騎士物語 第十三話 ~二度目のランク戦~ 第八章 どたばた襲撃
ランク戦の裏で動いていた悪党たちの行動開始です。
第八章 どたばた襲撃
人々が健全に生活を営み、騎士がそれを守る世界を「表」とすれば、極端だったり歪んでいたりする思想の下、凶悪な存在の威を借りたりそのものになったりしながら力関係のみで均衡を保つ世界が「裏」である。いわゆる裏社会、裏の世界などと言われる「側」は今、正義の味方である騎士に脅かされるならともかく、同じ悪党によって崩壊の危機に瀕している。
無法の荒野で群雄割拠だった時代は遥か昔、裏の世界は恐怖を基盤にいくつかの勢力が管理しており、表とは異なるもののある程度の秩序があった。それを今、一人の悪党が破壊している。
数百年前から裏にも表にもその名を轟かせている大悪党、『世界の悪』アフューカス。あまりに邪悪であまりに強い上に特に理由もなく大暴れしたかと思ったら数十年何もしない事もある気分屋で、最早一つの災害として認識されている。
とはいえ普通の災害とは異なり、彼女を「倒す」ことは過去一度もできていないが「撃退」することには何度か成功している。それは容易ではなく、当時の十二騎士の半数を犠牲にした時もあったほどだが、騎士たちは彼女がいつ暴れ出しても良いように日々研鑽を重ねている。
しかし今、アフューカスはそんな騎士たちからすると困惑という意味で対応に困る、過去にない暴れ方をしている。
彼女がしている事は二つ。ツァラトゥストラのばらまきとS級犯罪者狩り。
ツァラトゥストラはかつて彼女が裏に広めた兵器のようなモノ。血液から始まり腕や脚、内臓など身体の一部を模した力の塊を自身のそれと入れ替えることで、小さなナイフを振り回すだけのチンピラを数名の騎士で相手をしなければならない脅威へと変貌させてしまう代物。
これが蔓延した当時は騎士にとって最悪の時代とされたがその性質上所有者が増え続けることはなく、騎士の尽力によって根絶された。ただ、ツァラトゥストラをその身に宿した状態で子供を作った者がおり、現在でもツァラトゥストラ由来の特殊な力を持つ者は存在している。当然、その者たちは裏における重鎮として名をはせていたのだが――彼女はこれらを「回収」させ、更に追加のツァラトゥストラを用意して比較的下っ端の悪党にバラまいた。一部、彼女が指定した組織などに渡った事も脅威だが、差し当たっては力を手にして暴れる小悪党らが問題となった。
S級犯罪者狩りは言葉の通り、S級犯罪者として分類される頭のネジのとんだ凶悪犯罪者を狩る――殺してまわっている。騎士たちからすれば、強さは勿論厄介極まるS級犯罪者たちを最強の犯罪者が減らしてくれる点はありがたく、その行為を積極的に止めようとはしていない。更に言えば、狙われるS級犯罪者らもその肩書に恥じない強さ――特異性を持っている為、例え相手が『世界の悪』やその手下であろうとも条件がそろえば返り討ちも不可能ではなく、それぞれで備えたりそもそも気にせずに無視したりしている。
S級犯罪者狩りの影響を最も受ける者は実のところS級犯罪者よりも下――比較的まともな悪党であるA級犯罪者やその下に組する者たちであり、騎士にとってもこちらの方が問題となっている。
この影響の最たる事件にして裏の崩壊の始まりとなったのがA級犯罪者の中でも重鎮だった三名が、S級犯罪者狩りが終わったら次は自分たちなのではと行動を開始した途端に消されてしまったこと。
酒や薬物といった「ヤバイ代物」の市場でトップの組織を率いていたキシドロ。老若男女問わずあらゆる要望に応える「奴隷商売」における最大手テリオン。そしてこの二人を含めた裏社会に存在するあらゆる「ルート」を掌握していたアシキリ。裏における金の流れと絶対的な上下を作っていた者らが消えた事により、裏の世界は秩序を失った。
そして、これはS級犯罪者狩りとは関係ないのだが、裏の世界における「武器」の市場でナンバーワンのシェアを占めていたS級犯罪者『フランケン』がこのタイミングで騎士に捕らえられてしまい、裏の世界はいよいよ大混乱に陥った。
S級犯罪者が狩られる、もしくは騎士によって討伐されるということが相次ぎ、裏社会の重鎮たちの椅子も空席……しかしこの混沌は次第にその性質を変化させる。
既に終わったはずの無秩序――阻む者がいなくなり、力でどこまでものし上がれる好機が無法の荒野に広がる世界。ここにツァラトゥストラという「簡単に得られる暴力」が加わり、新たな悪党が名を上げ、埋もれていた邪悪が顔を出すという状況になってしまったのである。
そして現在、時期は学生たちの卒業が近い頃。S級犯罪者を倒して勢いを増す騎士側とは逆に「虎の威」を失って焦る悪党側。しかして同時に、新たに裏社会を牛耳る者に名乗りを上げる為の実績にもなるこの機会を狙い、一石二鳥を狙って将来有望な騎士の卵を始末するという流れが悪党側に出来上がった。
「はーじまったはじまった。」
映画館のような巨大モニターの前、そこに映し出される無数の情報を処理している、立ち上がる事ができるのか甚だ疑問な太った身体をオシャレな服で覆った女がニヤリと笑う。
「メーンイベントはボスが仕切ってるから安心で、あたしはそれ以外。この歴史上最大規模の火事場どろぼーっていうか空き巣を完遂したら、ボスの計画はいよいよ最終――」
と、そこまで呟いたところで女は体型からは想像もできない跳躍をし、部屋の隅に立てかけてあった武器――大きさや長さからして人間ではどう考えても抜刀できない巨大な刀を手にして居合を放つ一歩手前の姿勢になった。
「なかなかの反応だ。」
そう言ったのはいつの間にか部屋にいる青色のローブをはおった者で、先ほどまで女が座っていた位置から少し離れた場所に立っていた。
「しかしお前が気づいたのは私の射程の三分の一まで近づいてから。こちらが敵であればその首は床に転がっていただろう。」
「……何者かしら?」
「敵ではない。そちらのボスから手紙を預かっている。それとこの妙なモノも。」
ローブの下からするりと出てきた腕から二つの物が放り投げられ、それらが床に落ちるのを青色のローブの者に注意を払ったまま確認する女は、手紙ではない方の物を見て――緊張を解くように深く息をはいた。
「……手紙を確認するわ。」
一瞬、刀に添えられた女の腕がぶれたかと思うと、床に落ちていた手紙が何かにつつかれたかのようにふわりと浮き上がり、女の手の中へ移動した。
「…………で、あーんたはここで何を?」
手紙の内容に少しだけ顔をしかめた女はその手紙を綺麗に折りたたんでポケットにしまうと、のしのしと元の位置に座り直しながら青色のローブの者に尋ねた。
「見学だ。そちらのボスの手腕の。ここにいては気が散るという事であれば外に出るが。」
「べーつに構わないわよ。」
かなり不満そうな表情のまま画面に向き直った女の後ろで、青色のローブの者は壁に寄りかかって展開される無数の情報を眺め始めた。
「何ですかその化け物は……!!」
いつもなら寝てる時間。色々……あって起きてたロイドが吸血鬼の感覚で異変に気づき、それを騎士に伝えようと思ったらフィリウスさんに会って、そのまま連れてこられたのが校舎の教室の一つ。だけどそこには普段の教室には無いような機械とかマジックアイテムとかが置いてあって、たくさんの騎士が……なんていうか、情報を整理してる感じだった。
そして教室に入ると同時にあたしでもわかるくらい強力な魔法の気配――っていうか敵意をあたしたちに向けた人がいて……本に出てくる死神みたいな真っ黒なローブをはおって前髪で片目が隠れてるっていう外見と、この場にフィリウスさんがいるって事からあたしはそいつが誰かを確信する。
十二騎士、第六系統の頂点――《ジューン》……!
