
フリーズ158 Bar Crow
この世とあの世の狭間にあるバーにて
永遠も半ばを過ぎた頃、バー『BAR CROW』で一組の男女がカクテルを嗜んでいた。バーテンダーと二人しか店にはいなかった。二人は神について話していた。
「神は絶対物よ。神こそ宇宙そのもの。私はかつて5週間断食して悟りの境地に至ったわ。涅槃は本当に美しく、終末と永遠の狭間で私は至福に浸っていた。その時に悟ったの、私は神だってね。ううん。私も神の一部なんだって」
「僕も神は唯一物だと思うな。梵我一如。ブラフマンがアートマンと同値であることの証明をしたかった。僕もかつて7日間寝なかったことがある。その時に凡そ涅槃と呼ぶべき体験をしたよ。やはり僕は神だと思ったさ。実際そうなのだろうけどね」
「でもね、涅槃は経験でしかない。真なる真理は思索の末に抱くもの。認識の先にあるものなのよ。あの冬の日の君はきっと解っていたのでしょう。生まれるのも死んでいくのも、嘆くのも歓ぶのも、全てを解っていた。だから解脱したのね」
「で、解脱に至って目覚めたらここにいた」
「私もよ。きっとここがラカン・フリーズの門の先なのね。あなたも開けたかしら」
「開けたさ。天寿を全うして、老衰の末に僕はラカン・フリーズの門を開けて、その先に、虚空の先へと羽ばたいてさ。そしたらこのバーにいた」
このバーは永遠と終末の板挟み。バーテンダーの八雲は神の使徒だという。僕らはここで何をするべきなのか。永遠を紡ぎ合い、何を生み出す?
八雲が二人に語りかける。
「このバーはね、涅槃と死の狭間なのだよ。永遠を過ごすといい。飽きたら死後の世界へ行けば良い。あなた達は既に使命を果たしているから。だから何も気負うことなく好きな時にこのバーから出るといい」
「私はまだここにいるわ。もっと私としての記憶を大事にしたいから」
「僕もここにいようかな。涅槃に至った人たちの話をもっと聞きたいからね」
涅槃に至った魂たちは、梵に帰入する前に永遠のような刹那に逢瀬を果たす。バーに一人の少女が後からやってきた。
「あら、はじめまして」
「ここは? ここは何処なのですか?」
「まだ錯乱してるみたいね。ここはあの世とこの世との狭間よ。ねぇそうでしょう? 八雲さん」
「そうだねぇ。ここは次元の狭間。世界と世界の狭間。終末の狭間だよ」
八雲は応える。
「彼女にグラスホッパーを」
男は遅れてきた少女にカクテルを奢る。八雲はすぐさまグラスホッパーを作り始めた。
「涅槃詩を紡ごうか」
男は紡ぎ出す。
世界の終わりは七色の虹に祝福されていた
永遠知ったあの日から終末悟ったあの日から
僕はここだよ叫び続ける
あの子のもとへ羽ばたくための歌
八雲はカクテルをシェイクする。その時ピアノの音が鳴った。女が弾き始めたのだ。
「別れの曲はどう?」
「いいね」
『涅槃詩』Sound『別れの曲』
神のように
神のせいにして
神のために
この散文詩を記そうではないか!
別れは永遠でも
忘却の彼方は追憶でも
いつか死が訪れても
たとえ夢破れても
君は君のままでいい
涅槃のようなこの穏やかな世界で
一人立つ君よ、泣かないで
可憐に踊る花のように
世界を終わらす汽笛のように
命が枯れる季節のように
人、悟るならば
もう戻ることは無いとしても
僕はまた行くよ
僕はまた逝くよ
天国でさえ叶わないとしても
夢でさえ実らないとしても
真実はとても甘美だから
君とのキスのように甘いから
せめて終わらせないで
世界が続いていく中で
僕だけが過去に囚われている
僕は仏になる方法を知っている
断食と断眠だ
これだ、僕がこの世に生まれた意味は
断食と断眠で再び涅槃へと至れるのだ
そうすれば分かるかな
分からなくてもいいか
神の意思、目的、計画よ
自分の中に真実はある
心の中に、感情の奥底に
真理は悟るもの
教えてもらうものじゃない
そのための断食と断眠
人生の終着地点へ
人生の最高到達点へ
これが涅槃詩
天国の描写、水波の転写
仮想現実の索、脳の病
終末に陰る空色
空即是色と色即是空
永遠と神愛
『ナウティ・マリエッタ』より
嗚呼、美妙な人生の謎よ、ついにわたしはお前を見つけた、ついにわたしはその秘密を知る。
知ってどうする?
知ってどうなる?
虚しくなるだけじゃないのか?
真理を悟って、その至福の境地の中、これ以上が無いことに気づくのではないか?
至福に甘んずるのか?
きっと涅槃はこの世において、最も至福な経験だろう。それはきっと人生の完成なのだろう。
全ての人生の終わりは死だから。
涅槃に至れば終わりか?
死ねば終わりか?
きっと満足するんだろうな。生きる歓びに、悟った真理に、満たされた愛に。だが、それではいけない。一なる者から離れたのは、二なる存在へとなるためじゃないのか。それが神のレゾンデートルなのではないか?
