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191 コーヒーもう1杯
【お題】 朝の1杯
 朝とは6時頃から9時頃までをさすそうだ。
 まず、朝起きて白湯を1杯。
 バナナを1本食べてウォーキングを1時間。
 帰るとマグカップ1杯の牛乳に、きなこをスプーン山盛り1杯入れる。そのスプーンでアマニオイル1杯を口に運ぶ。
 そして朝食。セットしておいた焼きたてパンを厚切りにして、バターと手作りマーマレード。
 マーマレードは苦手だったのだが、知り合いにいただいたのがおいしくて、調べたら高いので、手作りに挑戦した。
 手間はかかるが素晴らしく素晴らしくおいしい。以後、これは定番に。夏みかんの皮を包丁でひたすら刻む。手間がかかる。書くのは省略。
 紅茶だと2杯飲む。リーフティ。高いのを何度か飲んでみたけど、味音痴なのか、スーパーの袋入りで充分。
 ミルクだけは乳脂肪の高いものをネットで頼む。
Amazonでコーヒー豆のお買い得品を頼んだら、器具がないのにエスプレッソ用の豆が数種類入っていた。調べて、カフェオレにしてみたら、これが、おいしいのなんの……
2杯飲んだら弱い胃が痛くなった。マグカップ1杯にコーヒー豆12グラム。1日1杯限定。
192 革命は終わった
 カップ麺。
 それは革命だった。
創業者はハレー彗星が地球に大接近した1910年に生まれた。
 まず、試作に試作を重ね、インスタントラーメンの技術を発見した。
 それは、お湯を注ぐとたった2分で食べられる、当時の常識では考えられない食品だったため《魔法のラーメン》と呼ばれた。
その後、知恵と工夫が詰め込まれたカップ麺が生まれた。1971年のこと。
 では、ショパンのエチュードから『革命』を。
 あ、ショスタコーヴィチの交響曲第5番も『革命』
 これ、幼稚園児の演奏の、すごいをのみつけたんです。
 そのうち、『ひらめいた曲』で取りあげますので、よろしく。
 
【お題】 超革命☆カップ麺
193 質問
 子どもの頃、夜逃げと引っ越しって違うの? って母に聞いて笑われた。
 駆け落ち、もわからなかったな。
 心中もわからなかった。
 ごめんなさい。
 おかあさま。
【お題】 もう二人でどこか遠くへいこうよ
194 レシピ
百均で買った小さなリングノート。表紙はとても硬くて、用紙は十数枚ずつ何色かに分かれている。
 それにレシピを簡単に書いている。色で分けて、サラダ、魚、肉、野菜、主食、デザート、ドレッシング・たれ、等々。
 だいたいは分量だけ書いておけば作り方はわかる。
よく見るのは、キンメの煮付け、新じゃがの煮物、チキン南蛮、焼肉のタレ、シーザードレッシング、シフォンケーキ、マーマレード、チョコレートクリーム等々。
 もう、そのノートも数十年。裏ページは白紙だったのだけど、足りなくなってきた。
 特に肉料理は。
 卵を2回に分けて入れる親子丼。これは、鶏肉と玉ねぎを炒めて、水は入れない。
 パーキングで食べた親子丼の卵が半熟と固まってたのと2種類だったので調べたの。
 去年退職した夫は、少しずつ料理するようになった。サラダから始まり、焼き物、炒め物、鍋、デザート等々。
 あと、生地から作る餃子。これは生地がうまく伸びなくて、1度しか登場していないが、びっくりするほど不格好でおいしかった。もはや、伝説。
 夫はパソコンでレシピを見て印刷する。それをファイルする。たぶん料理の時間より、そちらのほうが長い。紙が勿体無いから両面印刷にすればいいのに。
 私が知らなかった料理を作った。
 さつまいものガレット、大根おろしとネギと干しエビのお餅みたいなの、ヨーグルトの容器で作るチーズケーキ。
 レシピの裏にはいろいろメモしている。私の評価とか。
【お題】 伝説の裏メニュー
195 安上がり
 東京駅で適当に入ったレストラン。ウェイトレスはひとりだけ。日本人ではない。
 身振りで説明された。
 携帯でQRコードから注文しろ、と。
 老夫婦には大変なこと。
 出て行きたくなった。
 が、時代に順応していかなきゃ。 
 時間がかかったが、スパゲティとグラタンを注文した。早く頼まなきゃ、と思ったからサラダも飲み物もなし。
 全部単品だし、高いから水で我慢。
 でも、量が少ない。グラタンのエビはプリプリでたくさん入っていておいしかったが。
 夫のミートソースは、香辛料が強くて苦手なんだとか。全部食べたが。
 若い時、レストランでアルバイトしていた夫が言った。
 賄いメニューがうまかった、と。
 
