星降るよるに

トマス・ハートフィールド 作

俵屋 宗佑 訳

星降るよるに
  1. 十一
  2. 十二
  3. 十三
  4. 十四
  5. 十五
  6. 十六
  7. 十七
  8. 十八
  9. 十九
  10. 二十
  11. 二十一
  12. 二十二
  13. 二十三
  14. 二十四
  15. 二十五
  16. 二十六
  17. 二十七
  18. 二十八
  19. 二十九
  20. 三十

リチャード・ブローティガンに

海沿いの小さな 小さな町に
ひとりの若者が住んでいました
名前を アンディーといいました
アンディーは 丘の上に建つ
古い三角屋根の家に
黒ねこのルウと 一緒に暮らしていました

アンディーは 建築士でした
建築士としての腕は まだ未熟でしたが
それでも アンディーのつくった家は
あたたかくて丈夫な家だと
町のみんなから 評判でした

ある冬のことです
アンディーは トランジスタラジオを つけながら
もくもくと 仕事にはげんでいました
となりでは ルウが気持ち良さげに
すうすうと 寝ています
夜も更けた ちょうどそのころ
アンディーは 疲れをとるため
少しのあいだ 休憩することにしました
鉛筆を机に置いて 大きく背伸びをすると
アンディーは ストーブの上に置かれた
ヤカンを手にとり 台所へと向かいました

アンディーが いれたてのコーヒーを
カップに 注ごうとすると
突然 部屋の中が 真っ暗になり
がしゃーん
と ものすごい音が 聞こえてきました
ほどなく 物音におどろいたルウが 
大慌てで アンディーの元へ
飛んできました

どうやら 物音は 仕事部屋からのようです
アンディーは ぶるぶると
ふるえるルウを みて
「うんとこわい泥棒が入ったのかもしれない」
と 怖くなってきました
けれど 真相を知りたいと思い
部屋に行く 決心をしました
アンディーは 懐中電灯を見つけ
なべぶたを手にすると
そろりそろりと
仕事部屋へ 向かいました

ドアが ぴったりと閉まっています
アンディーは びくびくしながら
ドアに耳をあて なかの様子を
うかがいました
けれど
アンディーの耳に 聞こえてきたのは
つめたい 風の音だけでした
――よしっ! 
アンディーは 意をけっすと
部屋のドアを 開けました

部屋は しんと静まりかえっています
「なんだ、だ、誰もいないじゃないか」
アンディーは ほっと胸をなでおろしました
部屋をみわたすと 部屋のあちこちに
ガラスの破片が 散らばっています
みると 床の上に 大きな石がころがっていました
「なるほど、これが原因だな。
こわがらなくていいよ、ルウ。
天井の窓ガラスが割れたんだよ、ほら」
アンディーは そう説明すると
ふるえるルウを 近くに呼びました
「でも……」
アンディーは 思いました
「でもどうして、石なんか降ってきたんだろう?」

ひと安心した ルウが
おすまし顔で 歩きます
〈べつに、こわくなんてなかったよ〉
何事もなかったように ふるまう
ルウの姿が アンディーは 可笑しくて
たまりませんでした
「さて、割れたガラスの片付けをしなくちゃね」
アンディーは ほうきを手に取ると
暗がりのなか そうじをはじめました

いぜん 部屋のあかりはつきません
「おかしいな」
アンディーが あれこれ
考えごとをしていると
何やら ルウが
部屋のすみで さけんでいます
「どうしたの、ルウ」
アンディーが 近くに寄ると
大きな石が 宙にうかんでいました
「いったい、何が起きたんだ」
アンディーは おどろきながら
ルウを 抱き寄せました

突然 石が ぴかーっと
かがやき はじめました
おどろいた ルウが胸もとで
あばれます
「ルウ! 落ち着いて」
眩しさから アンディーは
ぎゅっと 目をつむりました
固く閉じた 目ぶたから
どんどん どんどん と
光が 強くなるのを 感じました

