予期せぬ出来事 20

 エッちゃんは、ボクの幼なじみだ。
 それも、ボクが物心つく前からの幼なじみだ。
 ……と書いてはみたが、エッちゃんの方はボクとの最初の出会いをしっかりと覚えているのかもしれない。
 でもって、エッちゃんは、超が付くくらいのおてんば娘なのである。
 そりゃあもう、スカート捲りをされた日にゃあ、ホウキを持って相手を追いかけ回すほどなんだから……
 やる方もやる方なのだが、それは仕方が無い。
 そうなのだ、仕方が無いのである。
 男の子の心の内を、分かって欲しいものである。 
 そんなエッちゃんの話をしようと思う。
    *
 あれは小学生のときだ。
 何年生だったかは覚えていない。
 そんな元気なエッちゃんだったが、ある日突然、熱を出して学校を休んでしまったのである。
 麻疹(はしか)にかかってしまったのだ。
 高熱が出て、赤い発疹が身体中に広がる、あの怖い伝染病だ。
 当然、人に伝染(うつ)しちゃいけないので、完全に直るまでは学校に来ちゃいけないのである。
 そこで、家が近所だったボクは、先生や学校からの連絡を、エッちゃんに伝える重大な任務を任されたのである。
 と仰々(ぎょうぎょう)しく書いてはみたが何のことは無い、配られたプリントとパンを、放課後に届けるだけのことだ。
 え? パンだって?
 そうなのだ。
 ボクらのころは、給食のパン(主に食パン)も、プリントと一緒に届けていたのである。
 多分ボクが、風邪かなにかで熱を出したときは、逆にエッちゃんが持ってきてくれていたのではいかと思うのである。
 そんな、放課後の郵便屋さんみたいな配達が続いたある日のことだ……
 こんにちわ~、と玄関に立って声を掛けると
「シンちゃん、こっちこっち……」とおばさんの声が庭の方からしたのである。
 勝って知ったる他人の家でもないが、ボクは庭の方に回った。
 おばさんは、庭で仕事?(掃除かなんかをやっていたのだと思う)をしていた。
 ボクは、はい、と郵便物を差し出した。
「いつもありがとね」
 おばさんは、ボクから食パンとプリントを受け取ると
「もう熱も下がって、すっかり元気なのよ」とエッちゃんのようすを教えてくれた。
 そしておばさんは
「○○子、シンちゃんが来てくれたよ、もう元気なんだから、ちょっとは顔を出してお礼をいいなさい」
 と家の中に声を掛けたのである。
 すると、奥の方から思いっきり

「嫌(や)だー」

 とエッちゃんの、おてんばな声が返ってきた。
 ? とわけが分からないボクに
 あらまぁ、とおばさんは笑いながら、耳打ちしてくれた。
「まだ顔の湿疹が少し残ってるの、ごめんね」
 ボクはそのとき、おばさんに何て返したのかは憶えていない。
 ただ、さっきの ? を誤魔化すように、頭を掻きながら笑っていたのだろう。
 それから二・三日後、やっと学校に出てきたエッちゃんの元気な姿を見た。
 ボクは、勝手に、笑顔になっていた。
    *
 しばらくして、ボクは熱が出た。
 完璧に伝染されたのである。

 追伸:伝染されたのは、もしかしたら「おたふく風邪」だったかもしれない。
 とにかくどちらかを、きっちりとお返しされたのである。
 遠い、遠い記憶なので、今は〝だったよなぁ~〟と思うだけなのだが……

 おしまい

予期せぬ出来事 20

予期せぬ出来事 20

エッちゃん

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-05-01

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