ストレス

「ストレスを溜めるとよくないねえ。やることなすこと乱暴になる。それに胃も痛い」
　飲み屋での会話だ。
「君はどうだね。ストレス」
「ありますよ。仕事は溜まっていますし、その溜まり分、ストレス貯金に貢献しています」
「あまり、困っていないようだが」
「同じですよ課長と。食欲が非常にあったり、極端になくなったりとか。それに余計なもの衝動買いしたりも」
「それは気の毒だが、まあ、それを聞いて安心した。僕だけかもしれないと思ってね。同じ職場で、僕だけがストレスを溜めているのは、何だしね」
「え、何が、何なのですか」
「恥じゃないか。自己コントロールが出来ていない」
「ああ、でもそれは誰だってありますよ。まあ、それで普通ですよ」
「ところが、正木君なのだがね」
「正木さんがどうかしましたか」
「正木君はストレスが少なそうなんだが、あれは何だろうねえ」
「ああ、あれはですねえ」
「知っておるのかね」
「でも、正木さんの方法はちょっと……」
「どんな方法かね。まさか魔術でも使うんじゃ」
「そうじゃないですが」
「じゃ、どうなんだ」
「目的を持たないことでしょうか」
「ほう」
「成り行き任せなんですね。あの人。何をするにも中途半端で」
「じゃ、目的を達成出来なければ、ストレスになるだろう」
「達成する気が最初からないので、いいんじゃないですか」
「目的や、目標を持たないということかね」
「正木さん、確か課長と同期でしたね」
「ああ、まあな」
「正木さん、主任にも係長にもなっていません。それはリーダーショップはないし、責任感もないし、人望もありません。だから、ずっと平のままですよね」
「ストレスが少ない分、出世もしない。そういうことだね。引き替えたのかね」
「そんな考えはないと思いますよ。適当に仕事をやっているだけでしょ。仕事は良く出来ますよ。尊敬するときもあります。それによく知ってる」
「それだけ力があるのなら、もっと上で仕事をしたくならないのかな」
「だから、そういった先のこと、あまり考えていないようなんです」
「それが目的や目標がないって、ことか」
「その場その場ではあるんでしょうが、そこは適当なんです」
「分かる。完璧主義では胃が持たん」
「課長も、適当にやればいいんですよ」
「その適当というのが一番難しいんだよ」
「そうですねえ」
「羨ましい。正木君が」
「はい」
「彼を見ていると、すごくストレスが溜まる」
「まあ、いいじゃないですか課長。こうしてここで発散すれば」
「そうだね。下手にストレスの少ないのを選ぶより、発散した方がいい」
「はい」
　
　　　了