葉が紡げなくなってしまう。ビクッ! とのけ反り、逃れようとするシュバルツをハヤブサは抑え込んで、執拗にそこに唇を落とし続けた。傷をなぞる様に触れ、舌で舐め上げ、そして、チュッと、音を立てて吸い上げていく。
「あっ! うあ……!!」
痛みを伴う甘い刺激と、ハヤブサのその行為に、シュバルツは混乱した。
「やめっ! 駄目、だ! ハヤブサ…ッ!!」
何とかハヤブサの下から逃れようと、その身を足掻かせようとする。しかし―――シュバルツの想いと裏腹に、身体の方には全く力が入ってくれない。
「離れて、くれ! 私の『血』に触れては――――あっ!! ああ……ッ!」
シュバルツを黙らせたいハヤブサは、左手の指で、シュバルツの胸の頂を優しくこする。
(頼むから、黙っててくれ。俺は―――お前に心行くまで触れたいのに)
「う、あっ! あ……ッ!!」
その甘い刺激に、シュバルツの身体は素直に反応していた。指でそっとそこを摘まんだり、いたぶる様に弄り回しているうちに、そこがぷく、と熟れてくる。そうしている間にも、ハヤブサの唇は執拗に傷口に当てられ続けていた。胸からもたらされる甘い刺激と、傷からもたらされる痺れるような痛みに、シュバルツはますます混乱して行く。
「ハヤブサッ!! やめ……ッ! や、め……ろ……!」
頭を振り、涙を流して訴えるが、ハヤブサの愛撫が止むはずもない。
この傷――――消えて欲しくない……。
それが、今のハヤブサの正直な想いだった。
この傷は、俺だけの物だ。
シュバルツが、俺のためだけに、自らの身体に刻んだ傷。
だから、消えて欲しくない。
消えて欲しくないと、願った。
(俺は、絶対に忘れない……! この傷の事を―――)
例え誰にも気づかれなくても。
シュバルツ自身でさえ、この傷の事を忘れてしまったとしても。
俺だけは、憶えている。
シュバルツが、俺のために。
その身体を投げ出した、という事実を――――。
だからハヤブサは、その傷に執拗に唇を落とし続ける。
忘れないために。
傷を、憶えておくために―――。
確かにこの傷が、ここにあったのだと、自身に刻み込んでおくために……。
「……んっ! く……! あ……ッ!」
だが当然、ハヤブサのそのような意図を、シュバルツが察知出来る筈も無く。
何度も何度も傷に触れられるその執拗な愛撫に、ただ身悶えるしかなかった。
「ハヤブサ……ッ!」
たまらずシュバルツは、目の前の男の名を呼ぶ。
「あ……! ハヤブサ……ッ! どう……して――――」
「シュバルツ……」
こうしている間にも、少しずつ少しずつ傷が消えて行くのが分かる。後もう数刻もすれば、この傷は―――完全に分からなくなってしまうのだろう。
ある意味、『思い出』を残す事の出来ない身体―――。
仕方が無い事なのだが、ハヤブサは『淋しい』と、感じた。
「シュバルツ―――」
だからハヤブサは、シュバルツを夢中で求め、キスをする。
「んっ! んぅ……!」
(ハヤブサッ! 毒が……!)
