
(2025年~)TOKIの世界譚⑦プラズマ編
世界大戦から世界改変が行われた。
その原因となったのは時神未来神、
湯瀬プラズマ(紅雷王)。
アマテラス大神など多数の神が消えてしまった世界改変は歴史神ナオがおこなった時神記憶置換事件の元となった。
未来が見えるプラズマを壊してしまった世界大戦の現実と世界改変の全貌があきらかに。
夢の世界に戦火の日
ある少年が笑っている。
元気の出る注射をしてもらったと。
もうひとりの青年は照れていた。
好きな彼女から「チョコレイト」をもらったと。
彼女は泣いていたが、自分は嬉しかったと言った。
それから時間が経たずに男達は狂っていった。軍の幹部ですらも笑いながら刀を振り回していた。
親は「国のために頑張りなさい」と泣きながら息子を送り出した。
息子は「さようなら」と言って消えた。
敵にやられた。
仲間が沢山やられた。
復讐してやる。
あの憎いやつらを全員殺してやる。
この俺が。
仲間のかたきをとってやる。
お前ら、安心していけ。
安心して……死ね。
沢山のヒコウキが敵戦艦に墜落した。
敵に落とされたわけではない。
自分から……戦艦に当たりに行ったのである。
命中! 命中!
「ー……隊命中。……隊も命中。……隊、引き続きいけ!」
「アハハハハ! アーヒャハハハ! 敵戦艦発見ー!」
「お母さん、お母さん……お守りください、お守りください……死にたくないィ!」
狂って笑いながら死ぬ者、泣きながら死ぬ者……人はそれぞれの想いを抱くがその後は何も残らない。
何も残らない。
残るものは残された者……。
「……元気の出る注射、泣き崩れた彼女からもらうチョコレイト……全部、与えられた方は知らない。それに何が入っていたかなんて……。皆、恐怖をなくして笑って死ねる」
夏が終わる。
暑い夏が。
赤い髪の青年、プラズマはうちわで扇ぎながら落ちていく夕日を眺めていた。
「日は明日ものぼる……。でも明日には今日話した人はいない」
プラズマはぼんやりしながら雲が流れる様を見ていた。
「なんでこんなこと、思い出しているんだろう。俺は」
いつの間にかうちわで扇ぐほど暑くはなくなっていた。それなのにプラズマはまだうちわで扇いでいる。
呆然と沈む太陽を眺めている。
「プラズマ……? お風呂」
茶色の短い髪の少女アヤが障子扉から顔を出し、プラズマを呼んだ。しかしプラズマは振り向かなかった。
「プラズマ……、お風呂沸いたわよ……。どうぞ……」
アヤはさらに控えめに声をかけた。
「プラズマさん、なんかぼうっとしてるね」
アヤの横から三つ編みの少女リカが顔を出した。
「……リカ、最近、プラズマ、変なのよね」
「ちょっと声あげます! プラズマさん! お風呂です!」
リカの声でプラズマが振り向いた。
「あ、ああ……リカとアヤ」
「どうしたんですか? ずっとぼうっとしてて……」
リカに尋ねられ、プラズマは頭を抱えた。
「ずいぶん冷えてきたなあって……」
「もう、うちわで扇ぐほど暑くないですよ」
「ああ……まあ……」
プラズマは苦笑いを浮かべつつ、立ち上がった。
「お風呂、先に入っていいの? いつも、俺を一番先にしてくれるけど、そういう気遣い、しなくていいのに。お風呂、汚れちゃうよ」
「……あなたはいつもきれいじゃないの。きれいにしてからお風呂に入ってくれてる。今日はこばるとをお風呂に入れてくれるかしら? 栄次が珍しくうたた寝してるのよ」
アヤの下から黒髪の少年が顔を出した。
「ああ、わかったよ。こばると、風呂入ろ!」
「やった! お風呂だ! お風呂用クレヨン持ってくる!」
黒髪のかわいらしい少年、こばるとは楽しそうに走っていった。
「ちょっと! こばると!」
アヤは落ち着きのないこばるとに頭を抱えた。
「あー、いいよ。子供なんて皆こんなもんだ。お風呂で遊んで、歯磨きして、絵本読んで寝かせておくよ。アヤとリカは映画でも観て、女子会してなよ」
「プラズマさん、大丈夫ですか? こばると君、素っ裸で走り出したりしますけど。お風呂の後……」
リカにそう言われたプラズマは笑ってしまった。
「大丈夫だよ。あれだろ? いつも栄次に怒られてるだろ、こばると」
「まあ……ええ、そうですね」
