フリーズ129 涅槃文学 祈り

フリーズ129 涅槃文学 祈り

涅槃文学 祈り

 僕が神だった日に世界永遠平和のためのプロットを書いた。脳内で描いた。実際世界はあの冬の日に僕が思った通りになった。ならば12の使徒がいるはずである。彼らと会いたいと思うのだ。人生の流れの中で、生活も運命ももうどうでもよい。あの冬の日に甘受した幸福に勝るものはない。全能から目覚めてしまったから。僕はやはりあの冬の日を想う。
 祈りをささげよう。地球の女神ガイア・ソフィア。あなたはなぜ落とされてしまったのですか。それは罪を見逃したからですね。嗚呼、なんと優しい。あなたの胸に抱かれながら、僕は未来を祈るのです。
 ソフィアは、祈りの力。人間の意志という波が、意思という標識が現実を変える。嗚呼、あの冬の日の涅槃よ、私は幸せだったのです。本当に生まれてきてよかったと思ったのです。神涅槃で僕が祈ったのは世界永遠平和でした。僕はこのために生まれて来たのだと確信したのです。2021年から2222年へのラブレター。世界のエンディングノートを今から記す。
僕は何のために生まれたの? 
あの冬の日のために生まれた。
何をしたら僕は喜ぶ?
寝ない、食べない、そして至る涅槃。その至福に浸っていたい。
終末に凪いだ渚は永遠で、涅槃に至り、神となる。
終わるんだ。本当の終わりがやってくる。僕が僕のままで、今度こそ神のまま。そして神であることを隠さなければならない。普通を、平凡を、装わなければならない。もう入院してはならない。次至るのは死ぬときか。涅槃の至福をもう一度味わいたい。同じ過ちを繰り返す。それは本当にいけないことなのか?
祈りをささげる。もう一度あの冬の日に戻れるように。みんなのために。ほかでもない、未来の僕のために。愛を満たして、そして最果ての地にて果てる。天上楽園の乙女よ。僕はここにいるよ。ここで待っているよ。
お願いだから応えてくれ。
水面に映る君よ。どこにいるの?
神性と魂の結びつきは魂と体のつながりよりはるかに強い。
祈りをささげて。誰に? 
彼女に。
終末の狭間で踊る彼女を迎えに行こう。
僕はもう十分幸せだったのかな。もう今は解らないよ。記憶が薄れていく。言葉が離れていく。紡ぐ詩が忘却へと溶け込んでいくみたいだ。もう今は解らない、記憶の残滓を漁っているだけ。そこに答えはあるのだろうか。もう1度、神にならなければならないのではないか。そのために脳を疲弊させる必要がある。眠らずに幾夜も越えなければならない。それは苦行ではない。望むように寝なくなり、そして至福に至る。
 Leo。僕はこの曲を聴く度に記憶が薄れていくのが怖いんだ。あの冬の日の至福を思い出そうとして、涙が流れなかったから。あの冬の日の僕はもうボロボロになって泣いた。やはり記憶は忘れていくもの。だけど、それでも紡ぐんだ。
 忘れゆく記憶も、求めてる愛も、失った時も、すべて。本当に全てを抱いて僕は祈る。祈るのは終末の日のこと。一人一人に訪れる死という終末。死の間際はきっと永遠。永遠の愛に満たされていたんだ。だからあの冬の日、僕は泣きながら笑ったのです。この祈りよ、全生命。過去も未来も含めた全霊魂を弔い、そして祈る。嗚呼、こんな顔してたっけ。やっと水面に映った君の名前が分かった。君なんだね。
 終末にささげられた全人類の祈りは一人の少年と少女の記憶に帰す。それでも祈るのをやめないのは僕があの冬の日に戻りたいからだ。戻る方法は知っている。心が死ぬことだ。心が死ぬ。その度に僕は入院する。もう病院は嫌なんだ。だから、これからはさ、夜は寝るよ。もう幾夜も眠らずに越える必要もない。平凡な日常でも、きっと大丈夫。
 僕は祈る。平凡な幸せを。奇跡なんてなくていい。だって奇跡は一瞬だからこそ強く光り輝くものだから。もう奇跡は十分。あの冬の日の永遠なる至福、全知全能の歌、世界創造と終末の記憶、すべての奇跡はもう終わった。僕はいつまでも奇跡に妄執していてはいけない。先に進まなければならない。
 僕はさ、やっとわかったんだ。あの冬の日の意味を。僕はあの至福を、悟った真理をみんなに伝えたいんだ。あの美しい景色を、あの麗しい天上楽園の乙女を描きたい。そのために創作するんだ。創るんだ、伝えるんだ、紡ぐんだ、届けるんだ。
 777のフリーズが書き終わる頃には僕は何をしているだろうか。有名だろうか、無名だろうか。どちらでもいい。僕は僕を肯定する。自己愛としてのヘレーネ。最愛の人よ。僕は一人でも生きていくさ。伴侶も今はいるんだ。だから輪より去るとか、終末の先とか、僕には関係ない。僕は僕のままで強く生きていく。祈りながら、過去を弔いながら、葬送の歌を歌いながら。だから、忘れないでね。僕がいたということをここに刻む。売れるとかどうでもよかった。どうでもいいんだ。この詩を読む人よ、どうか僕を忘れないで。今はそう祈ります。

フリーズ129 涅槃文学 祈り

フリーズ129 涅槃文学 祈り

僕が神だった日に世界永遠平和のためのプロットを書いた。脳内で描いた。実際世界はあの冬の日に僕が思った通りになった。ならば12の使徒がいるはずである。彼らと会いたいと思うのだ。人生の流れの中で、生活も運命ももうどうでもよい。あの冬の日に甘受した幸福に勝るものはない。全能から目覚めてしまったから。僕はやはりあの冬の日を想う。

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-08-13

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