唾液の中の毒の成分の割合が、また増えて来ている。せっかく治りかけているのに、これはまずい、と、シュバルツは思った。
「ハヤブサ……! 駄目っ! あっ……!」
だが、動かない身体での弱々しい抵抗では、ハヤブサの劣情をさらに煽るものにしかならなくて。あっさり抑え込まれたシュバルツは、ズボンも脱がされそうになってしまう。
「ま、待てっ!! やめろッ!! こんな、ところで……ッ!!」
思わず出た大声に、ハヤブサの動きが一瞬止まる。シュバルツの言葉にハヤブサは周りを見渡して――――ここがようやく見晴らしのいい「郊外」だったと言う事を思い出していた。それほどまでに、彼の視界には、シュバルツの姿しか入っていなかった。
「『ここ』じゃなきゃ、いいのか?」
ぼそりと言われた言葉に、シュバルツは何故か不吉な物を感じる。
「えっ……? あ……ッ!」
抵抗する間もなく、シュバルツの身体はハヤブサによって抱き上げられてしまう。そのまま、ハヤブサは、あっという間にシュバルツを近くの廃屋の中に連れ込んでしまった。
「ここなら―――文句ないだろう?」
そう言いながらハヤブサは、シュバルツを押し倒して先程の愛撫の続きを性急に再開しようとする。
「ば、馬鹿っ!! そう言う、問題じゃ……!」
「シュバルツ――――」
「あっ! やめろっ! ハ、ヤブサ―――あッ!!」
抵抗を試みるも、あっさり塞がれてしまう、シュバルツの唇。
「…ん……! んっ……!」
シュバルツの唇を奪っている間に――――ハヤブサは手と足を使って、シュバルツの下半身からも、一気に衣服を取り去っていた。
現れたのは、ハヤブサからの愛撫によって既に勃ち上がってしまっている牡茎。
「やっ……! 見るな………あっ!」
そこを隠そうとしたシュバルツの右手をよりも早く、ハヤブサの右手がシュバルツの牡茎を捕らえる。それをどけようとしたシュバルツの右手を地面に縫い付けて―――ハヤブサはそこをしごき始めた。
「あ……ッ! あっ!」
勝手に、どんどん溢れだしてしまう先走りが、ハヤブサの右手を濡らして行く。
「シュバルツ……。こんなに――――」
ハヤブサの潤んだ声が、シュバルツに降って来る。
「んっ! や……あ……ッ!」
濡れた右手が、くちゅくちゅ、と水音を立ててシュバルツの牡茎を愛して行く。その音が恥ずかしくて、消えてしまいたいとシュバルツは願うのに、ますます溢れ出る先走りに、音は大きくなって行くばかりで。
「やめ……っ! やめ……て……!」
「今ここでやめたら―――辛いだろう?」
降って来る見透かされるような言葉に、シュバルツの羞恥がますます煽られて行く。ハヤブサの言葉通り、下半身に溜まっていく熱は、『解放』を求めて疼き始めている。だがシュバルツは、素直にそれを肯定できない。
「で……! でも……ッ!」
「『感じる』ことは、悪い事じゃないんだ……シュバルツ……」
そう言いながらハヤブサの左手が、シュバルツの胸で熟れている頂を優しくこする。
「はんっ! は……あ……ッ!」
ビクビクっと反応して、乱れるシュバルツ。呼吸が荒くなり、頬の上気の色が濃くなる。シュバルツが自分の愛撫に感じてしまっているのは、もう明白だった。
「や……ッ! やあ……!」
羞恥が限界に来ているシュバルツは、思わず自分の顔を隠した。快感に流されて乱れる自分が、堪らなく恥ずかしかった。
「シュバルツ……隠すな……」
ハヤブサは、そんなシュバルツに顔を近づけて囁く。
「顔が見たい……顔を、見せて?」
「う……! く……っ!」
顔を隠したままのシュバルツが、ふるふると頭を振る。
「シュバルツ……お願いだ……」
潤んだ声で懇願しながら、ハヤブサは顔を隠している手に、ちゅ、と、音を立てて口付けを落とす。
「お前が『イク』時の顔を―――ちゃんとみたいんだ……」
「…………!」
ハヤブサのその言葉に、シュバルツの耳まで朱に染まる。
「シュバルツ――――」
ハヤブサは、シュバルツの顔を隠す手に優しく触れる。無理やり、強引に手をどかせてもいいが、出来ればシュバルツに自分でどけて欲しい、と、思った。
「う………!」
強引にどけられる、と、思っていた手が、優しく触れたままに、顔を隠す事を許してくれているから―――シュバルツは、戸惑ってしまう。本当は『見たい』と、ハヤブサは望んでいるのに……。
「シュバルツ……」
もう一度ハヤブサは、シュバルツの手に優しくキスを落とす。
「お願いだ……」
もう一度、懇願。
「う……! うう……」
(ハヤブサが――――ハヤブサが、望む、なら……)
そう決意して、シュバルツはやっと、手を動かす。その動きを見たハヤブサから、微笑む気配が帰ってきた。
「ありがとう……シュバルツ……」
その言葉と共に、顔に優しい口付けが降って来る。
「あ………」
キスの嵐を受けながら、シュバルツは戸惑っていた。何故ハヤブサは、そんな瞬間の顔なんか見たがるんだ。自分でもその瞬間なんて、どんな表情をしているのか分からない。絶対に―――変な顔をしていると思うのに。
恥ずかしい。
堪らなく――――恥ずかしかった。
ハヤブサが、シュバルツの唇を求めてくる。
シュバルツがそれに応えるように口を薄く開くと、待ち構えて居た様に、ハヤブサの舌がシュバルツの口腔深くに侵入してきた。
「…んっ! んく……!」
(ああ、やっぱり、毒の成分が……!)
