
境界のチーク
ミラーボールの光の下で、時間も場所も曖昧になった夜が、ふと蘇る。
フロアの照明が沈むと、ミラーボールの光が天井から細かく降り注ぎ、床や壁にちらちらと散った。人々は抱き合い、踊るというより揺れ合っているだけのチーク。私たちもその渦に溶け込み、周囲のカップルの視線など気にならなかった。
彼女の顔は夢の膜の向こうでぼやけ、輪郭が揺れる。触れ合う体の温度や鼓動、股間の逸物が彼女の下腹に触れる感覚は、現実と夢の境界を曖昧にしていた。光の粒が彼女の髪や肩に絡みつくように漂い、胸の奥で陶然と高鳴る時間は、どれほど続いたのか分からない。
音楽は止まらず、フロア全体が微かに波打つ。人々のざわめきや拍手も、やがて夢の霧に溶け、私と彼女だけが揺れる異界の中心に残った。空気は重く、甘く、透明な光の粒が周囲を満たす。
抱き合ううちに現実の縛りは薄れ、光と影の揺らぎが空間を包む。彼女の顔はさらにぼやけ、輪郭は光に溶けて手を伸ばしても届かない。時間の流れも存在の境界も、どうやら曖昧なままだ。永遠の瞬間に漂う私たちの体だけが、確かにここにある。
やがて朝の光に引き寄せられるように意識が戻る。目を開ければ、横になった布団の感触、室温、遠くで聞こえる妻の声。夢で抱き合った彼女の体温や匂いは消え、胸の奥に淡く揺れる余韻だけが残った。
夢と現実の間に、彼女の温度だけがひっそりと漂っていた。
境界のチーク