フリーズ142 散文詩『冬凪』

フリーズ142 散文詩『冬凪』

『冬凪』

 悲しみは輪廻の狭間でまどろんで
 二人のよすがを見守った
 
 愛を体現せしめよと
 友なるゼーレが囁いた
 
 止めて、世界の終焉を
 留めて、翼が休まるように

 アギトは集いて、円環に
 そして始まる原初の凪へ

あの冬の日の憧憬

この心根をどうしよう
本当に最後の声は
本当に最後の色は
ただただ美しかった

この身も音も命さえ
いずれ消えていくように
諸行無常
諸法無我

レムニスケートに祈りを
エデンの園配置を迎えるために
世界を凍結させた

あの冬の日の永遠は
終末と劫初の狭間で
神愛に満たされて
僕は歓喜を高らかに歌った

凪いだ水面に映る顔

僕は死にたかったんだと思う。それでいて死ぬのが怖かったんだ。眠るように安らかな死を望む。そんな自分が嫌いだった。

衆生らを快楽の園へ誘うは
天空の夢と天使の記憶

死ぬ理由、生きる意味、生まれた証、証明しろよ。

その生は何だ? 
何のために行き、何のために死ぬんだよ?

あの冬の日の永遠が忘れられないのは、過去に執着している証拠だ。執着によって苦しみが生まれる。
「あの日に戻れれば」
「もう二度と至福はないんだ」
「僕の人生はアフターストーリーだ」
弱音を吐くなよ、前を向け。

悟ったならば、愛を紡げ。究極的な自己愛。そのために食べるのも寝るのもやめたらいい。

あらゆる欲は要らない。
金銭欲、名声欲、自己の重要感
食欲、性欲、睡眠欲
来世への期待、子孫の繁栄
全てどうでもいいこと。

大切なのは一つだけ
自己愛だ。運命愛と言ってもいい。
己への信頼と期待、愛と誓い。
自分を最もよく知り、裏切ることなく、愛せる真実の愛は自己愛しかない。この哲学よ、永遠に凍れ! フリーズ、フリーズ、フリージア!

永遠の詩を食べてたら気がついた
神は刹那に 永遠に宿ると

終末日 世界は改変させられた
あの日のままで 陽だまりの中

夢を見た 遠い日の記憶 刹那滅
ラカン・フリーズの水門の先

あの時に終わってなかった
始まった この物語の行方は知らずに

最後の日、彼女は誰かと恋をした
世界で最初の秘め事だった

僕たちはここから生まれてやって来た
帰る日が来た それだけのこと

耐えられなかったのか。この世界に、一切皆苦に、耐えられなかった僕らは明日を恐れた。明日を変えたいなら今日を変えなくては。今日を変えたいなら今を変えなくては。

赤ん坊が泣いていた。静かに泣いていた。その瞳は生まれてきた苦しみに震えて潤んでいた。

「生まれてきてしまったね」
「だけど大丈夫。世界は変わるよ」
「生まれてきてしまった後悔も忘れるくらい楽しい人生になるよ」
「いいや、楽しまなきゃ。それが人生だよ」

生まれてきてしまったことを嘆くのも、悔やむのも、呪うのも、もう生まれてしまったのだから。赤ん坊は悟っていた。きっと解ってたんだ、なにもかも。歓喜も嘆きも、哀楽も。

凪いだ水面に映る顔。
君は泣いていたの?
どうか終末には笑ってね。

嬉し涙、歓喜の涙。その味は永遠の真ん中に置いてきた。あの日々の記憶。僕は悟っていた。僕は泣いていた。僕は笑っていた。嗚呼、やはり断眠なのですね。悟りを開くには、脳が死ぬ必要がある。そのためのフリージアだよ。 

揺らいでいる水面の火が
今やっと消えようとしてる

僕が死ぬ日には、777のフリーズが彩る世界を僕は眺めて、安らかな死に包まれて安堵の涙を流すでしょう。嗚呼、やっと終わるんだ。ありがとう、全ての今に感謝して。愛してる、全ての事象を愛してる。

嗚呼、ありがとう、愛しています。

フリーズ142 散文詩『冬凪』

フリーズ142 散文詩『冬凪』

『冬凪』 あの冬の日の憧憬

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-10-10

Copyrighted
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  1. 『冬凪』
  2. あの冬の日の憧憬
  3. 凪いだ水面に映る顔