十一

ほどなくして 光が収まりました
アンディーは 慣れない目で
あたりを 見渡しましたが
いつもと 変わらない
見慣れた 仕事部屋が ありました
アンディーが 目を しばしばさせながら
呆気に とらえていると
ふと どこからか
声が 聞こえてきます
「ねえ、ルウ。いまなにか言った?」
アンディーが ふっと振りかえると
小さな 男の子が
じっと 立っていました

十二

男の子は ぼんやりと
かがやいていました
「き、君はだれ? どこから入ってきたの?」
アンディーが あわてふためきます
「ぼくの なまえは パピ とおく
とおくの ほしから やってきました
えんそくの とちゅうで みんなと
はぐれて しまって あなたの おうちに
おっこちて しまい ました
おどろ かして ごめん なさい
びっくり すると その ひかって しまって ……」
アンディーは 事態がのみこめずにいます
「つ、つまり、その、う、宇宙人で、
石からきたキミは、パピ?」
アンディーは すっかり
頭の中が こんがらがっていました

十三

アンディーは 気を落ち着けるため
ゆっくりと 深呼吸をしました
平静を とりもどした
アンディーは パピにたずねます
「それは大変だったね。けがはない?」
アンディーが 声をかけると
パピが 照れながら言いました
「はい だいじょうぶ です 
まどを こわして しまって ごめんなさい」
アンディーは 笑いながら答えました
「気にしないで、
ものはいずれこわれるから。
また、直せばいいよ。
それよりも、自己紹介がまだだったね。
僕の名前は、アンディー、
こっちは、相棒のルウ。
よろしく、パピ」
パピは 嬉しそうに笑うと
二人に 挨拶をしました
「よろしく あんでぃー よろしく るう」
みんな 楽しそうに笑いました

十四

すっかりと 夜も更けてまいりました
「そうだ、お客さんにお茶を出さなくちゃ。おいで、ルウ」
アンディーが 相棒のルウを 台所へ連れ出します
「ぼ ぼくも いっしょに いって いいかな?」
パピが 恥ずかしそうに言いました
「もちろんだよ! パピもおいでよ」
アンディーが にこにこしながら答えると
三人は仲良く 台所に行きました

十五

くすんだ 銀のミルクパンに
牛乳が 注がれていきます
「それは なに?」
パピが 不思議そうにたずねました
「牛乳だよ。牛のおっぱいから出来ているんだ。
栄養満点で、とっても美味しいよ。パピの故郷にはないの?」
アンディーが パピにたずねます
「ない みたこと ない たのしみ だな」
パピが 嬉しそうに言いました
「今温めているから、もうしばらく待ってね」
アンディーが 牛乳を温めていると
足もとで ルウが 牛乳をねだりいました
「わかったよ、ルウ。はい、ルウはこっちの特製牛乳ね」
アンディーが 平べったいお皿に
ルウ用の牛乳を注ぐと ルウが
美味しそうに ぺろぺろと 牛乳を飲みました

十六

ミルクパンから
美味しそうな 白い湯気がたちました
「温まったみたいだね。
さあさあ、僕が牛乳を持って行くから、
二人は、先に部屋に行っていて下さい」
「うん わかった ありがと あんでぃー」
アンディーは 二人をうながすと
温かい牛乳を みどり色のマグカップへ注ぎ
仕事部屋へ 運びました

