堕天使の降臨

堕天使の降臨

 冬真はAnRiのことが忘れられずにいた。一度も会ったことのない、SNSでほんの数ヶ月親しくやりとりをしていただけの関係だったが、一年経った今でも頻繁に思い出すのは彼女の消息が未だに確認できていないからだ。

 出会いは二〇二四年の五月。冬真にとって大学の後輩にあたり、彼が在学当時に在籍していた日本酒研究会所属らしく、SNSに流れてきた研究会についての彼女の投稿にリプライしたのが始まりだった。実名は杏梨(20歳)。

 冬真のプロフィールには『32歳・非婚』の文字がある。現実では仕事に追われて全国各地を飛び回る日々。恋人と別れ、友人と疎遠になったのも仕事が原因と言ってもいい。そんな冬真にとって、SNSを介した後腐れのないAnRiとの関係は気楽な恋愛ゲームのようなもの。AnRiにとっても似たようなものだろうと冬真は考えていた。

 DMで他愛ないやりとりにゲームの話が頻繁に出るようになったのは、杏梨の大学が夏休みに入った八月。


 ――8月11日(日)

『冬真くんスマホゲームする人?
 開発中のゲームのβ版に招待されたんだけど冬真くんもしてみない?
 女性向けってなってるけど』

『前はよくやってたけど今は時間なくて全然してない
 招待されても無理かな
 ちなみにどんなゲームなの?
 女性向けゲームって少女マンガ風のイケメンが出てくるエロゲーのイメージしかないけど』

『エロくないよー
 日本を舞台にした天使の冒険と謎解きみたいなかんじ
 でも絵が少女マンガ風ってのは合ってる』


 ――8月15日(木)

『お盆で実家に戻ったついでに近くの天啓スポット行ってきたよ』

『天啓スポットって例のゲームのやつだっけ?』

『うん
 天啓スポットでAR写真撮ったらボーナスポイントたくさんもらえるんだ』

『写真見せて』

『ログインしないと見れないよ
 スマホに保存もできないの』

『そういえばβ版だったっけ』

『写真見たかったら招待してあげよっか?』

『盆暮れ正月関係なく社畜なおれには時間がないのだよ』

『大人ってたいへーん』



 ――8月20日(火)

『冬真くんK県に出張中だよね。戸倉町ってそこから近い?』

『戸倉はたぶん車で三十分くらい
 なんで?』

『戸倉にレアな天啓スポットがあるの』

『天啓ついでにおれに会いに来る?』

『そんなお金ないよ
 冬真くんが行かないかなって思っただけ
 忙しいのは知ってるけど仕事ばっかりじゃ疲れちゃうよ』

『それはそうだけど
 おれは杏梨との会話で十分癒やされてる』

『えー照れる
 惚れちゃった?』

『惚れてる惚れてる』

『言い方軽いけどまあいいや
 最近気づいたんだけど冬真くんが仕事で行くとこってだいたい天啓スポットが近くにあるんだよね
 だからもったいないなって思ったの』

『杏梨かなりそのゲームハマってるよな
 なんて名前?』

『ちょっと興味湧いた?
 Angelic Descent
 みんなアンディーって呼んでる
 頭文字のAnとD』

『AnRiのAnはAngelのAnだったか
 正式リリースはいつ頃?』

『10月上旬』

『じゃあリリースされてからでいい』

『別に今でも招待してあげるのに
 たまに不具合あるけどやってる人少ないから内輪感あって楽しいよ』

『その内輪感が新参には辛いんだぞ』

『あー納得』


 ――8月30日(金)

『今からアンディーのオフ会
 天使の集い!
 楽しみー』

『いってらー
 こっちはまだ仕事』

『さすが社畜!
 そのわりにいつも返信早いよね
 ほんとに働いてる?
 サボってない?』

『真面目に働いてる
 SNS巡回するのも仕事』

『あやしー』


 ――8月31日(土)

『オフ会楽しかったー
 天使候補になったよ』

『天使候補?
 ついに天に召されるのか』

『勝手に殺さない
 天にいるのは神様で天使は地上でみんなを導くのが仕事なんだから』

『就職内定企業:天
 雇用主:神
 職種:天使 
 月給は?』

『もしかしたら本当に就職するかも
 天使に選ばれたら契約結ぶことになるみたい』

『契約?
 オフ会ってゲーム会社が主催したんだっけ? 
 就職するかもっていうのはインターンみたいな?
 機械音痴の杏梨が?
 エロい天使のコスプレとかさせられるんじゃなくて?』