「だっはっは! 大将の事を言ってるんだろうがこれは俺様の弟子だ! お前みたいに敏感な奴にはそれはそれはとんでもない怪物に感じられるだろうが味方だから心配するな!」
「いやいや、そんな説明で納得できるレベルでは――」
「うそん、どうなってるのよん?」
たぶん、ロイドが女になったことで高まった吸血鬼性……言葉にするとバカみたいだけど、それを感じ取って警戒する《ジューン》を無視して赤い女がロイドの顔とか腕とかをぺたぺた触りだした……!!
「びゃあああ! ス、スプレンデスさん!?」
赤い髪に脚とか胸とかが出てる赤いドレスの、どう見たって第四系統の使い手なのにフィリウスさん――《オウガスト》の『ムーンナイツ』の一人、『鮮血』ことサルビア・スプレンデス……こいつは前会った時も……!
「信じられないわねん。あなたの魂に完全に沿った女性としての身体を再現するなんて……一体どうやったのん?」
「それくらいにしといてくれ! 大将には急いで確認して欲しいことがあるんだ!」
ロイドの首根っこを掴んで片腕で軽々と持ち上げたフィリウスさんは……たぶんこのラパンの街の外が映ってる画面の前にロイドを移動させた。
え……でもあれが街の外だとしたら、何よあの集団は……
「団体様のおつきだな! 《ジューン》、例の魔法の影響か!」
「……はい。」
ロイドの事を警戒しながら、《ジューン》が画面に映った大群を指さす。
「降って湧いたかのように現れたこの者たち――恐らく位置魔法の類でしょうが、この者たちからは呪いのような気配を感じます。一人一人に対して働いている魔力量は微量ですが、この人数になった事で相乗しているようです。」
「我らが『光帝』が迅速に対応してるが、連中の戦力はどんなもんだ! 呪いでパワーアップか!?」
フィリウスさんの言葉と同時に、画面に映ってた集団の一部が何かの魔法で吹っ飛んだ。こんな夜中にあんな大群が来たっていうのにもう『光帝』――アクロライト・アルジェントが応戦してるって事は学院の警備に来てた騎士たちのおかげで準備万端だったわけね。
でも卒業が近い三年生を狙うって話じゃなかったかしら……なんで街の外から……そりゃまぁ、この街そのものだってあんな大量の悪党を簡単に入れるようなザル警備じゃないけど……
「攻撃性――軽く理性が薄れて凶暴性が増していますがそれだけです。」
「そうか! 大将はどうだ!」
「えぇっ!?」
「見ての通り悪党の大軍団が攻めてきた! 大将の感覚で何か妙なモノはあるか! 空気の動きで相手の動きを先読みするのと似た感覚で意識を街の外に向けてみろ! さっき感じた魔法の気配の場所を参考にするといいぞ!」
いきなり言われてもどうすればいいかわかってないロイドだろうけど、フィリウスさんのアドバイスを聞いてそれっぽく目を閉じて左右こめかみの辺りに両手の人差し指をあてる。なんかマヌケね……
「えぇっと……この人たち……一人一人? なんか全員にちょっと強めのパワーっていうかエネルギーみたいなのを感じ――」
『報告します!』
マヌケなロイドの話を遮ったのは部屋に響いた誰かの声。たぶん、外に出て連中と戦ってる騎士の誰かね。
『観測した結果、構成は大半が名無しかC級犯罪者で、B級が一握り! 理性を欠いているのか、こちらの攻撃に対する怯みがほぼありません! 加えて、一人一人が強力な武器を所持! 『フランケン』の武器ではないかと思われます!』
その報告を聞いてフィリウスさんがニヤリ顔をロイドに向ける。
報告に出てきた『フランケン』はこの前の神の国の一件の……なんていうか、騒ぎの後ろでついでに暴れてたS級犯罪者。魔人族のユーリとロイドの妹のパムの協力……っていうかほぼこの二人のおかげで倒したんだけど、こいつは世界最強になる為に自分の身体を改造し続けてて、その過程で生まれた色んな兵器を裏社会に売ってたらしい。
「だっはっは! 全員が『フランケン』印を装備たぁ、本人が捕まった現状激レアなはずなのに大盤振る舞いだな! そして大将はその武器の気配を感じ取ったと!」
「で、でもそれが武器とは……」
「脅威の可能性がわかるだけで全然違う! ついでに大将、この大群の中に他とは毛色の違う奴はいるか! リーダーとか指揮官、もしくは大群に紛れた実力者!」
「お、おう……うーん……」
教室の中には結構な数の騎士がいるんだけど、いつの間にかロイドに視線が集まってた。
「……四人……そんな感じのが綺麗に四方向にいるっぽい……しかも一人はお前みたいだぞ、フィリウス……」
「ほう、俺様レベルのいい男がいたか!」
「なんというか雰囲気……感覚からして強そうってのがわかる感じだ……」
「なるほどな! んじゃもう一つついでになんだが、大将の感覚はあの大群よりももっと遠くには届くか!? 関係なさそうなくらい離れた所に妙なモノはないか!」
「えぇ……?」
フィリウスさんの質問にマヌケな顔をしたロイドは目を閉じて……不意に変な顔をした。
「?? えぇっと……街から離れたあっちの方……遠すぎて感覚もぼんやりで距離もよくわかんないけど……何ていうか、「ぽっかりと何もない」変な感じがするぞ……?」
「何もないがあるってか! いきなり哲学的だが普通じゃないならこの状況に無関係ってことはないだろ!」
「い、いやでもフィリウス、こんなに離れているんじゃ本当に無関係かもしれないぞ。」
「だっはっは、こんな意味の分からん襲撃、首謀者は高みの見物をしてるだろうからな! 可能性は大だ!」
「意味の分からん……?」
「この時期に襲撃かける理由があるとしたらランク戦を観に来てるお偉いさん狙いで、確かに夜中ならぐっすり寝ててチャンスだろう! だが街の外から雄叫び上げながら走ってくるのはさすがに気合を入れるタイミングが早すぎた!」
……フィリウスさんたちが学生狩りの話を把握してないわけないからあくまで「そういうこと」として喋ってるんだろうけど、どっちにしたってその通りなのよね。街の外からこんなに派手に来たら、いくら奇襲でも国王軍が控えてるこの街ならあっさり迎撃されるに決まってるもの。
つまりこれは陽動で本当の目的は別。フィリウスさんの言う通り、首謀者がいるならこことは別の場所にいるはずだわ。
