シンクロニシティー
シンクロニシティ
あらすじ
第一章
拓也は職場の同僚である早苗に恋心を抱きながらも、勇気を出せずに彼女への想いを伝える機会を何度も逃していた。偶然やタイミングに翻弄され、後悔を募らせる中で、早苗の入院や異動、心のすれ違いが彼をさらに苦しめた。奇妙な偶然に導かれるように、彼女の存在を感じ続けた拓也は、最後の希望を胸に彼女を食事に誘う決意をする。しかし、待ち合わせの場に彼女は現れず、拓也は新たな環境で再出発を決める。後悔と希望が交錯する中で、彼の胸に残るのは彼女への深い想いだった。
第二章
拓也は、NHKの失敗談オーディションに応募したことをきっかけに、疎遠だった真子へLINEを送る。真子からの応援に胸を熱くし、面接でも手応えを得るが、統合失調症の体験は「場が暗くなる」と判断され不採用となる。失意の中、真子とのLINEに救いを求め、やがて彼女への感情は恋へと変わっていく。しかし真子は既読スルーを始め、音信不通となる。拓也はスピリチュアルやツインレイに傾き、偶然の再会や車とのすれ違いに運命を感じるようになる。二年後、共通の友人を介して焼肉の約束が生まれ、真子と再会。現実の真子は拓也が思い描いた幻想とは違い、恋は成就しない。
第三章
度重なる奇妙な偶然――シンクロニシティーの嵐が、拓也の日常を覆い始める。偶然の一致なのか、それとも見えない運命の糸に導かれているのか。そんな中、かつて心を寄せた早苗と真子が、まるで何かに引き寄せられるように、再び拓也の前へ近づいてくる。過去の恋と現在の想いが交錯する中、拓也は二人との出会いに隠された意味を探し始める。そして、すべての偶然が一つにつながったとき、彼は自分の人生を変える、驚くべき真実に気づくことになる。
歓迎会
「ここを最後の会社にしたいと思います。」
藤原拓也(35歳)の決意の言葉に、場の空気が少しだけ和らいだ。
「クスっ」
美咲早苗(29歳)は頬を少し赤らめ、控えめに微笑んだ。
平成10年・春
「中途採用の藤原ってやつ、シュガー社員じゃないか。工場長もよく採用したな。どうせ、すぐ辞めるぞ。」
50代の課長の怒鳴り声が事務所に響き渡る。拓也に対する厳しい目線が事務所内に漂う中、1ヶ月前に知人の紹介で入社した美咲早苗の姿があった。彼女は大学卒業後、中堅企業での経験を買われての採用だった。
歓迎会の席で、早苗は軽く頭を下げて言った。
「私も頑張ります。」
テーブルを挟んで向かい合って座る拓也と早苗。彼女の隣には、今年短大を卒業したばかりの新入社員の女性がいた。ほろ酔い気分の拓也の耳には、その女性が「新卒で入社しました。よろしくお願いします」と語った言葉が焼き付いていた。
「あの、美咲さんも、今年卒業で?」
「えっ?」
ふたりが初めて交わした短い会話。それだけで早苗の存在は、拓也にとって何か特別なものに変わり始めていた。
九州・福岡県北九州市
町外れの自動車部品工場。この会社を最後の職場にしようと決めた拓也だったが、その裏には長年の転職歴があった。派遣や下請け工場を転々とし、やりがいのなさと低い賃金に悩みながら、自分のスキルアップを目指してきた。その中で「ボーナス4ヶ月」という条件が決め手となり、この会社を選んだのだ。
採用を決めた工場長はこう言った。
「工場の扉は広く開けています。しかし、入社してからが勝負です。」
その言葉にうなずいた拓也だったが、歓迎会が終わり、最初の月曜日には風邪を理由に欠勤してしまった。その日、拓也は職安に足を運び、新たな食品工場の仕事に応募していた。
「もう少し、やりがいのある仕事を……」
そうつぶやきながら帰宅した拓也。しかし、翌朝は何事もなかったかのように出勤し、作業に取り組んでいた。
数日後
親友の井田克弘から電話が入った。
「どうだった? 面接。」
「ああ……家に電話があったみたいだけど留守しててさ。不採用のハガキが届いたよ。」
「やっぱりな。あの会社、電話したときに不在だと採用取り消すんだよな。」
「そうか……。」
翌朝、出勤した拓也の胸ポケットには、封をした退職願いがしまわれていた。
「あの、課長。少しお時間ありますか。」
「なんだ。」
「会社を辞めます。」
「そうか。それで、次の仕事は?」
「いえ、まだ……。」
「だったら、もう少し頑張ってみないか?」
課長の言葉に一瞬迷った拓也。前日の不採用通知が頭をよぎる。
「そうですね……。もう少し、頑張ってみます。」
課長は退職願いを受け取ることをやめ、拓也は現場に戻った。
拓也と早苗
高卒の拓也は現場で工員として作業に集中していた。一方で、早苗はそのパソコンスキルと経験を活かし、生産管理課で働いていた。事務所から現場に出る早苗の姿を、拓也は遠目で眺めることが多かったが、直接顔を合わせる機会はほとんどなかった。
早苗の部署では、風変わりな拓也の行動がたびたび話題になっていたが、当の本人はそんなことを知る由もなかった。
ある日、現場で不具合が発生した。現場の声と管理課の判断が交錯する中、拓也と早苗が再び向き合う瞬間が訪れる――そのとき、彼らの関係はどのように変わるのだろうか。
シンクロニシティー