掌編集 15

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141 電気屋の奧さん

 近所に古くからある電気屋さん。小さいながら頑張っていた……?
 1度だけ、部品を頼んだことがあるが、店の中はすさまじかった。
 バスも通る道路に面しているが、店の外に古い冷蔵庫や洗濯機が何台か並べて放置されていた。 
 ずいぶん前、夫が見た。外の冷蔵庫から何か取り出していた。コードを入れて使用している?

 看板は壊れたまま。家は地震が来たら倒れそう。噂ではいまだに水洗トイレではないとか。
 町の電気屋さんとして頑張ればよかったのに。 
 奥さんは昔から、日中髪にカーラーを巻いたまま、くわえタバコで店の外に出ていた。旦那もくわえタバコ。身なりは構わない。

 息子はもう大きいはずなのに、店の中にぬいぐるみがたくさん置いてあって、ご主人が娘にひとつくれた。娘は貰って喜んでいた。
 幼稚園のママたちの話では、なんと、この店のおかみさんは、ゲーセンのかみ……さん。
 これだけのぬいぐるみ取るのに、いくら注ぎ込んだのだろう? なんて思ってしまった。

 そのうち、電気屋のおかみさんは、パチンコ屋に入り浸り、と噂に。私も何度か入っていくのを見た。

 息子の代になれば良くなるかと思いきや、息子も同じような体型、雰囲気だった。店の中はますますすごいことに。

 
 今では誰も住んでいないのか? 店頭の冷蔵庫が通るたび減っている。
「危険! 近づくな」
のテープが貼ってある。外壁は壊れそう。すぐそばを車が通るのに。 

 住人はどこへ?



【お題】 ゲーセンの神

142 ある悲劇

 あるところにバカな親父さんがいた。
 宝くじを買い続け、ついに当選した。
 親父さんは3人の娘たちの中で、老後の面倒をみてくれるものに金を与えることにした。

 長女と次女は、言葉巧みに美辞麗句を並べて親父さんを喜ばせたが、末娘は父への感謝の気持ちを述べたのみで、姉たちのようにお世辞を言わなかった。
 親父さんは実直な物言いをする末娘に腹を立てて勘当し、姉2人に金を譲った。

 そして贅沢をし、金を使い果たした親父さんだったが、長女と次女は金を譲り受けるや本性を現して、父を疎んじるようになった。その後、すべてを失った親父さんは、さまようことになった。

 その後親父さんは、末娘の助けを借りて暮らした。末娘は父親のために働いた。
 親父さんは末娘にもらった小遣いで宝くじを買い続けた。そしてまた当選した。
 今度は父親思いの末娘にだけあげよう。
 しかし、働き過ぎた末娘は死んだ。親父さんは末娘の遺体を抱きながら、狂乱。
 悲嘆のうちに親父さんも息を引き取った……

 宝くじの当選金は長女と次女のところへ……

 しかし非情、悪女ぶりでは互いに譲らない長女と次女は、同じ男に夢中になり、妹を姉が毒殺した。
 そして犯行がバレた姉も、事実を白状して自刃した。



【お題】 宝くじに当選した!

143 今までなかったの?

 田舎町のタクシーで思い出すのは、息子が生まれて7ヶ月のとき、義母が危篤……

 まだ新幹線は通っていなかった。
 赤子を連れての長旅。病院での緊張、夜明かし。実家に戻り、幼い甥、姪たちの子守り。葬儀前後の慌ただしさ。

 そんな夜に息子が高熱を出した。近くに病院はない。
 タクシーを呼んでもらい、暗い夜道を40分。義母が息子を連れて行ってしまうような気がして怖くなった。
 着いた病院では看護婦さんに叱られた。水分、摂らせなきゃだめじゃない、みたいなことを訛りのある強い言葉で。
 新米ママにはキツかった。

 薬をもらい、帰りもタクシー。交通費はかなりかかったはず。貧困の若夫婦には続けての痛い出費。
 でも、少し熱が下がると、息子は元気になり、じっとはしていなくて大変だったがホッとした。