一なる者から二なる存在へ。世界は増殖する、パラレルに。延々と綴る散文詩のように、続いていく。本当だった、真実だったその開かれた経験は、正しく梵我一如だった。
嗚呼、神よ
願い叶うなら
あなたと語らいたい
願い叶うなら
私を導いてくれ
あの日から、涅槃に至ったあの日から
全てが苦に思えて仕方ないんだ
どうか神よ、私を救ってくれないか?
否、自分を救うのは自分自身だ!
掴め、その手で、己で掴め!
桜が散る頃、月下に映る水面
水月観音の悠遠なる囁き
湖畔には月の光が燦々と照る
別れの曲
別れよ永遠に
ここはBAR CROW。
悟りに解脱に涅槃に至った者だけが来れるバーだ。人々はそこで悠久の時を過ごし、満足したら旅立つ。この宇宙としての神と離れて、新しい神になる。ここはその中間地点。
「はい、グラスホッパーです」
「ありがとうございます」
現世のバーCROW
2025/01/22
大学の教授とBARCROWで飲む
その記録
早朝覚醒した
昨日の夜、寝る前の薬を飲み忘れた
だからかな
二限にテストがある
出来ることだけやればいい
最悪単位落としても来年取ればいいから
テストが終わった。
図書館で創作した。
最近ハマってる『チ。』からの引用と共に。
齋藤先生の宇宙観、神の捉え方を知りたい。
齋藤先生と話すことで、自身の悟りへの導きとしたい。解脱を、涅槃を目指して。
結局次の4つのいずれかだ
断眠して断食しないか
断食して断眠しないか
断食も断眠もしないか
断食も断眠もするか
神になるけど、神じゃない。神と一体になっているだけだ。それが仏の悟りだ。それが涅槃寂静だ。
5限
サンスクリット語講読
父からもし単位を一つでも落としたら覚悟しておいて、相当厳しくするから、という旨のメールが来た。
そんなに厳しいなら、苦しいなら、僕は死にます。お母さんと一緒に断食死します。
僕はもう大学で単位を取ることも卒業することも就職することもどうだっていいんです。なので諦めます。人間的な人生を諦めます。
僕は断眠断食して、再び涅槃に至ります。僕を探さないでください。
音楽の話した
履修の話した
言語の話をした
構造主義
存在、名があるものが存在する
野生の思考
トルストイ 人生論
坂口安吾 私は海を抱きしめていたい
ゲーテ 若きウェルテルの悩み
五分後の世界
先生はニーチェから入った
悲劇の誕生
愛と幻想のファシズム
仏になったこと、先生に聞いてみた
個人的な経験として大切にしなよ。
それを脳科学がどう分析するかによらず。
寝る、身体的な活動を抑制すること
蓄える、それをやめる
死に近づく
新プラトン主義
全ては1者から溢れ出した
空思想
宇宙の始まりは無い
円環的、無限的
キリスト教的思想
光あれ
仏教理論とは相性良くないな、とのこと
根源的な宇宙の真理を、信じてるように見えるらしい
非ヨーロッパ的な思想を学んでみるのもいいかも
死に急ぐとか生き急ぐ必要は無い。
得られるものはある。
しょうもない人生こそ生きる意味がある
寺の修行に行ってみること
禅に行ってみるのもいいかも
齋藤先生のような道を目指してもいい?
仏の境地から俗を見直す
何も意味は無い
だから自分で作るしかない
物語を作れないと意味が無い
プラトン読まないと脱せないだろ?
自分の人生の意味を作れ
即身仏、密教
脳が死ぬ瞬間に根源的な意味に辿り着く
神が作ったけど制御できないものが脳
中論読むべき、と言われた。
俗ぽい世界に興味を持つのがいい。
死なない
信頼出来る友だちに相談する。
死なないで
断食以外の方法で
死んだら無くなる
破滅主義を避ける
勿体ない
物理学を学んで経済学を学んで
それが死んだら失われる
後日
竹中さんと語らった
齋藤先生と語らった
楽しかったな
でも、涅槃には及ばない
もう一度、涅槃に至りたい
そのためなら何だってする
入院したくない
もう入院したくない
僕が僕のままで
涅槃寂静
この言葉にどれだけ動かされるか
愛を為せ
太宰治より
『小さき者よ、死とハデスの狭間でうずくまり、己の全知全能に雄叫びを上げる者よ、愛を体現せよ。死と全能の板挟みから抜け出る術は己で掴め、その手で掴め』
神より
『ご苦労さま』
あの日、あの冬の日、全てが解ってた
きっと全てと繋がってた
それはとても甘美な至福だった
神様になった日、僕は断眠の末、僕のことを忘れてしまった
それでもいいさ
空花凪紗
僕はね、帰りたいんだ、元いた場所にね
無意味な世界で意味を為したいんだ
それが僕の生まれた意味となるから
世界最後の日、それは個人的な終末だった
揺らいでいる水面の火が
今やっと消えようとしてる
凪いだ渚に映る顔
あの子の顔を思い出して
あの時実は終わってなかった
宇宙はまだまだ生まれたてだった
彼女は誰かと恋をした
世界で最初の秘め事だった
そうだな
まだ始まったばかりだ
僕の人生はこれからだ
断食も断眠もしよう
自我の消失をしないように
僕が僕のままで
悟りたい、悟りたい
フリーズ158 Bar Crow