『質問多すぎ
 そんなふうに言われるのショックなんだけど』

『普通に心配するだろ
 声かけてきたのどんなヤツ?』

『運営のおじさんと開発協力してるおじいちゃん
 ゲームに出てくる天啓はそのおじいちゃんが考えたみたい
 それをAIに学習させて最適な天啓が授けられるようになってるんだって』

『なんだそれ
 AIの無駄遣い
 じいさんどれだけ膨大な量の天啓考えたんだよ』

『そういうの作り込んであるからハマるんだよ
 β版ユーザーは天啓書が閲覧できるんだけど三冊か四冊分くらいの量』

『あーなるほど
 そういう仕事なら文系の杏梨もできそうだけど就職の話と天使候補は別件だろ?』

『たぶん
 詳しい話は今度天使候補を集めてするって
 天使候補は見た目も重視してたみたいだから天使のコスプレもあるかも』

『やっぱりやるのか』

『今どき2次元キャラでも露出NGだから大丈夫だよ』

『顔出しするの?
 おれは杏梨の顔知らないのに』

『わかんない
 まだ天使やるって決まったわけじゃないし
 眠くなってきたからそろそろ寝るね』

『寝る前にゲーム招待して
 なんか気になってきた』

『りょ
 無理してしなくていいよ
 めちゃ少女マンガだから』

『AnRiさんがあなたを〈Angelic Descent〉β版に招待しました!
 こんにちは!
 あなたを新しいスマホゲーム〈Angelic Descent〉β版にご招待します。天使の力を借りて世界を救う冒険に参加しませんか?
 このゲームではあなたの行動が人類の未来を左右します。

 今だけ! β版限定の特典↓↓↓
 特典① 特別な天使のスキン
 特典②  限定クエストと報酬
 特典③ 公式リリース前の先行アクセス

 さらに! プラチナユーザーから招待を受けたあなたに↓↓↓
 特典④ オフ会「天使の集い」招待

「天使の集い」は、Angelic Descent の世界と現実とをシームレスに繋ぎ、ゲーム世界だけでなく実社会でも社会問題に取り組み、人々を不安から救うことを目指すコミュニティです。あなたも天使の導きによる新たな人生を体験してください。※天使の集いを開催する時は別途お知らせいたします。

 アプリのダウンロードはこちら→【Angelic Descent β版】
 天使の集いについてさらに詳しく→【天使の集い】

 この機会をお見逃しなく!あなたのご参加を心よりお待ちしています。』

 
 冬真が【Angelic Descent β版】の文字をタップすると、アプリの説明画面が表示された。


『Angelic Descentへようこそ!
 このゲームではプレイヤーが天使となり、天からの啓示を頼りに仲間を増やし、天界への門を開いて人類を救うことを目指します。プレイヤーは天使として天の声を聞き、様々なクエストをクリアすることでさらに天との繋がりが強化され、レベルアップや新たなスキルの獲得が可能です。

 ☆特徴①
  AIパートナー【使徒】: プレイヤーはゲーム内で使徒の助言を得ることができます。使徒は天使ではありませんが、(いにしえ)の大天使が残した『天啓書』に精通しています。AIパートナー【使徒】はプレイヤーの行動を学習し、適切なアドバイスやサポートを提供します。

 ☆特徴②
 ゲームと現実をシームレスに繋ぐ世界感:日本を舞台にしており、クエストや謎解きは実際の伝説をもとに解くことができます。AR機能によりゲームと現実が融合した写真の撮影が可能です。また現実でのクエスト報酬(※天使の集い救援活動)がゲームに反映されます。

 ☆特徴③
 天使位階(天使レベル): 天使プレイヤーは成長することでより上位の位階に就くことができます。位階はプレイヤーの能力にも反映されます。※本ゲームのオリジナルの位階で……』

 冬真は画面の文字をザッと流し読みし、表示された少女マンガ風の画像にうんざりしつつ【インストール】をタップした。すぐにはアプリを開かず、招待メッセージに戻って今度は【天使の集い】のページへと飛ぶ。

