玉ちゃんの華麗なる日々

基本休みなしで仕事をしている三児の母の玉緒さんは毎日楽しい日々を送っています。

玉ちゃんの華麗なる日々


登場人物紹介

田牧(たまき) 玉(たま)緒(お)………通称玉ちゃん 三児の母で独身
田牧(たまき) 茉莉(まり)………玉ちゃんの長女
田牧(たまき) ミカ………玉ちゃんの母 後家 ぼけたフリしてふらりとやっていて居座っている
田牧(たまき) 純(じゅん)………玉ちゃんの長男 高校二年生 僻地の高校で寮生活をしている(外界との隔離中)
田牧(たまき) 宗(そう)次郎(じろう)……玉ちゃんの次男 中学二年生 離島の中学で寮生活をしている(島流し中)
その他……………通りがかりの多彩なおっさん達


1、  50にして立つ

*********

「はい」
と、返事していた。
「毎日、1枚。一年で三六五枚」
書きますと、返事していた。
三六五枚…三六五日の方が良い。三六五日、外貨を稼ぎに行く。これが女の道。
ちなみに去年は三六十日。三者懇談に二日、1月3月8月に一日家族サービスのために休みを取った。その他は、二つの仕事場を往復した。今年は、もう一つ仕事を増やした。
週一回外泊、お泊り。宿直夜勤。

――――あんた、怪物――――

同僚達に言われても、私普通と答えている。

――――貴女は怪物だから一日一枚一年三六五枚書ける――――

と、皿屋敷のような口調でニート茉莉さんが言う。
主人公、玉ちゃん。五十歳にして一大決心をさせられた。

日々起こった日常を記録日記として残す。

*********



[課題」  ファンタジー、異種族姦、禁断、DV…。キャーだともっと良い

何だか分からない課題を言い渡されて、もちろんニート娘茉莉さんから…、パソコンに向かう玉ちゃんはしばらくボッーとしていた。
ちなみに玉ちゃん学生時代通知表に記された国語の記号は、アヒルマークのみです。
パソコンに向かい文字入力を必死で行なう玉ちゃんは、アルファベットとひらがなが整理出来ない自分を知っています。な行とま行は文字を唱えなければ文字変換が出来ないのです。それより、もっとすごいには文章の何処に点をつけて良いか分からない。それは何を指しているのと聞かれてもさっぱり分からない。それはそれを指している♡( ♥ᴗ♥ )♡
見かねた茉莉さんが豊満な胸を揺らし隣に座るとフンフンと頷く。
「だいぶ上達したね。なんか、面白いことあった」
「その乳揉み以外は何もない」
「それが、今日の出来事」
「その手つきを如何にリアルに文字に変換できるかが…問題」
「普通に書けばいいんだよ」
「あんたの普通と私の普通は雲天の差がある」
玉ちゃんはGカップ娘が我が乳を下から支えるように掴み上げフニュフニュと揉んでいる姿を見詰め左手を差し出した。その感触を味わう男の気持ちで広げた手が掴んだものに力を込めたが、男の気持ちに到達しなかった。それは、ただの肉の塊だ。ちなみに乳と変わらない出張を見せる下の肉の感触を楽しもうとしたが、同じ肉なのに指がそこを目指したと感じた巨体が太い声を張り上げて逃げ去っていった。
 玉ちゃん失望の心地を文章にかけない。
巨体の腹肉。その感触を確かめ日記に残したい。それから、おっさん腹を眼で追うようになった。

2  課題  キャーとはなんだ ?