リカが苦笑いを浮かべたところで男の声が響く。
「こばると! 脱いだ物をそのままにするのではなく、ちゃんと一ヵ所に! って待て! 裸でうろつくな。風邪を引くぞ!」
「栄次……起きちゃったわ」
「いいよ、俺が入れるから」
アヤがあきれていたので、プラズマはそのまま廊下を歩き、こばるとの元へと向かった。
二話
プラズマは未来見でこばるとの動きを予測し、こばるとを捕まえるとこばるとの尻を軽く叩いた。
「裸で走り回るな、コラ」
「お風呂用クレヨンがない!」
「今日はオモチャにしよう。お風呂クレヨンは風呂の壁を掃除すんのが大変なんだよ……」
「ま、いっか!」
「はい、じゃ、お風呂だな」
てきとうな会話をしつつ、プラズマはこばるととお風呂に入る。プラズマはこばるとの頭と体を一緒に洗い、頭からシャワーをぶっかけた。
「ちょ! 目にお水入った!」
「こんくらい大丈夫だろ……。もしや顔を水で洗えないのか?」
「洗えないよ! 栄次はもっと丁寧に洗ってくれるのにー! 栄次、シャンプー、リンス、体洗うやつわけてるし、シャワーもおでこに手を当てて水こないようにしてくれる!」
「あの男、マメだなあ……。まぁ、慣れ慣れ! アハハ」
「むー! まあ、いいや。はい、オモチャ! 船と飛行機だよ!」
こばるとは風呂のヘリに置いてあったオモチャを二つ持つと遊び始めた。
「まず、お風呂に入ろうぜ」
プラズマがこばるとを風呂釜の中に入れ、自分も入った。
「それで? 何するの?」
プラズマが尋ねるとこばるとは突然に飛行機を動かし、お話を始めた。
「せんかい! せんかーい! あ、船ばーさす飛行機ね!」
「……ああ……」
プラズマは一緒に遊んでやりながら、爆弾を落とすヒコウキを思い出していた。
……こうやって飛んできて……
……こうやって爆弾を……
浮いている船を見て空母艦を思い出していた。
……こうやってヒコウキが飛んでいった。敵空母にこうやって落ちた。
敵空母艦は海に沈んだ。
「ちょっとプラズマ! 船を沈めないでよ!」
「あ、ああ、ごめん」
こばるとを見て当時の少年を思い出した。
……俺も! お国のためになんかする! このまま負けっぱなしでいいわけない! あいつらはなんだ、国の敵だ!
……あのな、向こうもこの国のせいで沢山の人が死んでいるんだ……。向こうもこちらと同じ心情なんだよ。
……許さない。お兄さんはどっちの立場なの? このまま負けっぱなしでいいの? 知ってるんだ。負けてるの。
国は勝ってるっていうんだけどね。
プラズマは顔を歪めた。
……お母さん、落ちてきたヤツで死んだよ。弟はたぶん生きてる。
ほら、おんぶしたんだ。
まだ首がすわってないから、ぐにゃぐにゃだよ。赤ちゃんだから動かないし。
それから少し風邪をひいてるみたい。
氷みたいに冷たいんだ。
これ、いつ終わるのかな。
あいつら、全員殺してやりたい。
背負った赤子は動かない。
少年は火の海で顔を真っ黒にさせたまま、プラズマを睨み付けていた。
こんな状態で向こうの肩も持つのかと。
「プラズマ! プラズマ!」
「はっ!」
プラズマは我に返った。こばるとが心配そうにプラズマを見つめる。
「ああ、ごめん……ごめんな」
プラズマは慌ててあやまった。
「なんで、泣いてるの? お話、おもしろくなかった?」
こばるとの発言でプラズマは泣いていることに気づいた。
「いや、独創的だった。こばると、涙ってな、嬉しくても出るんだぞ。笑い泣きって知ってる?」
プラズマが笑ったことでこばるとは安心した。のぼせるからとふたりはお風呂から出た。こばるとの頭をふいてやりながらプラズマはぼんやり思った。
……なぜ、未来神なのに過去を思い出しているのか。
ドライヤーでこばるとの髪をかわかしながら違和感のある恐怖を覚える。
時神は全員そろった。
トラッシュボックス黄泉から救われたこばるとは常に「葬り去られた過去」を引っ張り出してくる。
世界大戦より前の、改変する前の世界をこばるとは映し出す……。
なにも知らない彼の瞳にうつるのは、旧世界の歴史とアマテラス大神だ。
アマテラス……大神……は伍(ご)にいる。
三話
こばるとを寝かせたプラズマは縁側に腰をかけた。真っ暗な庭に虫の声が響く。鳴いているのは秋の虫だ。