「つーわけで、悪党集団の対応はアクロライト指揮の国王軍に任せて、俺様たちは強そうな四人の対処と離れた所で起きてる不思議現象を確認するぞ! お、勿論この「俺様たち」に大将たちは入ってないからな! 一応その超感覚をキープしときたいからここで待機はしてもらう! 悪いが部屋の隅っこでイチャついててくれ!」
「だ、誰がイチャつくか!」
一瞬横目であたしを見たロイドが顔を赤くする……
「俺様たちって、要するにお姉さんたちでしょん? 強そうな四人ってもしかしたら――って事よねん?」
「だっはっは、別に濁さなくていいぞ! 大将たちは連中と一戦やりあってるわけだしな!」
「? 何のことだ?」
「この大騒ぎの裏にいるのは、火の国で暗躍してた『罪人』かもしれないって話だ!」
「え、兄さんが?」
武装した大勢の悪党というよりは強力な武器を持っているだけの暴徒と表現した方が良いかもしれない、真っすぐ走って銃を乱射するぐらいしかしない相手を数体のゴーレム――砂で出来ている故に滑らかな動きで一体一体が武器や体術を使いこなす戦士たちが制圧していく中、一人の騎士が不意に耳元に届いた情報に嬉しさ半分困惑半分の顔をする。
国王軍の上級騎士――セラームの証である白いマントやぴょんぴょんとはねている髪の毛を少しも揺らすことなく、戦場のど真ん中で棒立ちしたままゴーレムを操っている女騎士――田舎者の青年の妹であるパム・サードニクスは耳に添えていた片手をおろして深く息を吐く。
「吸血鬼の能力で索敵……人間離れし過ぎて兄さんが心配ですけど……そうですか、兄さんが見ていると……」
ぶつぶつと呟きながらその場所から移動を始めたパムは、先ほどまでとは異なる派手さで悪党らを砂で飲み込んで地面に首だけ出ている状態にしながらてくてくと歩き、ある男の前までやってきた。
「あのゴリラの情報――いえ、兄さんの索敵通りですね。他とは違うようですが、ここで何を?」
騎士側が襲撃者らに光をあてている為それなりに明るいがそもそも深夜という時間帯。だというのにハット、ストール、スーツまでは良いとしてもサングラスをかけて立っているその男は、くわえているタバコ――ではなく棒付きの飴を口の中でもごもごさせながらパムの方を見た。
「おいおいおい、うちがいる場所にピンポイントで来られるとは思ってなかったぞ。大人しくこの大軍勢の相手だけしとけばいいものを。」
「明らかに他とは別格なのに突っ立っているだけ。やはりこの襲撃は陽動ですか。」
「陽動? 言葉の意味を考えると「間違い」だな。お前たちに対して、この襲撃はちゃんとした襲撃だ。」
「何を言っているのかわかりませんが、詳しい事は後で専門の者が聞き出すので今は兄さんにいいところを――自分に負けてください。」
騎士たちと暴れる悪党たちとの戦いが繰り広げられる戦場のど真ん中、手にした杖を軽く振って数体のゴーレムを作り出したパムを見て、男は少し驚く。
「砂でできたゴーレムか。制御する対象が多い分、出来る事は多いし半分液体みたいなモンだから破壊も難しい。それができるってことは……おいおいおい、お前がパム・ウィステリアか? 最年少でフェルブランド王国国王軍のセラームになったとかいうゴーレム使いは。」
「……間違いではないですが、ついでにサードニクスの名前も覚えておいて欲しいですね。」
「? まぁ、ここで棒立ちもあれだし、ボスも可能なら倒していいって言ってたしな……同じ使い手として興味もある。」
男がそう言うと背後の地面が盛り上がり、中からゴツゴツとした岩がいくつも組み合わさって何となく人型のシルエットをしている巨人が出てきた。
「手合わせ願うぜ、天才騎士様。ああ、それとうちはインヘラーだ。」
「! 火の国の一件で捕まえるも逃げられたという……懸念されていた通り、この騒ぎの裏には『罪人』がいるわけですか。しかし騎士道でもないでしょうに、突然名乗るとはどういうつもりです?」
「今回は騎士と戦う場合に名乗るように言われてるだけだ。」
「……詳しく聞きましょうか。」
砂の戦士と岩の巨人の衝突が始まった頃、別の場所では街に向かって走っていた悪党たちが見えない何かに次々と斬り伏せられ、数十人がバタリと倒れたあたりで一人の男の姿がパッと現れた。
「この辺……だよな……」
科学技術の進んでいるガルドにおいて飛行機を操縦する者が使うようなゴーグルを首にかけ、ワイルドなジャケットを羽織り、両腕に巨大な鳥の翼、両足に鳥の足の形をしている靴、鳥の頭を模した帽子という怪しい事この上ないコスプレ姿だが、片手に握っている鳥の羽を模した幅広の片手剣を鋭く振ると刃についていた血が綺麗に落ち、たった今数十人の悪党を倒した騎士である事が推測されるその男は、何かを探すようにキョロキョロと周囲を見回していた。
「強そうなのがいるはずだから任せたって、フィリウスも適当な指示を――」
と、そこで明らかにおかしい人物を見つけたその男――十二騎士の一角、《オウガスト》が率いる『ムーンナイツ』の一人、ドラゴン・フラバールはその者におそるおそる近づいた。
「あー……迷い込んだ一般人ってわけじゃないよな……?」
その人物は田舎者の青年と同年代かそれよりも若く、上下をジャージ、額にバンダナという自然体験中の学生のような出で立ちの男で、戦場のど真ん中であろうことか準備運動のような体操をしていた。
「あ! 騎士の人、ですか!?」
「あ、ああ……」
「きっと自分のところにも誰か来るからと言われてた、です! さすがボス!」
「ボス? どっかの組織のメンバーってことか……」
あまり悪党には見えないし実力者にも感じられないその男――というよりはもはや少年と言った方が良いだろう雰囲気にイマイチ緊張感が抜けるドラゴンだったが――
「自分バカなんでよくわかんないん、ですが、ボスの言う通りにしておけば大丈夫、ですから! ここから離れないように逃げ回る、です!」
そう言った直後に姿を消したその少年に――その動きに目を丸くした。
第十系統の位置の魔法でも第三系統の光の魔法でも、ドラゴン自身が得意とする第八系統の風の魔法でもない。かといって第六系統の闇の魔法に関連する幻術などでもない。
それは、少年の「脚の速さ」で生じた現象。おそらくは第一系統の強化魔法なのだろうが、停止状態から視認不可能な速度への加速の異常さに、自身が速度を強みとする騎士であるが故にドラゴンは戦慄した。
間違いなく、フィリウスの言った「強そうなの」――そう確信したドラゴンはググッと身をかがめ――その姿を消した。
ガキィンッ!!
