Knight in the Black

主な登場人物

アリアーヌ・ブレイズ　『黒の女騎士』こと自由騎士の女性。金髪碧眼の長髪でバイセクシャル。親友の言葉を信じて西の国へ向かう。

リリィ・グレイス　白い髪をした優しげな女性。アリアーヌの唯一無二の親友。西の国で自らと密接な関係にある『滅び』をアリアーヌに伝えた。

プロローグ

　目を開けると、そこは森の中だった。
　木漏れ日の差し込む大樹の元で、その少女は眠ってしまっていたようだった。
「……アリア……アリア……」
　誰かが少女のだろう名前を呼ぶ声が聞こえる。それは聞き慣れた声。幼馴染みの親友の声だった。
「……リリィ？」
　少女は上半身をもたげると、不思議そうに首を傾けた。
　少女は身体を起こし、声のするほうに振り向いて走っていく。
「……アリア……アリア……」
　親友の声は徐々に近くなっていく。
　そして、ちょうど林が開けた森の小道に出ると、声のするほうからはぼんやりと黄金の光が輝いて見えた。
　そこにいたのは少女――の姿をした、幽霊？　透明な人間だった。
「アリア、ようやく来たのね」
　声の主は、どうやらそれから発せられたものらしかった。
「……リリィ？　あなた、リリィなの？」
　少女は幽霊に問いかける。幽霊は、にっこり笑ったような気がした。
「こっちに、一緒に行こ？　アリア」
　幽霊は少女を見るとすぐに踵を返し、森の小道を進んでいく。その先には、幽霊と同じく、黄金に輝く、透明な階段があった。
「……あなた、一体誰なの？」
　と少女は言いつつも、幽霊の誘い通り、少女も黄金の階段へと向かっていく。摩訶不思議な体験だ。
　幽霊は少女を先導し、光の階段を上がっていく。少女もそれに続いた。
「アリア、もう少しだよ……」
　そして幽霊と共に階段の頂上へとたどり着いた途端、辺りの風景が一気に変わった。
「なに……これ？」
　見渡すと、雲のような白い綿みたいなものが、青い背景に浮かんでいる。……いや、浮かんでいる、というか、それはいわゆる地面にもあったので、自分が空の上に浮かんでいるような感覚だ。
「……アリアーヌ、久しぶりに会えたね」
　前方には雲のような霧が霞がかっているが、そちらから声が聞こえた。それは、先ほどの幽霊のようなほわんとした不思議な声ではなく、本物の、人間の声だった。
「リリィ……なのか？」
　アリアーヌと呼ばれた女性は、声の主に呼びかける。呼びかけて、少しだけ低くなった声色で、自身の身体の変化に気がついた。黒い麻服と黒いズボン。胸は少し出て、身体つきも、いつもの大人の女性の姿に戻っていた。
　呼びかけに応じるかのように、前方の霧から人影が現れた。白い服に、同じく白いセミロングの髪。瞳は大きな緑色の、柔和な瞳。それはまさしく、少女の唯一無二の親友の姿だった。
「アリアーヌ、突然だけれど、ごめん、お願いがあるの」
「……お願い？」
　自らが立っている場所からして、これがただの夢であることは、少女は承知の上だったが、だからといって親友のお願いなら聞かざるを得まい。
「うん。……私ね、今、西の国にいるの。アリアーヌも知ってるでしょ、西の国。魔法と信仰の国。そこで今、滅びが始まっている。私はそこにいる」
「滅び？　滅びとは何だ？」
「今は、話せない。でも、その滅びが、私と密接な関係にあるのは確か……。だからね、私に会いに来てほしいの、西の国に」
　そう言ったリリィは、彼女は、少しだけ、うつむいたような気がした。
「なるべく早く、会いに来てほしい。あなたが滅びを止めれる、唯一の人間だから」
「……」
　そういきなり言われて、完璧に信じれる人間は、僅かだと思うが。
「……分かった。きっと、いや、必ず会いにいく。だから君は、どこか安全なところで待っててくれ。私は明日にでも旅立とう」
　少女はぐっと胸の前で拳を握りしめた。
「ありがとう。……もうこの空間を保てるのも時間の問題だわ。私と最後にやりたいことはある？」
「ああ、もちろんある」
　少女は深く頷いて、リリィの元に近づいた。
「……抱きしめても、いいか？」
　こちらも突然のお願いだったが、リリィは快く受け入れてくれた。
　少女は、リリィを深く抱きしめる。
「リリィ……大好きだよ。……リリィ、愛してる」
「私もよ、アリアーヌ」

1 熱砂荒ぶ荒野の地にて