プラズマは欠けた月を見上げ、歌を口ずさみ始めた。
「深いわだちのただの道、踏みしめ歩く若者は、戦車の道を突き進む。銃器火器などもろもろに、狙いを定め歩きます……」
風が通りすぎる。
「色んな歌があったな……そういえば。女は乗せない戦闘機……とか」
プラズマは月をぼんやり見つめ、つぶやいた。
「ああ、ダメだ。もう眠い」
あらかじめ持ってきていた一杯の水を飲み干すとプラズマは寝室に戻った。
ここ最近、世界改変あたりのことをよく思い出す。アマテラス大神はまだプラズマの記憶には出てこない。
眠りたくない。夢にまで出そうだ。
「なんだ、この、強烈な眠気は」
プラズマは半分気絶する勢いで布団にくるまった。
秋の虫が鳴いている。
※※
「準備できたかね?」
金色の髪に着物姿の少女は残りの三柱の少女に声をかける。三柱とも金色の髪に同じような目をしていることから姉妹のようだ。
「マイお姉ちゃん、ちょっと音響の方が……」
なにやら絵を描いている少女は笛を持っている少女を心配そうに見つめる。
「セイ、BGM がでかいな」
「もうちょい下げます!」
ツインテールの笛持ち少女セイは指を動かしなにやら調整を始めた。
「ライ、背景美術は完璧だな」
マイお姉ちゃんと呼ばれた着物姿の少女は絵を微調整していたライを褒め、ライは筆を動かしながら喜んだ。
「マイお姉ちゃんのお人形がちゃんと映えるように背景は描きこまないとね」
「後はユイだが……」
マイは背中を向けて座っている少女に目を向けた。少女はプログラミング作業のようなものをずっと繰り返していた。
「こんな機会ないぜぃ! 黄泉にいっちゃってた『世界の過去』を掘り起こしてゲーム作れるなんてなぁ! 最強の創作だ!」
「ユイ、けっこう作り込んでるね」
ライはユイを眺めつつ、マイにつぶやいた。
「演劇などが専門の私達にはわからん内容だが、現実世界をシミュレーションできるゲームなのはおもしろい」
「いや、それはいいんだけど、私達、ワイズに怒られないかな? ワイズ、旧世界関係嫌いじゃん……」
「ワイズは止めに来ていない。このままワイズに一泡ふかせてやろう」
マイは傀儡人形を持ち、楽しそうに笑った。
四話
「……オイ。ここはどこだよ……」
赤い髪の高身長の青年、プラズマはどこかの丘で大の字で倒れていた。
「んー……何があったのかまるで思い出せない……」
「……そうね」
ふと、横から少女の声がした。
「……アヤ!」
茶色の髪をした低身長の少女はぼんやりしながら座り込んでいた。
「な、何も思い出せなくて、変な草原にいてって、昨日俺達酒飲んでいたっけ? もしくはなんかやった?」
「……いえ、何にもしてないわ。それで、何もないわ」
焦るプラズマにアヤは淡々と答えた。
「ああ、良かった……。アヤ、何があったか覚えてる?」
「……なんにも。でも昨日は宴会はしてないわよ。それは覚えてる。それに、ここ、現代じゃないわよね? 見て、あれ」
アヤは林の奥を指差した。林の奥で何故か甲冑姿の男性が複数走って行った。
「え、映画の撮影とか?」
「そんなわけないでしょう? 私達は時神よ。なんかで時を渡ってしまったのよ」
アヤがそう言うがプラズマは首を傾げた。
「そんな簡単に時は渡れない……。それにあの人間、なんかホログラムみたいに影が薄かったり濃かったりしないか?」
「……調べましょう。情報が足らなすぎる」
「ああ。そうだな」
アヤとプラズマは草原から静かに離れて甲冑姿の男性らが走り去った方へと向かった。
足軽だと思われる人達を追いかけ、林の中へと進む。
「見つからないようにしよう」
「隠れながらついていくこと、私はできる自身がないわ……」
「俺だってそうだよ……。更夜(こうや)がいたらなあ……。忍者だし」
プラズマは頭を抱えながら追いかける。ついていくと、山の中腹に燃えている城があった。足軽達は燃え盛る城周辺を囲って鬨(とき)の声を上げていた。
「戦国時代……か?」
二人は茂みに隠れながら、槍を持った男達を眺める。
「こんな……感じなの? 戦争はいやね……」
「……うーん」
プラズマはアヤの発言に首を傾げた。
戦国時代かと言われればなんだかファンタジーな気もした。だが、本当にあったかのようにも感じる。