十七

「お待たせ、パピ」
温かな牛乳が
マグカップいっぱいに 注がれています
「わあ うれしいな ぼく はじめて
だよ ぎゅうにゅう って いただきます」
パピが 嬉しそうに 牛乳を飲むと
パピのからだが きんきんと光りました
「ど、どうしたの、パピ!」
びっくりしたルウが 体をひるがえしました
「すっごく おいしいね これ
びっくり して ひかっちゃった」
照れながら パピが言いました
「あじは みるきーうぇいに にている かな?
けど こっちの ほうが もっと おいしい!」
「よかった、僕も気に入ってもらえて嬉しいよ」
アンディーが
大きなガラスのびんを 持ってきました
はちみつのびん でした
「これを入れるともっと美味しいよ。
溶けにくいと思うから、大きくかき回してみてよ」
アンディーが 小さなスプーンを
パピに 手わたしました
「うん わかった ちょっと いれて みるね ……
うわ! びっくり すごく すごく おいしいよ」
あまりの美味しさに おどろいたパピが
はげしく きんきんと ひかりました
ルウが またまた おどろいて
ピョンと 跳びはねます
「ごめんね るう」
パピが 恥ずかしそうに言いました
〈まったく びっくりさせてくれるな〉 と
ルウが ぷっくらと ふくれました
それを見た みんなは
大きな声をあげて 楽しく笑いました

十八

「さてさて、部屋を片付けなくちゃ。それにしても、
今日は星がやけに多いな。あの大きい星なんて、
ピカピカと、ひかっちゃって」
アンディーが 天井の窓わくから
星を 眺めて言いました
「あっ! せんせいだ ぼくを さがして いるみたい
なに なに おおきな やまの ちょうじょう で ……」
パピが 何やらぼそぼそと つぶやいていました
「ねえ あんでぃー この あたりで
おおきな やまって ある?」
パピが アンディーに 質問します
「おおきなやま? そうだな、町外れのとんがり山かな?」
「ねえ ぼくを そこへ つれて いって くれない?
みんなと あえそう なんだ せんせいが
ぼくに めっせーじを くれたんだ」
「そうなの? それなら僕に任せてよ!」
アンディーが 胸をはりながら
自信満々に 答えました
〈おやおや はりきっちゃって〉 と
ルウが くすくすと 笑います
「なんだよ、ルウ! わ、笑うなよ!」
アンディーが 照れくさそうに言いました

十九

待ち合わせの 時刻まで
どうやら 時間があるようです
「せんせい たちと あうには まだ
はやい みたい もうちょっと さき だって」
パピが 星をながめて 言いました
「それなら、車で町へドライブに行かない?」
アンディーが パピに 提案をしました
「どら いぶ? くるまって なに?」
パピが 不思議そうに言いました
「車輪がついた大きな箱にのって、そいつで町を探検するんだ」
「なんだか わからない けど たのしそう
うん ぼく たんけん すきだよ」
パピが 元気よく答えました
「じゃあ、決まりだね。準備をするから待ってね」
「うん わかった」
パピが 心よく返事をすると
アンディーは 準備に取りかかりました

二十

「お財布に、運転免許証、
それにダッフル・コートと、手袋と……」
アンディーが もぞもぞと
出かけるための 準備に取りかかっていました
「あれ、おかしいな? 見当たらない。
ねえ、ルウ、懐中電灯を持って来てよ」
アンディーが 頭をかきながら言いました
「よしよし、明るくなった。ありがと、ルウ」
アンディがふりかえると パピが
宙にういて 光を照らしていました
ルウが ストーブの横で
大きなあくびを しています
「なにか みつから ないの?」
体をひからせて パピが言いました
「ありがとう、パピ、助かったよ。
車のカギが見当たらなかったんだ、
これで見つかったよ。ありがとう」
「よかった」
パピが にっこりと笑いました
「よし、これでもう出かけられるぞ! 
そうだ、何か温かい飲みものを持っていこう!
パピは、何が飲みたい?」
アンディーが 質問すると
パピが 嬉しそうに 大きな声で答えました
「ぎゅうにゅう! もちろん
はちみつが たっぷりの やつね!」
「オーケー!」
アンディーが 笑顔で答えました