本気な顔が、キャーならもっと良いと言った。キャーとはなんだ。笑いか?泣きか?もしかしたら下か?
そこへ行くなら、ただ今隔離中の高校生純君に行き着く。僻地高校寮に住む純。彼の住む寮名はなんとかと言う高名厳かな名が付いた寮だ。僻地に似合った川の畔に立つ二階建ての、台風地震豪雨が襲えば綺麗サッパリ消え失せていたと言えそうな場所に立つこの寮。男だけの隠棲の住処かと思えば華麗なるキャーである。
 日々看守の厳しい見回りと規則正しい日課としごきに近い部活が寮生を健全な好男子を作り上げていると玉ちゃん。とても満足して中間テストの赤点スレスレにニッコリ微笑み印鑑を押した。
 今日は閉寮にて純君、帰宅中。
 外貨を稼ぐ玉ちゃんは三六五日出勤を夢み、部屋にこもる純君の幸福の連休日課を知らない。しかしそれに気づくのに時間は掛からない。
夕食時、玉ちゃん・茉莉さん・純くん、楽しい会話が交わされた。聞こえているのか分からないミカさんを除いて…。
 話は高尚な名を持つ寮に戻ってキャーになる。名高く神聖な寮の一室には四角な宝箱があるらしい。真面目な寮生は真剣な眼差しで四角い画面を見詰め電源を入れる。四角い画面は明かりを灯し真面目な寮生のために画像を写す。
 話を聞く玉ちゃん。テレビかと思った。外界から遮断された真面目な寮生はテレビ鑑賞も集団で静かに見入っていると…。
なんと言うド田舎か――。
この玉ちゃんの家からおっさん運転で二時間くねった道を走り続けると,山の中に辿り着く。真面目な高校生に似合いの山間。
 就寝時間となった寮生は、毎夜の如く導かれる部屋の電源を切り部屋の電気を消し静かに閉めたドアに鍵を掛けた。
と、そのドアにはパソコンルームと書かれていると、いつもの様ににこやかな笑みを見せる純くんが言う。破顔の反対語が玉ちゃんの面に現れた。が、純くんは続ける。友だちとの会話を――――。

 「今日のは最高にオモロかったわ」
 「ブタの交尾。木の穴」
 「飛んでた。噴水だった‥。ボワッーと」
 
これを純君が茉莉さんと夕食に語る。これが今日のキャーの日記だ。

「豚は雌の匂いで発情するんだてえー」
と、付録の言葉を茉莉さんは口走る。

3 玉ちゃん、足指、ムズムズの日

前の日八時、家を車で出て帰って来たのが本日十六時十五分。
四食タダ飯ベッド付き長々楽々勤務。ついでにタダでシャワーまで借りてしまった。悪い事をすると付けが回ってくるというが、玄関で靴を脱いだ足が嫌にむずむすと違和感がある。何かを挟んでいるような鈍くなったような痒いようなそんな感触が靴から開放された指感に張り付いていた。
まさかまさかの脳裏が訴える。
タダ飯を厨房のエライさんに内緒で食った罰なのか。いやあれは玉ちゃんがお泊りの日の夕食が無いと知っている皆が共謀してやったことだ。悪いのは玉ちゃんでは無い。しかし翌日の昼食もついでに夕食まで平らげて帰ってきてしまった。そうだ。悪いのは玉ちゃんだ。食費を払っているのは施設に住む住人達なのに…。玉ちゃんの顔を見た賄いさん。何故に黙って食膳にお裾分けでは無い一人前を用意するの。
もしかして玉ちゃんて、怖い存在なのかしら。教えて――――。と叫んでいる場合ではありません。足の違和感。これは、ミカさんが飼っている虫ではなかろうかと脳裏の奥が回答を出した。

さて玉ちゃん。足に虫さんを飼う気はさらさら無い。ミカさんの足指に帰って頂くことにします。
まずは緑茶を一服いたします。急須にいつもよりも多めにお茶葉を入れてお湯を注ぐ。そして直ぐに冷水を少し足す。ここが肝心。お茶の葉は乾燥しているのが良い。湿っていてはいけない。あくまでも乾燥した茶の葉。ぬるめの湯とは言わない。熱めの湯でふやかし直ぐ冷やす。玉式茶道はいずれ話すこととして今は一服。
何事も落ち着きが大事です。一服では落ち着きがイマイチなので二服しました。夕食は食べてきたのでもう要りません。
三服目は急須に並々とお湯を注ぎそのまま手で持ち、洗面所か風呂場へと向かう。玉ちゃんは風呂へ向かった。手はまだ急須を持っている。
風呂場で洗面器を片手に取るとゆっくりと注ぐ。緑々した渋い渋い茶を注がれた洗面器を睨む瞳は真剣そのもの。
洗面器に両足を突っ込み、指の間をゴシゴシと洗い清めていく。これを三日続けると白癬君は何処かに消え去ってしまう。
これが玉ちゃん式抗白癬方法である。嘘だと思う者がいたら試しなさい。高校生の純君も将来のために忘れず覚えておきなさい。ちなみに緑茶は便秘にも効きます。濃い目の緑色のお茶を食後に飲みましょう。

