掌編集 33

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321 着痩せするから

 もこもこだけど着痩せするの。
 冬に出会うと騙される。
 顔は小さいし、首は細い。胸は小さめ、下半身はどっしり。おなかなんてモコモコ。二の腕はプヨプヨ。
 
 冬はいいわ。
 高い矯正下着買ったから、見かけはまあまあ。
 コート着て歩けば、知らない誰かが声かける。

 でも、矯正下着取ったら……
 無理だって!

 はい、さよなら。

 私の、なにが好きだったの?


【お題】 もこもこの恋

322 女は7掛けよ

 ブティックに勤めていた頃、本部の部長がミーティングでよく言ってたのが、
「女は7掛け」

 年齢層の高い店だから年より10歳若い服を……ではなくて、7掛けの服をお勧めするのだ。
 
 だから私は40代。
 

 調べたら『人生は7掛け』という言葉があった。

『高齢化が進むなか、一方で人の身体年齢はどんどん若返っている。
 漫画「サザエさん」の波平さんは54歳、フネさんは48歳、天才バカボンは41歳だ。
 現代の健康な人々の身体はひと昔に比べ実際の年齢の七掛けと言われる。これを「年齢七掛け説」または人生七掛け説)と言う』

 
 以前投稿したが、87歳の男性とゴルフをした。

 その殿方は、お孫さんが8人、ひ孫ちゃんがふたりいらっしゃる。
 去年脳に水が溜まり手術なさった。体重が36キロまで落ち、46キロまで回復して、自分で運転していらした。(ちょっと心配だけど)
 優しくて、偉そうなことは言わず、腰が低くて、ずっとカートを運転して、私のボールも探してくれた。

 昼食のトマトパスタを3分の1は残していた。1度に食べられないのかな?

 でも、87だよ。87歳。
 おったまげー!

 私も75歳までゴルフができたら、なんて思ってたけど、考えを改めた。
 88歳まで頑張る。
 88歳といえば、施設で介護されてますよ。


 それ以来、目標ができた。
 88歳まで元気でかっこよく、きれいに生きる。

 今年の流行語は、
『女は7掛けよ』

 来年もだけど。
  
 いつまでも、若々しくいたいものです。


【お題】 わたしなりの今年の流行語

323 動機は?

【お題】 銀世界の詩


 悲鳴が聞こえたのは深夜か明け方か?
 雪が降り積もっていた。
 銀世界に足跡はない。
 部屋には中から鍵がかかっていた。
 殺されていたのは昨夜結婚式を挙げたばかりの男女。

 これは、完全な密室だ。
 この犯罪の動機は……びっくり。
 姉と観に行ったのは『本陣殺人事件』(うろ覚え)

 私は十代。気恥ずかしくて話題にできなかった。


 あら、銀世界の詩だった。
 それなら、近藤正臣の『雪が降る』

 雪は降り続ける
 寒い。凍えてしまう。

 真っ白な孤独だ。(うろ覚え)

324 某研究所

 三十数年前、娘は心臓の手術をした。
 当時は心臓の手術といえば東京⚪︎⚪︎医科大学附属日本心臓血管研究所。全国から難病の子が集まってきた。
 心研と呼んでいたけど、心臓血管研究所の略だったんですね。
 昨今残念なニュースを聞いたが、素晴らしい病院だった。
 調べてみました。


✳︎

 S教授の入局時の言葉は今でも忘れてはいない。
「医者は医師免許証によって守られている。病気を治すためとはいえ、無傷の患者にメスで切り開いても傷害罪にならないのは医師免許があるためである。
 諸君たちは、まず、医師免許証の重みを心して立派な外科医になるように」
と言われた。
 また、外科医の心得として、「鬼手仏心」、すなわち、
「鬼のような高度な技術を身につけ、患者には仏のこころで接すべし」 
と言われた。

 当時、人工心肺装置を用いた体外循環技術は初期の開発段階で、心臓の中を開けて手術をする開心術は、大動脈の根元を遮断して30分以内に心内修復を行う技術とスピードの勝負であった。
 東京⚪︎⚪︎医大での手術成績は日本の他の施設と比べれば最高レベルではあったが、まだまだ満足できるものではなかった。
 心研内には手術成績の更なる向上のためには、新しい技術を臆することなく全力で取り組む気運がみなぎっていた。
 多くの患者が技術及ばずして亡くなったが、患者家族とともに全力を尽くした時代でもあった。手術が成功したときは無上の喜びを感じ、次なる挑戦の糧にした。常に⚪︎⚪︎医大の技術はどの大学にも負けない最高のレベルであるとのプライドがあった。

