私の彼は統合失調症
私の彼は統合失調症
私の彼は統合失調症
平成29年春
「結婚します」いきなり芥川龍太郎22歳は荻野恵子19歳に声をかけた。龍太郎は身長175センチ。65キロ。野球で鍛えた筋肉、顔は面長で芸能人に例えるとオダギリジョーに似ている。恵子は身長163センチ体重44キロ。高校時代はバレー部に所属していた。スタイルは抜群である。芸能人に例えると萩田帆風に似ている。恵子は、昨日、プローポーズしてきた龍太郎にいきなり言われてびっくりした。まだ、返事もしていなかったのにどういうつもりだろうかでも少し嬉しい気持ちになっていた1時間程の間に龍太郎は数人の男性に声をかけては「結婚します」と言っている。少し度が過ぎるとは思ったが、そうこうしてるうちに昼休みになる。ここは(株)冬春堂。東京都にある新聞販売店を数社管理している。午前中は龍太郎は外回りの営業もなく社内をうろうろして仕事を終えた。いつもは昼ご飯を食べながら同僚と親しく会話してるのに、隅っこにいってぼんやりしている。恵子は何かおかしいなとは思い始めたが、昨日、プロポーズしてきた相手だしと放っておいた。
龍太郎はいつも通りに起きた瞬間から自分の意識がなかった。目に見えない誰かに操られている。自分の意識の前に違う自分の意識がありその行動を確認しているがまるで魂にでもなった様にその意識をコントロールする事が出来ない。背後の意識は異常に気づいている。前日は日曜日変わった様子はない。ただ3日前に恵子にプロポーズしていた。安国部長52歳が龍太郎の肩をポンと叩きどうしたんだと声をかけた。龍太郎は気の抜けた返事をした。隣に座っている恵子がその顔を覗くと視線が広範囲に拡散している気がする。龍太郎が外に出ると同僚の声が耳を集中して響いてきた。
「今日はあいつどうしたんだ」龍太郎は同僚の増田22歳に声をかけた。
「山の方から炎が迫ってる。早く逃げないと燃え尽きてしまう」それを聞いていた部長が龍太郎に疲れてるぞと早退しろと命令する。龍太郎は素直に返答するが、龍太郎の意識は全くなかった。しかし、背後には普通の意識が存在する状態は続いていた。龍太郎は神田駅に来ていた。アパートのある目黒まで目黒駅で蒲田線に乗り換えて武蔵小山駅まで約1時間だ。恵子は様子が変だと。この時は龍太郎が統合失調症に襲われ始めていたとは知る余地もなかった。恵子は会社の帰りに友達の松田ゆか19歳と居酒屋に寄った。
松田ゆか「プロポーズされたってあの龍太郎君」
恵子は今日の出来事をゆかに話した。
ゆか「たしかに変わってたね。上野公園に花見に私も恵子の会社にお邪魔した時に。私に恵子を好きな事を一杯話してきて、なんで隣にいる恵子に直接に話さないのか不思議だった。彼の性格。他に変わった所はないの」
恵子「会社の親睦会や忘年会とか、バカ飲みするし、はちゃめちゃな行動は目につくわ。だけど、仕事はバリバリ出来る。そのうちに部長になるわ。嫌、社長に抜擢される気がする」
まるで夢遊病者の様に足が進んでいく。アパートへの道順はちゃんと頭脳が認識している脱線していると言うのに不思議だ。車内に座っている人々はまるで身体から光が発されているように鮮明な感じに見えてしまう。龍太郎は守護霊と化したのであろうか。そうこう考えてるうちに武蔵小山駅に到着した。ふと時刻表を見るとまるで視力が回復した様にハッキリと見える。この症状はあとから考えたらコンタクトをしているから当然だ。今朝からの行動は全て錯覚が起こしてる気もする。アパートへ帰ると。直ぐに布団に潜った。しかし寝付けないすると涙が溢れてきた。会社の部長さんが頭に浮かんできて妙に悲しくなる。時計を見ると深夜零時を過ぎる。龍太郎は寝巻きから普段着に着替えてアパートの外へ出て歩き始める。今度は頭の中に恵子が浮かんできた。そして、思考回路を誘導してくる。声にならない心の声だろうか右よ左よ止まってよと。視界の中に次々と新聞配達のお兄さんたちが見えてくる。これは幻覚というものだろうか。右よ左よという声はずっと聞こえてくる。嫌、心が心の中で会話してくるのだ。それに対して龍太郎もハイと心の中で応答する。4時間もずっと歩き続けていて次第に疲れが出てきた。お腹がすいて立ち食いそばの看板が見える。龍太郎はコロッケそばを注文する。器の中を覗くと一匹のハエが入っている。すると突然。「これは神様が与えた試練だ。店員には内緒で汁をいただけと」龍太郎の思考回路の異常は止まらない。