ぶり返してきている、ハヤブサの中の『毒』。ハヤブサを止めなければいけない―――と、シュバルツも頭の中では分かっている。
だけど、ハヤブサの暴走する『熱』を、シュバルツは止める事が出来ない。
自分の下半身に集まって、解放を求めて浅ましくも疼いてしまっている『熱』も、止める手段を失くしていた。
「…んぅ……! ん……ッ!」
熱く口腔を蹂躙し、呼吸を奪ってしまっているハヤブサの舌が、シュバルツの思考を麻痺させていく。
ここでハヤブサは、緩めていたシュバルツの『そこ』への愛撫を、再び強い調子で再開させる。
「んっ!! んんっ!! んぅぅ……っ!」
たまらずシュバルツの腰が揺らめき跳ねた。頃合いを見計らってハヤブサがシュバルツの唇を解放してやると、シュバルツの口から最早抑えることすら出来無い高い嬌声が、ひっきりなしに漏れる。
(シュバルツ……!)
目の前の美しいヒトが乱れる姿に、ハヤブサは酔う。もっと羞恥を煽るために、シュバルツの足をわざと大きく開かせる。すると、彼の嬌声は一層高く激しくなった。妖しくひくつく秘所に指を突きいれると、そこは容易くハヤブサの指を飲みこんだ。そして熱く強く、ハヤブサの指を締め付けてくる。
(ここには、もっと分かりやすく『体温』があったな……。もっと早く、気づいてやればよかった……)
熱く蠢くシュバルツの『内部(なか)』を弄りながら、ハヤブサはそう思った。あの時は―――シュバルツをただ貪る事に精一杯だったから……。
「はっ! ああっ!! う、あっ……!」
下半身に溜まっていく熱い疼きに、シュバルツは抗う事が出来ない。一度快感を覚えてしまった身体は、ハヤブサの追い詰めるままに、素直に上り詰めて行く。
顔のすぐ近くに、ハヤブサの荒い息を感じる。
「見られている」と、分かる。
「あ……! あ……ッ!」
(嫌だ…! 恥ずかしい――――!)
その羞恥の熱が、下半身の熱い疼きをさらに煽ってしまっている事に、シュバルツは気付く事が出来ない。
顔を隠したいと思う。でも、ハヤブサが『顔を見たい』と望んでいるから、隠す事も出来なくて。行き場の無いシュバルツの手が、いつしか床に爪を立てていた。ギ、と、軋む音がする。
「あっ…! も……う! 駄……あああぁあ――――ッ!!」
堪え切れない熱情の塊が、ついに、シュバルツを押し流してしまっていた。
「……は……! あ……ッ!」
どくっ、どくっ、と、溢れだしてくるシュバルツの『精』が、ハヤブサの右手と服、そして自身の下腹部を汚して行く。3本目の指も奥深くまで受け入れてしまっているシュバルツの秘所も、それに合わせて妖しく蠢き、ハヤブサの指を締めつけた。まるで――――奥へと誘うように。
切なく寄せられた形の整った眉。
薄く開かれ、視点の定まらない、涙を湛えて空を彷徨う瞳。
ひどく上気した頬。
その頬にかかる、乱れた黒い髪。
許しを請うように開かれた口からは、熱い吐息が漏れるばかりで――――。
(ああ―――やはり、美しいな…。お前は……)
放出した『熱』の余韻の中に漂う陶然としたシュバルツを、ハヤブサは心行くまで堪能する。その朱に染まった頬にチュッ、と、音を立ててキスをしてから、ハヤブサは、シュバルツの秘所から一気に指を引き抜いていた。
「はっ! ああ、んっ!」
突然身体を襲って来た甘い刺激に、シュバルツがびくびくっとその身を震わせる。
愛おしい――――。
堪らなく、愛おしかった。
ハヤブサは、手近にあった布でシュバルツの汚れた下腹部を手早く拭いてやると、自身の着ている服も、かなぐり捨てるように脱いだ。
一刻も早くシュバルツを繋がりたかった。
もう限界。
限界なんだ、シュバルツ――――。