そして二人が姿を消した場所から百メートル以上離れた場所に、ドラゴンと少年が現れた。
「驚いた、です! ボスに一番って言われた自分についてこられるなんてやる、ですね!」
楽しそうに笑う少年に対し、ドラゴンは自分の剣が斬りつけた対象が少年の身体だったというのに金属のような感触と音がした事に難しい顔をする。
「あ、そうだ! 自分はオクタン! よろしく、です!」
「……ドラゴンだ。」
短い自己紹介の後、観測できる者の限られる超速の戦いが静かに始まった。
「ふむ……正直ファッションには疎いのだが、それが最近の流行り……なのか?」
砂と岩、速度と速度の戦いが繰り広げられている一方、尖ったり角ばったりしている箇所が一つもない、深い緑色の丸い鎧を着ている男――ドラゴンと同じく『ムーンナイツ』の一人、グラジオ・ダークグリーンがヘルムのあごに手を当てながら目の前の人物を眺めていた。
「湿度の高い視線を送らないでくれる? あたしの美は安くないんだから。」
美人――という言葉では足りない理想を形にしたかのような、それ故に人形のような違和感すらある「美しすぎる」顔。絵に描いたような恐ろしく抜群なスタイルのボディーラインがくっきりと出る上に脚も背中も胸元もこれでもかというくらいに出ている故に服の意味が無さそうな服。グラジオの同僚にも似たような雰囲気の女がいるがそれをも超える「過剰」を前に、しかしグラジオが首を傾げたのは女の頭――髪型である。
いわゆる「お団子ヘア」なわけだがその団子は女の頭のほどあり、それが頭頂部、左右、後頭部と四つもくっついている。もはやどうやって巻かれているのかもどうやってバランスを取れているのかもよくわからない、行き過ぎた美貌をかすませる異形な姿の女は、モデルのような立ち姿でグラジオを睨みつける。
「女は男の視線に敏感、有名な話でしょ? どこ見てるかわかってんのよ、ダルマ。」
「……男女関係なく見る場所は一つだろうからな……ともあれこの戦場にその出で立ち、暴徒らの仲間ではないが無関係でもないというところだろう。もっと言えば、黒幕か。」
「わーすごい、騎士辞めて探偵にでもなったらいいわ。」
欠片もそう思っていない表情でそう言った女は、頭の団子から何かを引き抜くような動作をする。すると団子を形作っていた髪がほどかれ、ばさりと地面に垂れ下がった。四つの団子がそうなった事により女は黒い塊と化し、いよいよ何が何やらわけのわからない姿となった――のだが、直後その髪の毛はうねり、いくつかに束ねられ、女の身体をふわりと浮かび上がらせながら先端を槍のように鋭くさせた。
平たく言えば、頭から無数の触手を伸ばしたオバケになった。
「あたしはラニナミ。そうしろとは言われてないけどやったらやったでボスがボーナスをはずむから、一稼ぎさせてもらうわ。」
「参ったわ……フィリウスが敵の一人を愛弟子の妹ちゃんに任せてこっちにお姉さんたちを向かわせた理由がこれねん。」
「……少なくともこの騒動の裏に『罪人』がいる事は確定はしましたね……」
グラジオが相対したラニナミという女と雰囲気の似た、胸元が大きく開いている上に際どいところまでスリットの入っている真っ赤なドレスを着た、真っ赤で真っすぐな髪の女――サルビア・スプレンデスと、それとは真逆にガッチリと鎧を着こんだ正統派女騎士という出で立ちのピンク色の長髪の騎士、オリアナ・エーデルワイス。《オウガスト》の『ムーンナイツ』としてフィリウスの指示を受けてやってきたその場所で、二人は周囲で暴れる小悪党とは別格の強者を前にしていた。
「やっぱり十二騎士はボスの方に行ったか……俺に心配されるボスじゃないが、万が一という事も……」
二人の騎士を前にしてどこか遠くを見ている人物――二メートルはあろう体躯を黒い羽が敷き詰められたローブで覆い、長い黒髪をうねうねと逆立たせている大男は、しばらくそうした後ローブの下から槍を出しながらようやく二人の方に視線を向けた。
「あなたオセルタねん? 『罪人』の中で一番有名なメンバー。」
「どいつもこいつも……んなふざけた名前の組織があってたまるか。」
「何言ってるのよん。そんな見るからに悪人って格好した奴が世界中のあっちこっちで破壊活動に強盗、騎士や一般人の殺害――犯罪の見本市みたいなことしてるのに目撃者が全部忘れて落ちてた証拠が無かった事にされた結果その辺の街を自由にぶらついてるのよん? 注意喚起を含めた呼び名になるのは自然だわん。むしろあなたが最大の理由。」
「それなら俺一人でいいだろうが、組織名として広めんな。」
「しょうがないじゃない、名乗らないのが悪いわよ。」
「ボスの――いや、騎士側のネーミングセンスをどうにかしろ。」
イラつきをこれでもかと顔に浮かべた大男――オセルタは、しかしその外見からは想像もつかないほど滑らかに、まるで手の平に槍が吸い付くように構えを取った。それは暴力的な雰囲気からはかけ離れた達人の挙動。
一番有名な『罪人』――言い方を変えれば多くの騎士が犯罪者と認識し、「それ」が行われたならば相応の実力者が対応していたはずがその全てを返り討ちにしているということ。
「あと二人くらいはこっちに来るべきだったかもしれないわねん。指名手配されてたらS級とかになってたんじゃないのん?」
「俺が? 騎士のつけるランクなんぞに興味はないが、俺がそうならボスはSSS級だな。」
「だばぁっ!!」
フェルブランド王国の首都、ラパンの街を全方位から襲撃してくる悪党たちと、その中で棒立ちしていた四人の強者。明らかに何かの裏があるその者たちと騎士たちとの戦いが始まった頃、ラパンの街が見えはするが数キロも離れ、街へ続く道からも大きくそれた何もない草原の真ん中に大きな何かが落下した。
「だっはっは! 大将が何もないって言った時はまさかと思ったが、当たって欲しくない予想ほど的中するってことだな!」
身体についた草と土とをはらいながら立ち上がったのは筋骨隆々とした男――十二騎士の一角である《オウガスト》ことフィリウス。
「んで、原因はお前だな!」
戦場から遠く離れた場所でフィリウスが来るまで一人ポツンと立っていたのは、首から下の服装は襟付きのシャツにジーパンと平凡だが、その顔を真っ白な上のぞき穴もない仮面で覆っている怪しい人物。フィリウスの登場に驚く事もなく、その白い仮面の人物はパチパチと手を叩く。
「素晴らしいですね。余程索敵に長けた騎士がいるようです。十二騎士――あなたを誘い込むつもりでここにいはしましたが、こんなに早く見つかるとは。」
「だっはっは、誘い込むならわかりやすく立ってるべきじゃないか!?」
「『どこかにいるだろう黒幕』を探す時間をそこそこ稼ぎたかったのですよ。私とあなたの戦闘時間が今回の計画の終了時間を決めるので。」
「意味が分からん! んじゃ何で誘い込むんだ!」
「その制限が魔法を増幅する――長年積み重ねられたイメージの影響で条件を付加するほど魔法が強固になる……などということ、十二騎士に語るような事ではないでしょうがそういう事です。」
「だっはっは、やむを得ずってやつだな! しかしそう聞いた以上、速攻でお前を倒したいところだが――まさか魔法を封じられるとはな! 自然のマナが完全に無くなってるところなんて初めて見たぞ!」
「それは良かった。」
表情は見えないが口調的に皮肉ではなく本当に「良かった」と思っているらしい白い仮面の人物は、腕を回したり屈伸したりして準備運動を始める。それに対してフィリウスは――彼を知る者からすれば珍しい事に、背中の大剣を構えて縦や横に振り回した。
「だっはっは! イメロも反応しないとは完璧だな! まいったまいった!」
あまりまいってなさそうな顔で大剣を地面に突き刺したフィリウスは、白い仮面の人物と同じように腕や脚を伸ばし始めた。
「こういうのは久しぶりだが、この状況にするってこたぁ相当自信があるんだな!」
「どうでしょう。十二騎士相手にどこまでやれるか、腕試しですね。」
「だっはっは! 腕試しならもうすぐ開催のトーナメントでして欲しいな!」