店を出るとまた心の声に誘導されながら歩き出す。そして田園調布までやって来た。目の前に教会がある。龍太郎は腰を下ろしてコンクリートの上に座り暫くじっとしていたが、ポストに目がいき中に入っている。新聞を読み出す。その時に家の明かりがともったのには気がつかないでいる。次第に空は夜が明けて明るくなってくる。すると遠い向こうからひときわ赤い光が見えてきて次第に大きくなってきて龍太郎の目の前に停車した。それはパトカーだった。ガッチリした身体の警官が二人ドアを開けて出てくると、何をしてるかと質問してきた。龍太郎は教会の住民だと言い張る。警官は胸元を鷲掴みにする。抵抗した全身の力を振り絞って、「ガチャ」両腕は手錠で繋がれた。観念して力尽きた。そのままパトカーに乗せられて品川警察署に連行される。龍太郎はパトカーに乗せられるとおとなしくなる。頭の中は正常を保つ事は依然としてない。錯乱状態であるが口にする事はなく誰も察す事はできない状態。そんな龍太郎は警察署管内に入ると口を開き出した。
「阪神タイガースはずっこけますよ」警察官二人も全く頭の中が混乱してるとは思いもよらぬ。指紋を取られ一言呟く。
「もう悪い事は出来ないな」警察官の暫く寝ていいぞの言葉に龍太郎は畳に横になり深い眠りにつく。
龍太郎は警察署に10時間は寝ただろうか外は真っ暗だ。時計を見ると夜の9時である。そばに会社の部長と恵子の姿がある。二人は同時に声をかけた。
「大丈夫」
龍太郎の思考回路は正常に戻っていた。異常だった事も熟知しているがそれを言うのはやめた。自分の胸の中に閉まっておくことにした。3人はまだ終電には時間があるので新橋駅まで出て食事をする。二人は何も言わなく無言でご飯を頂いた。
安国部長「お前。変な行動をしたのを覚えてるのか」
龍太郎「あまり覚えてません」
部長もそれ以上聞くのはやめた。恵子はずっと無言でその場にいた。恵子は杉並区にあるアパートへ部長は港区へと別れる。龍太郎は自分でも理解できなかった。2人の自分がいたのは確信している。龍太郎の頭の中に精神病と言う発想は全く浮かんでこない。アンビリバボーな出来事かなと一見落着した。恵子から「週末は気晴らしに箱根でもドライブしない。私が運転するから」
龍太郎はOKの返事を返した。
熊本
デートの前日。龍太郎は、会社の帰りに銀行のATMによる。ポケットの中のキャッシュカードがない。慌てふためく。夢遊病者の中にいたときに、変な妄想で川にカードケースを放り投げたのを思い出す。その足で、友達の嵐山のアパートに向かう。嵐山に事情を説明して、10万を借りる。嵐山は、日帰りデートにしては。お金の持ち過ぎだと思い注意をすると。にやけて笑ってごまかした。頭の中にはおかしな行動をした事は忘れている。翌日。恵子の乗ってきた車は、トヨタのランドクルーザープラド。龍太郎はビビった。ピンときた思考回路に浮かんだのは、銀行の預金通帳残高。50万。恵子は正社員だ。龍太郎は非正規労働者。雲泥の差は私生活にも及ぶ。しかし、悲観する事はない。頭の中は恵子に汚染されている。それより、ペーパードライバー。車は持っていない。恵子の服装に目がいくと、花柄のシャツカーディガンのワンピース。龍太郎は白シャツに黒できた。箱根と言えば温泉だ。咄嗟に恵子に行き先を告げたのは意外にも九頭龍神社。縁結びの神様だとテレビで見ていたのが印象にあり提案した。恵子はひとつ返事したが。割と質素な感覚に意外性を感じる。
龍太郎の思考回路は恵子に対してどう、会話するか思考を全開させる。思考の中に恵子が登場する。と考えていると、恵子が突っ込んできた。最近、ドラマ見た。咄嗟に思いついたのは、「いつかこの恋を思い出してきっと、泣いてしまう」恵子が突っ込む。「そんな恋してみたい」龍太郎はタイトルだけ浮かんだ。あまり。テレビは見ない。思考回路が錯乱している。プラドがでんと、残像としてある。龍太郎の乗っている車は。軽トラだ。恵子は今まで男の人と車でデートなんて経験がなかった。咄嗟の思いつき。ぎこちないふたりが乗った。プラドが走り出す。恵子はこないだの件を聞いてきた。口に出してから、いけない言葉かと察したが、もう龍太郎に尋ねていた。龍太郎の額から汗が滴り落ちる。あの出来事は他人にそれも彼女に話せるわけがない。恵子は、お酒の飲み過ぎにしか思ってないのだ。その場はアルコールの話でごまかした。恵子もそれ以上、話を突っ込むのはやめる。ふたりはあまり会話したこともなく、デートになったのは。