 それから不幸は続き、義父も続けて亡くなった。
 数年法事で帰ったあとは間が空いた。
 義兄の息子の代になるともっと行かなくなった。

 数年前、義兄が大病を患ったが、コロナ禍で見舞いにも行けなかった。
 ようやく去年、十数年ぶりに実家を訪れた。

 駅からタクシーに乗る。
 駅前や途中の町は栄えていた。大型スーパー等、どこも同じ店、店。
 しかし、実家が近づくにつれ、風景は昔と変わらない。いや、昔よりも寂れていた。道路にひび割れが!
 過疎化が進み、高齢化。子どもは減り、空き家が増える。
 この村に (今は町になったが)未来はあるのか?
 熊が出没し、夕方出歩くのは危ない、と。
 冗談じゃないべよ〜、と。

「あ、付いたんですね」
 夫が言うと運転手さんが、
「ンだなあ……」
「え? なにが付いたの?」
「……」
「え? 今までなかったの?」
「ンだ。オラの村には信号ね……がった」


【お題】 田舎町のタクシー
 

144 何個ですか?

 思えば長い人生だけど、タクシーに乗ったことは少ない。節約家だし、タクシーでの運転手さんとの微妙な気まずさが嫌で、ひとりだと、バスがなければ歩いてしまう。

 旅行先で観光タクシーを頼んだことはある。
 新婚旅行のときの萩焼の思い出。

 運転手さんに連れて行ってもらった大きな店。土産に萩焼をいくつか買おうと思っていた。仲人さんには奮発しようと。

 ところが、萩焼は高かった。
 考えて考えて選んだ花瓶。貧困のバカ夫婦には高かったのだ。
 それを……
「これ、お願いします」
 と店員さんを呼んだら、
「何個ですか?」
と聞きやがった。
 何個かって?
 1個に決まってるでしょ。こんな高いもの。

 実に不愉快だった。
 運転手さんに文句を言いたかった。
 言わなかったけど。


【お題】 田舎町のタクシー

145 ブルースカイブルー

 今日はブログで知り合った友人との2度目のオフ会。4か月ぶり。

 待ち合わせ場所は渋谷。
 渋谷スカイに行きたいの。 
 またまたなにそれ? 
 えーっ? 知らないの? と言われる前に検索してチケットも購入した。時間かかったけど。
 クレジットカードで2人分購入して、QRコードがメールでふたつきたけど、これ、どうすればいいの? このまま入場するとき見せればいいのかな? 

 地上229mから広がる360度の景色を眺めるにとどまらず、一連の体験を通じて知的好奇心を刺激し、想像力を育む施設となっている。
 キャッチコピーは
「展望せよ。渋谷。世界。未来。自分。(Wikipedia)

 ネットで見た画像は素晴らしい見晴らし。
 実際は……
 前日は強風で閉鎖。
 今日はどうかしら? わざわざ1時間半もかけて行ったのに、登れなかったら……
 彼女は地方から来ているのに……

 平日なのに人出は多い。風は治まったようだ。
 恐る恐る携帯を見せた。QRコードを2度タッチしてすんなり2人で入場。
 エレベーターで降りて荷物をロッカーに預ける。持っていいのは携帯だけ。
 
 歓声!
 雲がほとんどなく、ネットの画像より素晴らしい、それこそブルースカイブルー。
 山々が見え、雪を被った富士山もくっきり。

 でも、ケチな私は、2200円、高い〜と思ってしまう。何度かぐるぐる周り、写真を撮った。
「下に見える景色が、2度と廃墟になることなどないように……」
「ゴジラになって、壊してみたいね」
 アラカン2人の感想。

 この空を見て『ブルースカイブルー』を思い出した。特に興味はなかったのだが、この歌だけは気に入っていた。亡くなってから、歌のうまさに気づいた。
 この歌で、物語を書けそう……?