国王軍の臨時拠点っていうか指令室みたいになってる教室の隅っこ……に、本当だったらいるべきなんだろうけど、部屋の真ん中に置かれてる街の地図とか何かの資料が並んでる大きな机の誕生日席みたいな場所にあたしとロイドは座ってる。
ていうのも、フィリウスさんが「せっかくだから現役の騎士の活躍を見学してけ!」って言ってあたしたちをここに座らせて……実際、何かの魔法でいくつか映し出されてる外の状況が一番よく見える位置だからありがたいんだけど本当にいいのかしら……
「そう緊張することはない。紅茶でもどうだろう。」
そう言っていい香りのする紅茶をあたしたちの前に置いて斜め前の椅子に座ったのはあたしたちと同じくらい場違いな格好をしてる女。どう見たって一般人のどこかの町娘みたいな格好してるそいつは十二騎士の一人、《ディセンバ》ことセルヴィア・キャストライト。
「あ、どうもです……」
ペコペコして紅茶を飲むロイド……
「……ていうかあんたはここにいていいわけ? フィリウスさんは外に行ったのに。」
「ははは、どちらかと言うと私はここにいるのにフィリウスは出撃している――という表現が正しい。フィリウスと私は共に国王軍所属の十二騎士。自分で言うのもアレだが軍の最高戦力で最終兵器。軍の命令の下、余程の事態が起きなければ出ることはない。しかしフィリウスはああいう性格で、軍も縛ることはできないと理解しているから半分遊撃隊だね。タイショーくん――ああ、今はタイショーちゃんかな? 二人で世界中を巡っていた頃に比べれば国内にいて迫る危機に対処してくれるだけでかなりありがたいのさ。」
そう言いながら、セルヴィアは戦況が映ってる画面の内の一つを指さす。
「ああいう、頭一つ抜けている敵がいる時なんかは特にね。」
その画面に映ってるのは街の外。悪党連中が全力疾走してる場所よりもずっと遠くの何もない原っぱで……変なことに、何もないはずのそこにはロイドやカーミラが使う吸血鬼の「闇」みたいに真っ暗な空間が広がってた。
「タイショーちゃんが言っていた「ぽっかりと何もない」という感覚からフィリウスも予測はしていたけれど、恐らくあの場所からは魔法――マナが完全に無くなっている。この映像は魔法によって周囲を「見ている」モノだから、マナがないと観測できずにああ見える。」
「マナが無くなる? 大きな魔法を使った後とかはそういう事もあるって聞いたけど、でもマナなんてあっちこっちにあるからちょっと経てば補充されるはずだわ。」
「普通はそうだ。だが周囲のマナをゼロにしてしまうマジックアイテムや魔眼などが無いわけでもない。幸い、「相手だけ」をそういう状態にするという話は聞いたことがないしちょっと考えただけでもその難易度はかなりのモノだからそうそうないが、互いに魔法を封じて純粋な戦闘技術のみで挑んでくるような者は、大抵とんでもなく強い。」
「装置設置しました! 映像切り替えます!」
教室の中にそんな声が響き、ちょうどセルヴィアが指さしてた画面がパッと消えてもう一度出現する。装置って事は、たぶん遠くまで見えるカメラとか望遠鏡みたいのを使ったんだろうけど……そこに映し出された光景にあたしは息を飲んだ。
それはフィリウスさんと変な仮面をつけたヤツの戦いで、セルヴィアが言った通り魔法無しの戦いをしてるみたいなんだけど、互いの動きのレベルがめちゃくちゃ高い。
フィリウスさんは大剣を置き、その体格と筋力を活かした重たい一撃を次々と繰り出してる。動きはまんま、ロイドから教わった回転の動き――そりゃロイドにこれを教えたのはフィリウスさんなんだから当然だけど――で、風の魔法を使ってないはずなのにその体格を感じさせないキレを見せてる。
対する変な仮面は平均的な体格でフィリウスさんと比べると小さく見えるんだけどその分すばしっこく、フィリウスさんの繰り出した腕や脚を踏み台にしたり軸にして回ったりしながら全方位に動き回って……たぶん、内臓とかに直にダメージが行くんだろう急所を的確に狙って突きや蹴りを打ってる。
加えて、フィリウスさんはその筋力や意味わかんない身のこなしで防いでるけど時々関節技や投げ技も混ざってるから、敵は色んな体術を身につけてる印象ね。
「やはり相当な手練れ……魔法無しだとフィリウスでも分が悪いか……」
映像を見て少し険しい顔でそう呟くセルヴィア。
使える人間が少ないレアさの割に直接的な攻撃には使えないし他の系統が使えなくなる第十二系統の時間の魔法の使い手は他の騎士のサポートをすることが多くて、実際十二騎士トーナメントにおける第十二系統のブロックは他のブロックに比べると一番地味って言われるくらいなんだけど、セルヴィアが《ディセンバ》になった時からその印象がかなり変わった。
何をどうしたら時間の魔法でそうなるのかわかんないけど、セルヴィアが剣を振ると巨人がバカでかい剣を振ったみたいな斬撃の跡が壁に走る。その威力は勿論だけど、セルヴィアの純粋な剣技は他の参加者――時間の魔法が攻撃に使えない分、自身の体術なんかを高めに高めてる騎士たちが手も足も出ないほど異次元の領域。
時間の魔法で自分を強く、相手を弱くした上で尋常じゃない剣技を繰り出す――「一対一なら他の十二騎士全員に勝てる」とか言われてるのが今の《ディセンバ》ことセルヴィア。
あたしが見るよりも遥かに色んな事が見えてるだろうセルヴィアがそう認識したってことは、このままだとフィリウスさんが負ける可能性があるってことよね……
「せめて一対一でなければ好転するはず――フィリウスとの連携に慣れている『ムーンナイツ』のメンバーがいかに早く援護に向かえるかが勝負か。」
セルヴィアの言葉を聞き、あたしとロイドの視線は他の画面――ロイドが指定した場所で明らかに他の悪党連中とは格が違う相手と戦ってる『ムーンナイツ』――それとロイドの妹の戦いに向いた。
第五系統の土の魔法の使い手の中でゴーレムを主力とする者はそれなりにいるが、作り出すゴーレムの姿は似通ってくる。即ち「大きくて頑丈」――数メートルから十数メートルまで、対人であればその大きさと質量で圧倒できるシンプルな強さ。第三や第六の召喚魔法と比較される事が多く、特殊な能力を伴わせることのできる召喚と比べれば芸に劣るが、単純故に魔法負荷が小さく、仮に破壊されても修復も容易という利点がある。
だが、いわゆるゴーレム使いの中でも上級者――二つ名などでその名が知れ渡るような者たちが作るゴーレムは「大きくて頑丈」ではとどまらない。第四系統の火の魔法と合わせてゴーレムを移動する砲台としたり、同じ第五系統である金属系の魔法と組み合わせて鋼の身体や鋭い爪などを装備したり、他の魔法によって特性が追加されていくのだ。
「やってることがすごいことってのはわかるがよ、それをゴーレムでやる必要ねぇだろ。」
田舎者の青年の妹にして最年少セラームであるパムの相手のゴーレム使い、インヘラーが自身のそれに追加した特性は――
「武術やらを再現できたとして、それは人間にも出来る事だろ? 即座に再生ってのはいいが、人間よりもデカくて頑丈なのがゴーレムの強みだろうに。」
剣や槍などを持った無数の砂の戦士たちが立ち向かう一体のゴーレム。外見は岩をツギハギして人型にしたような一般的なそれだが、不意にその周囲に光の球体が複数出現し、そこから一発ずつ光線が放たれた。それは軽く人を飲み込める太さで、パムの砂の戦士たちを焼失させていく。その攻撃を潜り抜けて肉薄する者もあったのだが、強力な重力によって地面に叩きつけられる。
「ふむ……」
地面に杖を立ててその光景を眺めていたパムがそう呟くと地面から再度大量の砂の戦士が立ち上がって走り出す。だがそれらは不意に発生した爆発に、空から降り注いだ雷に、横から襲い掛かった濁流に、次々とやられていった。
「なるほど、それがあなたの言う「ゴーレムの強み」を活かすという事ですか。随分面白い使い方――いえ、面白いモノを持っている、というべきでしょうか。そのゴーレムの中心にあるのはマジックアイテムか何かで?」
「おいおいおい、見ただけでわかるのか? 同じモンの使い手はこういうところがこえぇ――」
ガキィンッ!