二十一

大きな布ぶくろを 肩にかけて
アンディーが 家から出てきました
「あれ るうは? るうは いかないの?」
パピが アンディーにたずねます
「ルウも一緒だよ、なぁ、ルウ」
布のふくろから ルウが顔をだして
ここだよ! と 鳴きました
「あ るうだ!」
パピが にこにこして言います
「さて、これで準備万端だ!
パピ、これでこれからドライブするんだよ」
アンディーが 指さした先には
古めかしい 小さな自動車がありました。
「うわぁ これが くるま? かっこ いいなぁ!」
パピが 車に目を奪われながら 言いました
「もうおじいさんだけどね。
古いものをゆずってもらって直したんだ」
「そう なんだ あんでぃーって すごいね」
アンディーが 照れくさそうに笑います
「さぁさぁ、みんな乗ったのった」
アンディーが 車のドアを開けて
パピを エスコートします
運転席にすわり 車のキーをひねると
ブオン! ぶるるるる! と
車が 音をたてて 動きました。
車のヘッドライトが 灯ると
暗がりに ひと筋の道ができました
「わぁ すごい なぁ くるまも
ぼく みたいに ひかるんだ ね」
パピがしきりに 感心しています
「さぁ、みんなで夜の町へ出発だ」
アンディーが にこにしながら言いました
三人は 町を目指しました

二十二

町の中心に 近づくにつれて
窓の外が 明るくなってきました
広告の看板や コンビニエンスストア
24時間営業のファーストフードのお店 などが
きらきらと ひかっています
「うわー すごいな ほうせき みたい
そらの うえから でも きれい だったけど
ちかくで みると もっと きれい だな」
パピが 窓の外を見つめながら 言いました
「僕にとっては、ただの夜の町だけど、
パピには、まるで宝石箱のように見えるんだね」
「うん とっても きれいだよ ぼくが すむ まちには
こんな けしき ないもの ただ ほしが あるだけ だから」
「そうなんだ、僕は星のかがやきの方が好きだな。あ……」
どうやら アンディーが 何かひらめいたようです
「そうだ、ピザを食べない?
仕事につききりで、まだ何も食べてないんだ」
「ぴざ? ぴざって なあに?」
パピが 不思議そうに言いました
「ピザっていうのはね、丸い円ばんの上に、
美味しいものが、たくさんのったスペシャルフードなんだ」
「え おいしい ものが いっぱい! ぎゅうにゅうも!」
パピが 目をかがやかせて言いました
「牛乳はのってないね。でも、そうだね、
牛乳より美味しいかもね!」
アンディーが パピに説明すると
パピの体が ぴかぴかと かがやきました
「うん ぼく ぴざ たべたい いこう
いこうよ あんでぃー ぴざ たべよう!」
「オーケー。ルウも食べるだろ?」
ルウが 手みじかに しっぽで挨拶をすませます
「よし、これで決まりだね。ピザ屋さんに出発だ!」
アンディーが ピザ屋さんに向けて 車を走らせました

二十三

昼間と変わらずに ピザ屋さんが
明るくてきぱきと 働いています
「いらっしゃいませ」
どこからか 声が聞こえてきました
アンディーは 車の窓を下げると
マイクに向かって 注文をしました
「ピザ・マルゲリータのMサイズをひとつお願いします」
「かしこまりました、それでは前に進んでお待ちください」
女の人の声で アナウンスが 聞こえました
「ねえ アンディー だれ と おはなし している の?」
パピが しんみょうな面持ちで たずねます
「お店の人だよ。マイクを使うと、
お店の中にいる人とおはなしができるんだ。
たとえ、遠くに離れていてもね」
「すごい ね! じゃあ ぼくが ほしに
もどって も まいくを つかえば
あんでぃーたち と おしゃべり できる だ!」
パピが 嬉しそう言いました
「うーん、あまりにも遠いとむずかしいかな?」
「そう なんだ …… ざんねん ……」
パピは 本当に残念そうでした
「でも、いつかきっと、そういうマイクもできると思うよ」
アンディーが パピを励ますと
そうかな? と パピは 少しだけうれしくなりました
「お待たせしました、ご注文の品です」
アンディーが 車を前に進めると
お店の人 が待っていました。
「なんだか いい においが する」
パピが 鼻をくんくんさせながら 言いました
「ここからとんがり山まで近いから、
山の頂上でピザを食べながら、みんなを待とうか?」
アンディーが 提案すると
パピが元気よく うん! と返事をしました