3   玉、五六、五六、十五禁

眠い。五十才の誕生日を迎えた玉ちゃんは毎日とても疲れていた。
疲れた、の言葉は口に出さない。言うと本当に疲れるから……。
「今から帰る」
何故か娘に帰るコール。
「ケーキ、買って帰るの?」
「いや、何で」
「食べるかなと思って」

?心地の玉ちゃんは台所に向い声を上げる。
「夕食は何」
返事なし。料理番人、二階待機中。テーブルの上にカーネーション一本、リボン付き。
再び、声を張り上げる。
応答あり。

「今日は、ゴロゴロの日」
「ゴロゴロ…?」
「だから、ケーキ、食べるかなと思って」
今日は月曜日、五月の第一月曜日。玉ちゃん、確かに月曜に生まれたと父親の日記に記されていた。時間は二十二時頃。
「う~。もしかして、たま五六五六誕生日」
「違った。今日」
「私は、四月生まれ。復活祭」
「玉はやめて、長さにしよう。フランス人は二十二センチ。日本人は十二センチ。二位はイタリア…」
やはり、そっちへ行くかと渋面を見た茉莉さん。速やかに話題を変える。
「ノックの意味知ってる。二回叩くのはトイレに誰か入っているかと尋ねる合図」
まともな会話だと、玉ちゃんニッコリ。しかし―――。
「普通の訪問の時は、四回かな。三回叩いた男の子がいたんだって。しかも、男の部屋をだよ」
やはり、行き着く先は、そこ。
「男の部屋に知らずに合図した男の子。日本の話じゃないよ。その子、日本人だったのかな。日本人ならトイレと普通の部屋の区別なしに二回ノックするよね――。純ならやりかねない。ア・ナ・タに愛を捧げにきましたとノック」
と、そこへと突然顔を出した純くんが大きな声で言った。
「俺は嫌だ。仕方なくやってもいいが、やられるのはイヤだ」
大きく口を開けた玉ちゃんをよそに、兄弟二人のとてつもない会話が繰り広げられていった。
「出されたら最悪だよ。下痢したくない」
「プロタグランジン。そうだよ。一部には、のんだら下痢するんだてえー」
「ガハハハァ―」
これが姉弟の会話かと冷えた眼差しを送る玉ちゃんが言った。
「純。下痢したくてもトイレのドア、三回ノックだけはやめておきなさい」


本日の名言。間違っても、おっさんの部屋のドアを三回ノックしてはならない。

玉ちゃん  おっさんを目指す  ①


夜間、メールが届いた。それは玉ちゃんにとって、とてつもなく(・・・・・・)悲しい知らせだった。
―隔離された。
なんと言う事。玉ちゃんショックで倒れそうになった。(すでに寝ていたが――)

―三十九度。
―インフルエンザB。
学校から、担任から、電話が入った。
――直ぐに、とは言いませんが早く迎えに来てください――
――熱が高いので一人で放っては置けないので――

なんと可哀想な玉ちゃんでしょう。隔離された長男を迎えに片道最低二時間は掛かる山奥の山奥まで走らなければならない。フツ~の日の今日、土砂災害で復興中の山間はダンプとトラックで溢れている。これもギャーだ。ギャー以外の何物でもない。何故、何で、この温かき時期にインフルなの――――と叫んでも迎えに行かねばならない。

