フリーズ130 涅槃文学 海
あの冬の日を越えていけ
やはりあの冬の日なんだ
すべてが始まり
すべてが終わったのは
それでも僕は生きていく
疚しさ引き摺り生きていく
海
海に入って数秒。波と砂の感触がやけに冷たいのを感じる。幾つもの船が遠くを左右へと移動している。その悠久の様は波間にいるからか。
入水自殺を企んではよく失敗したっけ。苦しくてやめるんだ。苦しい死に方は嫌だな。死ぬなら楽に死にたいよ。それはあの冬の日に至った至福の時に死ねればよかったと言いたいだけなのかもしれない。
でも、この音楽は生きていなければ聴くことはなかった。そういう詩や小説もたくさんあった。死んでしまったらきっと全てと繋がる。僕はあの冬の日に解ってしまったんだ。みんなは神に等しいと。否、全は主。生命は大なり小なり意識を持っていて、その意識がイデアの海に溶け込んでいる。普段は一つ一つの意識が分かれている。魚のように。だが、死んだら海に溶け込むように意識は宇宙へと溶け込む。大きな波にさらわれて、大海へと溶け込むように。
嗚呼、海辺で波の音を聞く。どこか涼し気な気分になる。夏の暑い日差しも、この波の音で紛れる。詩を書こう。海の詩を。砂は攫われていく。遠くへ、日のある方へ。遠い遠い波が揺れてる。静かな水面に映る月を見てる。凪いだ風に水面に映る探した答え、やっとつかんだ。
そう。あの冬の日から3年半。僕はこうして生きている。詩を紡ぐのも、やめない。これが僕の生きる理由だから。存在証明のためだとか、レゾンデートルのためだとか言いたいんじゃない。僕はただ幸せでいたいんだ。涅槃文学よありがとう。僕はまたイデアの海に溶け込んで、その冷たい水の感触と寒空の下でまた、陽だまりの中でまた、会えますように。
フリーズ130 涅槃文学 海