 表のメニューは量が少なく物足りない。
 デザートを見ていたら……
 夫が立ち上がった。会計は私だ。夫はいまだに現金主義。
 甘いもの、食べたかったのに。
 じゃあ買って帰ろう。
 いつも人にあげるだけ。自分の口には入らない500年の伝統の伝説たくさんの羊羹。
 夫は仕事でこの袋を印刷していた。
 高いのに店頭には客がいっぱい。
 これ、いただいたら、こんなに高いってわかるだろうか?
 
 ⚪︎⚪︎やの羊羹……
 高〜い。
年金暮らしの老夫婦は店の前をうろうろし、どうしても買えなかった。
 家に帰っても、甘いものが食べた〜い。
 そうだ、餅米があるはず。
 肉団子の餅米蒸しに使った残りがたくさん。
 物皆値上がりしているが、安いと思うのが米。餅米もいつも買ってある。それを研いで水に1時間ひたす。おこわメニューで炊く。 
 スーパーの袋入りのつぶあんは安いが十勝産。袋の裏のメニューの簡単おはぎ。
 ごはんは潰さなくていいし、丸めてあんをラップに広げて包むだけ。
市販のおはぎは小さくなっていくが、我が家のは大きい。上品に作りたいのだけど。
【お題】 伝説の裏メニュー
196 無理だから
 4月に大幅に異動があった。前々からユニットの雰囲気が悪く、パートが上に苦情を言った結果らしい。
 ここ何年か、その職員が原因で辞めていくパートや、育てた新人が異動していったりした。
 もう、2時間勤務の私でさえ、その職員の時は気が重かった。話しかけても返事がない。
 耳が遠いの? と思うくらい。
「私、なにかしました?」
と、言ってやろうかと思ったくらい。
 入居者に対しても、虐待防止のアンケートに、「見たこと聞いたことがあります」に丸を付けざるを得ない。
 しかし、彼女のほうももうすぐ辞めて行くらしい。介護施設は次々できるし、長くいる職員は少ない。条件の良いところへ移っていく。
 施設に勤めた8年で、大勢の方にお迎えが来た。
 つい先日は、ハジカミさんが。
 入居当時はずうっと叫び、手をテーブルに叩きつけ、足浴のときには足をタイルに打ち付けていた。
 食べられなくなり看取り状態だった。もう、亡くなっても話題にはならない。以前は葬儀に出る職員もいたが、そういうお知らせもない。
 すでに新しい入居者は決まっている。
 ここしばらく、話す入居者も少なかったユニットだが、3人入れ替わりにぎやかになった。食事も粥ではなく副菜も刻まなくていい。
 朝、私がドアを開けた途端に、おはようございます、と元気な声が。
「おはようございます。先生」
 きれいな通る大声。寝ているとき以外は喋っている。元はバスガイドさん。
「先生、先生、トイレ行きたいんです……」
 行ってきたばかり。
 私はもう間接業務なので排泄はできない。それを耳元で話す。職員は次々起こしているので、無理!
「先生、先生、トイレ……」
 隣の席のシャクヤクさんが、職員を探して教えにきてくれる。
「あの人が、トイレ行きたいそうです」
 歩いてくるからびっくり。何度も転んでいるのだ。
 ボタンさんは、かなりしっかりしている。部屋もタンスの中もきれい。髪もきちんと梳かしている。
 痩せていて塩分制限。
 この方は糖尿病で、ご自分でインシュリンを打っている。
【お題】 聞こえないふり
197 好きだった
 中学1年のときに隣になったIくん。隣の席になったのは出席番号が同じだったから。
 すぐに好きになった。男のくせにおしゃべりで、よく話しかけてきた。
 I君は野球部に入り髪を短くしてきた。恥ずかしそうにしていたが、かわいかった。
 I君はよく休んだ。休むと私は1日がつまらなかった。同じ小学校からきた女子が教えた。
 おとうさんがいない。
 図書館で偶然会ったことがある。私は友人とふたり。I君も知らない男子と一緒だった。
「Iの好きな女」
と、話しているのが聞こえ嬉しかった。
I君はよく休んだ。誰もなにも聞かない。先生もなにも言わない。私も、なにも聞けなかった。
 I君は消えた。クラスから消えてしまった。I君の存在さえ、覚えていない生徒もいたのではないか?
 覚えているのは私だけ。
 半世紀が過ぎても覚えている。
 I君になにが起きたのか?
 先生はなにも言わなかった。誰も聞かなかった。
寂しかったが、どうすることもできず、せず3年が過ぎた。その間、好きな子もできた。I君のことは時々思い出した。誰に聞いても覚えていなかった。
 卒業間近、他のクラスに転入生が来た。
 それがI君だった。
 私は廊下でI君を見た。ずっと見ていた。
 I君は私を見て、思い出したのかはわからない。ふたりの距離は縮まらなかった。
 卒業式にI君の名も呼ばれた。私は壇上で証書を受け取るI君を見ていた。
 それが最後だ。
 現実はドラマのようにはいかない。
 卒業アルバムには載っていなかった。
 
