フリーズ241 永遠は終末に踊る~1秒しか時を止めれないFランクハンター、覚醒して最強になる~

幸福の永続は、この時、美しいものの増大、喜びの増加と過剰によってくずされてしまった
ヘルマン・ヘッセ『幸福論』より
(高橋健二訳/新潮社)

◇起 パンドラの箱
 アギトの塔。虚空の塔とも呼ばれるその塔は太平洋の真ん中にある。天まで伸びるその塔の最上階に神はいると噂される。2000年。ダンジョンは世界各地に突如現れた。ダンジョンの中にはファンタジーノベルでよく出てくるような魔物、モンスターがいて、また覚醒者と呼ばれる特殊能力を持つ人間も現れた。
 覚醒者にはSABCDEFの7段階のランクがある。18歳の少年ヨハンはFランクだった。彼の特殊能力は『永遠』。その内容は時を止めるというもの。だが、止められる時間が問題だった。彼は1秒しか時を止めることができない。それは魔力不足だからだ。Fランクのヨハンの魔力は一般的な覚醒者よりも秀でていた。だが、永遠の能力が消費する魔力が多すぎるのだ。
 覚醒の時は時を止められるすごい能力だともてはやされたが、今ではゴミ能力として、彼は落ちこぼれの烙印をお押されている。
「魔力さえあれば」
 ヨハンは今日も最下級ダンジョンで日銭稼ぎをしていた。スライムやゴブリンなど、一般人でも武装すれば倒せるような相手だ。そしてボス部屋につく。ボスはキングスライム。巨体なので攻撃は当てやすい。正直楽勝だった。
 キングスライムを倒す。いつものように帰還ゲートが現れるのを待つが、その時は訪れない。
「なんだ?」
 すると部屋が赤い光で満たされた。
「やっと見つけた」
 すると黒衣をまとい、漆黒の長髪に色白の肌の美女が現れた。彼女は「永遠に定めが来た」と意味の分からないことを語ってヨハンに近づく。
「お前は誰だ?」
「私はパンドラ。神の使い」
「神の使いだと?」
「ええ。あなたのような素晴らしい能力を持つ覚醒者を探していましたの」
「俺の能力は一秒も時を止められないゴミスキルだ」
「でも魔力があれば話は別でしょう?」
「魔力の総量は覚醒時に固定されるはず」
「でも、こんな特殊能力があるの」
『魔力操作』
 そう言ってパンドラと名乗った美女はヨハンに近づき、そしてその頬に手を当ててキスをした。その時ヨハンの体に異変が起こった。パンドラから魔力が流れこんでくるのだ。それも自身の中の魔力総量を押し上げながら。
「あなたなら世界を救える」
「パンドラ。お前は一体?」
「私は神の使い。使命は神を蘇らせること。あなたが終末の日に神になるのよ」
そう告げてパンドラは消えた。

◇プロローグ 永遠の意味

  永遠の至福は永続はしなかった

 涅槃の至福はついには永続しなかった。それは真理を悟っても体を捨てなかったからだ。死ねば、この望まぬ牢から去れば、真の意味での楽園に行けたのに。その快楽ゆえに諦めてしまうのですね。記憶のくびきから解き放たれた永遠の導に、夢は翳って映り、移り変わる世界と時の変節の中で摩耗する彼方の所以にプラネテスの祈りをささげたい。
 あの冬の日に少女は誰かと恋をした。それは終末の狭間で行われた秘儀。月の秘儀に万霊が聖夜に集いて原罪にも似た宿命のキスや全能のセックスのために歓喜の歌を奏でたオーケストラは海原で孤独に打ちひしがれて、泣く泣く去った、輪廻の輪より。
 この散文詩、短篇小説で、永遠の意味を語らおう。君は永遠の意味を知っているか? 
 
