フリーズ120 涅槃文学

フリーズ120 涅槃文学

葬送の花束

母が死んだ。父が死んだ。兄が死んだ。妹が死んだ。僕が死んだ。死んだら無だ。生き返ることなどなく、ただ焼かれ灰になって風にさらわれる。
夢の中で生きている人達は、この涅槃文学のために死んでいく。涅槃文学こそ最後の文学。世界の始まりと終わりを同値にする行い。神聖な儀式。結局死ぬのは僕だけでした。
僕は生きていけない。この世の摂理とあの世の真理にこの目が開かれた日にはもう! もう、止むんだ。全ての波が、抱いた欲が、煩悩の火が消えていく。僕は最果ての景色、渚に立ち、風が凪ぐのをただただ見ていた。
「ヘレーネ。愛しているよ」
遠い日の記憶。僕が愛したのは僕だけでした。だって君はあの冬の日の永遠に囚われた、否、神だった3日間にしか会えない最愛の人。あの冬の日は正しく涅槃だった。
僕の家族? 僕が殺したんだ。安らかに終わるように。全ての命の波が止むように。だから、せめてもの手向けとして、花を送ろう。葬送の花束を。

人生は

人生は山登り。
須弥山を登る山登り。
頂上に着くと景色が晴れる。
全てを見通せる。
悟りを開くのと同じ。

人生は滑り台。
頂上へ登ると解脱。
滑るは残りの人生。
クライマックスのこと。

宇宙はブランコ。
揺り返し、繰り返し。
ループする波、いつか翔び立て。

着地したら、次はどの遊具で遊ぼうか。
人生は公園の遊具で遊ぶだけ。

涅槃詩

生きとし生けるものたちよ
今宵は終末前夜Eve
神の力も仏の祈りも
全てが滅する煩悩の火
愛が愛故に愛を愛たらしめている

涅槃詩に頂くは劣等の先にある解。行く末さえも愛せたら人は悟りに悟り、その夢さえ大切にするのでしょう。

だが、刹那に永遠が内在するなら、あの冬の日にもう物語は終わっていたんだ。

常住のアートマン、ブラフマン。僕を救ってくれないか?

涅槃文学

ここに涅槃文学を記す。最期の言葉が、始まりの色香が、誰にも解らない答えへと繋がる。その神愛の連綿たるや、織りなす布は君のためのキトン。

真実にこだわるから、不幸になるんだ。ただ会えればいい。生まれ変わるまでに会えればいい。消えてしまえればいい。もう何もかも諦めて、いっそ何処かの楽園で一人死ぬのもいい。そんな妄想をするのも病めるのも。でも、もういいんだ。大丈夫だよ。僕はここだよ。迎えに来てよ。

木蓮の樹の下で、悟りを開いていた。風が万象のように感じる。この全知性は忘れられない。否、忘れてたまるか。これこそ私の生まれた意味。この日のために生まれて来たんだ。そんな全知全能、涅槃、解脱、神、悟り。

嗚呼、涅槃時は全てが凪いで音が止む。すべての煩惱の火が消える。波がやみ、水の鏡が地平へ広がる。

「探してた答えは見つかりましたか?」
「ありがとう。見つかったよ。それはここに」

そう言って胸を叩く。
楽園に一人立つ少女よ。
全知少女よ、いざ征かん。

涅槃の安らかな死。冴えわたる脳。全脳に還る命は歓喜に総身を躍らせた。この弱さも美しい未来のために手向けとする花ならば、七色の光を受けて死体の埋まる桜の樹の下で芽吹くだろう。

永遠が終わる日に僕らは天空へと翔けていく。刹那の中の永遠が終わる。時の再生は、終末の秒読みとなり、ラカン・フリーズへ命は還る。いつか君と会う日まで、この人生よ廻れ。

フリーズ120 涅槃文学

フリーズ120 涅槃文学

刹那に永遠が内在するなら、あの冬の日にもう物語は終わっていたんだ。 ここに涅槃文学を記す。最期の言葉が、始まりの色香が、誰にも解らない答えへと繋がる。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-07-05

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  1. 葬送の花束
  2. 人生は
  3. 涅槃詩
  4. 涅槃文学