255『永遠と終末の狭間で』~全知少女と全能少年の恋物語~
プロローグ:全知の少女は沈んでいく
ヘレーネ・クリストフは、世界で最も頭のいい少女として知られていた。
三歳で量子論を理解し、八歳でAI倫理の国際賞を受賞し、十五歳で「未来予測モデル」を完成させた。
人類の行く未来を、ほぼ完全に読める少女。
だからこそ、彼女は“限界”に触れてしまった。
全知症候群──知性が過負荷になり、五感が消えていく病。
視界はノイズに覆われ、聴覚は遠ざかり、指先の感覚は氷のように薄れていく。
医師たちは言った。
「ヘレーネの残り時間は、一年もない」
世界中の研究所が動いた。政府が動いた。軍も企業も、全ての天才たちも。
だが治療法は一つも見つからない。
そして――
彼女を救うために、ただの高校生が立ち上がる。
第一章:少年陽太、天才の扉へ
藤原陽太(ふじわら・ようた)――高校三年生。
成績は全国トップ、数学オリンピック金メダル受賞。
しかし彼の心は、いつも空っぽだった。
「僕は、何のために賢いんだろう?」
ある日、国際研究機関〈ネレイア〉から一通の招待状が届く。
“全知症候群の少女の救済研究チームに参加してほしい”
陽太は即答した。
迷いなど一つもなかった。
理由は単純。
“助けを求める誰か”が、初めて目の前に現れたから。
第二章:永遠と終末の狭間で
初めて病室で見たヘレーネは、美しいとか弱いよりも――静かだった。
透明なガラスの向こうで、世界から少しずつ遠ざかっている人だった。
陽太は息を呑んだ。
彼女の笑顔は、ふわりと光って、それだけで胸が締め付けられた。
「必ず救う。君を……絶対に」
彼女がどうして?とか細く問い返す。
「理由なんていらない。君が消えていくなんて、嫌だと思ったから」
ヘレーネは、目を伏せて震える声で小さな声で答えた。
「世界は……私がいなくても続くよ。それでも……あなたは、私を救いたいの?」
「うん。世界がどうでも、僕は君を救いたい」
沈みゆく少女と、救おうとする少年。
二人の一年が、世界の未来を賭けた戦いの幕を開ける。
第三章:量子と神性の交換式(エクスチェンジ)
〈ネレイア〉の最深部。
誰も入れない黒い部屋に、世界初の装置があった。
“常温稼働量子コンピュータ〈アカシック0〉”
陽太が設計し、世界中の天才が震えた化け物。
目的はひとつ。
――人間の脳の“全構造”を量子で再現すること。
ヘレーネを救う唯一の方法は、彼女の崩れゆく神性を外部に“移す”ことだった。
五感は戻る。しかし、知性と神性は失われていく。
世界最高の頭脳が、ただの少女へ。
そして――
陽太が“全能へ”変わる。
第四章:全脳理論・発動
ヘレーネの神性データを量子化し、陽太の“全脳モデル”に統合する。
その瞬間、陽太の意識に“世界の裏側”が流れ込んだ。
裏宇宙の存在。
空間の意味。
時間の選択肢。
因果のパターン。
死の構造。
愛の数学的形。
運命の螺旋。
円環する記憶。
永劫回帰的数秘。
そして気づく。
「世界は、書き換え可能だ」
ほんの一秒で、彼は“因果を書き換える手順”を理解した。
それは人間が触れてはいけない領域。
神話級の力。
仏の力。
超越者の力。
第五章:ヘレーネの変化
病室で目を覚ましたヘレーネは、涙を流した。
「……見える……陽太の顔が、ちゃんと……」
五感は完全に戻っていた。
陽太は歓喜したが、彼女の瞳には別の影が宿る。
「でも……ね。私の中の未来を見る声が、消えたの」
「……神性?」
ヘレーネは微笑む。
「ううん。もう私は、ただの女の子だよ。」
その代わり――
陽太の背後に、淡金色の“後光”が揺れていた。
空間そのものが震えている。
ヘレーネは震えた声で言う。
「陽太……あなた、何をしたの……?」
陽太は静かに答える。
「君を救うためなら、僕は自分や世界の形くらいどうにでもできる。」
白い光が少年の周囲を巡る。
“少年は神性を宿し、少女は人間へと還る。”
それは愛か、罪か。
世界はまだ、その意味を知らない。
短く、美しく、物語の結びへ。
最終章:天へ昇る少年と、地に愛を残す少女
世界を書き換える力を得てからも、陽太はずっと迷っていた。
全能とは、孤独だった。
だがヘレーネは、何度も彼の手を握った。
「陽太。
あなたは神になっても、私の“ひとりの男の子”だよ。」
そして二人は、最後の夜を迎える。
ヘレーネは五感を取り戻し、人としての温もりを取り戻していた。
陽太は、かつてないほど“人間らしく”震えていた。
触れ合うたびに、世界が淡い光を放つ。
愛し合うたびに、因果が柔らかく編み替わる。
陽太は神性を宿しながらも、その瞬間だけはただの少年だった。
ヘレーネもまた、全知の少女ではなく、ただ愛する者の隣にいる少女だった。
エピローグ:天の子の誕生
一年後。
ヘレーネは三つ子を抱いた。
三人とも静かに笑い、命の光を宿している。
未来を視る子。
時間を紡ぐ子。
愛を受け継ぐ子。
彼らは、父から神性の欠片を受け、母から“人としての心”を受け継いだ存在だった。
ヘレーネは病院の窓から空を見上げ、小さく呟く。
「陽太……あなたは、どこまで行ったの……?」
空は深い青に裂け、そこに一本の“光の道”が伸びていた。
陽太は上昇を止められない。
神性の圧力に耐えるため、もはや地上に居続けることができなかった。
だが消えたわけではない。
世界の構造を揺らすたびに、ヘレーネは微かな温度を感じる。
彼は天へ昇り、彼女は地で生き、二人の愛は三つの命になった。
それが世界を書き換えた少年の“最後の選択”だった。
255『永遠と終末の狭間で』~全知少女と全能少年の恋物語~