掌編集 22

掌編集 22

211 馴れ初め

 若い頃、保険会社で事務をしていた。最初の2年は本社勤務。
 母が亡くなり、家事をしなければならなくなったので、近くの営業所に異動させてもらった。
 歩いて通える距離。
 
 クリスマスに営業所の外交員さんに、喫茶店で行われるパーティーに参加してくれ、と頼まれた。お得意さんの店なのだろう。
 最初は断った。前日も飲んで二日酔い……髪も洗わないで出勤したのだ。しかし、しつこく誘われて断れず……
 髪も服も気に入らない。おまけに帰りは雨になりそう。

 紹介された男は無口だった。何を言われてきたのだろう? こちらも頼まれて参加したのだろうか? 
 当たり障りのない会話。声だけは低音で素敵だった。出身は、秋田……

 そこから話が弾んでしまった。秋田は父の故郷。おまけに私は行ってきたばかり。女友達と恐山から十和田湖、奥入瀬、父の実家に泊めてもらい、田沢湖……
 酒が入れば話が弾む。結局、続けて二日酔い。
 帰りは私の折りたたみ傘で相合傘。
 送ったくれた彼に傘を貸し、電話番号を教えた。


 父は同郷の娘の彼氏を紹介され喜んだ。家に連れてくると故郷の話をする。酔って同じ話を何度も。
 そして、同郷の娘の彼氏の実家に付いてきた。そこで、彼の叔母が父の従兄弟と一緒になっていることがわかった。

 縁があった。結婚した。
 会々(たまたま)クリスマスパーティーにいったから。



【お題】 会会傘

212 凶器は?

 若い頃読んだ本。

 その頃、海外ミステリーではいつも1位だった。

 作者が生きていたら、小躍りしただろう。

 あらすじは狂気に満ちた富豪の一家に起こる連続殺人。

 凶器は楽器のマンドリン。
 なぜ?

 英語の『blunt instrument』は、読んだ頃には意味がわからなかった。

 ドラマ化されたのを覚えている。
 くずした『鈍器』という文字を『楽器』と読み間違えたことになっていた。

 再読しようと思い、ずっとそのまま。



【お題】 凶器乱舞

213 夢でよかった

 北陸旅行4日目の夜中。
 相変わらず12時過ぎに目が覚めて、某サイトのお題を考えていた。
 ひとつ投稿した。

 夜中に読んでコメントくださる方がいて、繋がりを感じ、嬉しくて嬉しくて。
 踊り出したかった。

 その後ウトウト。

 いや〜な夢を見た,

 殺人事件が三つ。

 もう、忘れているけど、

 娘の旦那が小突いた男が、倒れて打ちどころが悪くて死んでしまった。 (怪力)

 姉夫婦と旅行しているせいか、義兄の兄が誰かを殺してしまった。81歳になった、と昼間聞いただけで夢に出てくる?
 凶器と方法は不明。

 あとは、娘の友人。
 海に沈む夕日が見たい、なんて聞いていたから。
 やはり凶器も方法も不明。誰を殺した?

 なぜ皆、私に言うの?

 黙ってればいいのに。

 私に近い人が、殺してしまった。
 
 あっちもこっちも。

 どうしよう?

 黙っていればバレない?

 でも死体はどうしたの?

 早く埋めなきゃ……

 ああ、見つかる……

 波の音がザブーン、ザブーン。

 ここは自殺の名所。

 ドラマで追い詰められた女が刑事に告白する断崖絶壁。

 
 眠れない。

 お題のせい。


【お題】 凶器乱舞

214 会わなくなって

 歳を取ると出不精。億劫。
 出かける時は車ばかり。
 電車に揺られるには、その前にバスに揺られなければならないし。
 この前、孫のお遊戯会に行くのに、パスモが使えなくなってて焦った。
 
 コロナ前は親しい友人とよく出掛けた。
 子どもが同じ幼稚園で、30年来の友人なのだけど、
 新しいビルが建つと行ってたのだけれど、
 表参道ヒルズの頃から、最後はどこだったかな?
 日帰りのバス旅行もしたな。

 子どもの出来が違ってて、向こうは3人の男の子、皆大学出して会計士とか。

 うちは……バカばかり。勉強や学歴の話はしたくなかった。

 それでも、3人皆結婚して子どもができて、
 向こうはひとり結婚したけど……

 孫の話は避けて、
 
 コロナを理由に会わなくなってしまった。

 なにかで、歳を取ったら友人も断捨離、なんて読んだし。

 それまでは、どちらからともなく、連絡しあってたのに。

 このままかなあ?



【お題】 電車に揺られながら

215 こわ〜い凶器

 人々が次々自殺していく。
 ビルから人が大量に降ってくる。
 首吊り死体がたくさん……
 残酷にどんどん死んでいく。

 突然始まった原因不明の人間の自殺……

 集団自殺は、初めは毒ガステロによるものだと疑われた。


 風が吹く。
 木々がざわめく。
 花粉みたいなガスが凶器乱舞。
 人間は家から出られなくなる。

 
 原因は最後まではっきりとはわからない。

 増えすぎた人間を減らすために、地球が植物にやらせていくのだと思った。

216 使い方しだい

 サツキ、花火大会行こうか?

 5月に花火大会あるの?