はっきり言って、玉ちゃんは運転が好きだ。曲がりくねった急カーブ、勾配の急な坂道、真っ直ぐなトンネル。確かに誰もが好きなコースだろう。夜間の車の少ない時間であれば――。

行きはヨイヨイ、帰りはイヤァーだ。
ダンプとトラックだけでは無かった。学校の寮を出発したのは四時前、六時までには帰り着きたい玉ちゃん。農免から県道に出ると急にスピードダウン。三台前が枯葉マーク。いや、もみじだったかな?と考えながら、標識五十が三十キロ走行となり十分経過。一台が抜いてくれた。一台は横に反れた。問題は、前の白色ボディー隣県ナンバー。短いトンネルが三つ続く見晴らし抜群の直線道路。抜き打ちを掛ける気配なし。絶景のこの場所でラーメンタイムも待てない玉ちゃん。前の車が女性であることを願い、踏むアクセルに力が入った。
二台抜き。百三十キロ突破。そのまま直線道路を谷川の入り組んだS字カーブまで走りぬけるつもりの玉ちゃんはギャーと声を上げた。
追い抜いた白ボディーの車が同じ速度で追いかけてきた。それも長―いトンネル走行中の車二台抜いた玉の車に遅れまいと付いて来ていた。
そんなアホな。あんたさっきまで、もみじの後をとろとろ走っていたでは無いか。あんたが邪魔で追い越す機会を狙って、何度もパッシングしていた玉の後ろに何で着く。
トラックの後ろに付いた玉ちゃんは悠久に続くのでは無いかと思うぐらいゆっくり曲がりくねった山間を楽しむようにハンドルを切る。
後ろのボックスシートには純君何も知らずに入眠中。
玉ちゃんの後ろを取った車を運転するは、やはりおっさんだった。さっきの走り見せな。他県のおっさんよ。と、思う玉ちゃんの前を走っていたトラック。自分の生き方を見出し貫きなさい、決して、女に追い越されるような運転をしてはいけないと強いオーラを放つワンボックスカーに合図を送ってきた。
トラック野郎ありがとう。あんたは礼儀を心得ている。
とてつもない運転を続け、帰り着いたのは予定到着時刻。(^O^)

ちなみにインフルエンザBに掛かった家族は純君一人。

玉ちゃん  おっさんになる  ②

某遊園地に遊びに行った。もちろん、家族サービス。
おみやげを買う。おみやげと言う言葉を思いつかない玉ちゃんは言われるままに茉莉さんの後ろについていく。

――美しい人は美しいものが好き――
店内には美しく輝くもので溢れ美しい人を招いていた。何も買う気なしの玉ちゃんそれでも整然と魅了する店内を見て回ると。

===手を触れないでください===

張り紙の下にも整然と並ぶは色板を貼り付けたような模様絵皿。一枚ウン万円。ウ~ンと唸って通り過ぎた。

――美しい人は美しいものが好き――
――それなりの人はそれなりのものが好き――
――それ以下の人は―――

安~い小物売場で友達への土産を選び終えた茉莉さんレジへと向かう。
ニート茉莉さん金はなし。財布を引き連れレジへ立ったが人気のなし。
インフォメーションにおっさんが一人ぽつんと立っていた。店内には美しい人が数名美しいものに魅入られていた。その中の一人を待っているのだと気に留めない玉ちゃん。

