似た人
この世の中に自分と似たような人が他も三人はいると言われている。なぜ三人なのかは分からない。自分を含めると四人だ。
仮に一人なら、分身ではないかと思ってしまう。しかし三人なら、それはない。三人だと社会になる。社会を世間と言い換えれば、世の中には三人いるとなると、少し拡がりが出てくる。
高橋は残りの三人の中の一人を見る機会を得た。もう二人いるのだが、一人でもいいから似たような人間と出会うことは確率的には奇跡に近い。ただ、そっくりそのままではない。年齢は似ているが、顔の作りが若干違う。ただ雰囲気はそのままで、自分ではないかと驚いたほどだ。その前に何か嫌なものを見たような気になったのだが。それは服装も似ているためだ。好みまで近いのだろう。それがまず嫌な感じの理由でもある。
ただ、その人よりもさらに自分とよく似た人がいるかもしれない。つまり、今、目の前にいる人は次点のような人かもしれない。残りの三人は別におり、ほぼそっくりかもしれない。
似たようなショルダーバッグで、似たような帽子。体型も似ている。顔は高橋と同じように癖がある。決して美男子ではない。それを見ていると、この人もそれなりに苦労しているのだろうなと、我が身を見る思いだ。しかし、その人は自分ではない。そして、自分の方がましだと高橋は考える。
服装から経済力を多少は窺える。似た服装だと、似たような稼ぎしかないのだろう。今、目の前にいるその人は高橋と互角だ。勝っている部分はないかと目を凝らすが、バッグで負けている。しかし、相手はかなり使い込んだ鞄で、擦れや糸のほつれがある。高橋はそれよりも安い靴だが新品だ。
あとはほぼ互角。やはり似たような人は、似たような境遇で、似たような性格で、似たような仕事をしているのかもしれない。ただ、生まれ落ちた偶然はある。この場合、親も似ているとすれば、やはりとんでもない金持ちの家系にはなっていないかもしれない。
あるサービスカウンターから高橋はその人を見ていたのだが、近付いて来た。同じ用事かもしれない。そして、目が合った。
結果的には互いに不機嫌な顔になった。二人ともぞっとするほど嫌なもの、ゲンクソの悪いものを見たように。
了
似た人