✳︎

 隅田川で開催される花火大会が初めて行われたのは、1733年 (享保18年)の5月28日。
 前年の飢饉とコレラの流行により、1万2千人もの死者が出た。その霊を弔うことを目的として、隅田川で花火が打ち上げられるようになった。

 現在日本で行われている伝統的な花火大会は、「戦没者慰霊」や「災害による死者の供養」などを目的として開催され始めた。
 他にも「豊作祈願」のために花火を打ち上げる地方もある。


 花火は下から打ち上げて、空で散開して祈りの花火になるが、同じ火薬を上から落とすと爆弾になってしまう。
 戦争による爆弾は敵を滅ぼし、経済を生むため、世界は花火より爆弾の方が多い。
 しかし、人間に爆弾をつくる力も花火をつくる力も同等にあるならば、爆弾ではなく、花火をつくる方向に向かおう。
(『この空の花―⻑岡花火物語』で大林宣彦監督が作品に込めた言葉)

 同じ火薬から作られながら、使い方次第で人を楽しませも殺めもする花火と爆弾。



【お題】 五月の花火

217 愛の終わり

 ある作者さんの長編小説の余韻が残っている。結ばれなかった愛。子どもの頃からずっとお互いに思っていた。運命だと。
 しかし、結ばれることはなかった。

 結ばれない愛だからこそ永遠なのだ。
 結ばれていたら、いつまでも愛は続かない。
 関係は悪くなり、同じお墓にだけは入りたくない……
 そんなことになっていたかも。

 
 数年前、娘が妊娠中に実家に来た時のことだ。初期の妊婦は匂いに敏感だった。洗剤やシャンプーの匂いまで耐えられず変えていた。
 比べて私は鈍感だった。マンションのエントランスの匂いが異様だったのに、すぐそばの畑で撒いた肥料だと思っていた。娘は家に入るなり言った。
「すごいにおいだよ。動物でも死んでるんじゃないの?」
 
 まさか、ね。
 エントランスのエレベーター前の部屋はひとり暮らしの男性。長男の小中学校の同級生のおとうさんが、ひとりで住んでいた。

 最初から住んでいた家族ではなかった。リフォームしている時に立ち会っていた男性が、たまたま私と目が合うと嬉しそうに言った。
「娘が住むんです」
 娘のためにリフォーム現場を見に来ていた。私の父と比べてしまい羨ましかった。どんな奥さんなのだろう?
 
 5人家族の長男はうちの長男と同じ歳で同じ学校だった。やがて、そのエレベーター前の玄関からはしょっちゅう母親の怒鳴り声が。

 凄まじかった。子どもを怒っていたのだろう。3人いれば抑えられないのはわかる。しかし、ヒステリーだ。聞くに耐えない。夫も何度も耳にしたと言う。エレベーターの前の部屋なのだ。
 その奥様はファミレスで働いていた。夜勤の時もあるらしく、朝方すれ違うこともあった。旦那様の顔は見たことがなかった。

 そのうち、奥様と子ども3人は出て行った。
 それから10年以上経っていた。さすがに異様なにおいだと思い、管理会社に電話した。担当の方は前年理事をやったばかりなので知っていた。

 実は……苦情があり警察を呼び隣の部屋の庭から入った。予想通りだった、とのことだ。片付けられたが、元妻や子どもたちの姿は見かけなかった。

 続かなかった愛の終わり。


【お題】 元・運命の人

218 五月病

五月病

罹ってみたいわ

もう一度



気のせいだ

頭痛腰痛

五月病



7割は

3日食べなきゃ

治ります



迎えまで

五月は何度

あるかしら?



五月病

もっと怖いよ

認知症



ポジティブに

生きると決めた

古希五月



忘れない

五月のバラの

尾崎紀世彦 (字余り)


【お題】 五月病に効く一句

219 いつまで?

 娘が海辺に越して行って、前ほど孫にも会えなくなると思っていた。
 ところが旦那は、こちらに仕事。保育園の休みの朝は車に乗ってやってくる。
 私は早朝のバイト。

 帰って鍵を開けると、孫が飛んでくる。
「おばあちゃん、おかえり、⚪︎⚪︎くん、おばあちゃんに会いたかったよ〜」
 娘が言わせているのだけど、いつまで来るかな?



【お題】 ただいまが言えたら

220 過去作ありすぎて

 過去作あり過ぎて、自分でもなにがなんだかわからない。
 たまにランダムに読んでみて、え〜っ? こんなこと書いてたんだ? すごいな、私…‥なんて思う。
 もう過去に生きてるから、新作は逆立ちしても思い浮かばない。以前は脳より指が先行してたのに。
某サイトの【お題】が出ると頭の中で過去作を探す。なにかしらあるものだ。
 それを改筆する。
 過去作がまたまた増えていく。
 もうタイトルから中身が思い出せない。
 整理しようと連作エッセイにまとめて、こうして投稿している。
 埋もれたものを、もう1度読んでもらえるかも、と。
 でも、また埋もれていく。
 ああ、これもまた埋もれていく。


【お題】 過去作をリライト

掌編集 22

掌編集 22

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-06-11

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  1. 211 馴れ初め
  2. 212 凶器は?
  3. 213 夢でよかった
  4. 214 会わなくなって
  5. 215 こわ〜い凶器
  6. 216 使い方しだい
  7. 217 愛の終わり
  8. 218 五月病
  9. 219 いつまで?
  10. 220 過去作ありすぎて