カウンターも美しい人を招くように整然と磨き抜かれ、小物が一つ置かれただけだ。

店員さん。色板皿の下にある引き出しを開け何かを一生懸命に探している様子。待つことの苦手な玉・茉莉さん。店員さんの様子を伺う玉ちゃん。順番を取る茉莉さんがレジスターの前に置いてある豪華に色を織り交ぜた絵皿を突き始めた。
フンフンといつもの鼻歌でじっくりと皿を覗き込む茉莉さん。何故か無動に立っていたおっさんが美しい絵皿に指紋を付けていく姿をじっと見ていた。
「これがウン万の皿なんて信じられん。あたしゃ買わん。こんなの買う人、どんなに使うんかな。唯の置物。鍋敷きだ。大きな鍋が乗るね~」
店内に響くでかい声で言う。美しく無い娘には不用の物だとおっさん心の玉ちゃんが囁き声を返す。
「壁掛けか、置物。でも、もらっても嬉しくない」
この二人の会話が聞こえたのか店員さんが、そそくさと返ってきた。だが、お待たせしましたと声を掛けたのは隣に唖然と立つおっさん。
「申し訳ございませんが、ただいま在庫を切らしておりましてこれ一点でございます。これをお包みいたしますので、もうしばらくお待ち下さい」
店員さん、そそくさとカウンターの下から箱を取り出した。そして土産のスプーンを三本握る茉莉さんの手が皿の上にその物を置く前に取り上げてしまった。

カウンターはゴミ一つ無い。店員さんの心のように白一色となった。茉莉さんはそこにスプーンを三本置いた。
玉ちゃんは財布から千円札一枚抜くと茉莉さんに握らせ踵を返すと軍隊歩きで出口へ向かった。出口ではミカさんと宗次郎くんが何を買ったのと声を掛けるが、聞こえないフリの玉ちゃんはそのまま行進を続けた。

玉ちゃん  おっさんになる ③


――静まり返る広大な大地に――

車のCDは流れる。
三百六十五日+α、外貨を稼ぎたい玉ちゃん。求人ニュース片手に夕方からのバイト探し。
ヒット。一件。早速携帯電話。
無謀運転はイカン、車を何処かに止めねばと、ウインカーを出し路地へ入る。しかし、そこは旧村へ続く田んぼの中、狭すぎる道路。
それでも携帯を切らないのが、玉根性。
喋りながらの片手運転。隣の助手席に座るノーテンキ娘の茉莉さんでも事の異常に気づいた。

ガタン――

当然の脱輪。
厳かに携帯を切った玉ちゃん。ジィ~と茉莉さんの顔を見る。そちらの方が重いから道路が保たなかったのよと言う顔付きが茉莉さんに注がれても、
「なんか。こっちの方が低くなったような気がするの」
と言う。
「ダイヤが重さに耐えかねた。イヤ、路肩が重さに耐えかねたのか・・・」
と言いつつ玉ちゃん、茉莉さんに降りよと手を振る。言われるままドアを開けた茉莉さんは、下りるに降りれな~い。何故かって。足を支える地面が無い。ドアの向こうにドアのコーマシャルのこの車、ここぞとばかりに後ろから出た茉莉さんの眼に、田んぼの畦道を駆けて来るおっさん達二人組が小さく写った。
さて平然と車から降りた玉ちゃんは、通行止めした車の後ろに心配そうに見入る婦女子を無視して脱輪したタイヤを見た。溝に落ちている。

何が起きても動じない玉ちゃん。
田んぼの畦道に何か落ちてはいないかと周りを見回し自転車婦女子の間にボォ~と立つ茉莉さんに手を振った。
「良い物があった」
農繁期にはまだ早い季節。田んぼに水は無いが水止の土のうが埋まっていた。道路の横の溝には欠けたブロックも落ちていた。
落ち込んだタイヤの下に玉ちゃんの芸術作品が、時間を掛けずに出来上がった。丁寧に積み上げ角度を確かめた玉ちゃん。
後始末はお前の仕事と言い残し、婦女子の間に立つおっさんにも目もくれずに車に乗り込むとエンジンキーを回した。

――船は○行く――
――憂愁の調べを○きながら――
――敗れ去り、立ち尽くす者の○を知らず――

玉ちゃんのCDから大好きな曲が流れ始めた。ゆっくりとアクセルを踏む玉ちゃんの車は見詰める者達を後目に走り去り、T字突き当りご機嫌90度(ななめ)カーブを
軽自動車がやっと曲がれそうな細い道を、一回切り返しで通り過ぎ見詰める人々の視線から消えた。