 天使というより鴉を彷彿させる黒い羽がヒラヒラと画面上を舞い、黒い湖面に湧き出るようにゆらゆらと文字が現れた。

『the birth of angels』

 その文字が漆黒のさざ波でかき消されると、真っ黒な画面に金色の文字が刻まれていく。

『我々の使命は天から啓示を受け、人類を救済へと導くことです。
 聖なる光「天使の集い」へようこそ。
 今、人類は世界各地の紛争や気候変動による自然災害に直面し、傷つき、助けを求める声で溢れています。その声は波動となって地上を覆い尽くし、私たちが天の声を聞くことを困難にしているのです。これは神と人の分断を意味し、地上が破滅へと向かう第一歩。いえ、人類はすでに破滅へと歩みを進めているのです。
 壊れゆく世界にあなたは不安を覚えているでしょう。「天使の集い」はあなたの心から不安を取り除き、人類を、この地上のあらゆる生命を救うために生まれました。
「天使の集い」で天の意思を共有し、天との繋がりを深め、自らの手で行う救援活動によって、あなたは内的覚醒を体験するでしょう。』

「くっそヤバ」

 一人きりの部屋で冬真は吐き捨てた。手垢のついた勧誘の文句と黒ベースのウェブデザインは怪しいことこの上ないが、活動報告は至って普通のボランティア。冬真はさらに調べるべきか迷い、保留にしてゲーム〈Angelic Descent〉を開いた。


 ――8月31日(土)

『天使なのにダーク過ぎない?
 しかも廃寺に眠るジャガイモの妖精を探せってどういう世界観?』

『冬真くんほんとに始めたんだ
 絵が少女マンガでもダークな感じなら男性でも楽しめそうでしょ』

『キラキラふわふわ乙女ゲーよりは』

『そういうのやったことあるの?』

『ない
 天使じゃなくて陰陽師とかにすればいいのに』

『えー
 天使のほうがかわいい』

『なるほどそういう理由か』

『冬真くん今どこにいるんだっけ?
 近くに天啓スポットありそう?
 天使は夜の欠片を集めたらレベルアップするんだけど天啓スポットにはだいたい夜の欠片が隠してあるよ』

『そうなんだ
 G県に来てるけどこれから人に会う予定だし出歩く余裕はなさそう
 杏梨が怪しいゲームにハマってないかどうか確認できたからもういい』

『天啓スポットに行けばAR写真撮れるのに』

『自キャラが風景と合成されるだけだろ』

『写真はそうだけど操作したら動くんだからね
 夜の欠片の報酬が倍になるんだから』

『ゲームのことはおいといて
 天使の集いは怪しくないか?
 サイトのぞいてみたけど』

『サイトあるんだ
 知らなかった
 チャットでオフ会誘われたから行ったけど普通だったよ』

『招待メッセージに天使の集いへのリンクがあったから一回見てみたら?
 URL送ろうか?』

『たぶんわかるからいい』

『見てきた
 冬真くんが心配するのわかった気がする
 オフ会に来てた人で温暖化とか紛争のことを熱く語ってるのにゲームはあまりやってない感じの人がいたんだよね
 たぶん天使の集いがメインの人だったんだ』

