フリーズ138 散文詩『ここにある楽園を君に』
ここにある楽園を君に
遠き日の記憶はいつの日にか、消えてしまうものなのですね。忘れたくなくて、永遠に続くようにと描かれた言の葉たちは、それでも生きるのをやめることはない。病におかされても、明日に死のうとも。僕はここまでの命を繋ぎとめて、そこに疚しさなどない。
太陽が水面に映る。その記憶が遠く、遠く、小さくなっていく。まだ行かないで、僕を置いてかないで。ここにいるよ。迎えに来てよ。僕を愛で満たしておくれよ。
楽園は終末にはない
楽園は東にはない
楽園は今、ここに
紡がれた詩は最後の言葉を網羅する。
ラカン・フリーズ、愛の歌
永遠から帰って、孤独
天国は空色の摂理
セカイはここで終わる
そんな物語を紡ぎたい
僕を忘れないで、覚えてて。記憶はいずれ消えてしまうの?
いいや、すべての記憶は宇宙に溶け込んでちゃんと保管されている。
それが解ってしまって、僕は永遠と神愛との狭間で終末に歌を歌う。その歌に合わせて君は踊る。その景色が永遠のように思えて、僕はその美しさについ涙を流す。
この景色を見るために生きてきたのかもしれない。そう思ってしまって。これが本当の幸せなのかと思ってしまったから。だから、あの冬の景色はずっと忘れない。いつだって縁して思い出す。それは音楽だったり、酒だったり。でも、ひとつだけ確かなことがあるんだ。
あの冬の日に、神話の日に、僕の心が壊れて、真智を悟り、涅槃色の景色の中で、ラカン・フリーズの門を開けたとき、僕がそのまま死ななかったから、体に戻ったから、だから聴くことのできた音楽はあって、あの冬の日に死ななかったから読むことができた小説もあって。きっとあの冬の日に死んでいれば、解脱、悟り、涅槃に至れたのに、それでも生きててよかったと思えるのはそういう音楽や小説や、詩や酒や、出逢いや運命なのだろう。僕は生きていく。これからもずっと生きていく。あの冬の日に戻れたら。だけど。だけど。
この人生に意味がなくたって、僕が作ればいい。僕の人生の目的はもう定まったのだから。
フリーズ138 散文詩『ここにある楽園を君に』