 それでも、初恋はI君だった。中学1年の数日間は楽しかった。
 半世紀以上が過ぎ、I君の名前を検索してみた。
 伊藤忠男? 忠夫? どっちだったか?
 どこで、どうしていますか?
 
198 寿命
 豪快な美容師さんと以前話したことがある。ドラマの安楽死。
 痛みに耐えられない病気や、認知症になり、迷惑をかけるなら……
 頭がしっかりしたうちに選ばせてほしい。
 
「長生きしないから大丈夫よ」
 彼女は店でラジオをかけているのでそういう話を聞いたのだろう。
 今の長寿は大正と、昭和の戦前に生まれた人たち。粗食に耐え、精神力も強い。
 私たちの世代は添加物をたくさん摂ってきた。長生きするわけがないのだ、と。
調べてみたが、寿命は伸びるようだ。寿命は医学で伸びる。 (107歳くらいまで)
 この100年の間に寿命が2倍になった。
 第2次世界大戦直後の平均寿命は50年。死因の第1位の結核は「亡国病」と呼ばれていた。
 医学が発展し、寿命は伸び続けた。癌を克服すれば、さらに5年延びるという。
 100歳を超える時代はもう目の前だ……めっそうもない……
 人生最後の10年間 (もっと長いかも)は、人工呼吸器をつながれたり、胃瘻になったり、薬を多く飲んだり。 (施設の94歳の方は12錠をヨーグルトで飲む)
 寿命を伸ばすことには成功したけれど……施設には入りきれない認知症のお年寄りが。
 今の社会システムは「人生70年時代」がモデルになっている。日本人の平均寿命が70歳をこえたのが1970年頃で、その頃から高齢化社会が始まった。
 日本は1960〜1970年代の高度経済成長期の頃の感覚をずっと引きずり、今の社会システムや社会保障制度は、あの時代のピラミッド型の人口構成や右肩上がりの経済を、前提につくられているので、今の時代に全然合っていない。
 今後は社会システム自体が持たないだろう。
 若い人たちが将来への希望を持てない。夢も希望もない。
 1番大きいのは老後の不安。年金制度が崩壊するのではないかという不安だ。
 施設で働く若い人は言う。70歳くらいで死にたいと。
 しかし、それが間近になると70歳なんてまだまだ若いと思うようになってきた。
 体の寿命は伸びても脳の老化は防げないと言われてきた。しかし、それも違うようだ。
 脳の健康も維持できるらしい。
 頑張らねば!
 でも、もう無理! とわかってしまったら、『好きにしろ』という名のお薬をください。
 好きなようにできたのは創作の中だけだった。
【お題】 好きにしろ
 