――あの日○が他の選択肢を切り――
――君を選んだ○変わったというの ? ――

後片付けを終えた怪力?の茉莉さん、巨乳を揺らして車に駆け込んだ。
「一人で片付けた――」
と叫ぶ。
「あ、そう。ありがと」
「それだけ―」
「ウン。それだけ。ところで、あのおじさん達、脱輪した車見たこと無いの。わざわざ見に来るなんて」
「そうだよ。手伝ってくれてら良いのに…。手が痛くなった」

――愛しい人よ ○に出会えた喜びに――

曲は静かに流れ、夕方バイトを縁起悪いからと断念した玉ちゃん。
この事件をバイト職場で披露した。当然ながら、エッ――の声。
「私ならウロウロするわ」
「そのおっちゃん達に助けを求めるよ」

玉ちゃんより若く太めの彼女達。
助けに駆けつけたおじさん達、ごめんなさ~いと心の中で叫んだ玉ちゃんの脳裏に曲は流れる。

――花を咲かせた穏やかな○はもういない――

8 玉ちゃん、  何屋さん?  ①

我が家で一番まともな宗次郎くん。
何故か今島流し中。島に流れ着いて二年と三ヶ月。日本地図、左下の点点点と繋がった南の島。定期船が週に三回往復する辺境の場所で暮らす宗次郎くん。年に三回の恩赦があり帰宅を許される。 
船に揺られる事、四分の一日。玉ちゃん金が無いので新幹線ではなく夜行バスで、二分の一日掛けて朝に着く。そこから八分の一日を電車に乗り継ぎ、田舎道を歩くこと十分。家が立ち並ぶ住宅地の中、二階建ての我が家に着く。
玄関を開けると当然のように迎えるものは木の香りだ。玄関は小物入れのタンスが無くなっている以外は特に変わってはいない。しかし、台所。テーブルの向きが完全90度変えてある。壁に新しいコップ棚。三段ボックスを利用した簡単な引き出し付き棚テーブル。まだ作りたてのように木の香りが漂う。
「何時造った?」
と、問う宗次郎君。答える茉莉さんには記憶の神殿は無い。
「変わってるか~。…。えー。何時だったかな。去年か今年か、その辺り」
「姉さん。手伝いなしですね」
「うん。ある日、突然現れた」
「呪い師…」
「ありえる」
と真面目顔の茉莉さん。八歳年上の茉莉さんに逆らう事無い宗次郎君は、姉の記憶のスライドに玉ちゃんがどんなに写し出されているのか知りたい。
「玉ちゃんて何屋さん」
「大工さん」
昼飯時、玉ちゃん自慢の煮物を食べる宗次郎君。大好きなうどんを頬張る茉莉さんにまた尋ねた。
「玉ちゃんて何屋さん?」
「調理人」
お八つ時、ベッドの上で寝そべりパソコンを見入る茉莉さん。宗次郎君はまたも同じ質問。
「事務員」
宗次郎くん、踵を返す。
夕食時、玉ちゃんを前に宗次郎君口を開く。
「ガジョム」
ウンウンと鼻歌まじりに頷く茉莉さんを見る宗次郎君。あんたは何者?と質問したい心を抑えて一週間の恩赦が終わり島へと帰った。
宗次郎君は、ガジョムを知らない。掃除、洗濯、ゴミ当番、早起き、早寝の島暮らし。彼がガジョムを知れば――。

9 玉ちゃん、  何屋さん?  ②


メールではない。電話がなる。受信音は純君。
嫌な予感と携帯を握って玉ちゃん。
「河原で転んで膝から下がべろりと剥けて痛い」
「どこまで」
「足首の上」
「血が出た」
「沢山出た。軟膏塗ってガーゼしたら引っ付いて取れない」
「何時」
「昨日の昼、ボートの練習で」
「そこだけ」
「今の所は」
「ふう~ん。分かった。風呂に入りなさい。そう、そのまま。ガーゼしたまま、痛くても我慢する。そして痛みがなくなったら、風呂から出てよろしい
「入るの? 特別製、超キタナの湯に…。シャワーじゃ、駄目」
「駄目。湯から上がる。ガーゼを外しシャワーで綺麗に洗い流す。軟膏塗ってガーゼする。翌日も同じ。三日目は違う。軟膏ガーセは要らない。処置は終わり。後は何もしない」
「分かった」
と、シャワーだけで良いと聞いた純君、素直に喜ぶ。高名な名を持つ男だけの世界は女の世界とは、天地の差がある。
それが、湯殿だ。
浴槽内のお湯が特別淀んでいるらしい。
それは、想像を超えたものが浮いているのだと―――――。

