負け犬の美学 / 遠吠負ヶ犬 作
強敵を前に、迷いなく逃げるべし
姑息に戦い、そしてなるべく痛快に倒されるべし
外道と思われる盤外戦術も躊躇なく実行し、因果応報をその身で示すべし
どれだけ負けてもみっともなく、這ってでも敵に齧り付くべし
負けることを辞めぬべし
負けて負けて、その先に何も残らないとしても
笑って負けるべし
人も、草木も、猫さえ眠る深い夜
負け犬のコンサートが始まる
嫉妬と悲哀と憤怒と我欲にまみれた醜い歌声が、生まれてはまた消えていく
この歌は誰にも届かない
負け犬のメロディーに耳を貸そうとはしないから
無慈悲な闇夜の静けさが、負け犬を捕らえて逃がさないから
それでも負け犬は吠え続ける
その先に何も無いことなど、遠の昔に知っているのに
歌う
話す
呼ぶ
叫ぶ
書く
描く
創り出す
負け犬は遠吠えを止めない
なぜ負け犬は踊っているのか
その目に映る幻の光に追いつきたいからか
現状を打ち破りたいからか
何者でもない自分自身を変えたいからか
本能のままに踊っているのか
理由なんて無いのか
負け犬は何がしたいのか
死ぬまで踊り狂っていたい
誰かの掌の上で
狂気的なまでに惨めに
殺人的なまでに物悲しく
ああ、なんて美しいのだろう
嘲りの雨が降っている
この夜こそ、負け犬の主戦場
敗北も屈辱も、全てが負け犬の道のり
更に惨たらしい敗北へと続いていく一本道
あるいは下り道
あるいは落とし穴
嘲笑も侮辱も叱責も、負け犬の歩みを止めるには至らない
吠えて、踊って、負け犬は進む
笑いながら
本望
負け犬の美学 / 遠吠負ヶ犬 作