掌編恋愛小説6「翼のない僕」
翼のない僕
夢を見た。
夢を見る夢だった。
つまり、夢の中で夢を見たのだ。
メタ夢。
メタ夢の中で出会った少女が僕に言った。
「あなたの翼、なかなか素敵じゃない」
彼女は僕の翼を優しく撫でながら、無表情のまま、じっと僕の眼を見つめていた。
「虹みたいに輝いてるわ。ほら、ここ。ね?」
その声はガラスのように透き通り、青空に溶けて消えた。か細い指先は僕の翼に触れている。柔らかい温もりが羽先に流れる血を媒体とし、全身へと滲み渡っていく。
彼女の鼓動と僕の鼓動が共振していた。
「怖がらないで。あなたは飛べるのよ。あの虹を超えて、飛べるの」
「何処へ? 僕は何処へ飛べばいいの?」
「どこって、そりゃ・・・・・・あたしたちの、帰るべき場所に」
そう言うと彼女は、僕の羽を一枚だけもぎ取って虹に向かって投げた。羽は太陽の方から吹く風に乗ってふわふわと虹を超え、僕たちの視線から消える寸前に、パッと鮮明な輝きを放った。
「あっ」
僕の身体が中に浮いた。風は柔らかく僕を包み込み、ちょうど体温と同じくらいの生温いお湯につかった時の感覚と、何も感じることの出来ない宇宙にいるような、そんな感覚と無感覚の間を漂っているかのようだった。
「飛べるって言ったでしょ。さぁ行きましょう」
「どこへ?」
「虹の向こうへ」
太陽が消え、闇が拡がっていく。
「宇宙?」
七色の向こうには、黒ばかりが延々と広がっている。
「虹の向こう。世界の果てのことよ」
「僕はそんなところに行きたくない。怖いよ」
闇の中に一滴の光が落ち、波紋が波打って細かな光を空に鏤めていく。
「あたしが一緒でも?」
彼女は優しく微笑んだ。
木漏れ日のような微笑は僕の心の中でチラチラと煌いていた。
「そうか、僕。君が一緒にいるから飛べるんだね。・・・・・・ありがとう」
彼女は恥ずかしそうに笑った。
そこで僕は眼が覚めた。
と、言ってもまだ夢だ。
翼はなかった。
もう飛べない。
飛べない。
彼女がいないからだ。
そうだ、彼女がいないのならば、僕はもう飛べないのだ。
飛べない、これが意味すること、それは、僕は、もう、大地に縛り続けられるだけってこと。
僕は彼女がまた欲しい。
彼女がそばにいれば・・・・・・。
そこで僕は目が覚めた。
そう、これが現実だ。
彼女がいようが、いなかろうが、僕は飛べない。
飛べなくても僕は生きなきゃならない。
なぜ?
理由なんてない。
ただ、生きるのだ。
僕は今でも彼女を愛している。
掌編恋愛小説6「翼のない僕」
なんだか悲しい気持ちを、そのまま小説として描いた。
永遠なんてないね。
飛べるはずないね。
自由なんてないね。
それでも泣かないよ?
さぁ、生きようじゃないか。
という気持ちで書きました。・・・・・・(?)