146 今は昔

 3人の子どもたち、揃いも揃ってひどかった。高校時代、帰ってこない。携帯持っているのに何度メールしても電話しても無視。
 親は眠れずどれほど心配したか。
 
 
 もう、絶対、絶対、あなたたちに子どもが生まれても、手伝いになんて行かないからね……と思った。
 


【お題】 至急連絡求ム

147 ウナウナ

 保険会社で事務をしていた頃、通信方法はテレックスだった。
 各支社から届いた申込書をチェックし、不備を照会する。
 用紙にカタカナで書いてテレックス室に持って行く。文字に限りがあるから、至急はウナ……だった。
 ウナウナカイトウコウ……
(ずいぶん前のことなのではっきり覚えていない)

 ウナウナとは『大至急』という意味。 英語のモールス信号『Urgent』のUとRが和文モールスのウとナに相当する事から来ているそうだ。
 よくわからないが、モールス信号から連想した曲を。


「ピーピー ピー ピー ピー ..」という電子音が流れており、これはモースとモールス信号 (Morse code)とひっかけている。

Morseをモールス信号に直すと、

M (--)O (---)R (・-・)S (・・・)E (・)
となる……そうです。

 オックスフォードを舞台に、肥満ぎみで頭髪も薄い見た目はふつうのおじさんというこれまでのヒーローイメージとはおよそかけ離れた主人公『主任警部モース』
 大の女好きで酒好き。趣味のクラシック音楽をカーステレオでも大音量でかけ、現場に乗り付ける真っ赤なジャガーがトレードマーク。
 直感の推理力を発揮し、相棒のルイスと共に難事件を解決していく本格ミステリー。 (BS11より)

 このおっさん、ひとりもので不摂生。病気になるよ、と思っていたら案の定……

 テーマ曲が懐かしい。AXNミステリーで繰り返し観ていた。
 ルイスが若い。
 モースに勧められてオペラを観に行ったが、「なにが面白いんだか」と途中で出てきてしまう。
 でもモースに鍛えられて、次の『ルイス警部』シリーズに。

『主任警部モース』原題:Inspector Morse は、イギリスの推理作家コリン・デクスターの代表作『モース警部』シリーズを原作とする刑事ドラマのシリーズ。主役のモース警部役をジョン・ソウが、部下のルイス巡査役をケヴィン・ウェイトリーが演じた。(Wikipediaより)

 モールス信号は仁木悦子の『消えたおじさん』に出てきました。少年が隣の部屋のおじさんと壁を叩いて話す。子どもならすぐ覚えるかも。

トントントン
空白空白空白
トントントン
でSOS (豆知識)



【お題】 至急連絡求ム

148 手に負えない悩み

 去年の今頃は体調が悪かった。前年腰痛で仕事を2か月休んで復帰。時間を大幅に減らした。
 五十肩で、右が治れば左の番。腕が上がらず辛かった。配膳用のエプロンをうしろで結べないくらい。
 そして、めまい。
 目が覚めると、ぐーるぐる。
 気持ち悪くてやる気が出ない。ずっと薬を飲んでいた。

 極め付け。
 退職した夫が四六時中いる!
 いる。いる。いる……

 いる時間を抜け出すために、ひとりでウォーキングを1時間。近くのジムにも通い始めた。
 今年は区営のプールがリニューアルオープンしたので、週一で姉と通い始めた。 
 歩いて、腕を回し、少し泳ぐ。息継ぎが下手だけど。

 気がつけばここ数ヶ月、めまいがない。 
 仕事中、腰痛がない。ずうっと座ったあと、立ち上がる時は痛いけど。
 腕が上がる。左向きに眠れる。
 運動のせいか、治る時期が来たのか、かなり楽になった。
 そして、疲れにくくなった。都心に出ればぐったりだったのに、帰ってもまだ歩きに行けそう。

 そして、四六時中いる夫が料理をするようになった。初めはサラダ2品、とかだったが上達した。
 昨日は私がジムから帰ると、
 鶏肉のみぞれ煮 (大根おろしで煮る)
 ポテトサラダ
 ?? 大根おろしと片栗粉、ネギ、干しエビを混ぜて平にして、レンジで加熱したもの。
 お好み焼きみたいなものをラー油とポン酢で食べる。初めて食べた。おいしかった。

 この前は、お餅とじゃがいものガレット。細かく切って混ぜて丸く焼いたもの。これもおいしかった。
 あと、揚げない酢豚。かたまり肉をか40分茹でてから炒めて作るカロリーオフ。
 持病が多いので体に良いものを検索し、印刷しファイルしている。
 
 だから、今、これといった悩みはない。この生活がいつまで続くか、それが不安。

 世界情勢が不安。地球環境が悩みの種……
 それにしても、地震が多くて怖い。


 四六時中とは、四掛ける六で、二十四時間になることから作られた言葉だったんですね。



【お題】 それで、今日のお悩みは?

