君に会いたい



君に会いたい
第一章 出会い

春の風が、桜の花びらを校庭いっぱいに散らしていた。

るぴはひとり、昇降口の前で立ち止まっていた。

「……最悪。傘、忘れた」

朝は晴れていたのに、帰る頃には空が薄暗くなっている。

ぽつ、ぽつ、と雨が降り始めた。

るぴが空を見上げた、そのとき。

「入る?」

声に振り返ると、そこにはひとりの男の子が立っていた。

黒い傘を持った、少し眠そうな目をした男の子。

「え?」

「傘。入っていいよ」

「……でも」

「濡れるよ」

それだけ言って、彼は傘を少しるぴの方へ傾けた。

「俺、れいあ」

「……るぴ」

「知ってる」

「え?」

「同じクラスじゃん」

そう言って、れいあは小さく笑った。

その笑顔を見た瞬間、るぴの胸が不思議なくらい大きく鳴った。

――この人、なんだろう。

それが、二人の始まりだった。

第二章 少しずつ

それから、れいあは何かとるぴに話しかけてくるようになった。

「るぴ、今日一緒に帰ろ」

「急だね」

「嫌?」

「……嫌じゃない」

「じゃあ決まり」

そんな何気ない会話が、るぴには嬉しかった。

放課後、一緒に帰る。

コンビニでアイスを買う。

くだらないことで笑う。

たったそれだけなのに、毎日が少し特別になっていった。

ある日の帰り道。

「るぴ」

「ん?」

「好きな人いる?」

突然聞かれて、るぴは足を止めた。

「……なんで?」

「なんとなく」

「いないよ」

「そっか」

れいあは前を向いた。

「じゃあ、よかった」

「……何が?」

「秘密」

るぴは少しだけ頬を赤くした。

その夜。

スマホが震えた。

『今日は楽しかった』

れいあからだった。

るぴは少し迷ってから返信する。

『私も』

数秒後。

『明日も一緒に帰ろ』

画面を見つめながら、るぴは笑った。

『うん』

第三章 告白

季節が夏へ変わる頃。

二人の距離は、もう誰が見ても近かった。

けれど、付き合っているわけではない。

るぴはそれが少しだけ寂しかった。

そんなある日の放課後。

れいあに呼び出された。

「るぴ」

「どうしたの?」

夕焼けに染まった校舎の裏。

れいあはいつもより緊張しているようだった。

「俺さ」

「うん」

「最初に会ったときから、気になってた」

るぴの心臓が跳ねる。

「るぴと話すのが楽しくて、毎日会いたくなって」

れいあは少し俯いた。

「気づいたら、好きになってた」

静かな風が二人の間を通り抜けた。

「……るぴは?」

るぴは胸の前で手を握った。

「私も……」

声が震える。

「れいあのこと、好き」

れいあが顔を上げる。

「ほんと?」

「……うん」

「じゃあ」

れいあは笑った。

「俺と付き合ってください」

るぴも笑う。

「お願いします」

その瞬間、世界が一気に明るくなった気がした。

第四章 恋人

付き合い始めてから、毎日がもっと楽しくなった。

朝は「おはよう」。

昼休みには「今日何食べる?」

帰りには「一緒に帰ろ」。

たったそれだけ。

でも、るぴには幸せだった。

ある日、二人で公園のベンチに座っていた。

「るぴ」

「なに?」

「手、つないでいい?」

「……今さら聞く?」

「一応」

「……いいよ」

そっと手が重なる。

れいあの手は少し温かかった。

「緊張してる?」

「してない」

「嘘」

「……ちょっとだけ」

二人で笑った。

その日、るぴは思った。

――ずっと、この時間が続けばいいのに。

けれど、恋にはいつだって、不安がついてくる。

第五章 すれ違い

ある日から、れいあの様子がおかしくなった。

連絡が減った。

帰りも一緒に帰れない日が増えた。

「忙しいの?」

るぴが聞いても、

「うん、ちょっと」

それだけだった。

るぴは何度もスマホを見る。

返信は来ない。

「嫌われたのかな……」

そんな考えが頭から離れなくなった。

そしてある日。

るぴは、れいあが女の子と話しているところを見てしまった。

楽しそうに笑っていた。

胸が痛くなった。

「……私じゃなくてもいいのかな」

その日から、るぴは少しずつ距離を取るようになった。

れいあから「どうしたの?」と聞かれても、

「別に」

としか言えなかった。

本当は、

「寂しい」

って言いたかった。

「もっと一緒にいたい」