199 いずれは
 マンションの理事は各階からひとりずつ、順番に回ってくる。
 うちの階は7年に1度。
 しかし、築40年以上経つと、最初からの住人はもう高齢だ。理事もできなくなってくる。
 ひどい時は理事長と管理会社の担当者だけだったこともあるという。もはや会として成立しない。
 そこで、理事会も委託できるようになるらしい。1世帯ひと月千円くらいの負担。年間でマンション全体では50万円ほどの負担になるという。
 ふた月に1度の約2時間の理事会。それに出られないがための出費だが、いずれはそうなるのだろう。
 結婚当初は夫の風呂なしのアパートに住んでいた。銭湯に通ったのも懐かしいが、子どもができ、たまたま入ってきたチラシを見てマンションを購入してしまった。
 5階建35戸の小さなマンション。夫婦とも20代半ば。夫の会社の経理に相談したら、「おまえ、勇気あるなあ」と言われたとか。
 支払いはきつかった。金利は5、5パーセントの時代。最初に苦労しちゃおうね、と会社から借りた分を短期ローンにした。
 子どもは増える。交際費は増える。おまけに修繕費が早い時期に値上がりした。先を見据えてのことだ。
 今となっては良かったと思うが当時は大変だった。そのおかげでうちのマンションは大規模修繕も計画通り実施でき外観もきれいな方だ。
 知り合いのマンションは駅のそばだが手入れがさせていない。資産価値はどうだろう?
 しかし20代で購入したので建て替えが心配だ。マンションの耐久年数は伸びてきたという。60年といわれたが、修繕計画は30年先までできている。それでも生きていたらどうしよう?
 新築で購入したふたりの奥さんがいる。私よりたぶん10以上歳上。今ではおそらく70代後半。総会のたびにおふたりは出てきて発言していた。苦情も言っていた。怖いくらい口うるさいおばさん……
 40年の時が過ぎ、おひとりは相変わらずふくよかで元気そうだ。来季の理事だと張り切っている。もうひとりは出て来なかった。最近では会うと娘さんが付き添って、手押し車を押している。旦那様はウォーキングをしていて見た目は若い。もう夫婦には見えない。
 この奥様おふたりの違いはなんなのだろう? 内情は知らないがあまりに歳の取り方が違う。
 1年の理事が終わり先日は10時からマンションの総会だった。
 場所はエントランス。出席者は少ない。委任状多数。
 ひとり口うるさいご主人がいる。毎年のことだ。管理会社の女性は毎年質問攻めに合う。重箱の隅をつつくように見下した話し方。聞いていて、「うるさーい」と言いたくなってしまう。
 この担当の女性に変わってからは長い。孤独死があった時も立ち会ったそうだ。あの孤独死は知る人しか知らない。話題にもならなかった。すぐに新しい老夫婦が越してきたし。
その隣の部屋では水漏れが……半年経ってもリフォームされない。住んでいたのは持ち主から借りていた方。保険の問題か、リフォーム会社の手配か、よくわからないが管理会社の女性は平身低頭。
 そんな時にエレベーターが降りてきた。出てきたのは隣の旦那さん。次の5人の理事のうちのひとり。
 知らんふりして、大声をあげて皆が座っている横を通っていった。
 あの旦那さんは娘さんとふたり暮らし。
 50代くらいの娘はしょっちゅう、認知症の父親を怒っている。
 口汚く、
「あんたねえ」
「おまえ」
と、父親を怒鳴っている。
 次の理事さんは耳も遠く、入浴もしてなさそう。
200 読めな〜い
 消えたプリン。
 2歳の孫がプリンが好きだから、来るときは作っておく。
 牛乳と卵と砂糖だけで。
 プリン型なんてないので、茶碗蒸しの器や小さな小鉢等でたくさん作る。
 40センチ掛ける20センチの天板だからたくさん焼ける。
 それでも翌日には冷蔵庫から消えている……
 消えたプリン……
 消えた、消えたプリン、消えた……おじさん、消えた……娘、消えた初恋、等々。
 消えた、という文字をずっと見ていたら、
 え? 消えるって、こんな漢字だった? とおかしな感覚が。
 何度か経験したことがある。
 子どもの頃、教科書を読んでいたときかな、文字が読めなくなった。
 これを、文字の「ゲシュタルト崩壊」という、らしい。
 たとえば同じ漢字を長時間注視していると、その漢字の各部分がバラバラに見え、その漢字が何という文字であったかわからなくなる現象である。
 ひとつの文字をじっと見ていると、その文字全体でなく、それを構成する各部分に意識が向かってしまい、全体としてとらえることができなくなってしまう。
 この状態が「ゲシュタルト崩壊」である。
 
 ああ、私がおかしいわけではなかったんだ。
 
 そういえば、ピアノを弾いていた頃、発表会のために夏の間、よく練習していた。
 発表会当日、順番前、その見慣れた楽譜が、崩壊していた。まるで初めて見た楽譜のよう。
読めな〜い。
あれもゲシュタルト崩壊?
 すごく不思議だった。あんなに練習したのに……
 ピアニストはそんなことないのかしら? その前に暗譜しちゃうのか……
私が本番前に上がっていただけなのか?
 消えた王子様、というのがあった。
 マリー・アントワネットの次男。
 ルイ17世。
 悲劇の王妃は『ベルバラ』で知っているけど、可哀想すぎる王子様。
 Wikipedia読んだだけで、心が崩壊……
お題はいろいろなことを勉強させてくれます。
掌編集 20
 