  東京⚪︎⚪︎医大心研とは、"狼友"の集まりである。狼友とは、東洋の思想より発し、よく逆境に耐え、強い意志を持ち、群れをなしては団結力に富み、孤独にあたっても荒野を駆けめぐる冷厳な魂の持ち主のことをいうのである。
 1970年から1980年代前半の心臓外科の創成期から充実期に心臓外科医として修練し、全力を投入できたすばらしい環境が過去の東京⚪︎⚪︎医大にはあった。

(東京女子医科大学附属日本血圧研究所の
過去と現在より)


【お題】 研究所

325 ポワロさん

 ポワロは、思いもよらぬ遺産を手にしたばかりの若い魅力的な女性と知り合う。
 偶然にも2人は、同じニース行きのブルー・トレインに乗る。
 ところが、その列車の中で石油王の娘が殺害され、彼女が持っていた曰くつきの宝石【炎のハート】が消える。

 狙われたのは石油王の娘か?
 それとも彼女と客室を交換していた突然セレブ嬢か?

 列車には、2人のどちらかに殺人の動機を持つ人々が多く乗り合わせていた。
 

【お題】 突然セレブになりました


 アガサ・クリスティの『青列車の秘密』はクリスティが失踪事件後、精神的に不安定な時期に執筆された作品。
 すでに発表されていた短編『プリマス行き急行列車』のプロットを長編向けに焼き直したもの。 
 本人は本作を気に入っておらず、のちに
「書きたくなくても書かなければならないプロ作家の厳しさを自覚した作品」
という趣旨の回想をしている。

326 真面目な話

 産後のお手伝いで娘の家に来ている。4歳の男の子と時々一緒にお風呂に入る。
 最初に入った時は、
「おばあちゃん、女の子だったんだ」
と言われ、ショックだった。

 次は、孫の体を洗っている間、顔を後ろに向けた。
「見ちゃ、いけないんだ」

 最近は、風呂場で放尿する。トイレでしてこいと言っても、
「トイレには、おばけがいるんだよ」

 ああ、そうですか。
 怖いYouTubeが好きなくせに。

 娘がドアを開け言った。
「泡でよく洗って。自分でできるから」
「??」

 男の子はズボンの上からよくさわる。息子も幼い時、そんなことがあった。
「カッコ悪いよ〜」
と言っても、さわると安心するのかな? 確認するのかな?

 娘が注意すると、
「かゆい」
と言ったそうで、医者に連れていった。塗り薬をもらっていたが、娘が入院している間、パパは塗るのを怠けていた。

 それで昨日は咳もするので医者に連れて行ってきた。

 普段のケアとしては、自然な力でむける範囲で包皮をむいて優しくシャワーで洗い流してあげてください。また、ご本人に汚れた手でさわらないことも伝えてくださいね。
(小児科オンラインジャーナル)

 以上、真面目な話でした。


【お題】 トイレのおばけ

327 見えるんです

 朝出勤すると、スタッフルームが騒がしかった。夜勤が早番に話していた。

 怖いとか、今夜も夜勤とか、どうしようとか……

 ちょっと意味不明なので聞いてみた。
 人によっては、
「記録に書いてあります」
と、けんもほろろになるから、あまり聞かないのだが。

「出た!」
らしい。

 ときどき出るのは聞いていた。
 霊感の強い夜勤さんは見るらしい。

 モニターにも白いものが映っていたと言う。
「見る?」
と聞かれて遠慮した。
 怖いわけではない。時間がない。
 それに、そういうものは信じていない。
 でも、施設で亡くなった方なら怖くない。会いたいくらいの方もいる。

 しかし、子どもだって。
 同じ階のショートステイの女性3人が、子どもを見たという。ショートステイの方は比較的しっかりしている。

 子どものおばけ? 幽霊?

 この施設は以前は団地だった。そこで、なにかあったのだろうか?
 呪怨……や、クロユリ団地……

 施設にはときどき現れるけど、トイレにモニターはないからなあ。

 でも、人手が足りないんです。
 驚かせている場合ではありませんよ。
 わざわざ現れたのなら手伝いなさい。
 体支えるほうがいいですか?
 拭いてあげるほうにしますか?
 きれいに……ね。


【お題】 トイレのおばけ

328 買いません

 子どもが幼い頃、友人に誘われ近くの会場に出かけた。粗品(味噌やパン)を無料でいただける、というから。
 開始前に大勢が並んでいた。

 子どもふたりを連れて中に入る。
 男性ふたりが話をした。健康に関すること。

 2時間くらい座って話を聞いている。
 今思えば、浄水器や高額な布団を売りつける催眠商法というものだった。
 でも、話術は巧みだった。引き込まれる。浄水器が欲しくなる。
 が、家計に余裕はない。

 考えていると子どもが退屈して騒いでくれた。
 何人かの母親は会場の後ろのほうで子どもをあやしていた。
 私もそうした。
 
 男性が必死に話している間、私たちは子どもの話をし時間が過ぎるのを待った。
 そして粗品をいただく。金額にしたら千円くらいしたのではないか?

