掌編集 19

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181 破滅

 朝、目が覚めるとウイスキーをストレートで1杯。
 また入院か。
 しばらく飲めないな。



【お題】 朝の1杯

182 エピソード

 娘が高校時代、先生に名前を呼ばれた。
「⚪︎⚪︎さん、寝てるんじゃありません」
「起きてます!」
と、答えたが、授業が終わり周りは皆起立していた。

✳︎

 二十歳の頃付き合っていた彼が、よく電話をくれた。まだ携帯電話はない。
 長電話が楽しい。
 しかし、飲みすぎていたようで、応答がなくなった。

✳︎

 飲みすぎた夫は途中で眠りに落ちた。

✳︎

 最近は記憶もおぼろ。夕べ、やったのかしらん??


【お題】 眠気には勝てなくて

183 あなたのことよ

 ほこりにまみれた
 プラモデルをみたい

 愛されて
 捨てられて
 忘れられた
 部屋のかたすみ


【お題】 プラモデル的恋愛法

184 帰らない夢よ

 二十歳の頃、あなたが住んでいた古いアパート お風呂も玄関もない うなぎの寝所
 私たちはいつもレコードを聴いていた
 愛し合ったあなたと私の二十歳の頃

 ある日 あなたと私の愛の町角
 訪ねてみたらアパートの影さえなく
 歩きなれた道も消えてた
 若き日々の靴の音は聞こえなかった

✳︎


 シャンソンを少しパクってしまいました。

 あのアパート、区画整理で立ち退きになったみたい。もう少しいれば、立ち退き料もらえたかな?

 あなたは、ここにいる。私の隣に。
 音楽の趣味はぜんぜん違うけど。
 投稿していることも知らないけれど。



【お題】 地図にはない家

185 文字通り

 息子が連れてきた女性。細くて、白くて、指輪のサイズは5。 

 妊娠中、よく来てくれた。よく、食べに来てくれた。

 私は張り切ってケーキまで作った。チョコを鰹節削り器で削って飾った。張り切ってた。

 サラダ、刺身、肉料理、煮物、炒めもの、これでもか? というくらい出して、ひと通り食べて、デザートの前に聞いてみた。
「ミートローフまだあるけど、食べる?」
「はいっ!」
 びっくり。
 妊娠中、こんなに食べたっけ?

 今ではすぐにおなかいっぱいになるようで、なんだか詰まらない。張り合いがない。



【お題】 無限胃袋

186 母と娘

 うちの娘は小さくてかわいかった。兄にもかわいがられ男子にも持てた。 
 高校時代は自転車通学。往復2時間はいい運動だ。背も伸びスタイルも見惚れる。
 紳士服店で働けばスーツが似合う。スカートから出た足は母が見ても惚れ惚れ。

 ところが、選んだ彼氏は100キロ超え。学生時代は柔道部。食べることが大好きで、食べる量も半端ではない。
 ふたりで食べ歩いて、娘の体重も右肩あがり。その彼と結婚し、子どもが生まれたあとはますます増えて、ついについに⚪︎十キロ超え。
 痩せろと言うのも諦めた。健康ならいいけどね。
 実家に来れば座りっぱなし。食べ続ける。もういいだろうと皿を下げれば、
「まだ食べるよ〜」
 キンメの目玉まで食べる。
 痩せなきゃ、痩せる、と言いながら無限に太り続けるのか?

 ところがついに一大決心。タンパク質を摂らなきゃ、と食事に気を使いだした。どこで聞いてきたのやら? 

 今度は洗脳でもされたみたいに母にも教える。
「日本人て、腐らないんだって」
 防腐剤を食べているから。
 やたら添加物を気にし出した。
 ひしお麹という、米麹より体にいい発酵食品を鶏胸肉に漬け込み茹でる。
 そうね、筋肉には鶏胸肉ね。
 昼もひとりだけど、きちんと作って食べている。食べる量は増えたのに、すんなり5キロ落ちたのだとか。

 母も真似して作ってみた。ひしお麹。豆と麦の麹。売ってないからネットで注文。昆布と醤油を混ぜて1週間。
 それを少し入れれば料理に深みが出る。
 
 母は胃が弱くなった。
 度を越すと、夜中地獄を見る。
 揚げ物は娘が来る時だけ。唐揚げを1キロ。
 辛〜いラーメンも無理。おいしかったなあ。鼻をすすりながら (NG)、ティッシュにお世話になりながら食べた。 
 アイスも食べなくなった。冷えたら……ボーコー⚪︎⚪︎になりそう。夏でも冷たい麦茶は少しだけ。すぐホットに変える。

 だから、旅行の時はつまらない。
 パーキングに寄っても、おいしそうなものを見るだけ。食事以外はほとんど無理。
 山寺に行った時は、昼に板蕎麦を注文したら超でかい盛り。店のおばちゃんが愛想のいい人で、残しちゃ悪いと思い、夫も私も必死で食べた。
 その日は旅館で豪華な夕食だったのに、おなかが空かなかった。それからしばらく蕎麦は見るのも嫌になった。