それから、数日後。
「腕を打った。赤く腫れてる」
「何時」
「今…」
「甘い砂糖水、好きでしょう。そう、あま~いやつ。それを飲ませなさい。赤く腫れた所にガーゼで浸して貼り付ける。半日もすれば治る。ウン、踵のガサガサ。シブーい緑茶で丁寧に洗う」

高校生活を寮で過ごす純君。何故か災難に遭う。その度に玉ちゃんの携帯が鳴る

「包丁で指を切った。血が止まらない…」
「ティシュで包んで片方の手で抑えて息が絶えるまで喋り続けなさい。息絶えた時、傷口からティシュを外し傷口にサジカルテープを貼り付ける。サジカルテープが無ければセロハンテープで良い。傷口が離れないように貼り付け三日置く。濡らさないように。その後は風呂に入ってシャワー処置。以上」

「火傷した~」
「手、赤いだけ。水ぶくれ一ヶ所。ふう~ん。氷水で冷やす。ラーメンタイム四回。オレンジの蓋の軟膏塗って、ガーゼ。濡らさない、暖めない」
このラーメンタイムはポットが知らせてくれる。

「蜂に刺された時使った魔法の白い粉って何?」
「水で溶いてドロドロ状態で腫れて所に塗った奴か?食べたのか?苦い…当たり前だ。ふくらし粉だ。ま・薬では無い」
「玉ちゃんって、何屋さん…?」
「ソウマ」
「・・・?」
「もうすぐ」
玉ちゃんの心は夢の中にある。人生の四分の一がやっと過ぎたと思っている。異世界の中にドッフリ浸かっている玉ちゃん、人生は短いのだと十五年しか生きていない純君でも悟っている。

11 玉ちゃん、  何屋さん? ③

玉ちゃん、出勤雑用を済ませボォ~と椅子に座っている。何もする気が無い。唯、ボォ~ッ・・・。
これではイカンとパソコンの前に座るが、やはりボォ~。
本日は玉ちゃん、ボォ~の日?

身体は重くない。だるさも無い。背後に立つものがいるからか。隣にすわる○長さんもいつもより機嫌良く見える。
このままではイカンと雑巾を二枚縫った。これだけで午前の仕事が終わった。
給食の時間。
この職場の不思議なところは、労働者全員に食事が振舞われることだ。
なんと玉ちゃんの大好きな、ただメシが食えるのだ。
ランチ皿に盛られた副食二品、汁物付き、果物付き。主食は御櫃(おひつ)から好きに盛れる。
それだけでは無い。三時のコーヒーおやつ付き。だから、お弁当は要らない。

給食のメニューを睨み食堂へ。いざ行かんタダ飯。

食堂厨房は今を盛りの大忙し。盛りを過ぎたおばちゃん賄いさんが三百食を分配するのに大わらわ。その中に毅然と交じる三人さん。
日本食板前さんと洋食のコックさんと栄養士さん。厨房を仕切るこの三人、勤続年数三十年↑と超ベテラン。食事は美味い。メニューも豊富。
なかなかのものを提供してもらえる玉ちゃんは幸せ気分⇑