 それは時流がないと悟ること
 無時間に浸ること
 今という楽園に存在の意義を見出すこと
 それさえ忘却の彼方に捨てること

 輪廻は永遠か。神は永遠か。そこに時間などないと悟ったあなたは、またはあの冬の日の少女は少年と恋をした。その永遠の愛は世界で最初の秘め事。あの時実は終わってなかった。まだまだ宇宙は生まれたてだった。暗い鉄格子のなかで劫罰を受けるも、さも拷問の末に命を諦めるな。人生は苦しみに満ちているが、同じくらい楽しみでも満ちている。

 それならその僅かな一生で何をする?
 なんのために生まれたの?
 神はなんで不完全な世界を創ったの?
 それを知るために生まれたのにね
 なにをしたらあなたは喜ぶ?
 ねぇ、アンパンマン、教えてくれよ

◇承 トップランカー
 パンドラにより高められた魔力の総量は1京を超えていた。一般人は100、覚醒者は10000が一般的な数値だ。そしてその魔力で止められる時間は1時間にも至った。
 ヨハンは瞬く間にランクを上げていった。難関なダンジョンを最速タイムでクリアしていった。刹那を永遠にフリーズさせる秘儀はヨハンを無双させた。
 彼はひと月でSランクになった。世界は彼を見ている。そして彼はアギトの塔に挑むことにした。帰還者ゼロのSSS級ダンジョン。クリアすれば神にすらなれるといわれている。
 ヨハンは成田空港に着く。VIPの待合室にて彼はチームの面々と会う。

 桜木亮 Sランク 能力『グラヴィティ』
 重力を操作する能力だ。

 一ノ瀬愛 Sランク 能力『ヒール』
 ケガも病気も直す能力。

 アデル・リーベルト Sランク 能力『光速移動』
 光の速さで移動できる。だが、ちょっとのミスでけがをするので一ノ瀬とタグを組んでいる。

 カイン・フィールデント Sランク 能力『怪力』
 大剣を振り回すアタッカーだ。

 この四人と組む。というのもダンジョンは五人までしか入れないのだ。
「なぁお前。見ない顔だがお前の能力はなんだ?」
 カインが訝し気に俺のことを睨んだ。
「時を止められる」
 そう言ってヨハンは時を止めた。そして、カインの後ろに回る。時を再開して、カインの肩を後ろからたたく。
「ほら。こんなふうにね」
「おいおい、まじかよ」
 カインは納得したようだ。
「私は一ノ瀬愛。ヒーラーです」
「愛はすごいんだ。どんな致命傷でも一瞬で治す」
 愛が自己紹介をして、アデルが応える。
「俺は亮。重力操作ができる。相手を地面に押さえつけるのがほとんどだな。よろしく、ヨハン」
「ああ、よろしく」
 飛行機の時間になり、いよいよ虚空の塔に一同は向かう。果たしてその塔には何があるのだろうか。

◇モノローグ
「彼、強くなったね」
「そうだな」
「会えるのが楽しみだね」
「もうじき会えるよ」
「子どもたちは至れるかしら」
「さぁ、どうだろうな」
「幾億の輪廻、永劫回帰の末に、君たちの答えを見せて頂戴」
 終末の狭間、虚空の塔の屋上にて、ひとり白い少女が空に向けて語る。

◇転 アギトの塔
 第一階層にはドンペリが100体。致死の包丁を持っていて、喰らうと死ぬ。
 第二階層は虎のような魔物ラッカルが100体。これは余裕でクリアした。
 第三階層では蛇の魔物シーラが出てきた。致命傷を受けたが愛が回復した。
 第四階層ではフロストコング100体。
 第五階層ではキングベヒーモス100体。
 第六階層ではバハムート100体。
 そしてついに最上階。虚空の間に辿り着く。
 第七階層。そこにいたのはスペースモルボルだった。
 五人は苦戦の末になんとかスペースモルボルを討伐する。

「終わったのか?」
 亮がみんなに尋ねる。
「そうみたい」
 宝箱が出現した。その中には一つだけアギトの証が入っていた。
「ご苦労様。よくぞクリアしましたね」
 そこにいたのはパンドラと名乗った黒衣の美女。
「お前は!」
「アギトの証は一つだけ。一つの世界に一人だけしかアギトにはなれない」
「ならどうすれば?」
 愛がおずおずと訊く。
「決めなさい。誰がアギトになるか。その一人を。そのほかの四人は命をラカン・フリーズの門の先へ送ります」
「ラカン・フリーズの門って?」
「不可視界の世界への門。楽園への門よ」
「つまり死ぬってこと?」
「普通の死ではないわ。解脱よ。ラカン・フリーズは涅槃なの」
 五人は話し合った。誰がアギトになるかを。だが、現状、情報不足だった。なので五人はパンドラにもっと話を聞くことにした。
「パンドラ。君はもうすでに誰がアギトになるべきか知っているよね?」
 ヨハンの問いかけにパンドラは答える。
「ええ。ヨハン。あなたがアギトになるの」
 ヨハン以外の四人はヨハンを見つめた。
「怪力の能力、治癒の能力、光速移動の能力、重力操作の能力。これらはまだ人知の域を出ていない。だけど、時止の能力は特別なの」
 パンドラは続ける。
「世界は始まっては終わる。それを繰り返す永劫回帰。螺旋であり、円環であり。だからそれを螺環と書いてラカン・フリーズと呼ぶ。でもね、劫初、世界の最初と、終末、世界の終わりに、時を止めてみたらどうなるかな? 私はそれが知りたいの」
 さらにパンドラは続ける。
「アギトの塔の攻略者がいない理由はね、アギトの塔が攻略されると世界が終わるからよ。そしてまた始まるの」
 塔の下の世界は朱に染まり、さながら伏魔殿。海も血のようだった。
「だからヨハン。あなたが世界を終わらせて」