『ゲームだけにしたら?』

『オフ会抜けたらゲームも続けづらくなりそう
 天使候補のこともあるし』

『候補やめる気なし?』

『説明会明日なんだ
 参加するつもりだけど候補辞退するかどうかちょっと考えてみる』

 冬真はスマホを置き、「疑似恋愛っていうより妹だな」とひとりごちる。ノートパソコンを開いてこのあと会う予定にしているクランケの情報を開いた。

『近藤友紀人(25)G県H市在住
 黒斑部位:左手小指第二・第三関節(黒斑移動未確認)
 黒斑発生日時:2024年8月29日午後1時半頃。喫茶子山羊でランチセットを食べたあとレジの支払い時に黒斑ができているのに気づく。その後、写真を撮って「突然シミができたナニコレ」とSNSに投稿。
 所見:寄生前段階の疑いあり。4月頃からH市内でホストと思われる人物を3名確認。
 対応:DMにて接触。クランケ用資料1へのワンタイムキー送付後アクセス確認済み。
 今後の予定:8月31日午前10時G県H市内ホテルにて嗅覚検査。寄生が確認できた場合は切断を提案。
 ケース①:左手小指の切断。N支社勤務もしくは外部協力者契約の締結を提案。  
 ケース②:切断を拒否した場合マイクロチップの埋め込み必須。クランケ用資料2を提示し研究所勤務を提案。
 ケース③:①②を拒否した場合は黒斑消滅後(9月3日〜5日頃)に再度接触。研究所勤務を提案(この場合は担当者をホスト職員に交代)。
 人物プロファイル:現在無職。2024年6月に食品加工会社SSY食品を退社。SNSへの投稿内容は自己否定的な発言が目立つ。大学同期の友人とは良好な関係を保ち……』

 
「小指くらいなら」

 冬真は画面をながめながら独り言を漏らした。しかし、突然指を切れと言われて「わかりました」と頷く人間はいない。時計を見ると約束の時刻が迫っており、冬真は義足をつけてクランケの来訪を待った。


 ――9月1日(日)

『なんか天使候補の二次審査に残っちゃった
 辞退するって言ったんだけど気負わなくていいからって押し切られて』

『杏梨は押しに弱いタイプだったか
 大丈夫なのか?』

『たぶん
 天使候補は天使の集いとは無関係っぽい
 思ってた通り天使の格好でゲームをPRする仕事だって
 契約期間は半年らしいしアルバイトみたいなものだよ』

『それならまあ』

『こういうのできるの学生のうちだけだからね!』

 
 天使のコスプレでアルバイトというのが平和過ぎて冬真には現実感がなかった。昨日、近藤友紀人は小指切断を拒否し、冬真はその場でクランケ用資料2にアクセスして彼に何が起こっているのかを説明した。黒色粘性無細胞寄生生物〈Melanos manipulatrix〉が彼の小指で寄生前段階にあり、あと数日で黒斑は消えるが、それとともに彼の人格も消滅するのだと。

 クランケ用資料2の内容は、寄生されて宿主となった人間や動物、死体の口から出てくる黒くヌメヌメした寄生生物の動画、宿主(ホスト)と接触した人物からの証言などだ。寄生を回避する方法は今のところ黒斑部位の切断しかないのだが、去年あたりから説得に応じないクランケが増えているのは動画をフェイクと疑う人が以前にも増して増えたせいだった。みな必ず「生成AIだろう」と言い、その度に冬真は「本物です。日本政府のお墨付きですよ」と口にするのだった。

 H市内のホテルで待機していた冬真に近藤友紀人から連絡があったのは翌日。切断を決めた彼を連れて新幹線で研究所へと向かい、所員に引き継いで次のクランケのところへと向かった。


 ――9月8日(日)

『天使に決まった!
 天使4人で16日から1週間合宿だって
 合宿中は連絡できないかも
 電波悪いとこらしくて』

『おめでとう
 ちなみに合宿ってどこ?
 カルト合宿だったらと思うと心配』

『大丈夫!
 泊まるの秘境の高級宿みたいなとこだから』



 ――9月15日(日)

『調子どう?
 合宿どうするの?』

『まだ咳出る
 ほかの子にうつさないように水曜日に合流することになった』

『無理して行かなくてもいいと思うけど』

『高級宿が無料
 美人の湯入り放題
 宿の近くに天啓スポット
 行かない理由が見つからない』

『杏梨
 そなたに天の声をつかわす
 病人はおとなしく家で寝ているがよい』

『ニセ天啓きたー!』



 ――9月18日(水)

『駅着いたらすでに秘境
 電波あやしい
 しばらく話せないけど元気でね
 寂しくても泣いちゃダメだよ』

『誰が泣くか』

『既読つかねー
 このメッセージ見るのいつ?』


 ――9月21(土)

『冬真くん
 この合宿なんか変
 スタッフの人がずっとジロジロ見てきて他の天使の子もスタッフさん変だよねって言ってた
 でも今朝からその子たちもジロジロ見てくるの
 言動は前と変わらないんだけど演じてるみたいっていうか』