149 まさか……

 織田信長は実は双子だった。当時双子は不吉な存在として忌み嫌われていたため、先に生まれた男の子は名前も付けられず、こっそり葬られることになった。

 不憫に思った家来が自分の子として育てることにした。ちょうど、妻が産んだ子がすぐに死んでしまったので、入れ替えた。

 しかし、すぐにバレた。家来は妻と赤子を連れ逃げた。朝鮮まで逃げた。

 生活は貧しかったが、3人はひっそり暮らした。

 子どもは、ホ・ジュンと名付けられ、やがて類い稀な医術の才能を発揮した。

 困難を乗り越え、科挙に合格し、やがて王の主治医になり、「東医宝鑑」を編纂した。
 
 信長は何万人も虐殺したが、弟は多くの人を救った。


(韓国ドラマの見過ぎでは?)



【お題】 織田信長の最新ゴシップ

150 昔は良かった

 今年はあの子の孫が、出してくれとせがんだから何十年ぶりかで皆で並べたわね。
 この前はいつだったかしら?

 あの子の娘が小学生くらいじゃない? 娘は、私たちを怖い怖いと言って、ろくに見やしなかった。
 あの子ったら、私たちが夜中になると歩き回ると脅したりしたから、本気にして余計怖がったわね。
 だから、あの子、孫にはリカちゃんみたいな雛人形を買ってあげたのよ。あんなの、どこが良いのかしら? 人気あるらしいけど。
 私たちのがずっと繊細で、よくできているのに。
 
 でも、孫はかわいいわよね。古い私たちを、出して、出して、とせがんでくれて、壊れた刀や、扇を必死に直そうとしていた。
 
 でも、ひなあられもひしもちもなしよ。ひなケーキだって。ひし形の。
 さくら餅も、はまぐりのお吸い物もないわ。
 ちらし寿司はあったけど、袋に入ってるのをチャチャっと混ぜただけ。
 ひどいひな祭りだわ。

 昔は良かったわね。
 あの子の両親はわたしたちを大事に扱ってくれた。
 あら、あのおとうさんは、男の子が欲しかったのよ。だから、あの子が男の子を産んだ時には喜んで、大枚はたいて立派な五月人形を買ってあげたのよ。
 次に女の子が生まれた時には知らんぷり、私たちで我慢しろ、と。
 失礼しちゃうわね。

 でも、もう、最後かもしれないわね。
 ……もう疲れたわね。
 私たち、あの子のお姉さんが生まれた時に買われてきたのよ。もう、なな……十年も経つのよ。
 そうね、立派な木の箱に入れられて、5段飾りでお道具もたくさんあったわね。
 あの子がおままごとにして遊んでたから、タンスは壊れたし、お道具はボロボロで捨てられて、ついには私たちが入る箱も、場所を取るからと捨てられた。

 私たち、今じゃ無印で買った箱に全員押し込められて、
 なんで、私が五人囃子と同じ箱に入らなきゃならないの?

 でも、たぶん、もうすぐ処分されるわね。あの子ももう歳だし……
 なんか、私たち高く売れるらしいわよ。古い雛人形、買取りします、なんてチラシを読んでたわ。
 ねえ、私たちどこかに売られていくのかしら?
 あんな暗い物入れの中にしまいっぱなしなら、
 きれいに直してもらって、みんなに見られたいわね。
 私のボサボサの髪、なんとかしてくれないかしらね? 冠も曲がってるし。
 ねえ、お内裏様、あなたの頬もはげているし。クレヨンで塗って直したつもりなのよ。
 あの子、ひどいわ。



【お題】 雛人形たちの後夜祭

掌編集 15

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  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-10

Copyrighted
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  1. 141 電気屋の奧さん
  2. 142 ある悲劇
  3. 143 今までなかったの?
  4. 144 何個ですか?
  5. 145 ブルースカイブルー
  6. 146 今は昔
  7. 147 ウナウナ
  8. 148 手に負えない悩み
  9. 149 まさか……
  10. 150 昔は良かった