二十四

長く曲がりくねった 林道をぬけると
三人は 山の頂上にたどり着きました
頂上には 大きな鉄塔があります
先ほどまでいた町が
小さく きらきらと見えました
遠くの方に 暗い夜の海が見えます
「昼間なら僕の住む家が見えるかもね。
ほら、あのあたりに」
アンディーが 指をさして言いました
「うーん なにも みえない ね ねえ
あれは なに? あの くるくる まわって いる の」
パピが 指をさした先に 灯台が見えました
灯台は 光を照らしながら ゆっくりと回っていました
「あれは灯台といって、船が迷わないように、
光を照らしているんだ。
船乗りにとって、灯台は大切なものなんだよ」
「へえ あんでぃー は ものしり なんだ ね」
アンディーは えへへと照れました
「さぁ、寒いから車の中で、ピザを食べて待とう」
アンディーたちは 暖房をつけると
車の中で パピの友だちを待ちました

二十五

車のエンジン音 と雑ざり
ラジオから 懐かしい音楽が 聴こえてきます
「さぁさぁ、お待たせのピザだよ!
ちょっとだけ冷えたかもしれないけど、召し上がれ」
アンディーが 大きな箱のふたを開けると
あつあつの ピザがありました。
「うわあ おおきい なぁ おいしそう」
匂いにつられて ルウが起きあがりました
「あ、ルウのやつさっきまで寝てたのに、調子良いんだから」
アンディーとパピが 笑います
「熱いから気をつけて食べてね。
これをちぎって食べるだよ、ほら、こういうふうに」
アンディーは ピザを一切れちぎると
口の中へ そのまま放りこみました
パピが その様子を うっとり眺めています
「いただ きます」
パピが アンディーのまねをして
ピザを一切れ 口にほおばると
次の瞬間 車の中が 真昼のように
ぶわーっと 光かがやきました。
突然のことに おどろいたルウが
爪をたてて 車の中であばれ
アンディーが 驚きのあまり よろけて
車のクラクションを プゥーッ と鳴らしました
アンディーとルウが きょとんとする中
申し訳なさそうに 光が小さくなっていきます
パピが 小さな声で ごめん と言うと
三人は 大きな声で笑いました

二十六

「とっても おいしい ね ぴざって ぼく
おどろいた ああ こきょうに もって かえり たいな」
パピが 胸をはずませて 言いました
「気に入ってもらえて嬉しいよ。さ、どんどん食べていいからね」
みんなで わいわいおしゃべりをしていると
鉄塔の上が ぼんやりと 明るくなりはじめました
「なんだろう?」
アンディーが 不思議に思い 車から降ります
光は だんだん だんだんと 強くなっていき
とんがり山の頂上を すっかりと おおいかくしました
光は 不思議と眩しく ありませんでした
「あ! みんなだ みんなが きてくれ たんだ」
パピは 嬉しさのあまり 窓ガラスがあることを忘れて
頭を ごおんと ガラスにぶつけてしまいました
「パピ、慌てなくても大丈夫だよ、待ってね」
アンディーが 後部座席の ドアを開けました
「まったく信じられないな」
アンディーが あっけにとられていると
光の中から 何かが こちらへ近づいてきました

