フリーズ123 涅槃文学 花鳥風月
花鳥風月
「相わかった。革命の子よ」
そう告げて、神父は最期の眠りにつく。
「私はついに! ついに私は、その秘密を知る!」
彼の目はここではないところを観ていた。嗚呼、私はとてもその景色を知りたかったのだ。あなたは死の間際、何を観たのですか。あなたは死の間際、何を胸に抱いたのですか。花に包まれて寝るあなたはとても穏やかな顔をしていた。最果ての夢に出てくる夢の乙女よ、君は終末の狭間で一人踊っていたね。息をすることさえ忘れて、君は眠る。なんと美しい。天上楽園の乙女の接吻。最期に観る景色。ラカン・フリーズ。水門の先へ。
いつ人は死ぬのでしょうか。輪廻転生、ラブソング。忘れられたら死ぬのですか。僕はもう、食べることも眠ることもしたくないんです。生きることもやめることも愛しているからです。生への期待さえ愛せたら。死へと繋がる道ならば。死して解脱の真理なら。人はなんのために生まれ、生きるのでしょうか。私はそれを神のレゾンデートルと呼ぶ。その解を、その希望を、その愛を、私はそれでも求めてやまないんだ。
花が送る葬送は、鳥のさえずりに祝福されて遠くアユタヤの地にて水辺の睡蓮になる。鳥は風に乗って、世界を渡る。渡り鳥よ、どうかこの壁を越えてあの子のもとへ。一番愛したあの子のもとへ。
月よ、あなたは地球をこんなにも想っているのですね。ガイア・ソフィアは地球の女神。私はかつて一度だけ彼女を見たことがある。幻影だったのかは今はもうわからない。
嗚呼、涅槃。
最後の記憶がなく、もう終わるのに、せめて解脱の真理ならばと、繋がる道ならばと。でもね、いいんだ。もう病めるのも。だってあの冬の日のあなたは世界一幸せだったでしょう。冴えわたる脳、安らかな視界、全知全能なる至福。最後の景色。きっとすべての存在は思い知る。君が他でもない、神であることを。
「あなたは神族の一人」
「神族は世界に千人くらいいる」
と、ある老婆が僕に告げた。もう会うことはない。だが、この言葉を今でも思い返す。僕は何者なのか。神族ならば何をするべきか。あの冬の日、確かに電話越しに「ご苦労様」と告げられた。もしかしたら、もう僕の使命はあの冬の日に終わっているのではないか。この人生はもうアフターストーリーなのではなかろうか。そう思っては、今宵の満月に祈りを捧げる。
生きるのも、病めるのも、もういいんだ。僕の使命は果たされたのなら。でも、もう一度あの涅槃、至福、解脱を味わいたいものだ。それはきっと死ぬ時なのでしょう。僕もいつかは死ぬ。その時に思い返すのでしょう。この痛みは忘れない。ラカン・フリーズの門へと続け。
涅槃文学 時雨
この涅槃文学を2222年の君たちへ送る。その時、私が有名だろうと、無名だろうと、私はこの文学を作り届けるのだ。私の紡ぐ詩よ、死よ、轟け。いつかのラカン・フリ―ズの門前に立った記憶さえ、忘れてしまうのだろうか。忘れてしまうとしても、ここに記すよ。最も大切な記憶も、思い返す度に薄れて消えていく。ならば寝なければいい。眠らないことによって記憶を忘れることを避けるのだ。否、ここに記す。だから夜は眠れ。
フリーズ123 涅槃文学 花鳥風月