魔玄岳の魔導師
魔玄岳と呼ばれる山がある。ただ、地図では別の名になっている。つまり魔玄岳は通称なのだ。その山の腰に、いかがわしい建物がある。異国の寺院で、この地方の様式ではない。
そこに何人かの弟子と共に魔導師が住んでいる。その名はよく知られていることから、訪ねる人も多い。
清武もその一人で、魔玄岳、魔玄堂の魔導師に会いに来た。入門するためだ。
「また、迷い込んだ人が来ました」弟子が伝える。
「そうか、困ったものじゃ」魔導師は眉をしかめるが、慣れたことらしい。
「魔法を覚えたいのですが」清武は真っ先にその用を言う。
「誤解があるようじゃが」
「あなたは魔導師でしょ」
「いかにも」
「それに多くの門弟がいます。私にも魔法を伝授してください」
「そのようなことはやっておらんのですが」
「あなたは魔玄岳の魔導師ではないのですか」
「その名の通りで、間違いはないが、ここは魔法を教える場所ではない」
「では、あなたは何なのですか」
「魔へ導く者じゃ。それ故、危ないから、ここには近付かん方がよい」
「魔とは何ですか」
「世間では魔界と呼んでおる」
「魔界?」
「だから、魔法使い養成所ではない」
「では、ここで何をなされているのですか」
「魔界を探しておる。弟子と一緒にな、この山で。魔界へ導く者、連れて行く者、誘う者、それが魔導師じゃ」
「それで、魔界は見つかったのですか」
「見つかっておれば、こんな山にはおらぬ」
「魔界とは魔法の国ですか」
「そんな国があるなら、オリンピックで全ての金を取るだろう」
「分かりました。勘違いしていました」
「よくあることじゃ」
清武は仕方なく引き上げることにした。そのついでに魔玄堂を見学した。何人かの弟子たちの生活の場であり、研究の場でもあるらしい。
庭には円陣が刻まれている。何度も書き直したようだ。そのまま消さずに残っているものもある。また、石を並べた魔法陣もある。こういうものを研究する場らしいと、やっと分かった。
清武はそれを眺めながら、ここが魔界なのだと思った。
了
魔玄岳の魔導師