予期せぬ出来事 ②
11 まぁいいか許そう
ある夏の日の会社帰りの高崎線。
ボクは、赤羽駅から運良く席に座ることが出来た。
鞄を膝の上に乗せ、早々に文庫本を開く。
ガタゴトと心地よい振動。
そして電車は浦和駅に到着。
そこで数人の乗客が降り、ボクの隣の席も空いた。
その空いた席に、20代の女性がツカツカとやって来て座った。
その座り方がヒドかった。
ドカっ……と勢いよく座席に尻(ケツ)を落とすやいなや、ガシっと足を組んだのだ。
何だこいつ、隣の人のことも考えて、もちょっと優しく静かに座ってくれよ。
とボクは心の中で悪態をつきながら、どんな奴なんだよ? とその女性をチラ見するために顔を上げた。
その女性は、すまし顔でスマホを見ている。
そして偶然に、その女性のスマホの画面が目に入った。
画面には友人から送られて来たであろう動画が映し出されていた。
画面の中では、二人の女性が、ビキニ姿で笑いながら浜辺で身体をクネらせていた。
……
まぁいいか許そう。
これまでの横柄な態度は、水に流してやろうじゃないか……
ボクは再び、文庫本に目を落とした。
12 頑張れ…
ある朝の通勤電車での出来事である。
ボクはいつも通り、文庫本を読んでいた。
そのボクの横には、20代の女性がスマホを熱心に覗き込んでいる。
ガタンと電車が揺れた。
つり革に捕まっていなかった女性はバランスを崩した。
その拍子に、そのスマホの画面がボクの方を向いた。
ボクはつり革に捕まっていたので、その女性のぶつかりを耐えることが出来た。
すみません、とその女性はボクに謝った。
その間も、彼女のスマホの画面はボクに向いたままだった。
その時、彼女が見ていたのは、脚が細くなるストレッチ動画だった。
頑張れ……とボクは心の中で彼女を応援した。
13 彼女はどうしたいの?
天気が良く、風も穏やかなだったので、ウォーキングに出た。
携帯ラジオのイアホンを片耳に差し、主にAM(気が向けばFMに)を聞きながら歩く。
片方の耳は開けておいて、周りのノイズを楽しむのがボクの歩き方だ。
1時間ほどブラブラして、もうそろそろ帰ろうと帰路についていたら、近くの高校の下校時間とぶつかっていた。
高校生たちとすれ違いながら、ボクは家に向かって歩いた。
大きな交差点で信号待ちをしていると、対面に男子と女子二人の三人が、同じように信号待ちをしているのが目に留まった。
女子の一人は自転車を押していて、その横に男子が並んで立っている。
その後ろにもう一人の女子がいた。
前の二人は、楽しそうに話をしているのが見えた。
信号が青に変わった。
ボクとその三人組は、交差点の真ん中あたりで擦れ違った。
自転車を押して歩く女子、その横を並んで歩く男子。
二人は夢中で話し込んでいる。
後ろから一人、ついてくる女子……
その女子は二人の後ろを、少し退屈したような……つまらなそうな顔をして黙って歩いてついて来る。
前の二人は話に夢中で、後ろの女子のその表情に気付いていない。
でも、決して前の二人と後ろの女子は別々じゃないんだ。
後ろの女子は、前の二人の話が聞こえる距離で、つかず離れずしているからだ。
ボクは気になって、横断歩道を渡り終わると足を止め、振り返って見ていた。
三人は、渡り終わった先で、今度は反対側の信号が変わるのを待っている。
信号が青に変わった。
まっすぐ行けば駅だ。
三人はどういう関係なんだよ?
ああ、気になってしょうがない……
二人の後ろを歩く彼女はどうしたいの?
04 人生何周目?
人生何周目?
という言葉を耳にする。
過去に一度人生を経験し、転生して2周目を送っている(歳相応でない、卓越した感性や知的さを感じる)人のことを言うのだそうだ。
そんな人が実際に居るのであれば凄いことなのである。
じゃあ何故、このエッセイを呼んでくれている人たちは、前世の記憶を持っていないのか?
その秘密をこれから教えてあげることにしょう。
*
顔には、鼻の下から上唇にかけて溝があるよね。
これは何故あるのか?
それはですね、母親のお腹の中で、もうすぐ産まれるぞ、と頑張っている赤ちゃんのところ天使がやって来て
「生まれる前の記憶は、絶対人に話しちゃ駄目だよ」
と唇に指を置いて約束したからなのです。
その天使の指の(約束のしるし)痕が、鼻の下の溝となっているのです。
だから前世の記憶が無いのです。
たとえ覚えていても、話せないのです。
この話を知っている人いますか?
15 二人の女性
ある夏の朝の出来事である。
ボクは王子駅を降りて会社へ向かっていた。
いつものコースを歩いて、会社に向かうボクがいる……
そこへ前方から、40代くらいの女性が歩いて来るのが見えた。
手にゴミ袋を手に持って、駅の方に向かって歩いてくる。
駅の近くにゴミ捨て場があるのかしらん?と思いながら、ボクと女性との距離が縮まってゆく。
あれ?