インヘラーが驚きの顔をしている最中に響く金属音。いつの間にかインヘラーの背後にいた砂の戦士たちの攻撃なのだが、インヘラーの身体は剣で斬られることも槍に刺されることもなく、その場で回転したインヘラーの回し蹴りで砂の戦士たちは爆風を受けたかのように吹き飛んだ。
「……ゴーレム使いと戦う時のセオリーは使い手をやることだが、当然対策はする。人がビックリしてる隙なんざ狙わなくてもどうせ意味ねぇってことくらい察して欲しいもんだな。」
「そうですか。」
奇襲が失敗するも特に気にした様子ではないパムにインヘラーは目を細める。
「まぁ……さすがにフェルブランドの国王軍のセラームか。何を狙ってるのやら。」
「そちらこそ、ゴーレムに魔法負荷を肩代わりさせているならより強力な「使い方」があるはずなのにそれをしない――何を狙っているのやら。」
魔法負荷を無くす――これは魔法の研究において長く研究されているテーマの一つである。マナを利用して理を捻じ曲げる魔法という力は魔法生物や魔人族の能力であり、本来人間という生き物は使えない。それを技術で無理やり使っている人間は、言うなれば翼が無いのに空を飛び、エラがないのに水中で呼吸しているようなモノであり、当然身体には相応の負荷がかかる。
無理やりでも使い続けた影響か、魔法と親和性の高い身体や魔眼を持つ者が誕生するようになってきているが魔法負荷をゼロにする事は未だ出来ておらず、実用的な域にあるのは「肩代わり」――即ち、自身の身体に発生するはずの魔法負荷を別の何かに移し替えるという方法だ。
魔法負荷が発生するのは魔法発動のプロセスにおける「マナを魔力へ変換する」タイミングであり、「魔力を燃料として魔法を起動する」こと自体に負荷はない。故にマナを魔力へ変換してくれる装置なり誰かなりを用意してそこから魔力を受け取るという形にすれば術者本人に魔法負荷が発生しない仕組みを構築できる。
だが魔力には本人確認に利用できるほどに変換したモノの個性が乗る。自分で変換していない魔力を受け取るというのは血液型の違う血を注がれるような行為に近く、魔法負荷どころではない負担が身体に生じてしまう為、一筋縄では行かない。
これらの条件下でインヘラーが行っているのは、ゴーレムの内部でマナを変換して魔法を発動させるというやり方。自身が生み出したゴーレムをもう一つの身体とし、その頑丈な身体の方で魔法負荷を受けてインヘラー本人にそれが行かないようにしているのだ。当然普通にゴーレムを作っただけでそのような事は不可能であり、パムが言った「面白いモノ」とはゴーレムを自身の身体として定義する為のマジックアイテムである。
この仕組みにより魔法負荷を気にすることなく魔法を使い放題という状態になり、本来であれば得意な系統ではない他の系統の魔法は魔法負荷が大きくなるところを無視できる故にあらゆる魔法を、本人の魔法技術によりはするが力任せに乱発する事ができるのである。
ゴーレムそのものの作成、操作に関してはインヘラー自身が行う必要がある為その魔法負荷だけは残り、またゴーレムを通して発動させた魔法はゴーレムを中心に展開されてしまうという欠点はあるものの、魔法を使用する戦闘においてかなりのアドバンテージを得ていることに違いはない。
「ったく、ホントにやりづらいな……」
自分のやっていることをあっさりと見透かしてくるパムにため息をついたインヘラーは、それまでの立ち位置だったゴーレムの後ろからやれやれという顔で移動し、何故かゴーレムの前に立った。ゴーレムがそのゴツゴツした両腕を開き、インヘラーにかざすと地面に魔法陣が描かれてインヘラーの身体にほんのりとした光を宿した。
「まるでゴーレムに強化してもらったような絵面ですね。」
「実際は自分で自分に魔法をかけただけだが――なっ!」
言葉の終わりと同時にインヘラーが超速でパムに迫り、鋭い蹴りを放った。だがその攻撃はパムと脚の間に出現した砂の壁に阻まれる。
「――しっ!」
短い呼吸の後、インヘラーの猛攻が始まる。真正面から背後、真上を通ってあらゆる死角へと、光景を端的に表現すればパムの周りでくるくる回るコマのようだが、まともに受ければ骨や内臓が破壊されて致命的なダメージとなる蹴りが時折爆炎や稲妻をまとって繰り出される。
加えて蹴りの合間、それを防御する為にせり上がった砂の壁をインヘラーの背後に立つゴーレムからの攻撃――光線が焼失させ、インヘラーの動きをサポートするように風を起こし、重力の力で威力を増大させる。
パムの言う「絵面」で言うとゴーレムがインヘラーを援護しているようだが、その全てをインヘラー一人が処理している事を考えると異常とも言える並列思考。紛れもない実力者として腕前を見せるインヘラーだが――
「……」
その猛攻の全てが、インヘラーの動きを遥かに超える速度で展開される砂によって完封されていた。
「だぁあ……びゃ! パ、パム……ひぃぃ……」
ハラハラした顔で妹の心配をする兄――まぁ、今は姉になってるけど、ロイドがパムの戦いを見て顔を青くしてる。
臨時指令室になってる教室の中で飛び交う情報によると、火の国の時に裏でコソコソしてた『罪人』が今回の黒幕っぽくて、実際パムが戦ってるのはあたしが戦った『罪人』……確かインヘラーとかいうヤツ。あの時はストカが作った壁を壊そうとデカいゴーレムを出して、それを操りながらあたしと一戦交えるっていう今考えればかなり器用な事をしてたわけだけど、今の動きからもそういう……同時に複数の事をするっていうのが得意なタイプらしい。
映像だけでパムたちが何しゃべってるかはわかんないからセルヴィアが解説してくれたけど、インヘラーはゴーレムを経由して魔法を使う事で魔法負荷を無くしてるみたいで、そうやって使い放題になった魔法をゴーレムに使わせて――いや、そう見えるだけで本人がやってるんだけど――自分の攻撃の威力を押し上げたりしてる。
正直、身のこなしだけでもあたしが戦った時より数段速い。この前は操作してたゴーレムがデカかった分、集中力とかを結構削いでたって事なんでしょうけど……あの時この速度だったら、あたしは勝てたかわからない……
でも、それよりすごいのはパム。何か知らないけど爆発したり電撃が出たりするインヘラーの蹴りを完全に防ぐ砂の強度も、インヘラーの攻撃に対応できる反応速度も……さすがは最年少セラームってとこかしら……
「いやはや、さすがタイショーちゃんの妹ちゃんだね。フィリウスも高く評価するわけだ。」
紅茶のおともにクッキーを食べだしたセルヴィアがそう言うと、ロイドが心配そうな顔でたずねる。
「あ、あれ、パムは大丈夫でしょうか……」
「現状の相手の攻撃出力なら問題はないかな。妹ちゃんの身体能力や体術はセラームの平均か少し下というところだけど、それを補って余りあるのが砂を操る魔法技術。大量の人型を作って進軍させたり、巨大な魔法生物のような姿を模して圧倒したりというのは副産物で、彼女の真に恐ろしいところは「砂の塊を思い描いた形にする早さ」だ。」
