フリーズ126 涅槃文学 生命の樹
命の宿るその星に一人の少女が降り立って、永遠の時を過ごしたよ。夜空を見上げて抱くこの憧憬は何なのだろう。隕石が落ちてくる。そんな夢を見る。私は、いいや、隕石は私に引き寄せられて衝突する。その刹那に全ての答えを見た気がした。これで死ねる。
だが、目覚めたのは知らない部屋。生命の樹を包むようにできたその施設はエデンの園と呼ばれていた。生命の樹の下で昼寝をする。その午睡のなんと穏やかなことだろう。それはまるで死の間際に感受するような至福だった。嗚呼、我が小さな謎たちよ、この刹那に永遠が終わるなら、もう答えは見つかったよ。
レイン・フリーズ、雨の城。七色の光に包まれて。レイン・フリーズ、雨の園。七色の光に包まれて。そして僕は気づくんだ。英雄の書を読み、求めてやまない心根を。
生命の樹に宿る精霊。イスカンダルへの流れ。せめて夏のアスファルトの香りに似たこの情動をどう昇華しよう。安らぎはあと少し先。
僕は気づいてしまった。もうあの冬の日を越える経験はないと。あの冬の日の幸福はもうないと。眠らずに幾夜を越えたって叶わない。神意識に至っても、あの冬の日に戻れる訳もない。本当にあの冬の日は世界神話なのです。世界創生と破壊の秘儀は、全知全能に象られて、一人の少女と一人の少年の愛に帰す。それでよかったから、僕は生きることにした。でも、あの冬の日に終わっていたらって何度も考えた。
最高の人生に最高の死は必要だろう?
生命の樹の下で眠るような穏やかな凪いだ渚に映るその顔ももう思い出せない。あの冬の日の素晴らしき脳のクオリアよ、何故永遠は幸福の増大につれ薄れゆく。永遠も半ばを過ぎて僕は悟った。天上楽園は此処にあった。マンションの屋上に。僕は幸福の狭間で飛び立つ。天上楽園の乙女に会うために。
フリーズ126 涅槃文学 生命の樹