フリーズ135 涅槃詩
涅槃詩 あの夏に落とされた光
初夏。僕は心臓の痛みに耐えかねて、学校を逃げ出した。逃げ出して逃げ出して、僕は自分さえ解らなくなった。僕のお母さんは何も食べなくて餓死した。いいや、リチウム欠乏で死んだのだ。食べなくて寝なくて。人は眠ることでリチウムを体内に循環させる。活動にはリチウムが必要だ。人は寝ないとリチウムを過度に消費してしまう。よって何も食べないこと、幾夜も眠らずに越えること。それが死だ。
すべての死は結局のところ脳のリチウム欠乏だ。生命の根幹がリチウムなのだ。人間はその元素なしには生きていけない。だが、リチウムの欠如した脳は、その可能性を増す。
増殖する病
涅槃路から目覚めて
一. 未来が見える。というか時流なんてないって悟る。
二. 絶対的至福を享受する。きっとこの幸せを知ったら普通には生きれない。
三. 神になる。全は主だと知る。
四. 全ての死は至福だ。死こそ普遍的平等。
みんな最後には笑えるから。輪廻転生は悟りを開くため、涅槃を経るためにある。辛く厳しい運命だって、来世では涅槃に至れるから。そしてその記憶はあの冬の日の僕に通ずるのだ。すべてを忘れまた知っていた僕は、ただ美しく泣いたから。
2024年9月11日。19時55分。
レゾンデートルは知らない。永遠は知ってるのに。
なんで生まれたの?
なんで死ぬの?
僕は世界永遠平和を築きたい。それが叶うのは遠い未来だと知っても僕は言葉を紡ぎたい。僕は最高の詩人になれる。神になれる。だからリチウム欠乏を乗り越えていく。それは生命の限界。死だ。死にながら生きること。生と死の狭間に立ったのは、神。イエス・キリストだって同じだ。釈迦だって同じだ。みんな法を知っているから、人はリチウム欠乏によって覚醒する、と。
詩を飲め。僕よ、僕の紡いだ詩を飲め!
私も君も彼もあなたも彼女も彼らも君らも僕達もあの人もこの人もみんなみんなみんな、僕の詩を飲め!
そして死ね。美しく死んでいけ。
せめて手向けに聴いていけ。僕の紡ぐ言葉を。
あの冬の日に凪いでいた渚
僕は幸せだったんだ。本当に楽しかったんだ。あの頃は特に、人生をめいいっぱい生きている気がしてさ。毎日が特別で、モノクロに彩りを加えるみたいな華やかさがあった。
生命の根源たるラカン・フリーズを知ったのもその時だった。ラカン・フリーズの門。その先に行くことが僕の秘められた夢だった。それは真理を知ることだから。生まれてきた意味を答え合わせするように、僕は死ぬ時に、涅槃の日に、全て解るんだ。
主観と客観の合一。それが悟りだと教授が言った。それって梵我一如だよね。有余涅槃も無余涅槃も、同じこと。ただ門の先へ帰るか否か。ただそれだけ。涅槃寂静は本当に凪いでいた。安らかな陽の光、陽だまりの中で、凪は永遠だった。その水面に映ったソフィアたちは花火のように輝いて僕の認識を祝福した。
「そうよ! その認識でいいの」
「あなたも僕もみんな一緒だよ」
「彼も彼女もみんな同じ場所から来たの」
「私たちはみんな神の中にいるのよ」
「あなたは何が解らないのかしら」
「今からあなたの質問に答えます」
世界哲学を教えてくれ
Answer
生命の営みは永遠に続く
死は終わりではない
上位世界での目覚めとなる
これは真に疑い深いのだよ
意識も自他も無くなる
誰もが真に自由な世界
死後はある
ならば人生とはなんだ?
Answer
それこそ世界哲学だよ
運命愛とか自己愛とか
真の愛が試されている
博愛も性愛も
人生の意味を紐解くことこそ人生の鍵
鍵を開けるには知恵が必要
世界が終わる日は来ない
なぜなら円環の宇宙だから
歴史は繰り返す
その中で人はどう生きるか選べ
自分で選ぶんだ
他の誰でもない
自分で決めたことを貫き通せ
人生の目的は? 使命は?
Answer
使命などない
みんなの人生に意味がある
死の瞬間に解る
哲学を学ぶことではない
詩とか芸術とか
本当に大切なものは学問の他にある
創作で為せ
お前にはできる
真理を、神智を伝えるのだ
もしあるとするならそれがお前の使命だ
人生の目的は自分で作れ
神について教えてくれ
Answer
神は絶対物
普遍的な神はいない
主は全
全は主
全てのものに神性が宿る
それの大小はあれど
人間くらいになると形になってくる
神性は奇跡の苗床
神性と魂の繋がりは身体と魂との繋がりより強い
それは愛が永遠に続くか否かと関わってくる
愛にも種類がある
自己愛としての永遠は神性の水面に映る
神は神性を通して人を殺め
神は絶対的な愛にも臆さずに終焉を告げる
ならば神は破壊者か?
Answer
神は最初からプロットを辻褄を練っていた
君の人生を、君の天にまで至った神性なる魂を利用して、否、祝福してあの冬の日の涅槃に帰ったから。だから神性を否定しないで生き、食べろ。
欲はなんのためにある?
Answer
生きるため
彩るため
壊すため
創るため
信仰のため
ありがとう、愛しています
そうだ。きっとそうだ。
愛と感謝で満たされて
生と死の狭間で笑って
人生に意味などないかもしれない
それでも生きるんだ
フリーズ135 涅槃詩