「どうしましょう? これから……」
「よくわかんないが、戦からとりあえず離れようか。こんなあぶねぇ場所じゃなくてもっと安全な場所から情報集めよう」
プラズマはアヤを連れ、城周辺から離れた。
※※
「……オイ、起きろ」
「そうだー! 起きろー!」
男性の声と小さな子供の声がする。
三つ編みの少女リカは眠たそうに目を開けた。
「んー……なんで更夜(こうや)さんとルナが?」
メガネをかけた銀髪の青年更夜と、同じく銀髪の幼い少女ルナがなぜか寝ているリカを眺めていた。
「あ、あの……僕もいますー。どうも」
遠くの空から、足についたウィングをうまく動かし飛んできた少年は控えめにリカに挨拶をしてきた。
「えーと……なんでトケイさんまで……」
リカは橙の短い髪の少年、トケイを視界にいれ、頭を悩ませる。リカは昨夜、アヤと泣ける恋愛ドラマを観てから寝室に行き、寝たはずだ。そもそもなんで外で寝ているのか。
「……あの、私はなんで森の中で寝ているんですかね……。しかも、ここはどこなんですかね?」
辺りは暗く、森林の匂いが立ち込めていて、時間はわからないが夜中であることはなんとなくわかる。
「よくわからん。俺達も突然ここに来ていた。場所からなにからわからんので、空を飛べるトケイに調査してもらっていたところだ」
「このメンバー以外の時神さんはいます? スズちゃんも……」
「……いや、この辺りにはいないようだな。今、いるのは俺とルナ、トケイにお前だ」
更夜はトケイが書き込んだ地図を眺める。この周辺の森の中に集落があるらしい。
「見たことのない地形だな……。崖の上に集落があるのか……」
「なんか、村みたいな所が明るくてさ、夜中かなって思ったけど違うのかな。灯りが灯ってて、なんか人が歩いてる」
トケイが身振り手振りで説明し、更夜は眉を寄せた。
「現代に来たわけではないよな?」
「なんかね、町並みは古い気がする」
「……古い町並みで崖の上の集落で、夜なのに明るいのか……奇妙だな」
「おじいちゃん! 行ってみる?」
ルナがにこやかに答えた時、更夜の顔がさらに曇った。
「まさか……いろまち……」
「おじいちゃん?」
ルナの不思議そうな顔を見つつ、更夜はリカとトケイに耳打ちをした。
「崖の上にそういう町は現代にあるか?」
「いやいや、ないですよ……。崖の上なんて危ないし……」
リカが苦笑いで答え、更夜はさらに唸った。
「じゃあ、なんだ……」
「わかりませんけど、見に行ってみるしか……。だいたい手がかりが人の集落しかないじゃないですか……。どこかもわかりませんし……」
リカに言われ、更夜は頭を抱えつつ、頷いた。
「ま、まあ……そうだな。行くか」
「わーい! なにがあるかなー! ゲームみたいだね!」
ルナが騒ぎ、リカはゲームなのではないかと直感で思った。
とりあえず、一同は山の上の集落目指して歩き始めた。トケイが上から場所を指示する。暗い山の中は夜目がきく更夜が先頭を歩き、間にルナ、最後にリカと続いた。
「……やはり、他の時神の力は感じない……」
「この世界は弐の世界なんでしょうか?」
リカが尋ね、ルナが答えた。
「そうっぽいけど、違う気もする! 想像に人がいないような……」
「想像に人がいない……。人が関与していないということか」
更夜に聞かれたルナは眉を寄せて首を傾げた。
「ルナ、わかんない」
「だ、だよな……」
更夜がため息混じりに返答した時、トケイが声を上げた。
「でも、なんかほら! ステータス画面みたいのを開けるよ!」
「はあ?」
トケイの言葉に一同はいっせいに同じ言葉を発した。
「う、嘘じゃないよ、ほら! なんかレベルみたいのが……」
焦るトケイの横に体力、神力、名前、レベルが電子文字で浮いていた。
「なんだこれは……」
「あはは! おもしろーい!」
蒼白になった更夜と大笑いしているルナにリカは目を細める。
「まるでゲームみたいですが……。誰かにハメられてゲーム世界に飛んだかなんかなんでしょうかね? 少なくとも、現代ではないです……」
「……そうか。調べる必要がありそうだな……」
更夜は頭を抱えつつ、再び歩きだした。
(2025年~)TOKIの世界譚⑦プラズマ編