満腹腹を抱えて後片付けに立ち上がった玉ちゃん。厨房を仕切る三人さんが別々に昼食を取る姿を眼にした。玉ちゃんの脳裏は随分前に聞いたうわさ話を捲った。

――包丁が飛ぶ世界――
日本と洋が火花を散らす世界。それに色香が加わり、血が滴り落ちた噂話が背に冷たいものを与える。
今厨房は、平穏な日々だと言う。

忙しい時間帯を終えた賄いのおばあちゃん達が和気あいあいと語り合う姿が輝いている食堂の隅。これでいいのだと、ニンマリの玉ちゃん。

本日のおやつは、大福もち。幸せの玉ちゃん。午後からネーム印鑑押しをぐったりフニャリとやり終えて、急に人の出入りが激しくなる終業一時間前に備えた。

何故か人は、何時の時間に口を開きにやってくる。
――腰が、頭が、胃が痛い――
――物が無い――
――明日の予定はどうなっている?  ――
――休みを取る。人が足りない――
――通院、買い物の車は、薬は? ――

終業時間――――。
明かりを消して、鍵を掛け、誰よりも早くこの部屋を出る。そう決めた玉ちゃんはバッグを片手に走り行く。

13 玉ちゃん    ??

月に一度、純君、隔離解除となる。
帰って来ると純君と茉莉さんの不思議会話が始まる。

本日の主人公は天国を目指そうとしたお祖父様と心優しいお嫁さんの話となった。

お祖父様、今際の際にクリームパンが食べたいと哀願した。
嫁は走った。もちろん、車で。
となり町の有名パン屋へ。特性クリーム入りパンを買うために。
お祖父様は待った。
嫁の帰りを。
渾身の思いて待ち続け、香ばしい焼きたてのパンを手に涙ぐんだ。
一口、パクリと口に入れた。
そして、大きく息を吸うと・・・。
集まった親族の人は、大往生を見守った。そして、大好きなクリームパンを食べられて良かったと涙ぐみ、はっとした。
お祖父様の手にある齧りかけたパンを見た親戚一同の瞳が、一点を見詰めたまま動かない。

――お祖父様はクリームが好きだった?――
――クリームパンが好きだった――
――パンとクリーム、どっちが好き?――
――クリームパンに違いは無い――
と、親戚一同、肩を寄せ合いクリームパンのパンだけ齧ったおじいさんの霊を祭った。

ここで茉莉さん、ギャハハと当然のように笑う。そして、声高に言う。
「もっと、いいのがある」
と、茉莉さん真面目顔。
「今際の際におじいさん。ソソが見たいと言った」
「ソソ?」
と玉ちゃん。ニコニコの純君。
「ソソが見たいと訴えるおじいさん。親戚一同の視線が窓際に座る一番若い孫の嫁さんに注がれた。すると、その若い孫嫁、スクッと立上るとスカートを捲りパンツを脱ぐと起き上がったおじいさんの前に仁王立ちした」
「ソソ?」
やはり?の玉ちゃん。ケタケタと笑う純君。
「そう。おじいさん、ソソが見たいと繰り返す。孫嫁、眼が悪いおじいさんにはソソがよく見えないと股を広げ顔面へ迫った。すると、おじいさん。ソット~と叫び股の間から孫嫁の座っていた窓を指さし、大往生した」

「それって、ソソじゃなくって、・・・ソトって言ったの」
と、問う玉ちゃんは、おじいさんの心境。
ガハハと笑う茉莉さん。

梅雨が終わったこの季節。夜はねっとりと蒸し暑く隣に居るのは何と気に掛かる。

玉ちゃんの華麗なる日々

玉ちゃんの華麗なる日々

主人公玉ちゃんは三児の母だが、現在母親と娘の三人暮らしをしている。五十才になった玉ちゃんは趣味は仕事。ニート娘茉莉さんはオタク?大ボケしているおばあさんと日々の暮らしを日記に綴るようになったのですが、何故か?課題がある見たい。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-18

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 1
  2. 2  課題  キャーとはなんだ ?
  3. 3 玉ちゃん、足指、ムズムズの日
  4. 3   玉、五六、五六、十五禁
  5. 玉ちゃん  おっさんを目指す  ①
  6. 玉ちゃん  おっさんになる  ②
  7. 玉ちゃん  おっさんになる ③
  8. 8 玉ちゃん、  何屋さん?  ①
  9. 9 玉ちゃん、  何屋さん?  ②
  10. 11 玉ちゃん、  何屋さん? ③
  11. 13 玉ちゃん    ??