シュバルツの上に覆いかぶさると、涙で潤んだ彼の瞳と視線があった。
頬に触れると、シュバルツの唇が薄く開く。ハヤブサはそこに、吸い寄せられるようにキスをした。
「……ん……」
互いを思いやるような、優しい口付け。それをしながらハヤブサは、シュバルツの秘所に怒張し切った己自身をあてがう。
「あ………!」
その感触に、シュバルツは知らず震える。だが、シュバルツの秘所は、ハヤブサの亀頭にぴったりと貼りつき――――奥へ誘う様に蠢いてしまっている事を、彼は知る由もない。
「シュバルツ―――」
ハヤブサは想いを込めて、愛おしいヒトの名を呼ぶ。
挿入(はい)っていいか。
お前の中に――――。
一つになって、いいか。
「ハヤブサ……」
シュバルツは、観念したように瞳を閉じる。その頬に、涙が一筋、零れ落ちた。
「シュバルツ……ッ!」
たまらずハヤブサは、シュバルツの身体を力いっぱい抱きしめる。
ああ、済まない、シュバルツ。
今度もまた――――。
優しくしてやれそうに、無い。
ズズッと、音を立てて、ハヤブサのそれは、一気にシュバルツをこじ開ける。
「ああっ!! あああ―――――ッ!!」
指で丹念にほぐして、ひくついていた『秘所』とは言え――――シュバルツの『そこ』は、まだそれを受け入れ慣れている訳ではない。凄まじい圧迫感と痛みに、彼は思わず悲鳴を上げる。
悲鳴を聞いたハヤブサの手が、シュバルツをなだめるように、優しくその髪を撫でる。だが、ハヤブサの下半身は本能の命じるままに律動を始めてしまう。
「ああっ!! ああっ!! あ!! んぅっ!!」
ハヤブサに穿たれるままに、悲鳴を上げるしかないシュバルツ。
(感じて―――! 俺を、感じてくれ、シュバルツ……!)
ハヤブサの手が、愛撫に反応していたシュバルツの弱い所を撫でる。耳、頬、首筋、鎖骨、そして乳首――――。
「はあっ! ぅあ! あ……んっ!!」
悲鳴の中に、甘い響きが混じり始める。そうしてシュバルツが乱れるたびに――――ハヤブサを受け入れている秘所が、ハヤブサ自身を切なく締めつけてくる。
「……くっ……!」
持って行かれそうになるのをかろうじて堪える。ハヤブサは角度を変え姿勢を変え――――シュバルツを暴き立てていた。もっと感じて欲しくて。もっと―――乱れて欲しくて。
ああ―――。
シュバルツの肩口の傷が、もう。
消えてしまい、そうだ。
「シュバルツ……! シュバルツ……!」
夢中で名を呼び、微かに残る傷に口付けを落とす。
忘れない。
忘れたくない。
あの瞬間のシュバルツは、確かに、俺だけの物だったから――――。
「ハヤブサ……!」
切ない声で名を呼ぶシュバルツが、縋るように手を伸ばしてくる。
どうして、ハヤブサ。
どうして――――。
どうしてハヤブサは、自分なんかに愛を囁くのだろう。
どうして、こんなにも求めてくるのだろう。
分からない。
どうして。
どうして――――?
「…………ッ!」
シュバルツの縋りつく手が、ハヤブサの身体に触れた瞬間、彼の律動がさらに熱を帯び、激しいものになった。
愛おしい。
なんて、愛おしいのだろう。
こんな愛しい存在を、他に知らない。
「愛してる……シュバルツ……!」
「あ……! あっ……!」
愛を囁く言葉に、愛おしいヒトからはっきりと帰ってくる言葉は無い。
だがハヤブサは、それでもいいと思った。
愛おしいヒトが側にいて、自分の事を受け入れてくれる。それ以上――――何を望むと言うのだろう。
「駄…! ハヤブサ……ッ!」
容赦なくシュバルツの最奥を穿つハヤブサの熱。それが必要以上に熱いのは、おそらく彼の激しい情熱のせいばかりではないだろう。
(『毒』の熱が……! ハヤブサッ……!)
