好きだった

好きだった

初恋

 中学1年のときに隣になったIくん。隣の席になったのは出席番号が同じだったから。
 すぐに好きになった。男のくせにおしゃべりで、よく話しかけてきた。
 I君は野球部に入り髪を短くしてきた。恥ずかしそうにしていたが、かわいかった。

 I君はよく休んだ。休むと私は1日がつまらなかった。同じ小学校からきた女子が教えた。
 おとうさんがいない。

 図書館で偶然会ったことがある。私は友人とふたり。I君も知らない男子と一緒だった。
「Iの好きな女」
と、話しているのが聞こえ嬉しかった。

 I君はよく休んだ。誰もなにも聞かない。先生もなにも言わない。私も、なにも聞けなかった。

 I君は消えた。クラスから消えてしまった。I君の存在さえ、覚えていない生徒もいたのではないか?
 覚えているのは私だけ。
 半世紀が過ぎても覚えている。

 I君になにが起きたのか?
 先生はなにも言わなかった。誰も聞かなかった。

 寂しかったが、どうすることもできず、せず3年が過ぎた。その間、好きな子もできた。I君のことは時々思い出した。誰に聞いても覚えていなかった。

 卒業間近、他のクラスに転入生が来た。
 それがI君だった。
 私は廊下でI君を見た。ずっと見ていた。
 I君は私を見て、思い出したのかはわからない。ふたりの距離は縮まらなかった。

 卒業式にI君の名も呼ばれた。私は壇上で証書を受け取るI君を見ていた。
 それが最後だ。
 現実はドラマのようにはいかない。
 卒業アルバムには載っていなかった。
 
 それでも、初恋はI君だった。中学1年の数日間は楽しかった。
 半世紀以上が過ぎ、I君の名前を検索してみた。
 伊藤忠男? 忠夫? どっちだったか?
 どこで、どうしていますか?
 

好きだった

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-08

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