面接 西に道、北は住宅、東の道、南の看板から数分のところ 原付なら可

「次の方お入り下さい!」

「山本さんですね、ようこそ、お越し下さいました。さあ、そちらに椅子がございますから、そこへ、おかけください。このたびは私どもがかけました求人の方の呼びかけ、これに応じて頂いて、ありがとうございます。暑いなか、ようこそ、お越し下さいました。緊張なさってますか、緊張なさらないでいいですから、椅子に座って、リラックスして、聞いて下さい。お仕事の内容など説明していきたいと思います。知りたいこと聞きたいことも山ほどあると思いますから、まず説明させてくださいませんか。あんまりかしこまらずリラックスなさって聞いて下さい。お昼過ぎということもありまして、何かと用事も多いことでしょうから手短に話したいところで、またこの暑さ、平成の頃と比べましても一段と気候が厳しくなってきておるそんな中、お越し頂いたことに御礼申し上げたいと思います。さて昨今、私どもアウトバウンドの世界を取り巻く環境は山本さんも、山本さんでしたね?山本さんもご承知の通り、ますますと競争にさらされ、さらされながらも私どもはまだまだへこたれんとやってます、大相撲で例えますと、十両と幕内の間を行ったり来たりしながらも、まだまだ良いところでは、結構頑張っているのかなあ、やっていけてはいるのかなあ、と、そのように思ってはいる次第です。大相撲と言えばこの間は横綱同士の決定戦がありましたね、なんでも十六年ぶりだそうで、山本さんは見られましたか?お相撲。」
「はい? え? ……ああ、えー、まあ、夕方の、あの相撲ですよね?ええ、まあ……見ました。」
「彼らは朝方なると毎日のように稽古しているらしいですね。私どもも彼らほどには、というのも分野も違ったりするので難しいですが見習っていかなあかんなあ、などとは思ってるわけで、やっぱりそういう稽古のたまものでああいう横綱が出て、ああいうふうな横綱決定戦となることが出来たわけで、大きく盛り上がっていました。盛り上がりと言えば関西万博などもしております、黒字になったそうです、黒字、黒い色に字と書いて黒字、また対称的に赤い色の字で赤字、赤字、この二つは私どもに取りましても絶えず、終わることなき懸案事項でして、ネバーエンディングジャニー……。このネバーエンディングジャニーにはいつも、いつでも、山がそびえておりまして、そこをいつも乗り越えていく、そういう心構えで頑張っております。近頃はアウトバウンドだけでなくインバウンドにも寄り道していかなあかんのかなあ、プロ野球ではありませんがアレしていかなあかんのかなあ、アレできるのだろか、そこへアレしてもいいのだろうか、アレをそこに対してアレした場合どうなるのか、などと幾分語気を荒げながらも仲間同士で議論したりしておりました。もうダメなのか、くじけたりもします、とは言えそういう時にも一筋の光明があったりするもので、私どももおかげさまで海外の大手さんからお声がけ頂きまして、海外の方に工場を建てたりなどしています、ベトナム、カンボジア、タイ、シンガポール、フィリピン、ミャンマー、マレーシア……、それからラオス、インドネシア、ブルネイ、これらの国々がアセアンという国家連合をを形成していますが、山本さんはアセアンをご存じでしょうか?そのうちのベトナムに私どもは小さいながらも工場を持っております。そういうわけで話を元に戻しますと、私どもも大相撲で言えば、今は幕内にはいてるのかなあ、そういう風に思うのも自画自賛とは特別言えないのかなあ、いや自画自賛なのかなあ、自問するところでもありますが山本さん、山本さんでよろしいですね?山本さん、あのね、山本さんはビッグマックは知ってますか?」
「……、はい? なんですか?」
「食べたことありますか?」
「ビッグマックですか?」
「……ビッグマックです」
「……ビッグマックはー……、ええ、まあ、食べたことですか? ……まあ、一応、ありますけど」