って言いたかった。

でも、言えなかった。

第六章 雨の日

その日は、付き合い始めた日に似た雨だった。

るぴはひとりで帰ろうとしていた。

すると後ろから声がした。

「るぴ!」

振り返る。

れいあだった。

「待って」

「……何?」

「最近、避けてるよね」

「避けてない」

「嘘」

れいあは息を切らしながら近づいてきた。

「俺、何かした?」

るぴは唇を噛んだ。

「……最近、全然会ってくれないじゃん」

「それは……」

「女の子とは楽しそうに話してるのに」

言った瞬間、涙がこぼれた。

「私より、その子の方がいいの?」

れいあは驚いた顔をした。

そして、少しだけ笑った。

「違うよ」

「じゃあ何?」

「その子、妹なんだ」

「……え?」

「俺の従妹。最近こっちに引っ越してきて、学校のこと聞かれてただけ」

るぴは何も言えなかった。

「それと、最近忙しかったのは」

れいあがポケットから小さな袋を取り出した。

「これ、るぴに渡したかったから」

袋の中には、小さなアクセサリーが入っていた。

「記念日、もうすぐでしょ」

るぴの目から、また涙が落ちる。

「……ばか」

「うん」

「ちゃんと言ってよ……」

「ごめん」

「私、ずっと不安だった」

「うん」

「嫌われたと思った」

れいあはそっとるぴの手を握った。

「嫌いになるわけない」

「……本当?」

「本当」

そして、まっすぐるぴを見る。

「俺は、るぴが好き」

雨音の中、その言葉だけがはっきり聞こえた。

るぴも握り返す。

「私も……れいあが好き」

二人は、初めて会った日のように一本の傘に入った。

今度は、二人とも離れなかった。

第七章 未来

それから二人は、前よりも素直になった。

寂しいときは「寂しい」と言う。

会いたいときは「会いたい」と言う。

喧嘩をしたら、逃げずに話す。

もちろん、また喧嘩することもあった。

泣くこともあった。

それでも、そのたびに二人は少しずつ強くなった。

季節は巡り、冬になった。

雪が降る帰り道。

「寒いね」

るぴが言うと、れいあが手を差し出した。

「じゃあ、手つなぐ?」

「……うん」

二人の手が重なる。

「ねえ、れいあ」

「ん?」

「これからも一緒にいられるかな」

れいあは少し考えてから答えた。

「わからない」

「……え?」

「未来のことは、誰にもわからないから」

るぴが少し寂しそうな顔をすると、れいあは笑った。

「でも」

「うん」

「わからないからこそ、これからも一緒にいたい」

るぴは笑った。

「私も」

雪が静かに降っていた。

二人の足跡が、並んで続いていく。

最終章 君に会いたい

何年か経った。

あの日の二人は、もういない。

たくさん笑って。

たくさん喧嘩して。

何度も離れそうになって。

それでも、何度もお互いを選んだ。

ある夕暮れ。

るぴは、あの日と同じ場所に立っていた。

「るぴ」

振り返る。

そこには、変わらない笑顔のれいあがいた。

「待った?」

「ううん。今来たところ」

「そっか」

二人は並んで歩き始める。

るぴは、ふと立ち止まった。

「ねえ、れいあ」

「ん?」

「私たちが初めて会った日のこと、覚えてる?」

「もちろん」

「雨の日だったね」

「うん」

れいあは笑った。

「傘、忘れてたよね」

「忘れてたんじゃなくて……」

「ん?」

「れいあに会うためだったのかも」

れいあが目を丸くする。

そして、笑った。

「じゃあ、これからも会いに来てよ」

「うん」

るぴはれいあの手を握った。

「何度でも」

二人は歩き出す。

夕焼けの道。

あの日と同じように、二人の影が並んで伸びている。

出会いは偶然だった。

恋は、たくさんの奇跡でできていた。

そして二人はこれからも、

嬉しい日も。

悲しい日も。

泣きたい日も。

笑いたい日も。

何度でも相手を想う。

――君に会いたい。

そう思える人に出会えたこと。

それが、るぴにとって一番の幸せだった。

君に会いたい

君に会いたい

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更新日
登録日
2026-09-20

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