ふたりは同時に不思議な縁。恵子も龍太郎も運命的な出逢いかなと内心は思っている。恵子がすると。「煙草は吸わないの」龍太郎はヘビースモーカーなのに、ハイと、返事をする。無論。お口のエチケットは心得ている。龍太郎は質問した。「プラドは新車」恵子は笑いながら。「お父さんの車」まさか。お父さんは社長。その予感は当たった。レストランを経営してるらしい。龍太郎は九州の北九州市から東京へ上京してきた。転職を経て会社にやって来た。夢はミュージシャンだ。恵子は。ハンドルをカラオケ屋に向かって停車した。龍太郎の歌声を聞かせて。箱根の筈が、横浜のカラオケボックスに直行。恵子は、咄嗟に閃いた。初デートは緊張していて。間がもてない。恵子も額から汗がひたたり落ちている。
突然。龍太郎は熊本へ行こうと呟く。驚いた恵子は会社はどうするのと尋ねると。「ドタキャンしよう」
ふたりは新幹線に乗っている。熊本地震からやがて一年が経つ。龍太郎の実家は熊本市内から通勤距離内にしては。少し遠い所にある。幸いにも地震の被害はあまりなかった。恵子の脳裏に、警察沙汰になった男は認識してるが、同じ同僚だし、安心感はある。それにしても強引な男だ。いや、恵子は心の奥底では何かを感じていた。龍太郎は語り出した。東京へはテレビカメラマンを目指して上京。いの一番に映像を手がけている会社に試用期間付きで就職した。それが。あと一週間で。正社員と言うところで生放送中に放送事故に襲われて。責任を取らされて首になった。放送業界を目指したのは、AKB48に憧れた。首になって未練はなかった。ポケットの中から出てきたのは、小嶋陽菜の写真。恵子は、私の写真いると聞き返すと、龍太郎はすぐさま、恵子の顔をスマホの壁紙にする。恵子は陽菜に似ている。入社した時から、好きになったと打ち明ける。恵子はなにかしら、龍太郎のドラマチックな行動にハマっていると感じつつも、提案に乗る事にしたのだ。実家にでも。連れていくのかと思いきや。ボランティアをやると言う。ふたりは崩れ落ちた熊本城を眺めた。会社には恵子の計らいでボランティア休暇という事で処理する。その足で役所にボランティアの意向を伝えにいくが、熊本市ではないためか、例がなく。取り合ってくれなく、断念した。恵子は生きあったりばったりの龍太郎の行動に不信感を募らせ始める。ふたりは別々にビジネスホテルに泊まり、目を覚ますと。龍太郎は、置き手紙をしていた。
「ちょっと、頭の整理がつかなくなった。帰ります」
置き手紙の下には、免許証と財布が置いてある。不自然な手紙の配置に思案する。戻ってくるのかもしれない。案の定。お昼になり、スマホの電話が鳴る。熊本駅の新幹線ホームに来てくれ一番ホームに昼の一時。と言って電話は切れた。一番ホームで、待っている。急いで支度をしててホテルを10時に出る。まだ、3時間は余裕がある。喫茶店に入ると珈琲を注文した.完璧に振り回されている。なにもかも行き当たりバッタリの行動。予測がつかない。ホームに来ると、大勢の客がどよめいている。まさか、龍太郎君。その予感はズバリ的中した。その場所へ行くと、数人の鉄道警察官に胸を掴まれている。まるで.警察官に連行されてる感じだ。
恵子「龍太郎さん。どうしたの」
鉄道員「お知り合いですか.線路に飛び込んだんです。失礼ですが、お名前は恵子さん」
恵子「ハイ」
鉄道「大きな声で喚いてました」
恵子「なんて」
鉄道「恵子。好きだと」
恵子は思わず顔が赤くなった。そして、こいつ、何を考えているのだ。
恵子「龍太郎さん。今度はどうしたの」
龍太郎の顔を覗くが、一見おかしい様子もないし、普通にしている。言動も普通の男だ。すると龍太郎は、ぼちぼち話し始めた。
龍太郎「駅に着いて、うどん屋に入って、きつねうどんを注文した。暫くしてうどんがやってきた。汁を覗くと、一匹のハエがスープに浮いていた。その時、ハエが何かを喋ったんだ。俺は、ハエからパワーをもらって、スパイダーマンになった。気分になった。その勢いで店を出て、駅のホームにつき、線路に飛び込んだ。
恵子「その時、叫んだのでしょう」
龍太郎「叫んだ。恵子さん。好きだよって」
恵子「もう一度言って」
龍太郎「恵子好きだ」
恵子「私もよ」
龍太郎は恵子の肩に手をかけて引き寄せた。そして、軽く甘酸っぱいキスをした。
ここまで読んでくれてありがとうございます
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