目を凝らすと、その女性の格好がおかしいのである。
遠目では、ノースリーブにスカート姿だと思ったのだが、なんとその女性は……上は肌着1枚なのである。
当然、人には見せてはいけない胸の大事な先っぽが……
寝ぼけてんのか? 早朝だから大丈夫だと思ったのか? はたまたこの暑さで頭がおかしくなったのか? と思いながらボクはすれ違ったのである。
その肌着の名前、ボクが小学校のころはシミーズと呼んでいたような気がしたが、ググってみると正しくはフランス語でシュミーズと言うらしい。
中世以降の西洋の肌着が発展したものだそうだ。
そんなに真剣に調べなくていいよ、と誰かに言われそうなのでここまでにする。
*
会社帰り、王子駅へ向かう途中、二十歳くらいの女性が向こうから歩いてくる。
こ、こ、今度の女性は……リンゴを手に持って丸かじりしながらやってくる……
おっと、いいねぇ~、と思ってしまったボクでした。
16 ハイキング
会社帰りの大宮駅。
少し離れたドアの近くの、20代女性の前の席が空いた。
その女性は座った。
しかし、そこに70代だと思われる女性が乗ってきたのだ。
だが、その女性の格好は、デイパックを背負った「完璧なハイキング」の格好をしていたのだ。
高尾山にでも行って、登った帰りなのであろう。
若い女性はハイキング姿の女性に、戸惑いながらも席を譲った。
その女性は礼を言って座った。
座るの?
凄く元気そうに見えるけど……
ボクだったら……
と凄く悩むところではある。
17 オレに○○するんじゃねぇ
電車の中では、だいたい本を読んでいる。
移動時間は、ボクの貴重な読書時間なのである。
そしてその電車の中では、ボク自身の決め事がある。
まず、なるべく(左右が)窮屈でない位置を確保する。
それが出来たら棚の上に鞄を乗せ、吊革に捕まって文庫本を開く。
かさばるので、電車では文庫本が基本だ。
準備完了。
ガタゴトと揺られながら電車は進む……
*
ある金曜日のことだ。
ボクは三人掛けの、一番右側の席の前で本を読んでいた。
連結部分の傍だ。
ボクのすぐ左隣が30代の男、その左が20代後半の女性だった。
電車は大宮駅に到着し、ボクの前と左隣の男の前の席が空いた。
男は自分の前の空いた席に座った。
一番左に立っていた20代後半の女性は降りてしまった。
じゃあ、ボクも座られていただきます……
ボクは棚の上の鞄を取って座った。
するとそのすぐ後に、女性が乗ってきてボクの前に立ったのである。
ボクもそうだが、やっぱり車両の端の部分は居心地がいいのだろう……
その女性は、ボクよりも年上だった。
ボクは立ち上がり、どうぞ、とその女性に席を譲った。
その女性は「ありがとう」と頭を下げて座ってくれた。
そしてボクは、鞄をまた棚の上に乗せようとしたとき、隣に座った男がボクを見上げているのに気が付いた。
男は腰を上げようとしている。
ボクは首を横に振って、心の中で叫んだ。
オレに席を譲るんじゃねぇ!
18 アイス珈琲
暖かくなってきました。
そしてすでに、暑くなってきています。
冷えた飲み物が欲しくなってきました。
*
ボクは珈琲が好きです。
ホットはブラックですが、アイスのときはガムシロップとミルクを入れて飲みます。
どうしてかは分かりませんが、そうなのです。
そこで、ボクのアイス珈琲の飲み方をご紹介しようと思います。
最初にガムを入れてストローでよくかき混ぜます。
話しがちょっと脱線しますが、近ごろのガムには、液体ではなく紙袋に入った粉のガムがありますよね。
ボクが、たまに行くお店では「アイスにも良く溶けるお砂糖です」と毎回説明してくれます。
……でもって甘みが全体にゆき渡ったら、次はミルクです。
ここからが肝心です。
ミルクはドバーっと入れてはいけません。
カップを手でゆっくりと回しながら少しずつ、波をなるべく立てないように注ぐのです。
珈琲と混ざらないように、珈琲の上に、あたかも置くように注ぐのです。
カップを回すのがコツです。
ミルクを回しながら注ぐと、上手にできません。
すると珈琲の上の部分に、白いミルクだけの層が出来あがります。
ブラウン色の珈琲の上に、10ミリくらいの白いミルクの層……
これで出来上がりです。
あとはストローで刺激を与えないようにしながらゆっくりと楽しみます。
でもこれは、ファストフード店の紙コップなどでは、中が見えないでやっても意味がありません。
あくまで見た目を楽しむためのものですから……
興味のある方は、一度試してみてください。
この人、変な飲み方してんなぁ~て、遠くから見てる人がごくたま~にいますよ。
ただそれだけのことですけど……
19 じゃんけんグリコ
脳みそを活性化させるには糖分が欠かせない。
……てなわけで、会社の同僚からもらったキャラメルを食べているのである。
そして、キャラメルと言えばグリコだろう。
一粒300メートルのキャッチフレーズで有名なキャラメルだ。
どうやら一粒で300メートル走れるくらいのエネルギー(栄養)が含まれているらしいのである。
ふ~む。
だったらサッカーを一試合(だいたい10キロ走ると言われている)するなら、キャラメル何個食べればいいんだ?