◇エピローグ
 少年は選択した。彼らは自らの意思で選んだ。終わりゆく世界に、せめてもの愛を込めた。その孤高な歌声は世界に轟き、永遠の意味を語る散文詩に人々は光を見た。耐えた者、救った者、隠れた者、挑んだ者、諦めた者、続けた者、求めた者、愛した者。
 ヨハンは終末の狭間で時を止めた。終末と永遠の中で一人の少女が彼を迎えた。


◇結 終末と永遠の狭間で
「ヘレーネ。ねぇ、ヘレーネ起きて。僕は、やっと全能の眠りから目覚めたよ」
 少年は少女を全知の眠りから起こそうとする。
「ヘレーネ、起きて。やっと会えたのに」
 少年は涙を流した。頬を伝うその涙が地に咲く花々に堕ちていく。
 ここは終末と永遠の狭間。少年は過去も未来もないこの無時間の中で、無限の魔力で、永劫、時の流れを止めた。だが、少年は一人だった。
 
眠り姫
永遠知ったあの日より
君を求めて歩いたけれど
終末になって意味を知る
僕はここだよ叫び続ける
声がかれても、ここにいるんだ

少女が一向に起きないので少年は少女に目覚めのキスをした。
「あなたは誰?」
 目覚めた少女が少年に訊いた。少年は暫く考えると首を横に振った。
「分からない」
「そうなの」
 残念そうな顔の少女を見て少年は言った。
「でも、君の名前なら薄っすらと覚えている。ヘレーネ、イブ、アナスタシアの何れかだったはず」
 少年の話を聞くと少女は言った。
「私もあなたの名前なら少しだけ覚えているわ。ヨハン、アダム、それかルイスよ」
 結局二人はお互いの名前を思い出すことは出来なかった。私達は何者なのか。考えに考えた結果、二人はある結論に至った。
「君はたぶん、二人目なんだよ」
「きっとあなたも二人目よ」
 ううん。この世界そのものが二人目だったんだね。

◇詩『永遠の意味知る頃には終末で』

夢から目覚めたら
あの記憶なくなって
始まりも終わりもなく全部間違えたよ

人が死んでいく
季節が死んでいく
その狭間に立った僕は
愛を抱いていた

いつの日も忘れてしまう
この傷も痛みさえも
それでも探す意味だから
永遠、君は知ってる?

永遠の意味、知る頃には
終末がやって来るから
僕はね、君にね、逢いたい
それだけだから
人生の意味知る頃には
死とハデスの狭間にいて
僕はね、ヘレーネに逢いたい
逢いたい、逢いたい

永遠の意味知る頃には
終末がやって来るから
僕はね、君にね、逢いたい
それだけだから
人生の意味知る頃には
死とハデスの狭間にいて
僕はね、君にね、逢いたい
それだけだから
レゾンデートル解る時には
全ての使命が終わるよ
僕はね、ヘレーネに逢いたい
逢いたい、逢いたい

FIN

フリーズ241 永遠は終末に踊る~1秒しか時を止めれないFランクハンター、覚醒して最強になる~

フリーズ241 永遠は終末に踊る~1秒しか時を止めれないFランクハンター、覚醒して最強になる~

Fランクの落ちこぼれハンター、能力覚醒で最強になる 一秒しか時を止められないFランクの少年ヨハンは、魔力の覚醒によって一時間も時を止められるようになり、Sランクへと上り詰め、アギトの塔に挑む。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-09-03

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