予期せぬ出来事 ①
01 父と娘の会話
ボクの勤めていた会社は王子にある。
高崎線を使って赤羽駅まで出て、そこから京浜東北線に乗り換えて王子駅まで行っていた。
ある夏の日の出来事だった。
毎朝同じ電車で、7時過ぎに王子駅に到着し、中央口改札へ向かってホームを移動する。
本来なら上り口改札(南口)の方が会社に近いのだが、足腰を老化させないために中央口を使っているのだ。
その中央口階段の近くに、小学校3・4年生くらいの女の子とスーツ姿のお父さんが上り電車を待っている。
電車が来るまでのあいだ、その父娘は向かい合って話をしている。
女の子は、お父さんに向かって手を動かしながら、声を出さずに笑っている。
お父さんも楽しそうに、声を出さずに手を動かしている。
親娘の横を通って、ボクは中央口階段を下りる。
しかし、ちょっと前からその父娘を見かけなくなったのである。
「どうしちゃったんだろう……?」
何故だか分かった。
「そうか、夏休みだ!」
もうすぐ夏休みが終わる。
ボクは、夏休みが終わるのを楽しみにしている。
02 制服にジャージ
冬になると、
女子高生たちが、制服スカートの下にジャージを履いている姿を見かけるようになる。
ボクはその着こなしに、ダサいなどと言うつもりはまったく無い。
今時の流行が何なのかが、チンプンカンプンであるし……
しかもボク自身が寒がりで、見た目よりも暖かさを優先させてしまい、格好は二の次になってしまうからである。
*ちなみに、ダサいの語源は、田舎(いなか)を(だしゃ)と読み、そこから変化したという説があるようです。
そんなある日、ボクは駅近のショッピングモールを冷やかしていた。
モールにはマックはあるし、ゼッテリアはあるし、ミスドはあるし、マツキヨはあるし、無印はあるし、100均はあるし、放課後の高校生がたむろする場所が沢山あるのです。
そうだ、あと31やKFCもあった。
そんな高校生たちを、変な意味じゃ無く、見るとはなしに眺めていたら、ボクはとんでもないことに気付いてしまったのです。
それは……
カップル、パートナー、ペア、アベック、恋人同士、などと言われる二人組の、男子と一緒に嬉しそうに歩いている女子は……
ジャージを履いていない!
ということなんです。
生足なんです。
ほんとかよ? と思って、ほかの何組かのカップルを見てみても、そのほとんどの女子は生足でした。
そうなんだ~
そりゃあやっぱり、彼に可愛く綺麗に見られたいと思うだろうし――
それにドキドキしていて胸のあたりが暖かいと、寒さなんてぜんぜん気にならないものなのでしょうね……
03 座らせて頂きます
赤羽駅4番線。
高崎線下り、21時27分の電車に乗った。
車両連結部分の三人席の前、ボクはドアに一番近い所に立った。
鞄を棚の上に乗せ、文庫本を開く。
正面には、相撲取りのように太ったサラリーマンのおっさんが寝ていた。
右横の2席には二人の女性が座っている。
立っているボクの右側は、真ん中をひとつ空けて女性がスマホをいじっている。
やがて電車は、次の駅である浦和駅に到着した。
そして真ん中の席の女性が降りていった。
普通なら、ボクが知らん顔をしていれば、スマホをいじっている女性が座るはずだ。
が……その女性も動かなかった。
何故ならその女性は、ボクの前で船を漕いでいるサラリーマンに負けず劣らす太っていたからだ。
そのスペースには、スマホ女性の身体は納まりそうになのである。
心の中で……
じゃあ、座らせていただきます。
ボクは棚の上に置いてあった鞄を取った。
04 寝ぼけてんじゃねぇよ
通勤で高崎線を利用していたある朝の出来事である。
ほぼ満員の電車の中、ボクはサラリーマンが座っている席の前の吊革に捕まりながら電車の揺れに身を任せて文庫本を読んでいた。
サラリーマンは、膝の上の鞄に手を投げ出して気持ちよさそうに眠っている。
やがて……、大宮駅に電車が停まった。
すると突然、眠っていたサラリーマンが顔を上げてキョロキョロと辺りを見回し始めたのである。
そして立ち上がるやいなや、慌てて電車から降りたのである。
ラッキー座れる。
だがしかし、ボクの足の甲の上に、サラリーマンの膝から滑り落ちた鞄が乗っていた……。
サラリーマンは、自分が鞄を持っていたのを忘れて降りてしまったのだ。
一瞬ボクは、その鞄を棚に乗せ、何食わぬ顔をして座ってやろうかと思った。
寝ぼけてンじゃねぇよ!