彼を止めなければ、と、僅かに残された理性が、シュバルツに訴えてくる。
だが彼がそれをしようと、ハヤブサの名を呼び、彼の身体に手が触れるたびに―――――ハヤブサの激情を、逆に煽っていくばかりで。
「はあああん! 駄目っ! 駄目ぇッ!!」
後ろから貫かれ、前をしごかれ、胸を弄られる。その強すぎる3方向からの刺激に―――シュバルツの方も、もう何も考えられなくなってしまう。
胸を弄っていた手が、首から顎に上がって来て、強引に横を向かされた。すぐそこにハヤブサの顔があった。口付けを求められていると悟る。
「く……ん……っ! んんぅぅ……!」
どちらからともなく、舌を伸ばし、絡めあう。
上と下から、激情の水音が、響いた。その間にも、穿たれ続ける秘所。刺激され続けるシュバルツ自身。集まって来る熱い疼きが、シュバルツ自身から先走りを溢れさせ――――パタっ、パタっと、音を立てて、床に染みを作っていく。
「シュバルツ…ッ!」
「は! あ……ッ!!」
強引に前を向かされ、深く貫かれ、強く抱きしめられる。
ああ。
もう何も考えられない。
壊れる。
壊れてしまう――――!
「シュバルツ!!」
消えたと思っていた肩口の傷が、上気した肌の間からうっすらと現れる。最後の名残なのだとハヤブサは悟った。
「シュバルツ!! シュバルツ!!」
狂ったように己を叩きつけながら、傷に口付けを落とし続ける。
「ああっ!! ああっ!! 私、は……! もう……ッ!」
震えながら一層強く、一層甘くハヤブサ自身を締め付けたシュバルツの秘所が、彼の限界をハヤブサに訴えた。
「シュバルツ――――一緒に……ッ!!」
「うあ……ッ! あああぁ―――――ッ!!」
突き抜けるような激しい快感と共に、二人は同時に果てた。
意識を失う直前、優しい口付けをかわした様な気がする。でも、よく覚えていない。
(ハヤブサ……)
覚えているのは。
愛しいヒトが陶然と自分の名を呼ぶ
優しい『声』だけだった―――――。
身体の上に重みを感じて、シュバルツは意識を取り戻す。目を開けると、ハヤブサが自分の上に力無く横たわっている姿が飛び込んできた。
「ハヤブサ!?」
慌てて飛び起きて呼び掛けてみるが――――ハヤブサは僅かに身じろいだだけだった。身体に触れると、恐ろしく高い熱が出ているとシュバルツは悟る。『毒』の症状が、完全にぶり返してしまっていた。
「ああもう! 治っていないのに無茶をするから――――あっ……!」
シュバルツが体勢を変えると、彼からハヤブサの精が溢れ出てくる。その独特な感触に、シュバルツは思わず身震いしてしまう。
(馬鹿っ! 出し過ぎだ…!)
後から後から流れ出てくるそれに、シュバルツは思わず赤面してしまう。でも、ハヤブサの事ばかりを責められない。自分だってハヤブサの激情に流されるままに、彼を受け入れてしまったのだから。
「…………」
しばらく待って、それがもう流れ出て来ない事をシュバルツは確認してから、彼は立ち上がった。
何か着る物は、と、探すシュバルツの視界の端に、きちんと折りたたまれた着物が二つ置いてあるのが飛び込んでくる。
(置いてくれたのは与助だろうか? ……しかしこれで、完全に誤解が誤解で無くなってしまったよなぁ)
着物に袖を通しながら、シュバルツはもう苦笑するしかない。これで自分は、里にいる間は完全に『ハヤブサの恋人』と言う扱いに、なってしまうのだろう。ハヤブサは喜ぶだろうけど―――複雑だ。本当にそれで、いいのだろうか? 自分みたいな――――。
「…………!」
シュバルツは頭を振って、湧きあがりそうになった暗い考えを振り払う。
(さあ、立ち上がろう)
壊滅的な被害を受けた隼の里は、これからが大変だ。きっと自分が出来ること、やらねばならないこと――――たくさんあるはずなのだから。立ち止まっている暇は無い、と、感じる。
シュバルツはハヤブサの身体を着物でくるむと抱え上げ、廃屋の中から外へと一歩、足を踏み出していた。優しい光の降り注ぐ、午後の陽ざしの中へと――――。
ご愛読、ありがとうございました。
美しいヒト 番外編
書き終わりました! ありがとうございます。
ここだけ読んでくださっている方も、ありがとうございます!
書き終わって思ったことは「……あれ? これ、本編にさしこんでも別に問題はなかったかな?」です。
もう少し最後がギャグっぽくなるかな、とも思っていたのですが、意外にもきれいにまとまってくれたので……。
でも、スルーしても別に問題はないですよね(苦笑)。
このエピソードを『美しいヒト』に組み込むかどうかは、貴方のお好みにお任せいたします。
では、また何か書かせていただきましたらば、こちらにこっそり投稿させていただきます。
またよろしくお願いいたします。