「え、えぇっと……?」
女になっても全然変わらないすっとぼけた顔で首をかしげるロイド。
「イメージの問題だから感覚的な話になってしまうけれど、妹ちゃんの防御は「砂を動かして攻撃を防いでいる」のではなく、「砂の壁を作っている」んだ。例えるなら、絵の具を筆につけて絵を描いているんじゃなく、絵の具を絵の形にして紙の上にのっけているような感じかな。」
「??? そうだと……早いんですか……?」
「今の絵の具の例えで言えば、筆を経由しない分早いね。砂のゴーレムを動かす時も、「脚を動かす」とか「攻撃をする」とかじゃなく「走る」とか「相手のあの場所にダメージを与える」という……そう、結果のみをイメージして本来必要なはずの過程の動きを自動というか反射というか、普通のゴーレム使いが集中してやっていることを瞬間的に処理しているんだ。」
……ゴーレムの魔法を使ったことないからよくわかんないけど、自分の意思を持ってない自分の身体以外の身体を動かすのって要するに操り人形を動かすイメージで、「右手をあげる」っていう動作だけでもこっちの糸を引っ張ってこっちを動かさない――みたいな制御が必要になるだろうから、岩じゃなくて砂を使ってるせいで制御しなきゃいけない糸がめちゃくちゃに多いはずなのに岩のゴーレムよりも早いっていうなら、パムはやっぱりすごいのね……
「で、でもいくら早くても砂ですし……あ、あんな爆発キックを何発もやられたら……」
「ああ、それは――」
「おいおいおい、どうなってんだ?」
爆炎、稲光、暴風、高重力に閃光。大勢の魔法使いから集中砲火を受けているような状況のパムにそれを行っているインヘラーが焦りの混ざった驚きの顔を向ける。
「砂を動かす速度も普通じゃないが、瞬間的な圧縮プラス強化魔法で意味わからん硬度の砂にしやがる。実はロボットなんじゃないか、おまえ。」
自身とゴーレムのコンビネーションで猛攻を加えるも全てを防がれてかすり傷一つつけられなかったインヘラーは、攻撃を止めて理解できない何かを見るような顔でそんなことを言ったが――
「修行の賜物です。」
対するパムは何でもないような顔をし、インヘラーに大きなため息をつかせた。
「なんつーか、砂の制御というよりは特定の形とその維持に全振りしたような使い方だな……嫌な相手とぶつかったもんだぜ……」
「何事にも相性はありますからね。降参するなら今ですし、奥の手を使うならそれも今ですよ。」
「――! こいつ、言いやがる……」
カチンときたような声色になったインヘラーは、パムから離れて自身のゴーレムの下まで後退して片腕をあげた。
「防御性能は認めるが現状うちも無傷。そっちの火力不足をどうクリアするのか気になるが、お望み通り先にこっちの「狙い」をやらせてもらうぜ。ぶっちゃけ儲けが減るからやりたくなかったんだがな。」
先ほど自身を強化した時のようにゴーレムが手をかざすとインヘラーの足元に魔法陣が浮かび上がった。だが――
「!?」
笑みを浮かべていたインヘラーの表情が驚愕に変わり、何かのミスを慌てて修正しようとするかのように自身の胸に手を当てた瞬間、その身体が爆炎と稲妻に飲み込まれた。
「がああああああっ!?」
数秒続いたそれに、しかし意識を飛ばさずに黒焦げの身体でふらつきながらも倒れる事のなかったインヘラーは――
ガンッ!
てくてくと歩いて近づいたパムに杖で頭を叩かれ、おそらく強化魔法ののった一撃だったのだろう、顔面から地面にめり込んで動かなくなった。
「とっさに自身を強化してギリギリ耐えるとはなかなかですね。」
トントンと杖で地面を叩いて土を操作し、頭の埋まったインヘラーを引っ張り出して仰向けに転がしたパムはインヘラーからストールとジャケットをはぎ取り、下にあった宝石のようなモノで装飾されたベストを見て少し表情を険しくする。
「よくもまぁ、こんなにたくさんの爆弾を抱えていられましたね……」
パムは再度地面を叩き、今度は金属でコーティングされた小さな容器をいくつも作り、インヘラーのベストから宝石のようなモノを一つずつ取り外し、それらを個別に容器へしまっていった。
「『罪人』は、そのメンバーであると推測されている者が何人かいるものの、戦闘においてその者たちがどういう技を使ってくるかという記録はほぼありません。証拠隠滅の一環として記憶にも干渉しているのでしょうが、それ故に騎士側はそちらの手の内を把握できていない。しかしあなた……いえ、彼は別。」
ベストから宝石のようなモノを外し終えると、今度はインヘラーの服の裾をまくってそこにあった腕輪などからも同様のモノを外していく。
「彼は初めて騎士側に捕らえられた『罪人』。彼の手の内は彼と交戦した兄さんの……いえ、騎士から報告がなされ、記録されています。大抵の犯罪者――指名手配されるような連中は自身の武器や魔法が騎士側に知られている前提で戦うモノですが、『罪人』である彼はそういう状況になったことがない――だから油断したのでしょう。自身の奥の手が大量の魔石であることをこちらが把握しているなどと、考えもしなかったのではないでしょうか。」
インヘラーが身につけていた全ての宝石のようなモノ――魔石を回収したパムは戦闘時よりも集中し、こわばっていた表情を「ふぅ」とゆるめた。
「魔石は言葉の通り石。その内にどんな魔法が入っていようと、第五系統の魔法であれば干渉、あるいは暴走させることが可能。本来であればかなり危険なそれを間にゴーレムを挟むことで安全に引き起こし、通常の数倍の出力で魔石の魔法を行使する――それが彼の奥の手。だから自分はそちらのゴーレムのあちこちにある隙間から自分の魔力を込めた砂を侵入させ、「魔法負荷を肩代わりさせる」という役割を魔法的に妨害した。ゴーレムの魔法構成なら熟知していますからそう難しいことではなく、彼が魔石の暴走を引き起こそうとした際に自分がゴーレムの方を暴走させた結果、意図しない……制御できていない形で魔石の暴走が起こり、彼は自滅。これがこちらの「狙い」でした。ご指摘通り、火力が足りないので。」
魔石を入れた容器を一か所に集めて何かの魔法をかけた後、パムはインヘラーの耳の辺りでパチンパチンと指を鳴らした。
「『罪人』の親玉か司令官か、聞こえているのでしょう? この場所に彼がいた事には何かしらの意味があったのでしょうが、こうして敗北しました。回収した魔石はそのままこちらの戦力となりますし、他のメンバーは手の内不明とはいえこちらには十二騎士も控えている。降参をオススメしますよ。」
パムがそう言うとインヘラーの耳の辺りでふわりと奇妙な風が起こり、それを確認したパムは立ち上がってググッと伸びをする。
「長々と煽ってみましたがこれで大きめに動いてくれるとありがたいですね。」
ひょいと杖を動かし、転がるインヘラーを首から上だけ残して地面に埋めながら呟く。