フルマラソンだったら何個食べるんだ? そしたら優勝は無理だろうけど、完走出来んのか……?
と小さいころは、そんなことばかりを考えていたボクなのである。
*
グリコと言えば、こんな遊びをしてなかったかい?
多分した!絶対した!もしかしたら、物語の中のカコとジンジもナオもユウコもタカコも一緒に遊んだかも知れないのである。
イケピンやシンコやポンタも追加しときます。
小高い丘に向かう階段とか、お寺の境内へ上る階段を使ってさ――
みんなでジャンケンして、グーはグリコ、チョキはチョコレート、パーはパイナップルと言いながら、買ったらその言葉の数だけ階段を上ってゆく遊びだ。
でもこの遊び、ボクは今でも納得できないところがあるんだ。
つまり――
グリコは3歩、チヨコレイトは6歩、パイナツプルは6歩進めるのである。
……おい、ちょっと待ってよ。
グリコだけ3歩で、ほかの二つは6歩じゃんかよ。
グーとチョキが同じ6歩なんて……
これって変じゃねぇ? 何でなんだ?
今でも疑問に思うし、納得出来ない遊びなのである。
20 エッちゃん
エッちゃんは、ボクの幼なじみだ。
それも、ボクが物心つく前からの幼なじみだ。
……と書いてはみたが、エッちゃんの方はボクとの最初の出会いをしっかりと覚えているのかもしれない。
でもって、エッちゃんは、超が付くくらいのおてんば娘なのである。
そりゃあもう、スカート捲りをされた日にゃあ、ホウキを持って相手を追いかけ回すほどなんだから……
やる方もやる方なのだが、それは仕方が無い。
そうなのだ、仕方が無いのである。
男の子の心の内を、分かって欲しいものである。
そんなエッちゃんの話をしようと思う。
*
あれは小学生のときだ。
何年生だったかは覚えていない。
そんな元気なエッちゃんだったが、ある日突然、熱を出して学校を休んでしまったのである。
麻疹(はしか)にかかってしまったのだ。
高熱が出て、赤い発疹が身体中に広がる、あの怖い伝染病だ。
当然、人に伝染(うつ)しちゃいけないので、完全に直るまでは学校に来ちゃいけないのである。
そこで、家が近所だったボクは、先生や学校からの連絡を、エッちゃんに伝える重大な任務を任されたのである。
と仰々(ぎょうぎょう)しく書いてはみたが何のことは無い、配られたプリントとパンを、放課後に届けるだけのことだ。
え? パンだって?
そうなのだ。
ボクらのころは、給食のパン(主に食パン)も、プリントと一緒に届けていたのである。
多分ボクが、風邪かなにかで熱を出したときは、逆にエッちゃんが持ってきてくれていたのではいかと思うのである。
そんな、放課後の郵便屋さんみたいな配達が続いたある日のことだ……
こんにちわ~、と玄関に立って声を掛けると
「シンちゃん、こっちこっち……」とおばさんの声が庭の方からしたのである。
勝って知ったる他人の家でもないが、ボクは庭の方に回った。
おばさんは、庭で仕事?(掃除かなんかをやっていたのだと思う)をしていた。
ボクは、はい、と郵便物を差し出した。
「いつもありがとね」
おばさんは、ボクから食パンとプリントを受け取ると
「もう熱も下がって、すっかり元気なのよ」とエッちゃんのようすを教えてくれた。
そしておばさんは
「○○子、シンちゃんが来てくれたよ、もう元気なんだから、ちょっとは顔を出してお礼をいいなさい」
と家の中に声を掛けたのである。
すると、奥の方から思いっきり
「嫌(や)だー」
とエッちゃんの、おてんばな声が返ってきた。
? とわけが分からないボクに
あらまぁ、とおばさんは笑いながら、耳打ちしてくれた。
「まだ顔の湿疹が少し残ってるの、ごめんね」
ボクはそのとき、おばさんに何て返したのかは憶えていない。
ただ、さっきの ? を誤魔化すように、頭を掻きながら笑っていたのだろう。
それから二・三日後、やっと学校に出てきたエッちゃんの元気な姿を見た。
ボクは、自分の中で勝手に、笑顔になっていた。
*
しばらくして、ボクは熱が出た。
完璧に伝染されたのである。
追伸:伝染されたのは、もしかしたら「おたふく風邪」だったかもしれない。
とにかくどちらかを、きっちりとお返しされたのである。
遠い、遠い記憶なので、今は〝だったよなぁ~〟と思うだけなのだが……
おしまい
予期せぬ出来事 ②