『杏梨
 宿にいる?』

『近くの天啓スポット
 ここらへん電波いっこ立ってたの思い出して』

『合宿行ってから何か黒いものに触ったりした?』

『なんで知ってるの?
 宿に着いた日にPRキャンペーンに使う夜の欠片だって言われてゼリー状に固めた黒インクみたいなの触った
 触ったっていうか天使の印だって言われてスタッフの人が私のうなじにつけた
 洗っても落ちなくて
 気のせいかもだけどそのシミが動いてる気がする
 鏡でしか見れないけど上の方にちょっと移動してる気がするの』

『うなじにつける前そのゼリーみたいなやつ動いてなかったか?
 芋虫みたいに』

『動いてた
 スタッフさんの手の上で
 夜の欠片を忠実に再現したって言ってたけど』

『インクは他の天使もつけたんだよね
 その印もしかして消えてない?』

『冬真くんなんで知ってるの?
 私どどうなっちょうの?』

 誤字から杏梨の焦りが伝わってきたが、焦っているのは冬真も同じだった。黒いゼリー状の蠢くもの。それが肌について落ちなくなり、しかも移動している。嗅覚検査を行うまでもなく杏梨は寄生前段階にあった。

 彼女が黒色粘性無細胞寄生生物〈Melanos manipulatrix〉に接触したのは合宿に合流した十八日。すでに五日経っている上に、黒斑部位がうなじでは切断のしようがない。先に合宿に行っていた杏梨以外の天使が宿主(ホスト)となったのは間違いなかった。ホストの一番の特徴は〝観察する眼差し(Observational Stare)〟だ。

『杏梨うなじの写真撮って送れる?
 宿の住所も』

『わかった』

『契約はしちゃったのか?』

『杏梨?』

『杏梨』

【通話をキャンセルしました】

【通話をキャンセルしました】

『杏梨』

【通話をキャンセルしました】

【通話をキャンセルしました】

 
「クソッ」

 冬真は舌打ちし〈Angelic Descent〉の天使がデザインされたアイコンをタップした。しかし、表示されたのはログイン画面ではなく【現在メンテナンス中です】の文字。無駄だとわかっていながらアプリを開いて閉じることを繰り返し、十回目で諦めて天使の集いのサイトを開いた。

『リニューアルにつき閉鎖いたします。天使の集い会員様には新しいホームページが完成いたしましたらお知らせのメールをお送りいたしますのでしばらくお待ちください』

 その後、杏梨から宿の住所とうなじの写真が送られてくることはなく、翌日、二十二日の夜にはSNSからAnRiのアカウントが消えた。大学に問い合わせたが偽名だったらしく杏梨という名の人物はおらず、唯一の手がかりは日本酒研究会。それらしい人物は何人かいたものの結局AnRiの行方を突き止めることはできなかった。

 杏梨の人格が消えたあと彼女の体を支配している別人格にも元の人格の記憶は残っている。つまりその人格は冬真が寄生生物に精通していることを知った上で接触を拒み、宿主を増やす側についたということ。

 十月になっても〈Angelic Descent〉がリリースされることはなく、AnRiの情報も掴めないまま一年以上が過ぎた。ネットを巡回していた冬真がスマホゲームのリリース記事に目をとめたのは聖夜が押し迫った十二月二十日。

『AnDゲームスタジオは、待望の新スマホゲーム「Gates of Tartarus」のリリースを発表。プレイヤーが天からの啓示を頼りに仲間を増やし、冥界の門から現れる魔神と戦い人類を救うことを目指すアクションRPG。

 このゲームの主な特徴は2つ。

①AIパートナー【使徒】
プレイヤーはゲーム内で使徒の助言を受けられる。使徒は『預言書』に精通し、プレイヤーの行動を学習して適切なアドバイスやサポートを提供。

②ゲームと現実をシームレスに繋ぐ世界感
 一部クエストにARを採用し、ゲームと現実が融合したプレイが可能。また、現実でのクエスト報酬がゲームに反映される。

 AnDゲームスタジオのCEOである本多賢人氏は、「Gates of Tartarusでは最新のAI技術とAR機能の融合によりこれまでにない冒険と興奮を味わうことができるでしょう」と語った。リリース発表会ではゲームに登場する四大堕天使に扮した女性たちも登場した。』

堕天使の降臨

※表紙はMicrosoftCopilotによるAI画です。

堕天使の降臨

ホラー短編連作【それ】シリーズ #9

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-11-08

CC BY-NC
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CC BY-NC