「あれね、おいしいでしょう、あれね最初食べたとき変な味だなと思いますでしょ、もっとソースかかってると思うんですが、結構あっさりしているんですよ、お肉が二枚も入ってダイナミックなんですけど、食べると結構さっぱりしてるんですねあのマヨネーズ、あれがいいんですよ、食べ応えがありながらもあっさりしてやみつきになってくるんですね、メニューがしょっちゅう変わるマクドナルド通称マクドナ、いや、関東風が正式なのかなマック、だったかなあ、マックスの中にあってあれもベストセラー商品ですから、みんな好きなんですよね、そういうのが企業努力なんでしょうか、私どもも見習いつつベトナムの方で工場回しております、いえ当然、インバウンドの方も力を入れつつですが、この昨今叫ばれてるインバウンド需要の対応に私どもも苦慮している次第で、私どもの力だけでは対応できない、このへんが見え隠れしてきた、行動を起こすべき時が来たのではないか、そこで私どもは求人を斡旋してくれている組織にとある一本の電話を掛けました、マッチングアプリではないですが、この世界の何処かに素敵な人、おらんかなあ、言うておりましたら、来られました。窓辺に寄り添い、まるで郵便配達員のバイクの音にすら立ち上がってあの人かしら、この人かしら言いながら何度も確認するほどの待ち遠しい時間を経て、扉をお開けになられた時はまるで燦然たる逆光と言ったところでして、とは言え、そう言った素敵な方がたくさん来られまして、竹取物語ではないですが私ども思わぬ反響に戸惑い、嬉しい悲鳴を上げている次第です、ああと嘆息しながら罪深い決断をしなければならないことを歯がゆく感じております。一応、四人ぐらいの人を、四人ぐらいの人で、と言いますか、ご一緒させてもらいたいなあ、とは思ってはいてるんです。私どもも幾分ドキドキしながら真新しいヨーグルトにスプーンを突き刺すような気分で、おいしいとこだけ一口づつと、もうまるで幕の内弁当のようにも、観光がてらではありませんが、熱に浮かされた気分になっております。幕の内と言えば、大相撲でもありますが、この間の決定戦、見られましたか?山本さん、山本さんでしたね?山本さん、大相撲見られましたか?ほら、あの夕方の。」
「…………」
「夕方、やってますでしょう、相撲。」
「……え? 私ですか?」
「相撲。」
「……見、ました。」
「朝方なると彼らは稽古するらしいですね、見習っていかなあかんなあ、私どもも言うてますもので、その都度その都度でやっていこう、やっていかなあかんな、言いながらインバウンド需要の方まで手を伸ばす、方向で、果たして行かしてもらえるんかなあと不安になります、夜も眠れなくて、時々へんな時間に起きてしまいます、しばらく目をつぶっていると眠れますが、それからはぐっすりと寝れてます、こうやって求人かけてますがもう私ども自体が雇ってもらうような気持ちで、その方向で、行かしてもらいたいなあ、GO TO イート……。ご静聴ありがとうございました。」
「……?」
「ご静聴ありがとうございました。ただあと一つ、ただあと一言だけ付け加えさせてください。私どものことは嫌いになっても職安は嫌いにならないで下さい、彼らは斡旋してくれただけなんで。それから、しばらくのちにある日一通の手紙がご自宅に投函されることになるでしょう、それは朝方なのかあるいは昼過ぎなのか、扉の裏から物音がしておよそ集合住宅なら扉の裏に備え付けの箱状の郵便受けにコトッとその形状の、薄いながらも角は硬くなっている特徴のために結構大きめの音がすることでしょう、もしかすると担当の郵便局員は一部屋一部屋まで回ってこないことも予想されます、その時はご足労ですが一階にかたまって備え付けている郵便受けの方に取りに行ってもらう形となるでしょう。対義的に一軒家ならば、音がしたらバァーっと扉を開けてだいたいすぐ門柱とかそのあたりに郵便受け、置かれているでしょうからすぐに取れます。取ったら是非とも読んで下さい。何かが書かれてますから。以上になります。今日はありがとうございました。」
「……終わりですか?」
「はい。ありがとうございました。次の方いておりますで。」
「……なんか、まあ、手紙……来るんですか?」
「手紙は……えー、山本さん山本さんでしたよね?山本さんのお宅はマンションでしょうか?」
「……家? 一応、一軒家になるのかなあ。」
「ではバアーっと扉開けて頂いて、手紙、取って下さい。」
「手紙、取るけど……うち、バァーって、引き戸ではないんですけど」
「あ、これは失礼しました。ではバァーっではないということは、バタンっの方ですね?」
「……、まあ、もう、バタンっの方でええけど。そんな開け方しないし。」
「ではパタッで?」
「そんなん気にしてませんよ。」
「じゃあパタッで。」
「はい。」
「では、次の方!」

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  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-10-14

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