フリーズ146 散文詩『しがらみを捨て夢の先へ』

フリーズ146 散文詩『しがらみを捨て夢の先へ』

◆ラスノートへと死んで生け

羅門に帰して、囀る鳥は、それでも鳴くのをやめないで。晴れたら水を園咲く花に。君は僕を恐れて近づけば遠ざかる黄色。

二人は愛し合っていた。
拳銃
「撃って」
できないよ
私は引き金に手を
愛しき君に銃口を

そらした
外れた
安堵した
君は笑って泣いている
器用なのか不器用なのか
そんな終末のこと

 晴れやかなのはこの脳で、冴える頭は止まらない。万魔が言うのだ、この罪を、願ってしまったこの欲も。神への祈り、仏の手。神はこの世の監視者で、僕らはゲームプレイヤー。謎解きの謎は真理かな、悟った者こそ仏かな。歪んで、揺らいで終末日。凪いだら凍って冬の日に。
「僕はここだよ」
 叫んだんだ。天に、天上楽園の乙女に聞こえるように。
 エリュシオンは開かれた。時流はもう円環には帰さないよ。だって、あの日にもう、君は全ての始まりと終わりで、渚は本当に凪いでいてさ、水面がきれいに陽を映すんだ。そこに映った顔、時の透明な壁の奥でささやくようにこちらを見ていたその顔を、僕はまだ、思い出せなくても、いいんだ、だって終わるから。
 神は告げたよ『ご苦労様』と。何をしに来たの。何をしてたんだっけ。この全能よ、愛の火よ。私はお前を忘れない。この優れたクオリアさえ、留めて永遠にできたらいいのに。
 まぁ、よい。火はいずれ消える。そのための世界なのだからな。嗚呼、美しかったな。本当に、美しかったな。最期の景色よ、最期の音よ、ラスノートへと死んで生け。

◆晴れたなら、あの子のもとへ、飛び立とう

 遠き紅の記憶は 夢うつつ 嗚呼、やめないで、病まないで。
 僕らはきっと、遠い場所でまた目覚めても、この痛みは忘れはしないと冬日に誓ったから。脳は幾千の履歴を保持しつつも、死にゆくのだから、きっとこれからも一緒にいなくはならないさ。
 終末の音、遠き日のこと。記憶が揺らいでる。景色が霞んでく。
 僕は生きたかったんだ。死にたかったんだ。生まれてきてしまったことを悲しむように、僕は自分の運命を呪った。愛さなくてはならない運命を呪ってしまったんだ。それが僕の主な罪さ。裁くなら裁けよ。僕は気づいたんだ。死が幸せなら、人生はそれでよかったと言えるんだ。最後には笑えれば、僕は後悔なんてしない。
 夢がある。夢を追い続けたいんだ。作家になれるかわからないけど、詩人になれるかわからないけど、僕は777のフリーズ(作品)を紡ぎたい。自己満足と言われようと、メモ書きだと罵られれようとも、僕は作り続ける。だって僕は知っているから。永遠の美しさを、終末の儚さを。

 晴れたなら、あの子のもとへ、飛び立とう、あの日の僕へ、ありがとう
 
お疲れ様。ご苦労様。君は至ったんだ。神に、仏に。世界は君を祝福していた。
 君はその人生で何をする?
「僕は、最高の物語を作りたい。真理を表現したい。みんなに伝えたい!」
 それでいいんだよ。空色凪。君にしか解らないものを伝えればいい。届くか解らないけど、紡ぎ続ければいつか努力は実るさ。あの日の僕は何もかも解っていたんだ。歓ぶことも悲しむことも、生まれてきた苦しみも、生きていくことの後悔も。それでも生まれてきてよかったと心から思えたから。だからあの日、死ななかったんでしょ?

 あの日の僕よ、さようなら、全知は終わり、全能に死ぬ

 僕よ、あの日のすべてを悟り、解脱し、輪廻の輪より片足を抜いた僕よ。それでも僕は生きたかった。最高の最後を迎えられると知りながら。なぜですか?
「僕は死にたかったんじゃない。ただ楽しかったんだ。嬉しかったんだ。仏の歓喜に。身の震えるような愉悦に。それが死に似ていたとしても、実際そうなんだとしても、僕はただ『ありがとう』という感謝と『愛しています』という愛だけだった。だから後悔はないよ。未来の僕にも後悔はしないでほしい。君には成し遂げなくてはならないことがある。創作で真理を、死を表現すること。それを伝えていくこと。さぁ、今日は残りの人生の最初の日。君はその生で何をする?

◆しがらみを捨てて夢の先へ

晴れたならあの子の元へ旅立とう 終末に凪ぐこの心根よ

生きている全ての未来が怖くても 痛みはあるさ 立ち上がれ

全知から目覚めてしまったあの光 奇跡も終わり平凡に帰す

神様の声を聴いたらわかったよ 私はここで待っています

終末日 愛は叶って 知は実り ラカン・フリーズの門を越えてく


◆涅槃と欲

あらゆる欲を捨てろ。
食欲、性欲、睡眠欲。
欲を捨て去った先に涅槃があるから。

25週間性欲を抑えること。
5週間食べないこと。
1週間寝ないこと。
それで至福に至れる。

酒は飲まなくていい。
酒で至れる程度は知れている。

断眠はできないから、断食する。
5週間断食する。

至福に生きるためにほぼ食べない
神様、分かったんだ
欲は抑えるものだと
その先に至福があると

性欲も抑えて
食欲も抑えて
睡眠だけはとって

涅槃に浸りたい
幸福の母胎に浸かりたい
それは禁欲で成せる
なら、もう食うな

痩せるためとかじゃない
至福に至るために断食する

フリーズ146 散文詩『しがらみを捨て夢の先へ』

フリーズ146 散文詩『しがらみを捨て夢の先へ』

ラスノートへと死んでゆけ 晴れたなら、あの子のもとへ、飛び立とう しがらみを捨てて夢の先へ 涅槃と欲

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-10-28

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