おろか、おろそか
おろか、おろそか。
空想を文字に変換するようになり、僕は重なりあったいくつかの世界に存在するようになった。
けれど人生が倍になった訳じゃあない。
痛みを感じるこの世界を、少々おろそかにしているに過ぎない。
そのことが空想の世界をも薄めてしまうというのは、どうにも厄介ではある。
珈琲片手にペンを執り、ひたすら旅路を前へ前へと進んできたけれど、ふと振り返ればぐるぐると僕自身のなかを彷徨っているばかりで、深く深く潜り込めば禊も済むだろうと思ったのは大きな間違いだった。
答えも解決策もありはしない。
反芻し、痛みも罪も消えてはいないのだと、過去をなぞるように曖昧な世界を放浪し、都合良く書き換えることもできずに、幾度となく蘇るその影は、とうの昔に僕のことなど赦している。
痛みに満ちたこの世界から一人脱出した君に、今日も会いに行くために僕は文字を綴り続ける。
そんなふうに時を浪費する僕を、君はきっと愚かだと笑うんだ。
いつか痛みにも麻痺し、この世界が真っ白になるほど朧になったなら、君に触れることができるだろうか。
けれどそれはまだ先のことのようだ。
おろか、おろそか