ボクはその鞄を持って電車を降り、サラリーマンを追いかけたのでした。
05 まだ早い
ある冬の日の出来事である。
朝7時に王子駅に着いて、会社まで歩いていたら、お爺ちゃんとベビーカーに乗せられた小さな男の子と、その横を一緒に歩く5歳くらいの女の子とすれ違った。
散歩には、早過ぎないかい? と思いながらすれ違った。
その女の子は、♪春がきた 春がきた どこにきた~♪ と歌っていた。
それこそ早すぎるよ、と思いながらボクの頬の筋肉は緩んでいました。
06 善行
会社帰りの出来事である。
最寄り駅で電車を降り、改札へ向かっていると、数歩先を歩く若いカップルに目が釘付けになってしまった。
な、何と、彼女のスカートの裾が捲れているではないですか。
パンツが丸見えなんです。
彼も彼女も、まったく気付いていません。
さあ、ボクはどうしたのでしょうか?
そうです、ボクはもう充分に彼女のお尻を堪能したので、彼の横にスッと並び、
「彼女のスカート捲れてますよ」
と耳打ちしてやったのでした。
彼は驚いて振り返り、スカートを叩くように下ろしていました。
そしてボクに、感謝の会釈をしてくれました。
善行を施したボクでした。
多分、二人で電車の席に座っているとき「いやーん、○○君てばいやらしいンだから」などと阿呆らしい会話をしながら突ついたり、突つき合っているうちに、捲れたのだと想像するのです。
07 何がしたいの
会社帰りの高崎線での出来事である。
たしか火曜日だったと記憶している。
浦和駅で、ボクの前の人が降りて席が空いた。
両隣が女性じゃなかったので、ボクはそのまま座って本を開いた。
次の停車駅の大宮で、おばさんが乗ってきた。
おばさんは、ボクの目の前にやって来た。
荷物を棚の上に乗せると、あろうことか……
そのおばさんは、ボクに背を向けたのである。
ボクに尻を向けて立って吊革に捕まったのである。
「何だ? このおばさん」
ボクはそのおばさんのでっかい尻を眺めながら、なにを考えているのだろうと首を捻った。
おばさんは、次の駅で別の場所に移動してしまったのだが……いい大人は絶対マネしないでくださいネ。
08 ある一日
今日は18時半に会社を出た。
来週提出しなければならない報告書のふたつの内のひとつはある程度メドが付いたし、会社も「働き方改革」で残業はなるべく少なくして早く帰れるようにしなさいって言うし、それにボクが本格的に忙しくなるのは来週からだし……
だったら赤羽マクドナルドで「物語」や「エッセイ」を書いてやろう……と思ったのである。
会社を出て王子駅までシャカシャカ歩いていると、都電の踏切を渡ったところでボクは高校生の男女に追い付いてしまった。
左が彼女、右が彼で彼は自転車を押しながら二人で横になって歩いている。
彼女は一生懸命に彼に話し掛けている。
彼はそれに相づちを打っている。
ボクは、そんな二人に追い付いてしまったのだ。
そりゃそうだろう、ああいう二人は出来るだけ一緒の時間を共有したいのだから、ゆっくりゆっくり歩くものなのである。
急いでいるボク。
しかし、二人を追い越そうにも歩道が狭く追い越せないのである。
どうしたもんかなぁ~、声を掛けてみようかなぁ~と思案していると、彼女が後方のボクに気付いてくれたのである。
すると彼女は、彼の肘を掴んで自分の方へ引き寄せてくれた。
ボクが通れるだけのスペースを作ってくれたのである。
そしてボクが横を通るとき、彼女は「すいませんでした」と言ってペコリと頭を下げたのである。
ボクは「ありがとう」と返して、二人を追い越したのである。
おいお前、お前だよ、彼女と一緒に歩いている男子高校生!