 旅行の本を見れば、食べたいものはたくさんある。
 旅行のときだけは、胃が大きくなって丈夫になってくれないかしら? 名物片端からいただきます。

187 完璧

 アルミ婚式
 うまくいっていると思っていた
 頑張って家も買ったし
 頼れるのはお互いだけ
 
 単身赴任してたけど 
 まさかこうなるとはね
 怒ったり 反省もしてみたけど 
 メールを見て もうダメだと思ったの
 子どもにも懐かれているし……

 川の向こう側 よく散歩したわね
 こんな日が来るとも思わず
 今日は銀婚式
 私はあなたの姓を名乗り続ける 
 あなたの帰りを待ち続ける

 家は手放せなかった
 身を粉にして働いたけど
 高く売れるというから
 そろそろ あなたを粉にしようか



【お題】 ふと散歩しながら思ったことを詩にしてみた

188 ウォーキングの途中

 1時間コースのウォーキングコース。お題を見て小休止。
 桜の名のつく公園のベンチ、ではなく、背筋の器具? のけぞって葉桜を見あげた。

 葉桜見あげてなに思う?
「葉桜の季節に君を想うということ」
 馴染みの美容師さんに借りた本。彼女はネタバレ言わないから安心。

 第57回日本推理作家協会賞受賞
 第4回本格ミステリ大賞受賞
 このミステリーがすごい!! 2004年版第1位
 本格ミステリベスト10 2004年版第1位
 週刊文春推理小説ベスト10 2003年度第2位 
 2004年のあらゆるミステリーの賞を総なめにした。

 著者 歌野晶午

 絶対、映像化できないだろう。
 見抜けなかった。大どんでん返し。
 悔しい!



【お題】 葉桜を見上げて

189 ひとつですよ

 2ユニットの間にスタッフルームがある。小腹が空いたときに食べるお菓子が置いてある。
 職員よりもパートが持ってくる。
 なぜ、給料の少ないパートが? なんて、ケチな私は思うのだけど、超勤の多い若い子に食べさせてあげたいのだろう。優しい。

 高卒のO君がいたときは、私も持ってきたなあ。あの子に食べさせたくて。
 O君にだけは、そっと2個あげたり。
 O君もときどき、おばあちゃんちに成ってたみかんです、とかお返しをくれた。
 5年頑張ったけど、辞めていった。ほかの職に就くから、と。

 若いH君は夜勤明けに、私のユニフォームのポケットにチョコを入れてくれた。
 なんて、いい子なの……
 結婚しました。別居婚。彼女のが稼ぐらしい。 
 H君は、窓口に異動になった。頑張って。
 
 異動の多い介護職。頻繁に菓子折りが置いてある。お世話になります。お世話になりました。
 2時間勤務の私はなかなか手が出せない。食べて、とも言われないし。
 
 でも、時々は私も旅行の土産を買ってくる。たまにだから奮発する。人数プラス多めに買うのだけど、親しいパートさんからメールが来る。
「私、もらってない」
 毎日出勤じゃないからね。余っているから2個食べた人がいる。名前書くわけじゃなし。
 問い詰めるわけにもいかないでしょ?
 


【お題】 おやつどろぼう

190 娘の受験

 娘は中学は吹奏楽部。朝練昼練夕練。土日も長い休みもほとんど練習。3年のコンクールが終わるまで。
 体力がないから、そのほかのことは無理。勉強は無理。塾に行く時間には眠ってしまいどうやっても起きない。
 仕方ないので受験前の数ヶ月、家庭教師を頼んだ。
 来たのは大学院生の女性。駅からバスだから、交通費もかかる。菓子と茶も用意する。
 最初の家庭教師代は¥450,00くらいだった。ちょっと、カンマの位置がずれてます……言えなかったけど。
 何回か払ったら来なくなった。派遣するところに電話してもわからない。連絡がつかないそうだ。
 私立受験はすぐなのに。いちばん大事な時期に、代わりが来るわけでもなく、もう、怒るのを通り越して笑った。
 
 しばらくして郷里に帰り入院していると。詳しく聞きはしなかったが。
 受験は、私立も都立も受かって良かった。

 無責任なことをしたのだ。最後の家庭教師代はもちろん結構ですから……
 なんてことにはならなかった。
 しっかり取りにきました。

 こちらも小さな菓子折りを用意しておきましたけど。

掌編集 19

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  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-05

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  1. 181 破滅
  2. 182 エピソード
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  5. 185 文字通り
  6. 186 母と娘
  7. 187 完璧
  8. 188 ウォーキングの途中
  9. 189 ひとつですよ
  10. 190 娘の受験