レッテルが欲しかった男2

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美しいと認識される男(可憐な10代というレッテル)

 自らの醜さに耐えかねて、死を選んだ男。だが現実はどうだ、助かってしまったではないか。ここは病院の天井だろうか、体の気怠さが後遺症を予想させる。しかし不思議と痛みはなく、体が動かないだけである。脊髄をやられたのか、痛みまで感じなくなってしまったのだろうか。
 そうこう考えているうちに、あることに気がつく。病院にしては、天井が低い。まるで民家にいるようである。しかも、首は回らないが視界の端にうつる壁までの距離が、この部屋の小ささを予想させる。ここは個室だろうか。まずは自分の状況を確認したい、どうにかならないものかと男は考える。
 ふと、どこかから匂いがする、味噌汁の匂いだ。母親の手料理を思い出すような、懐かしい匂いだ。そう思うと、ぴくっと鼻が動くのを感じた。
 「よかった、まったく動かないわけじゃないんだ。」
 今度は声が出た、安心感とともに全身の緊張がほぐれるのを感じる。体もしっかりと動く、痛みもない。男の五体は全て揃っていた、しかも痛みも傷もない。いったい何の奇跡がおきたのかと、冷静になりあたりを見回すと、そこは男の知らない部屋である。
 知らない部屋ならまだしも、あまりにも醜い男からかけ離れた部屋だ。薄い緑のカーテンに、可愛らしい花があしらわれたベッド、学生を思わせる勉強机。おまけに自分の服装は、まったく似合っていない黄色いパジャマをきている。理由はわからないが男は、女の子の部屋にいて女の子の格好をしているようだ。
 こんな格好をしていては、男の醜さはさらに際立つ。自分の服が見当たらないので、とにかくこの状況から抜け出そうと部屋を飛び出す。やはり知らない家であったが、不思議と玄関までの道のりはわかる気がする。男以外の人間がこの家にいるかはわからないが、見つかる前にこの家を出ようと考えた。警察などの面倒事には巻き込まれたくない。音を立てないように、それでいて遅すぎないように階段をおり、まっすぐ玄関へ向かう。
 「起きていたの?」
 男の後ろで声がする。びっくりして、逃げ出したくなったが、自分を助けてくれた人なのだろうと思い、おそるおそる振り返った。歳は40ほどであろう、小柄な女性が立っていた。
 「そんなみっともない格好で、どこにいくの?」
 確かに男の格好は醜かった、たるんだ体に女物のパジャマという目も当てられぬ状態だった。いったい誰がこんな格好をさせたのか、目の前のこの女性がさせたのではないかと考えを巡らせると頭が真っ白になった。
 「もうこんな時間よ、朝ごはん食べて学校に行く準備しなさい。”あや”」
 女性は男のことを”あや”と呼んでいる。なにがなんだかわからない。
 「自分は”あや”じゃ・・・・・・。」
 「なにを言ってるのあや、はやくご飯たべにいらっしゃい。」
 理由はわからないが、とにかく好意的な態度で接してくれていることはわかった。それならばと、朝食をご馳走になりつつ、自分の置かれている状況を確認しようとダイニングへと向かう。ダイニングにはいると、足元まである大きな窓が見えた。外がまだ薄暗いせいか、窓にはぼんやりと男の姿が映る。
 いや、男の姿と思われるもの、とでも言うべきだろうか。見慣れたはずの醜さなどない、可憐な10代の少女の姿が映っていた。驚いて自らの手を見ると、毛むくじゃらで膨らんだ、いつもの醜い手である。窓の中に写りこんだ少女も、同じように手を見る。
 

レッテルが欲しかった男2

レッテルが欲しかった男2

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  • 成人向け
更新日
登録日
2013-03-25

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