お前の彼女は優しくてとても素敵じゃないか。
羨ましいよ。
赤羽西口のマクドナルドの二階で珈琲を飲みながら、まずは上記の出来事を書いた。
それから1時間ほど経って、そろそろ帰ろうと思い、鞄にポメラをしまい、テーブルを片付けて出口のある階段の方へ向かった。
階段の近くに男性サラリーマンとその部下だと思われる、20代後半の女性が居るのが目に入った。
男は、仕事について何やら彼女に訓示(説教)を垂れているようだった。
しかもその男の喋り方が、いやに慣れ慣れしいのである。
マクドナルドのこの時間はいつも混んでいる。
でもその二人は、二人用のテーブルを横でくっ付けて使用しているのである。
この季節はコートとかマフラーがあるので、二人用テーブルでは窮屈ではあるのだが……
まぁそれは100歩譲るとして、その男女は向かい会わせではなく、横並びに座っているのである。
男は椅子の背にふんぞり返って女性に話し掛けている。
そしてその男の手が彼女の肩に乗せられているのである。
彼女は少しでも男から離れようと身体を反対側に傾けてはいるが、抵抗出来ないでいるのである。
ぶっとばしたろかぁ~!と思った。
そう思いながら店を出て高崎線に乗った。
そして次の停車駅である浦和で前の席が空いた。
ボクの左右は男だったので、遠慮なく席に座った。
次の大宮駅で30代の女性が乗ってきてボクの前に立った。
ボクは気にせず文庫本を読み続けていた。
そして何かの拍子に、その女性が肩から掛けていた鞄を前にずらしたのである。
その鞄には「おなかに赤ちゃん」札が付けられていた。
気付いたボクは慌てて、座ってくださいと立ち上がろうとしたが、大丈夫ですと優しく断られてしまった。
ボクは(気付かないで、すみません)と心の中で誤り、座り続けることにした。
気まずい気持ちのまま、本を読み続けることになってしまった。
ふたつみっつ駅を過ぎ、やっと隣の隣の席が空いて、彼女はそこに座った。
そして彼女は、ボクが下りる駅に着いても、まだ座り続けていたのである。
ボクは家に帰るまでずっとそのことを考えていた。
どうすれば、気持ちよく座ってもらえるか? 彼女が来てその赤ちゃん札にすぐ気付けばどうってことなかったのだが、なんせ見えなかったものだから……
気付いたときに立ち上がって、大丈夫ですと言われても、なんとしても席を譲るべきだったのか?
ほかにもっと、スマートな席の譲り方はないものかと考えた。
そしてある結論に達したのである。
ボクが次の駅で何気なく降りればいいわけである。
下りる駅でもなく関係なく下りて、ボクが別の車両に移ればいいわけである。
簡単なことだ。
そうすれば彼女は譲られるより座り易いに違いない。
こんどそんな場面に出くわしたら絶対そうしてやるぞ……と思った。
そんなこんなの一日だった。
09 不気味な光景
20時過ぎの高崎線に乗って帰宅の途に着いたまでは良かったのだが、大宮駅の次の宮原駅で電車が急停止してしまった。
すると同時に電車の中が真っ暗になってしまったのである。
原因は、高崎線と平行して走っている宇都宮線で発生した人身事故にあるらしい。
アナウンスによると、その事故は変電所付近で起きたのだそうだ。
その影響で、高崎線への送電も影響を受けて止まってしまったという訳だ。
そのときボクは、いつものように文庫本を開いていたのだが、真っ暗になってしまったので読むのを諦めざるおえなくなってしまった。
文庫本を畳み、他の乗客はどうしているのだろうと見回すと、スマホの灯りが一人一人の顔をボ~と浮き上がらせていた。
暗闇の中に浮かぶ、顔、顔、顔……
それはそれは不気味な光景だったのである。
10 ふたつの出来事
ずいぶん前の話である。
ある朝王子駅で電車を降り、改札口まで歩いていると、ホームのベンチに座っていた20代の女性がスマホで話をしているのが目に入った。
何やら、大きな声でスマホに向かって話しているのである。
そしてボクが、その横を通り過ぎようをしたとき、突然その女性が泣きながら地面に倒れ込んだのである。
その女性は「嫌だ、嫌だ」と泣きながら地面を転げ回った。
よほどのことがあったのだろう。
たぶん別れ話だろうと推測するしかないのである。
ボクはどうすることも出来ずに、その横を通り過ぎて改札口に向かったのである。
*
これも結構前の話だ。
駅を降り、チャリに乗って家まで向かっている途中の出来事だ。
酔っぱらったおじさんが、大きな声で歌を唄いながら千鳥足で歩いていた。
ボクはおじさんの横を通り過ぎるとき「カーン」と口で鐘を鳴らしてやった。
そのおじさんは「すいません」と謝った。
これ分かる人いるのかな?
おしまい
予期せぬ出来事 ①
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