 ありがたかった。
 毎日通った。毎日並び、話が終わるのを待ち、粗品をいただく。
 まるで仕事のように。

 それをひと月くらい。

 やがて子連れの私たちは出入り禁止になったようだ。

 勝った!
 
 今でもそんな店を見かける。
 朝、お年寄りが並んでいる。


【お題】 2時間待ちの店

329 いつもの場所

 産後のお手伝いで娘の家に来ている。もう半月になるが、つくづく我が家の良さを感じている。

 古い木造の一軒家は寒い。
 波の音が聞こえるのはいい。海辺に住んでみたかったから。
 海まで歩いて10分くらい。九十九里の大海原は穏やかだ。こちらに来た日に地震があって津波の心配をしたが。

 布団から手を出していると冷たくなる。トイレは階下にしかないから年寄りには不便だ。

 空き地、空き家が多い。高齢者が多い。救急車のサイレンに、お年寄りが行方不明……の放送が。


 もうすぐ家に帰る。
 あの、暖かい、狭いけれど快適な空間。
 朝の日差しがたくさん入る、明るい眩しい私のリビング。
 4回目にしてようやく買い替えたお気に入りの飛騨のソファ。
 好きな音楽をかけ、挽きたてのコーヒーを淹れる。

 でも、至福の時間は大幅に減った。
 
 ーーあなたがいるから。



【お題】 僕・私だけのオアシス

330 タイムライン

 今はないのかな?
 ラインのタイムライン。

 若い女性職員がやってしまった。
「私、あの人嫌い。あの人がいると仕事したくない」
 
 ユニットのメンバーには『あの人』がわかった。

 感情のままに打って、誤って送信してしまったのだろうか?
 
 
 削除されたが、気まずい雰囲気。
 次の異動で誤送信の彼女は別の階へ行った。

『あの人』はどんな人かというと……


 最初は仕事ができる人だと思っていた。
 年長者を差し置いてリーダーになった方だ。
 しかし気付いてしまった。
 桁違いに遅い。
 レベルが違う。
 だいたい私が朝出勤した時点で、誰が夜勤なのかわかる。起こしている人数で。
 ほぼ全員起こしていたり、2、3人だったり。
 このリーダーの時はひとりもいない。

 呆れることばかり。呆れたのを顔に出さないようにするのも大変なくらいすごかった。よく他所でやってこられたな、と思う。
 辞めた後はボロクソに言われていたが。 
 
 入居者をトイレに座らせたまま朝礼に行ってしまう。忘れたのか故意なのか? 
 トイレの電気は何分か経つと自動的に消える。文句も言えない、ナースコールを押すこともできない入居者は眠っていた。

「速けりゃいいってもんじゃありません」
 そう、丁寧です。配膳も盛り付けもきれい……
 差し入れのりんごを、時間をかけて飾り切り。
「ほら、かわいいでしょう?」
 でも、入居者が、かじれますか? それを? 

 書類提出等も遅かったそうだ。締め切りを過ぎ催促されると、
「みんな私が悪いんですよね」
 その通りだ。少し言われると、
「好きでリーダーになったわけじゃないですから」
 ユニットの雰囲気は悪くなる。
 
 じゃ〜ん。
 ついに派遣さんが来た。
 外国人だが年配のベテランの女性。
 ベテランでも施設のやり方でやってもらわねばならない。彼女のシーツ交換は速かった。速かったがうちの施設では角はきっちり三角折に。彼女のは縛っている。
 雑だが速い。言われても、それを直そうとはしない。
 ことごとくリーダーと揉めていた。派遣さんはすぐに施設長に文句を言う。果ては、リーダーに向かって、
「あなた、外人だと思ってバカにしているんですか?」
 ふたりとも、やる気をなくしていた。やがて、派遣さんは突然休む。
 朝、電話も来ない。夜勤が残り、遅番に電話して出てきてもらう。そんなことが当たり前になり、派遣は更新しなかった。

 リーダーも程なくして辞めて行った。有休を使い切り、送別会も挨拶もなかった。 



【お題】 誤送信

掌編集 33

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  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-12-09

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  1. 321 着痩せするから
  2. 322 女は7掛けよ
  3. 323 動機は?
  4. 324 某研究所
  5. 325 ポワロさん
  6. 326 真面目な話
  7. 327 見えるんです
  8. 328 買いません
  9. 329 いつもの場所
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