「この男が騎士側に知られている事など承知のはずなのにこの場所に配置した……この騒動の裏には『罪人』がいるとアピールしているようなモノで連中のこれまでの行動とは真逆……どんな裏があるのか、はたまた単なる人員不足か……いずれにせよ、『罪人』というグループを追い込むチャンスですね。」
壁のような画面が光る一室、モニターの前に座る女は苦い顔をした。
「バーカみたいに負けちゃって。だから魔石なんて危なっかしーモンを武器にするなって言ったのにこのザマなんだから。」
「あれの敗北は計画に支障を及ぼさないのか?」
独り言のつもりが後ろの方にいる青色のローブの者にそう問われ、女は嫌そうな顔をしつつも答える。
「勝っても負けてもボスが用意した魔法にえーきょーはないわよ。あとで助け出す手間が増える点は罰金ものだけど。」
「ボスが用意した、か。本人を見た時もこの部屋に入った時も思ったが、人間にしては異常な魔法技術……いや、能力と言うべきか。一体何者だ?」
「……それを知らないでここにいるとか、かーなり間抜けな話ね。」
「そっちに興味はなかったからな。」
「ならそのままでいーわよ。ボスはボス、それが全てよ。」
そう言いながら、女はスタンドマイクを自身の口元へ引き寄せる。
「ボス、報告よ。」
「そうですか。」
「なんだ!? なんか言ったか!」
ラパンの街から遠く離れた草原で格闘戦を繰り広げる二人。不意に白い仮面の人物が攻撃の手を止めてそう呟いた為、フィリウスも小休止として深呼吸しながらそう聞いた。
「さすがはフェルブランドの国王軍という話です。」
「だっはっは、俺様としちゃさすが『罪人』のボスって感じだがな!」
そう言って自分の腹部の青くなっている箇所をバシバシ叩く。
「青アザなんざ久しぶりだ! えぐい攻撃しやがる!」
「それで済む攻撃では無かったのですが、筋肉の鎧とはよく言ったモノです。」
「だっはっは、それをすり抜けて内側に衝撃が届いてんのがおかしいんだがな! しばらくは食う量が半分になっちまいそうだ! しかもお前、まだ本気じゃないだろ!」
「おや、どうしてそのように?」
「だっはっは、だってお前、「見て」ないだろうが!」
「!」
フィリウスの言葉に、白い仮面の人物は少し驚いたような反応をする。
「その仮面、見た目通りに前が見えない、仕掛けも何もないマジでただの仮面だろ! だがお前の動きはキッチリと「視界」ってモンを意識してるから盲目ってわけじゃない! 魔法無しの肉弾戦がお前の得意分野なんだろうが、俺様を目をつぶってここまでボコすたぁ恐れ入る!」
「驚きました……なるほど、相手の動きからそこまで把握できるからこその回避能力なわけなのですね。」
「ついでに言うと、趣味だったら悪いがそんな仮面をつける理由があるとすりゃあ、強力過ぎる魔眼の暴走を抑える為とか、普通に顔を見られたくないからとかだろう! 『罪人』らの今までの証拠隠滅やらもみ消しやらから察するにバックには相当な権力者がいるはずって推測もあるが、その仮面の下はどこぞの王族か!?」
「ふふふ、雑談を続けるだけでこちらを丸裸にされそうですね。この戦いをある程度は長引かせたいというのに、困ったものです。」
「『罪人』が『罪人』ですって言いながら来ることなんざ今まで無かったからな! これを機に一網打尽がベストってもんだ!」
「一網打尽はさすがに欲張りでは?」
「チャンスは掴んでこそだろ!」
ダンッと地面がえぐれそうな踏み込みで豪快に、しかし素早く白い仮面の人物に迫ったフィリウスは腕や腰、目線から数段階のフェイントを入れつつ鋭い蹴りを放つ。対して白い仮面の人物はその攻撃に片脚のすねをそえるようにしてさらりといなし、上半身のひねりともう片方の脚による跳躍で身体をコンパクトに回転させ、強烈な蹴りをフィリウスの顔面へと打ち込んだ。
「――!」
しかしそこで驚いたのは白い仮面の人物の方で、顔面に一撃を受けてもわずかな怯みすらなく動くフィリウスは顔へめり込んだ足を掴み、その剛腕で白い仮面の人物の身体を振り回して地面へと叩きつけた。
「まじばぁっ!?」
その一撃は確かに決まったのだが、完璧な受け身で威力を最小限にした白い仮面の人物は間髪入れずに両腕で跳ね、再度フィリウスの顔面に今度は両方の足をめり込ませた。
「だっはっは、その体格で耐えられるとは思わなかった! 人体の不思議だな!」
「そちらこそ、顔にまで筋肉をまとっているのですか?」
崩れた体勢を瞬時に戻し、最高峰の技量で再度ぶつかる両者。骨のある強者に巡り合えた事への喜びのようなモノが表情に浮かんできた二人を、その場所から少し離れた場所でスケッチブックを片手に眺めている人物がいた。
「いいよいいよー、やっぱり血沸き肉躍る接近戦は熱量があっていい感じ。魔法でドーンは味気ないからね。」
シャッシャッと独特なとがらせ方をした鉛筆を走らせている学生服姿のポニーテールの女は、ふと視線を悪党たちが暴れまわる戦場へ向ける。
「これだけワーワーしてるんだし、もう一つ二つ、そそられる題材があるといいんだけどな。」
「同感だ! これだけいるなら有望な人材が見つかるやもしれぬ!」
女の独り言に答えた何者かのバカでかい声に、しかし女は驚く様子もなく声の主へと振り返り、見上げた。
「誰か知らないけど……へぇ、面白そうな雰囲気してるね。その魔王様って感じの格好も決まってるよ。」
その姿を吟味するかのように上から下までじっくりと観察する女に、「魔王様」もまた興味深いという感じの視線を送る。
「ほう、ワガハイのことを一目で見抜くか! 芸術家――ふむ、カーペンターに任せきりだったが魔王城に相応の芸術品を並べるのも威厳となるか! お前の名を聞こう!」
「騎士たちからは『シュナイデン』って呼ばれてるよー。」
「くっくっく、本名は明かせぬか! 二つ名、通り名、魔王軍としては実に結構! しかしワガハイは名乗りをあげよう! ワガハイこそが魔王、ヴィランである!」
「魔王……あぁ、『魔王』! 一度会って見たかったんだよね。どーしてこんなところに魔王様がいるのー?」
「新しい部下の手並みを見にきたのだが、こう規模の大きい戦場はなかなかないからな、身体がうずいてきたところよ!」
実のところ、『罪人』と呼ばれている集団を挟んでかすかに繋がりが出来上がっていた二人のS級犯罪者。悪党たちが街へ攻め込む戦場でもトップレベルの格闘戦が繰り広げられる場所でもない、これまた時に何もない原っぱの上でひそかに――というよりはうっかり、芸術家と魔王は邂逅した。
騎士物語 第十三話 ~二度目のランク戦~ 第八章 どたばた襲撃
『罪人』のメンバーがたくさん出てきて、ついにボスも参戦です。
実は「仮面をつけた組織のボス」というのは私が描いたり書いたりした物語にはよく出てきます。キッカケとなったのはとある漫画ですが、今回のボスはどんな素顔でしょう(これはもう決まっています)
そしてインヘラーにまさか二戦目が降ってくるとは驚きです。せっかくなので本気を出してもらいましたが、奥の手が炸裂する日は来るでしょうか。
次は他の面々の戦闘と……もしかすると芸術家と魔王が何かするかもしれませんね。