二十七

「あ! せんせい!」
パピが 光のもとへ 駈けていきます
「やはり君か? いやいや全くみんなに迷惑かけよって、
だいたい、君という子はねえ……」
ヒゲのはえた男が 何やら
ぶつぶつと 文句を言っていました。
「あのー」
申し訳なさそうに アンディーが声をかけました
「おや、こちらの御仁は?」
「あんでぃー だよ せんせい このひとに
ぼく たすけて もらったんだ よ」
男が アンディーに
深々と お辞儀をして 言いました
「はじめまして、ミスター・アンディー。
私はこの子の教師のフェイトンと申します。
この度、パピがとんだご迷惑をおかけしてしまい、
申し訳ありません。この子ときたら、
まあ、遠足の途中、いきなり飛び出してしまって……」
フェイトン先生が ことの経緯を
アンディーに 説明しました
「そうだったんですか。
僕もルウもけがはありませんでしたし、
パピくんもけががなくて良かったです」
ルウが 平気だよ といった具合に
にゃあと 挨拶をしました
「いや、優しいお方で良かった。
ほら、パピからもお礼を言いなさい」
フェイトン先生がうながすと パピが
「ありがとう あんでぃー ありがとう るう」
と 嬉しそうに お礼をしました

二十八

「お礼といっては何ですが……」
フェイトン先生が アンディーに 話しかけます
「この度、私たちの学校で学芸会がありまして、
そこでダンスを披露するのですが、よろしければ、
ぜひおふた方に見ていただきたいのですが……」
「本当ですか、嬉しいな」
アンディーは 喜んで 申し出に答えました
「それでは、みんな準備にとりかかりなさい」
「はーい」
フェイトン先生が 合図をすると
小さな星のきらめきが 冬の夜空に
舞い踊りました
キラキラ チカチカ ピカピカ
それは 見事なものでした
「ねえ あんでぃーたち も おどろう よ それ!」
パピが アンディーに告げると
アンディーとルウが 宙に浮かびました
いったい何事だ! と ルウが
じたばたと 手足を動かしました
「ははは、こいつはすごいや」
アンディーは 笑いながら つぶやきました
楽しい時間は あっという間に
過ぎていくのでした

二十九

東の空が 白んできました
じきに 夜が明けようと していました
「さて、そろそろおふた方ともお別れをせねばならないな」
フェイトン先生が パピに言いました
パピは 寂しさのあまり 目から
涙が こぼれました
「ねえ あんでぃー ねえ るう
ぼく たちと いっしょに いこう」
パピが泣きながら 二人を誘うと
アンディーは 少し悩んでから
次のように 答えました
「パピと別れるのは僕も辛いよ、とても寂しい。
でもね、僕には家を設計する大切な仕事があるんだ。
それを放ってはおけないよ。誘ってくれてありがとう」
ルウが アンディーを じっと見つめていました
パピが ぐっと涙をこらえて 言いました
「まいとし この じきに なったら
ふたりに あいに くるから
そしたら あんでぃー るう
あそぼう やくそく だよ」
「ああ、約束だ」
三人は 固く指切りをしました
「ねえ あんでぃー」
「ん? なんだい」
「あんでぃー に これを わたして おく ね」
パピはそう言うと ズボンのポケットから
小さな石を 取り出しました
石は きらきらと かがやいています
「この いしは ぼくが ちかづくと ひかるんだ
だから この いしが ひかったら それは
ぼくが ちかくに いるって こと なんだ
この いしを たよりに また あおう ね」
アンディーは パピを ぎゅっと
抱きしめて 言いました
「分かった、約束だ。また、会おう」
アンディーとルウは 去り行く
光の固まりを 眺めました

三十

その日 アンディーとルウが 住む
ふたご町で 観測史上最大の
流れ星が 記録されました

(了)

星降るよるに

この作品は二○一三年八月に麦馬社より発表されました。

星降るよるに

海沿いの小さな町に住む、アンディー青年と小さな来訪者との心の交流を描いた作品。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 児童向け
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登録日

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著作権法内での利用のみを許可します。

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